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✧*。 65─海翔─ 回想5
しおりを挟む「キスはしてOK?」
「え……なんでそんな事聞くんですか」
「初対面だから、どうかなって。 いい?」
「…………はい」
───いいんだ。
海翔は「キスはちょっと…」と拒否される事を覚悟していたので、意思確認のためにあえて聞いたのだ。
なんと言っても、海翔も初体験時のフレンチキスしか経験がない。
その時のキスがあまり良いものではなく、気持ちいいとは思えずこれまで避けてきたほどだった。
だが乃蒼は例外で、彼を好きだと自覚してすぐの頃から「キスしてみたい、唇を味わってみたい」とほんのり甘い妄想に浸っていた。
まさか頷いてくれるとは思わず、海翔は一度微笑んだ後、たどたどしく乃蒼の唇に自分のを重ねてみた。
自然と顔を傾け、ライトキスを何度かしていくと……興奮が高まってくるのが分かった。
───何これ。 ……気持ちいい。
瞳を閉じた乃蒼も、海翔を抱く腕に力がこもった事で同じ気持ちなのだと思うと、自然と体の火照りが増す。
誘うように舌で唇をツン、としてみると、乃蒼は薄っすらとだが応じてくれた。
「んっ……」
縮こまった乃蒼の舌を見付け、ゆっくりと自身のと絡ませていく。
海翔はディープキスは乃蒼が初めてだった。
やり方など分からない。
完全に、見様見真似だ。
下手くそでごめん、と心の中で詫びたものの、吐息交じりの抜けた声が乃蒼から漏れた事で自信を持った。
もしくは乃蒼が、このようなたどたどしいキスでも大丈夫なほどのキス好きか、……どちらだろう。
応えてくれる乃蒼が、ぎこちなくはあるが何だか積極的過ぎるような気がした。
これは海翔の手腕なのか、キスそのものが好きなのかと、この期に及んでヤキモチを焼いた海翔は必死で顔を繕い尋ねてみた。
「キス……好きなの?」
「…………はじめて」
「え、……っ?」
「キスは、お兄さんが初めて」
嘘だ、と言ってしまいそうになったのをグッと堪えた。
あんなにも熱烈に月光と交わっていたのに、キスをした事がないなどと言われてもにわかには信じられなかった。
「ほんと? どうして?」
「……キスは特別な人とって思ってたんで……」
「……俺で良かったの?」
「お兄さんならいいかなって……思っちゃいました」
「………………」
照れ臭そうに言う乃蒼を見下ろした海翔は、無表情を崩さないまま内心では相当に驚いていた。
そんな事を言われたら、乃蒼の事を忘れられなくなってしまう。
今日を思い出として、乃蒼を追い掛けるのをやめなければと思っていたのだ。
乃蒼はもうじき卒業してしまい、海翔もこの時すでに国立の医大へ進みたいと進路希望を出していた。
互いが別の進路へ進み、それぞれの自宅も近くはないため会う機会などこの先は無きに等しい。
それなのに、一途に月光を想っていた乃蒼が守り抜いてきた唇を、海翔にならいいかと思ったなどと言われてしまうと……。
「声掛けたのが俺じゃなくてもOKしてた?」
「えっ? ……いや、……してない」
「……自惚れちゃいそうだな」
「あ、あの……簡単に付いて来たから説得力ないの分かってます。 ……軽い奴だって思われたくないんだけど……俺、一人しか経験なくて、でもその人とはもう、するのやめなきゃって思ってて……」
「うん?」
「俺の初体験はお兄さんみたいな人が良かったから。 本音を言うと、声掛けてくれたのがお兄さんで、ラッキーって思っちゃったんです。 お兄さんカッコいいし……」
優しそうだし…と言葉が続き、今度は海翔が照れる番だった。
今から乃蒼の体を味わう見知らぬ相手、ましてや一年以上も乃蒼を想っていた海翔を浮つかせるには充分過ぎる。
───もう言葉は要らない。
乃蒼が許してくれるのなら、存分に堪能させてもらう。
自惚れまで味わわせてくれた、この好機は逃せない。
海翔の性欲が勝った瞬間だった。
おもむろに首筋へとキスを落とし、肩口にもキスをして、平らな胸に浮かぶピンク色の乳首もたっぷり愛撫した。
腰を揺らし始めた乃蒼のものを握り、優しく扱く。
「……声、我慢しないでね」
「……っ……!」
いつも思いっきり声を出せなくてツラいでしょ?
教室の固くて冷たい床を背にしてたら、愛されていてもそう感じないでしょ?
セックスの後、独りで泣きたくないでしょ?
もう、後悔……したくないんでしょ?
海翔は全部、言ってやりたかった。
必死で口元を押さえている乃蒼の手のひらを取り、優しくその指先に口付ける。
「今日は我慢しないで」
乃蒼へのペッティングが多過ぎたのか、彼の眉根はすでに下がってしまい、瞳は欲に濡れて涙が溢れる寸前だった。
その瞳から、「いいの?」とお窺いを立てられた気がして、海翔はフッと微笑んで返した。
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