35 / 195
4
4一5
しおりを挟む迎えた土曜日。
週末は必ず怜のマンションへ泊まりに行っていたので、またも嘘を吐かなければならなかった。
橘との約束の時間が迫っていたが、現在、電話口で拗ねた友人を諭しているところだ。
「ごめんってば。 ばあちゃんとこ行かなきゃなんなくなって」
『昨日までそんな事言ってなかったじゃん。 もう由宇の分のご飯も用意してたのに』
「……ほ、ほんとにごめんね? あ、じゃあ明日泊まりに行こうかな? 制服持って。 朝一緒に学校行こうよ」
『…………ほんと? 来る? ドタキャンは嫌だからな?』
「分かってるって。 じゃあまた明日、連絡するね」
明日泊まりに行く事で渋々納得してくれた怜との電話が終わり、妙に切なくなってしまったのはすべての事情を知っているからだろう。
(怜……寂しいんだろうな……)
こうなる前はあたたかい家庭だったに違いない。
だからこそ余計に今の状況がツライはずで、由宇も、早く何とかしてあげたいと自身を奮い立たせていた。
どんな結末になろうとも、由宇は怜の側に居てあげたい。
以前から寒々と冷え切っていた由宇の家庭環境とは違ったらしい怜の寂しさは、計り知れない。
約束の10分前に駅に到着すると、見覚えのある黒のワンボックスカーがすでにロータリーに停まっていた。
あれは橘の仲間達が乗る車だと気付いてすぐ、中からチンピラのような風貌の男が三人降りてきて、一瞬だけ帰ろうかなとよぎってしまう。
真っ直ぐ由宇の元へやって来た三人のうち一人が、見た目の厳つさとは程遠い明るさで声を掛けてきた。
「チワワちゃん、ども。 俺、拓也。 ロン毛のコイツが大和、そっちのツンツンが瞬。 よろしくー」
「よ、よろしくです……」
拓也と名乗った彼が一番人懐っこいようで、笑顔で由宇を捉えてくれている。
一方、大和、瞬、と紹介された二人はジーッと由宇を見ていて、「チワワちゃん」と言われた事に怒ろうにも何とも居心地が悪い。
揃いも揃って強面だからか、これから由宇はカツアゲでもされそうな雰囲気である。
「風助さんから聞いてるよ。 もうすぐ来ると思うから俺の車乗っとく? ……と思ったら来たね」
マフラー音を響かせながら、荒々しい運転で見事にワンボックスカーの前に滑り込んできた黒塗りセダンから、橘がゆっくり降りてきた。
「お前小さ過ぎて見えなかったんだけど。 来てるなら来てるって言えよ」
「……ッッ来てる!!」
「今言っても遅せーよ。 マジで補導されかねねーから俺らからはぐれんなよ」
「車移動でしょ! はぐれようがないです!」
「あはは……! 超ウケる! このやり取り見れて俺今日もう満足!」
「何が満足だよ。 仕事はこれからだろ」
行くぞ、と橘が仕切ると、三人はいそいそとワンボックスカーに乗り込みに行った。
開口一番で由宇をキレさせた張本人は、「乗れ」と一言だけ言ってさっさと運転席に乗ってしまい、由宇はブスくれたまま助手席に落ち着く。
橘の車内は、彼の書く字のように綺麗なものだ。
そして車内中、学校でも度々感じていた香りが立ち込めている。
「あいつら面白がってんな」
「……そうだね。 先生が俺を怒らせるから」
「怒らせてる意識はねーんだけど」
(だとしたら真剣に言ってるって事? 尚悪いじゃん……)
橘の言動に振り回されっぱなしなのは当初から変わらない。
だがそれが彼らしくもある、と今になって由宇はやけに冷静だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる