172 / 195
18
18一2
しおりを挟む盛大に照れた橘から抱き上げられて、バスルームで後処理をしてもらい、ピカピカになった体で橘が淹れてくれたお茶をソファで飲むというのが定番化している。
同じ湯呑みで、由宇にピタリと密着しお茶を飲む橘のバスローブは相変わらず着崩されていてだらしがない。
だがそんな事はどうでもいい。
今、由宇の心は満たされに満たされているからだ。
恐ろしかった橘とのセックスは、初めてにしては感じられた方だと思う。
最後の方はあまりよく覚えていないけれど、噛まれた痣が今頃になってヒリつくくらいで、あとはすごく気持ち良かった。
巨砲を受け入れる際も、橘による「開発と拡張」のおかげでかなり恐怖心も和らいでいた。
あれをいきなり後ろの穴に入れると言われて本番を迎えていたら、恐れ慄いて橘とは二度とセックスしないと言って逃げ出していた可能性だってある。
教師らしく、由宇の性格を熟知した上で彼なりにプランを立ててくれていたのかもしれない。
由宇のために「ガツガツはやらない」と言ってくれた事も然り、橘は目に見えて由宇に優しくてドキドキする。
隣で不機嫌そうに顔を顰め、長い足を雑に組んでお茶を啜っていても絵になるくらいカッコイイ。
たとえ、ノーパン主義のせいでバスローブから巨砲がチラ見していたとしても、何も言わずにそっとはだけた前を直してやるくらいの心の余裕も生まれた。
(ぷぷっ……先生のこの顔……眠いんだ。 それかお腹空いた? 今日はお酒飲んでないしなぁ)
夕食も食べずに橘と交わっていたのでお腹が空くかと思えば、全然そんな事はない。
体力をすべて奪われてヘトヘトで食べられないというのもあるが、心が十二分に満たされているので、食欲は二の次で今はとにかく幸せに浸っていたい。
「なぁ、腹減らねーの?」
「えっ! なんで俺がいま考えてる事分かったんだよ!」
「いや知らねーけど。 マジで大丈夫なのか?」
「うん、要らないよ。 お腹減ってない」
「そうか」
橘と心が通ってから、事ある毎に「俺に遠慮はするな」と言われているので、由宇はその台詞に甘えさせてもらっている。
疲労感たっぷりな由宇に比べ、まだセックス自体も物足りなさそうだった橘はどうなのだろうか。
しきりに空腹ではないかと聞いてくる辺り、橘の方が遠慮しているのではないか。
「先生は? 晩酌しなくていいの? 俺寝るから、気にしないでご飯食べたらいいのに」
「要らねー。 食にそんなこだわり無ぇんだよな。 食わないなら食わないでいい」
「えぇ……。 でも先生、ファミレスではカレーしか食べないんでしょ? カレーならハズレないからって」
「なんで知ってんの」
「拓也さんが教えてくれた」
「アイツ…」
橘は苦笑しながら、湯呑みをテーブルに置いた。
こだわりがないなら味がどうこうと言うわけがない。
ボンボンな橘は、単に良いものしか受け付けないだけである。
こんな細かな情報を知られたくなかったのか、バツが悪そうだ。
「あ、先生、……スマホ? 鳴ってない?」
「ん?」
「先生のスマホ持ってくるよ。 ベッドルームにある?」
「あぁ、いい。 俺行く」
「えっ、でも……」
「いいって。 座ってろ」
立ち上がりかけた由宇を引き止め、橘は由宇の頭をクシャクシャと撫でてからベッドルームに消えた。
(えーっ、えーっ、先生が優しい! 前の先生なら俺をパシリに使ってたのに! この優しさの垂れ流し……慣れないよぉ~~!)
表情は何も変わらない。
けれど態度や声色が以前とはまったく違う。
悪魔のようにニヤリと笑いつつ、温かく大きな手のひらで頭を撫でてくれる回数が飛躍的に増えた。
橘なりに由宇を可愛がっているのが分かる、その「優しさ」が未だに慣れない。
強い口調も物言いも以前のままなのに、人はここまで変われるのかというほど大きな変化を毎日感じる。
───すごく、幸せだ。
(あ、戻ってきた)
誰かとスマホで会話をしながら悠々と戻ってきた橘は、ドカッとソファに腰掛けて当たり前のように由宇の肩を抱く。
(……またヨシヨシされそ……。 先生どうしちゃったんだろ)
引き寄せられて橘の胸元に頭を寄せた由宇の耳に、スマホから通話相手の声が漏れ聞こえてきた。
『……~マジで! やったな! どうだった!?』
「さいこー。 マジでさいこーだった」
『そうかぁぁ! 風助もついにこっちの世界に足を踏み入れたか!』
「だな。 てか樹さんに大事な事聞くの忘れてたんだよ」
聞き覚えのある名前が出てきて、「あ…」と由宇は橘を見上げる。
電話の相手は総長様のようだ。
総長様の仕事柄、不規則な時間に掛けてきても橘が不機嫌にならない唯一の相手であろう。
由宇の髪を指先で弄りながら、橘がフッと笑った。
『大事な事? なんだっ?』
「相手が初めての場合、どの体位が楽なんだ?」
「ちょっ……!」
『あ! 今ポメ君の声したぞ! 隣に居んの!?』
「あぁ。 で、体位は……」
『ちょっと代われよ! 話してみてぇ!』
「は? なんで」
『いいからいいから!』
(いやっ、えっ? なんで俺が総長様と!? やだやだ、脅されたりしたらどうしたらいいんだよ!)
暴走族に多大な偏見を持つ由宇が、ビビり上がるのも無理はなかった。
代われとしつこい樹に折れ、橘が「ん」と由宇へスマホを渡す。
何を言われるのかまるで見当もつかないため、スマホを受け取るのに三秒ほど躊躇した由宇だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる