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しおりを挟むついさっきまで、あんな事やこんな事をしてベトベトドロドロだったたはずのシーツが、橘自らがベッドメイクをしたのか綺麗になっていて、寝心地が良い。
思わず後ろ手でシーツを撫でてしまいながら見詰め返すと、橘からのその笑顔と温かい眼差しが由宇の心臓を直撃した。
撫でていたシーツをキュッと握り、沸き立つドキドキと闘う。
(幸せ……先生が、幸せ……)
そんなに嬉しい事を言われては、由宇も、喜びで全身がポカポカしてくる。
セックスで身を寄せ合うのとはまた一味違う、心がじんわりと満たされる幸福感はこれまで味わった事がなかった。
おまけにギュゥゥ…と力強く抱き締められて、幸福感を堪能する間もなくソファでと同様、絞め殺されるかと思った。
「俺も後悔してんだ。 悲しませた上にすげぇ遠回りしたしな」
「……せ、先生……分かったから……ぐるし……っ」
「ここでお前が寂しそうにしてたのに、俺は何も声を掛けてやらなかった。 分かってたんだけどな。 お前の全身から「寂しい」って思い垂れ流してきてたから」
「……だってっ……寂しかったもん……! そう、言ってんじゃん! てかくるっしぃ……!」
「悪かったよ、マジで。 あん時の事は俺もあんま思い出したくねぇくらいなんだ。 可哀想にな。 お前泣き虫だからずっと泣いてたじゃん? 見るからにしょんぼりして……」
「うん、う、ん、そ……なんだけど、先生……っ、離して……! マジで苦し……っっ」
橘は常人ではない。
すらりとスマートな体躯でありながら、どこにこんな力を隠しているのかというほど馬鹿力なのである。
嬉しい、この幸福感でもっと心を満たしたい……そう願うものの、橘は馬鹿力を緩めてくれなかった。
このままだと由宇は落とされる。
橘にそのつもりがない事くらい、由宇にだって分かっているので落ちたくはないが、視界がすでに危なかった。
「由宇、ごめんな。 ごめん」
「…………!!」
一切の冗談抜きで、茶化しもふざけもなく、殊更感情を乗せて由宇の名前を呼んだ橘に、由宇は───落とされた。
「………………」
「……おい、由宇? ……は? ここで寝るのか、……アホポメ」
くたりとなった由宇は、橘がいくらほっぺたをこねくり回しても起きる事は無かった。
すやすやと寝息を立てているので、落ちたと同時に夢の世界へと行ってしまったらしい。
「もしかして落としちまった? やべ……加減が分かんねーな」
橘なりに詫びを伝えたかっただけなのだが、少々思いを込め過ぎた。
今日は特に目まぐるしくかったであろうし、体力とは無縁の細い体がついに限界を迎えてしまった。
橘はゆっくりと由宇の体を抱き締めて、腕枕ならぬ抱き枕状態にすると、ふわふわした後頭部にチュッとキスを一つ落とした。
「……こんな小せぇ体じゃ、俺の幸せ分けてやっても受け止めきれねーかもしんねぇな」
包帯が巻かれた方の手で、由宇の腰とお尻を撫で回す。
触れているとどうしてもいやらしい気持ちになるが、この寝顔を見ると手出しは出来ない。
橘が謝罪し、幸せだと笑みを見せた後に落ちたからか、由宇の表情は寝ているのにとても安らかだった。
その顔はほんの少し微笑んでいるようにも見えて、憎たらしいほど可愛いと思ってしまう。
橘はじわりと枕元のスタンドライトの灯りを消し、瞳を閉じた。
まだ実感が湧かない。
心を通わせる事が出来て、ついでに体も繋がれた。 まさに夢のようだった。
由宇の体と気持ちが付いてこないうちは挿入しないと決めていたが、自覚のない嫉妬にやられて半ば強引にセックスに持ち込んだ。
橘の事しか見えていないのは、いくら由宇が照れて頷いてくれなくても熱っぽい瞳で分かる。
焦り、急く必要は無かったけれど、橘の中で由宇とのセックスは最重要事項であった。
由宇がよそ見をしないように、体ごともっと自分に夢中にさせたいがために挿入を前倒しにした。
「言えねぇけどな、こんな事」
一時期はどうなる事かと思ったが、二人の付き合いの件では勘違いを貫いてくれた怜に、入学当初から由宇は懐きまくっていた。
やはりこの一年でさらに大人びた怜は、橘の目から見ても周りを逸している。
怜は林田とよろしくやっているようだが油断は出来ない。
以前、彼の気持ちを車中で聞いた際、真面目さ故に由宇への想いも真剣なのは鈍感な橘さえ見抜いた。
そんな怜が、初過ぎる由宇を誘い出すのは容易だ。
開発と拡張と調教は連日うまくいっている事だし、いざ由宇を手に入れてしまうと橘も一気に余裕を失くすしで、「今日」繋がらなくてはと躍起になった。
好きになってしまうとこれほど心が狭くなるのかと、自身の器の小ささを新発見した。
性の捌け口だった女性達とは、本当に比べものにならない。
腕の中で眠る存在には、どれだけでも愛おしさが湧いてくる。
由宇になら、どんな悪態を吐かれてもいい。 ……面白いので言い返しはするが。
二人で遠回りして、やっと互いを手に入れたのだから、橘は自身の幸せを先に感じてしまった事をも詫びなければと思った。
「あん時のは人生で初めての嘘だった。 ……お前を幸せにするのは俺だ」
いつかに言った、
『お前を幸せにするのは俺じゃない』。
自分の気持ちに気付いていなかったからとはいえ、よくあんな酷い事が言えたものだ。
ぎゅ、と由宇を抱き締めて、足を絡ませて羽交い締めにすると、橘は寝ている由宇の耳元で再度「ごめんな」と小さく囁いた。
もう二度と傷付けはしないからな、と強い思いを乗せていたので、熟睡中の由宇の顔が歪むほど腕と足に力を込めてしまっていた。
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