永遠のクロッカス

須藤慎弥

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 首筋を舐められ、即座に強く吸われて乃蒼はハッとした。
 いけないと思いながらも、月光とは思えない穏やかな愛撫に少しだけ酔ってしまっていた。


「ちょっ、見えるとこに痕付けるな!」
「わざとだよ~ん。 これ隠すなよー?」
「無理! 隠すに決まってんだろ」
「じゃあもういっこ付けとこ~」
「あ、おいっ、……月光!」


 右側の首筋に痕を残されてあたふたしていると、今度は左側のより隠しにくそうな場所にキツく吸い付かれた。
 この両方にバンドエイドを貼れば、隠しようのないそれを見た冴島から確実にニタニタされてしまう。
 冴島だけではない。 スタッフからも、鏡越しの客からも追及されるに決まっていた。

 いかにも、熱烈な恋人が居ますよと触れ回って歩くような恥ずかしい真似は出来ない。
 明日の仕事は休みたい…と脱力し、両手で顔を覆ってベッドに沈む。
 全身にキスマークを付けてご満悦の月光が一度乃蒼から離れた気配がしたので、チラと指の隙間から彼の動向を探る。
 するとギラついたネックレスを鎖骨辺りで光らせている月光が、例のピンクのボトルを器用に片手で開けていた。
 早速、恋人のような言葉を吐きながら。


「今度こそ、俺以外の奴と寝たら半殺しの刑だかんなー」
「う、わ……? 何これ、あったかい」


 月光が珍しく真面目に言っているのを尻目に、とろとろと下腹部に垂らされた液体が乃蒼の中心部を一際反応させた。
 触れてもいないのに、行為に期待し反り返った自身が、生温かいぬるぬるがじわりと滴ってくるだけで喜んでいる。
 こんなローションは初めてだ。


「乃蒼ー、聞いてる~?」
「聞いてる、聞いてるけど……っ、すごい……何だよこれ。 ……気持ちいい……」
「だろ~? ローション温かいだけで性感帯増えて感度も上がんだよー」


 温かいだけではなく、ローション自体も濃度が高いのかぬるぬるというよりもドロドロしていて、初めての感触に少しだけ興味が湧いた。
 ニヤ、と笑った月光が、緊張から性的欲求の方へ堕ちた乃蒼の性器をおもむろに握る。
 まだやわらかく半勃ちだったそれはローションまみれで、握られたと同時にびちゃ、といういやらしい音が響いた。


「んぁっ……やば……」


 ただでさえ温かいローションで下腹部が火照り始めているのに、月光の大きな手のひらの熱はさらに興奮を駆り立てた。


 ───扱いてほしい……いやもっと、強い刺激がほしい……。


 乃蒼は腰を浮かせ、月光の瞳をジッと見詰めて視線で合図を送る。
 月光の手腕に陥落したのが、あまりにも早かった。


 ───もう、いい。 好きにして……。


「……そうやって何人たぶらかしてきたんだか。 乃蒼、酔っ払うと人格変わるしなぁ? 心配だな~」
「いいから、早く……っ、」
「まだ慣らしてねぇよ~。 昔の俺とは違うんだから、そんな焦んなって」


 ドロッとしたローションを穴に塗りたくられ、月光の指先が少しずつ入ってきている。
 自分で言うだけあって、蠢く指先が何となく優しい。
 月光が中を抉る度、ぐちゅ、ぐちゅ、と孔から恥ずかしい音がして、素面の乃蒼はたまらずにまたもや顔面を覆った。
 解すためだけではなく、乃蒼のいいところを探し当てて刺激しようしているのが分かって、思わず身悶えてしまう。


「んっ……ん……はぁ、……あ……っ、……そこっ」
「ここだったかー。 どう、気持ちいい?」
「ぅん、うん、……っ……気持ちいい……」
「うわ、素直~。 ギャップすげーな。 でもなぁ~甘えんの覚えててムカつく。 けど可愛いー」


 乃蒼の乳首を甘噛みしながら、不機嫌になったり微笑んだり忙しい月光の腰に足を絡ませた。


 ───足りない。 指なんかじゃ、全然足りない。 もっと大きなもので塞いで、おかしくなるほど体を揺らしてほしい。


 彼の言う通り、昔と違うという事は分かり過ぎるくらい分かった。
 乃蒼は月光の首筋にキスをして、欲望をぶつけてくれと間近から誘惑した。


「ね、もういいよ、挿れて……っ、月光。 早く、早く……揺すって……!」
「はぁ~? まだ慣らしきれて……」
「いい、痛くても、……! 月光……挿れて……」
「知らねぇよ、マジでー。 裂けたらごめんな~」


 乃蒼自身も、挿入にはまだ早いと分かっていた。
 けれど、我慢出来なかった。
 若かったあの頃のように激しく貫いて、乃蒼が意識を保っているうちに月光に過去を消してもらいたかった。
 今度こそ、乃蒼は恋人ぶってもいいのだと信じさせてくれた月光のものを、一刻も早く感じたかった。
 あてがわれた熱に喉を鳴らし、押し入ってくる質量に瞳を瞑る。


「……っおっき……っ……ッッ……」


 充分に慣らされていないせいもあるが、月光のものは初体験で受け入れたにしては凶器滲みている。
 直近二回の月光とのセックスは乃蒼が酔っ払っていたので感覚が分からなかったけれど、あれから七年も経っているせいか初めてのあの日を思い出した。

 押し入ってくるものが、火傷しそうなほど熱くて固い。 温かいローションを纏った性器がギチギチと狭い孔をこじ開けてくる。
 あんなにもたくさんの時間を月光と過ごし、毎日のように体を重ねていたというのに……この感覚を忘れていた事に少しだけ驚愕した。


「まだ早かったんじゃねぇ? 痛いだろ、乃蒼ー?」
「ふっ、……だ、大丈夫……ッ……そのままきて……いっぱい、擦って……!」
「分かってんよー。 ったく……誰にここまで開発されたんだかねぇ~……」


 月光の広い背中にしがみつき、乃蒼が言葉を発するごとに何度となく溜め息を吐かれた。
 だが中を擦り上げる熱さは月光の興奮を確かに示していて、無性に嬉しかった。
 感じているのは乃蒼だけではないと分かると、自ら腰を浮かせて月光との繋がりをより深くする。


「あっ……すご、い……っ、月光の、あつい……!」


 中に、最奥に、月光がいる。
 貫かれ、揺さぶられている今もまだ信じられない。
 あれだけ切ない想いを抱えて、意を決して離れる選択をした月光が───。




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