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世界は残り、三秒半
第三話
しおりを挟む「──小柴侑李(こしば ゆうり)、良かったな」
寝ぼけ眼でいつもの見張り人を見上げた俺の視界に入ってきたのは、これ見よがしにチラつかせてきた注射器だった。
時間の概念が無い暮らしをしてきたこの一年のせいで、俺は自分の名前さえ忘れかけていた。
「ゆうりって……あ、俺か。ちょっと待てよ、それ俺に打つっての? なんで? なんで「良かったな」なんだよ! ちょっ、おい! やめろ……、やめ……ッ」
声を荒げた俺に、別の見張り人がやって来てコンクリートの固い床に体を押さえ付けてくる。
だって怖いよ。注射なんて誰だって嫌だろ。
やるならもうちょっとうまく、隠しながらやってくれよ。
強引に無抵抗にさせられた俺は、問答無用で左腕に針を刺された。
チクッとした小さな痛みに目を瞑ってすぐ、意識が朦朧としてくる。
この時、俺はとうとう殺されちゃったんだと思った。
ある朝突然死を宣告される、死刑囚の気持ちが分かった。
世界がどうなろうが、繁殖能力のある貴重なオメガであろうが、俺には関係無かった。
“アルファ様” に仕える日を楽しみにしていた、大人になるのが待ち遠しかった俺の人生は絶たれたんだ。
「手荒く扱うなよ」
「あぁ、分かってる。何せコイツはリアム様のご指名だからな」
「俺たちだって明日どうなるか分からないってのに、コイツはラッキーなオメガだぜ、全く」
──リアム様……?
死んだと思ってた俺の意識は、虚ろながらきちんと働いていた。
聞き覚えのある懐かしい名前が耳に入ると、不思議と脳内にもその人物が思い起こされる。
リアム……。
もしかしてあの「リアム」?
約束、果たしに来てくれたのかな。
……いや、糠喜びはしないでおこう。
一年も閉鎖的な空間に居たから脳内お花畑になってて、自分の都合の良いように聞こえただけなのかもしれない。
屈強な見張りの男の肩に担がれた俺は、歩みに合わせて揺れながらそこから本当に意識を飛ばした。
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