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「……乃蒼、もしかして俺じゃない人とやった?」
「……えっ?」
翌日、三限の終わりに連れ込まれた教室で月光から裸に剥かれた途端、あっという間に昨日の蜜事がバレた。
もちろん乃蒼は、蜜事と形容するほど大事に胸に秘めていた昨夜の火遊びを、月光には絶対に悟られぬようにしようと思っていた。
付き合っているわけでもないのに、乃蒼は何故か、浮気性の月光と同じ不貞を働いてしまったというちょっとした後ろめたさがあったからだ。
「何言ってんの?」
否応なしに心拍数が上がる。
どこにそんな証拠があるんだとでも言いたげに、乃蒼はとぼけた。
だがしかし、詰め寄る月光から少しだけ距離を取り、ぴくっと頬を引き攣らせてしまった事で真実を伝えてしまう。
「やったよな? しかも昨日じゃない?」
「え、……」
情事のあとだとバレないように、ホテルを出る前も、帰宅してからも、朝登校する前にもシャワーを浴びて入念に昨夜の痕跡を消したはずである。
乃蒼は熱に浮かされながらも月光にお膳立てするように、「痕は残さないでほしい」と海翔に懇願していた。
……にも関わらず、「昨日」である事まで言い当てられた。
何故、何を根拠にそこまで分かるんだと、乃蒼は目を白黒させて月光を見流も、彼は今まで見た事がないほどに険しい表情で睨み付けてくる。
「ひどいじゃん。 俺というものがありながらさぁ。 なんで浮気なんかすんの? ショックー……」
「ショックって……い、痛……ッッ」
月光は怒りを隠して飄々と言っているつもりなのかもしれないが、乃蒼に荒く触れる掌や、背中に噛み付く強さが尋常ではなかった。
噛み癖のある月光の歯先が、乃蒼の身体のあちこちに刺さって痛い。
完全なる怒りに任せているのは明白で、乃蒼は痛みから避けたい一心でじわじわと教室の床を這った。
「わざわざ俺のキスマークの隣に噛み付いてんだもんなぁ。 宣戦布告されたって感じ?」
しかしあっさりと腰を掴まれ捕われる。
乃蒼は、肩甲骨のやや上辺りを思いっきり吸い上げられて声にならない悲鳴を喉の奥で上げた。 静かに怒る月光が吸い付いたその場所に、海翔は禁忌を破り、痕を残してしまったらしい。
キスマークの場所など月光はいちいち覚えていないだろうと思っていたが、意外にも細かく記憶していたようで、この痕こそが月光の追及の種になった。
とは言っても、乃蒼にももちろん後ろめたさはあるが実際のところ二人は恋人関係ではない。
こんなにも粗雑で手荒に扱われるほどの事はしていないと言い返したくてたまらなかった。
何しろこれは、恋人に浮気を問い詰められている現場そのものだ。
「痛いってば! 離れろ! ていうか、その前にさ、俺ら別に付き合ってるわけじゃないから浮気ではないよね」
「……は?? 付き合ってるじゃん。 乃蒼、何言っちゃってんの? 俺たちもう付き合って三年目になるのに」
「は!?」
いくら引き剥がしても迫ってくる月光から、驚きの答えが返ってきた。
だから怒るのは当然だろ、と尤もらしく怒っている月光と、予想だにしていなかった月光の認識にギョッとした乃蒼は、数秒沈黙した。
お互いに顔を見合わせ、二人とも自分は間違っていないと思っているために空気が凍り付く。
「いやいや、なんで驚くんだよ。 俺の方がビックリ。 だからこれは立派な浮気だ! 許さねぇよ~今日は~」
「ま、待て待て待て待て! 俺たち、いつから付き合ってるんだ!?」
「どうでもいいじゃん、そんな事。 てかさぁ、俺以外の奴が乃蒼の中に入ったなんて、考えただけで頭おかしくなりそうなんだけど~。 そいつ、俺より良かった? 何回やったん?」
「……言わない。 それこそどうでもいいだろ」
「言えって~。 あ~やっぱムリ、何言われても許せねぇ~。 マジでムカつく。 乃蒼、そいつとやって気持ち良かった? どっちから誘ったんだよ? 俺じゃない奴のアソコであんあん言ったの?」
「いや……だから言う必要ないでしょって……」
何かを入念に調べようとしている指先が、優しいようでいて乱暴だ。
いつもそれほど優しいわけではないが、今日は目に余るほど荒い。
背中に覆い被さるようにして孔を解している月光の表情を窺う事は出来なかったが、今まで知らなかった彼の激情を呼び起こしてしまったということだけは分かった。
「俺だけじゃ足りなかった? じゃあ毎日やるからさ~浮気なんかしないでよ~。 俺~血管切れちゃいそう~」
「………………」
「おっかしいなぁ。 乃蒼のこと満足させてるつもりだったのに~」
「んっ、ちょっ……月光っ、いきなりは無理だって」
身勝手な怒りと不満をぼやき続ける月光は、肌身離さず持っている小さなプラスチック製容器からローションをすべて掌に垂れ流すと、乃蒼の秘部と月光自身に塗りたくった。
にちにちと解されている間も性急な扱いに泣きそうだったが、前戯にロクに時間をかけてくれなかった事も悲しくて、罪悪感と共に嫌でも昨日の甘い蜜事を思い出す。
「月光……っ」
早くも先端を押し当ててきた時はさすがに身の危険を感じて、背後の月光を振り返った。
まともに慣らしてくれなかったそこが、万が一にも切れたらどうするんだと文句を言おうにも、背中が慄いていて言葉に出来なかった。
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