個人授業は放課後に

須藤慎弥

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   どこの少女漫画の台詞だ。

   恋愛上手な乙女ならドキッとするのだろうが、初な由宇は「ヒッ」と慄いた。

   何かのタイミングで橘のエロモードを呼び起こしてしまったらしいと分かったのは、ベッドに押し倒されてからだ。


「ノーパンっていいだろ」
「んやっ……っ、よくない!」
「んな事言って。  照れてるだけだって分かってんだぞ」
「んッ……!」


   柔らかく高さのある枕に沈んだ矢先、エロモード全開の橘の唇が降ってきた。

   キスの最中にバスローブの前紐を解かれ、太腿を撫で回す手付きがすでにいやらしい。

   ビールのアルコールの風味が残る濡れた舌で、由宇の緊張感のある縮こまった舌を見付けると逃さないとばかりに絡めてくる。

   前がはだけてしまい、橘の手のひらが腹から胸元へと滑ってくると体がより緊張して硬くなった。


「……っ……っ、んっ……」


   バスルームで散々弄られた乳首を摘まれ、橘の背中に回していた腕がピクリと反応する。

   唐突にキスをやめた橘は、由宇の顎から首筋にかけてを入念に唇で愛撫していった。

   信じられないほど優しい口付けに腰が疼いて、たまらず上擦った声が漏れる。


「……っ……、……っ……ぁっ」


   自分の耳を塞いでしまいたい。

   出来るだけ抑えようとしても、橘の唇と舌が由宇の乳首を支配していて、どうしても甘ったるい声が鼻から抜けてしまう。

   けれど何故か、我慢するだけ橘の愛撫も濃厚に、かつ、しつこくなっているような気がして止められなかった。


「……んんっ、ん……やっ、……あ……っ」
「お前さっきイってねーからか?  なんでそんな敏感なんだよ」
「ん、っ……ん!  ちが、そんなんじゃ……っ、ない……!」
「ふーん?  そういや片思いの奴にはどこまで許した?」
「えぇ……?  ぁっ……」


   頭がぼんやりしていた由宇は、ここへ来てから食事をするかいやらしい事をするかのどちらかしかしていなかったと今さらながらに気付く。

   話したい事が山ほどあった。

   ラミネートフィルムも返してほしいし、何ならそれを拾った経緯だって教えてもらいたい。

   それより何より、一番言いたかった事がある。

   由宇の好きな人が別に居る、という大きな勘違いをしたままの橘の誤解を解きたいと思っていて、昨日はほとんど眠れなかった。

   不機嫌そうに左右の乳首を堪能している橘の舌使いが荒くなってきている。

   包帯が巻かれた手でやんわりと由宇の顎を持たれてしまい、「答えろ」と脅されている気分だ。

   誤解をしているからか、その行動や唇の粗暴さは彼らしくもなく嫉妬しているように見えた。


「言ってたろーが。  片思いの奴が居るって。  それなのに俺を追い掛けてんのが気に食わねー」
「……ん、それ、ちがっ……!」
「片思いっつーくらいだからキスもまだか。  あ?  キスはしたのか?」
「し、してな、……っ、してないって!」
「じゃあマジで好き好き思ってただけ?」
「……うん、んっ、……だって……叶うわけないって、諦めてた、し……っ」


   気に食わないと言われても、今まで好きになった人は橘しか居ない。

   片思いの相手は橘なんだと伝えようにも、どんどん追及の話題を足されてそれに答えるのに必死だった。

   乳首が腫れるほど舐められたり甘噛みされたりしているせいもあって、うまく舌が回らない。


「俺よりいい男なんだろうな、そいつ」
「そ、そりゃ……いい男、だよ……っ、毎日、見てた……から、!  寝癖ついてる日は……寝不足なのかな、とか、まわりのみんなへの態度、冷たいけど……っ、無視したりしないし……ほんとは優しいな、とか……あぅっ!  ……痛っ……」
「俺に惚気んじゃねーよ」
「ちが、のろけて、ない……っ!  外見だけじゃ、ない……!  中身も好きだなって……!  やだぁっ、痛……いってばぁ……っ」
「そんなにそいつが好きなのに、なんで俺にこんな事されてんの?  俺は言ったよな、お前への気持ち」


   答えれば答えるほど、イラついた手付きで平らな胸元を鷲掴まれ、腹部を噛まれる。


(先生の気持ち……?  そんなの、ちゃんと言ってもらってないもん……!)


   痛くて体を捩っても、橘の右手がそれを制して身動きが取れない。

   橘の告白は由宇に向けてでは無かったのだから、あれは聞いた事にはならないと思った。

   その後に想いのこもったキスはくれたけれど、言葉で言ってくれないと由宇も安心出来ない。

   言葉数の少ない橘だから理解してやりたい、言われなくても分かってると強がってあげたいと思いはしても、それとこれとは別である。


「聞いてんのか」
「んっ、やめ……っ、やめっ、痛いのやめてよぉっ!  俺の好きな人、っ言うから……!」
「…………誰」


   由宇の叫びに、橘の動きが止まった。

   このままだと体中に赤い痕が残ってしまう。

   下手したら流血沙汰になるかもしれない。

   イラついた橘の視線は、熱に浮かされているというより怒りに満ち満ちていた。

   脇腹を噛もうとしていた橘が態勢を崩さずに凝視してくる。

   由宇の心境は、照れよりも恐怖に近かった。


「俺の、好きな人は……ずっと、先生だよ……!  片思いの相手って、ふーすけ先生のこと!」



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