個人授業は放課後に

須藤慎弥

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5一3※

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 橘はいつも、いい匂いがする。

 身なりに気を遣って香水を付けているのか、はたまた車中のムスクの香りが服に染み付いているのか。

 ……と思っていたら、何と書いてあるか読めないシャンプーやボディーソープの香りも大いに関係あったらしい。

 ベッドを占領した由宇は、布団を頭まですっぽり被って自分がその匂いになっている事にとても落ち着かない気持ちだった。

 何がどうなって今ここにいるんだろう。

 拓也達との駅での待ち合わせからペンション内での橘の大暴れ、悲劇のヒロイン面した婚約者をさらい、病院での切ないひとコマ……その後、イライラすると言われてここへ連れて来られて、現在に至る。

 ベッドに入ってからすでに二時間ほどが経過していたが、考えを巡らせたところで今日一日をただじっくりと振り返っただけに過ぎず、まったく寝付けなかった。


(先生何してんだろ……)


 橘は由宇をさっさとリビング横のベッドルームへ追いやると、パソコンをいじり始めてしまった。

 こうも放ったらかしにされては色々と聞きたい事など聞ける雰囲気でもなくて、ふて寝するしかなかった。

 ついさっきバスルームから物音がしたので、恐らくもうすぐ橘も寝るのではと思われる。

 そうなると、橘は一体どこで寝るのだろう。


(え、こ、これ、俺と先生二人で寝んのかな……!?)


 ベッドルームにはこの広めのダブルベッドしかなくて迷わずダイブしたのだが、良かったのだろうか。

 今さらそんな事でドギマギし始めて、ガチャッとベッドルームの扉が開いたと同時に由宇もすかさず演技に入る。

 寝てますよとアピールしておけば、もう体温で温まってしまったベッドから降りなくて済むだろうという安直な考えからだ。


「まーだ起きてんのか」
「………………」


 ギシ、とベッドが軋み、橘が間近までやって来た気配がする。

 布団をすっぽり被って演技真っ最中の由宇は、橘の問いには応えない。

 すると、鎧と化していた布団を剥ぎとられて顔をのぞき込まれた。


「起きてんじゃん。  寝ろっつったのに」
「……眠れなかったんだからしょうがないだろ」
「ふーん?」


 何も考えてなさそうに、バスローブ姿の橘は自分と由宇に布団をかけると早速寝る態勢に入った。


「え、先生、もう寝ちゃうの?」
「あ?  なんだよ」
「い、いや……別に」
「だからどこぞの女優かっての。  抱っこしてほしーんならしてやるから来い」
「ッッ!?  してほしくないもんね!  おやすみなさいっ」


 サラッとまた子ども扱いされて腹が立ち、プイと橘に背を向けて今度こそ寝ようと瞳を閉じる。

 本当は色々話したかった。

 正義の橘がやる事にはすべて意味があるような気がするから、そんな彼の話を聞いてみたかった。

 ここへ来てからあっという間に時間が経ち、食事の席では二人とも黙々と料理を平らげていったので、何も話せず終わってしまい。

 これに関しては由宇は助かっていたのだが。

 食事をしながら会話を楽しむ習慣が由宇には無かったので、怜の家ではそこだけ無理をしていた。

 怜は温かい家庭だったようだから、今が独りなだけに週末の由宇との食事に幸せを感じていそうだった。

 だから少し無理をしてでも、怜が楽しく笑って過ごせる時間を共有したいと思った。

 由宇も今は寂しくてたまらないので、怜は唯一の心の拠り所だ。


(怜……今日独りにさせてごめんね……。 明日は一緒だからね……)


「よいしょっと」
「……な!?  ちょっ……これ、何?」
「抱き枕」


 嘘を付いてしまった罪悪感と、怜をひとりぼっちにさせてしまった後悔に耽っていると、突然背後から橘に抱き寄せられた。

 由宇の頭の下には橘の右腕が滑り込み、腕枕状態に。  左腕は由宇の腹部を引き寄せてそのまま置いてある。

 すぐ後ろに橘の顔が迫っているのが分かり、なんだなんだと心に動揺が走った。


「なぁ、ひょろ長とも同じベッドでこうして寝てんの?」
「えぇっ?  何でここで怜が出てくんのっ?」
「寝てんのかって聞いてんだよ」
「そうだよ、さすがに抱き枕はされないけど」
「同じベッドって事?」
「うん。  俺は床でもソファでも椅子でもどこででも寝られるって言ったんだけど、怜が譲んなくて」
「じゃあこういう事はしてない?」


 変な事を聞くなぁ、と橘を振り返ろうとしたその時、由宇の腹に添えてあった左腕が縮こまった由宇のものに触れた。


「え、ちょ、っ……何で!?  触んな……っ」
「暴れると握り潰すぞ」
「ヒィィっ……!  先生ほんとにしそうで怖いよ!  ……あ、マジで……っ……やめ……!」


 橘の大きな掌が由宇の縮こまったそれを握って、さわさわと撫で回し始める。

 由宇は自慰をほとんどしない。

 そういう気持ちになろうにも由宇はまだまだ子どもで、常日頃から溜まるという感覚すら無かった。

 ただこの触られている心地良さには思わず背中を丸めてしまう。


「なん、何して……っ?  やめっ……やめてよ……!  何で……っ」
「………………」


 橘は黙って由宇のものを扱いている。

 彼の掌にすっぽりと収まるこじんまりさにより、包み込まれて温かく、かつとてつもなく気持ちがいい。


「せんせ……!  何かっ言ってよ、……あっ……も、……っ」


(何これ、何これ、何これーーっっ!?  気持ちいいからすぐ出ちゃいそう……!)


 他人の手からの知らない快感に、由宇の背中は丸まったまま打ち震えた。

 動きを早くされて、追い立てられているのだと分かると、その時点ですでに橘の腕を払い除ける気力など無かった。


「……あっ……イっちゃうって……!  せんせ、……っダメ、やぁぁぁっ……」



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