24 / 28
第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)
写真データを全削除していた
しおりを挟む
五本目 ○●○●xチーム《北村》 ●○●○xチーム《ビギニング オブ ザ ワールド》
「まさか同じスコアとはねー」北原が普段の調子で言った。
村井は椅子に座って山田のスマホの写真データを全削除していた。彼らは横一列に並び彼女達の言葉を待った。その前にひとしきり謝ったが、許す。という言葉は一度もなかった。
「よくもまぁあんなことを考えた。なぁ山田?」作業が終わったようで、村井が喋りだす。「私だけを狙い撃ちか。そうだよな、普通好きな人にはあんなこと出来ないもんな。写真の中に特定の人物の写真が大量にあった気がしたんだけど」
「本当に申し訳ありません。それだけはお許しください」
「まぁいいけど」村井は続ける。「でも、やっと理解したみたいだしな」
彼女は珍しく口の端を持ち上げて笑う。
「遊びってのは、本気でやらなきゃ面白くないんだよ! そうだろ!」
「「「うおぉぉおおおお!!」」
聞き耳を立てていたギャラリーも「(プ)レイヤーさんあっちぃぜ!!」と言って盛り上がっている。
山田は、ガイアやクロウではない、村井は僕の事を言っているんだと実感した。そう思うと、声を出さずにはいられなかった。
「それじゃあ六本目いってみよー!」
「お題は勝手ながら私から決めさせてもらう。アレだ」
北原が元気にコールをして、村井が指を差す。次のゲームジャンルが決まった。
――六本目【クレーンゲーム】
「勝敗はシンプルに金額にする。五百円以内で景品を獲得後、ネットで調べていくらで売られているかを基準にする」
山田は村井の提案に対して、予算が少なすぎると思った。
ゲームセンターの景品は、業界団体によって高くても原価は八百円までと自己規制をしている(守らない店も多いが警察とのグレーゾーンなやり取り)。
そもそもクレーンゲームには『確率機』と『ペイアウトサポート』という吐き気を催すような邪悪がある。
……もちろん全てのクレーンにこのシステムが搭載されているとは言えないし、これは消費者側の勝手な言い分だ。
しかし本来ゲームセンターが営業を続けるのに必要な利益を得るための、隠された設定というものが存在する。
『確率機』とは、~円が投入されてから景品が落とされるまでアームの力を上げる等の設定が出来る筐体のこと。
『ペイアウトサポート』は、確率機の機能 + ~回連続でコインを投入するとアームの力が上がる、更にそれが同一人物かまでを特定できる機能のこと。
原価、それとサービスを提供する側の利益。その二つを考えれば五百円という予算ではプライズ一つ取ることでさえ相当な実力が無ければ無理だと、山田は何となくだけど知っていた。
むしろ知らなければ、「詐欺じゃないか」と憤る人さえいるシステムだということも。
クレーンゲームの筐体を買うのに数十万を支払う運営側に利益が無ければ、それを置く意味もない。負けないためには情報を持って無くてはならない。
「私達はこれを獲るぞ。お前らはどうする」
村井は美少女フィギュアが閉じ込められているガラスをノックするように叩いた。
クレーンゲームから可愛い女の声で、お金を入れて下さい♪ と言われる。
「俺達はそれが獲れなかった時の事を考えて、軽くて小さいキーホルダーでも獲るとしようかな」
「ククッ……その場合、私達が勝つ確率……99.8%」
二人はにたっと笑いながら彼女達を煽る。ガイアは最後まで卑劣を貫いた。クロウに至ってはもうわけがわからない。
村井は、言ってろ。と言葉を吐き捨てて筐体と向かい合う。山田は不思議だった。彼女の自信はいったいどこから来るのだろう。
クレーンゲームコーナーと隣接するバトルエリア――カードゲームの大会が行われる場所――には、十一時三十分を回るというのに、大会を終えた後のカードゲーマー達がまだまだ残っていた。
大会が終われば知り合い同士での雑談をしたり、もう一度やろうぜと言うものだ。山田達のように目的がなければすぐ立ち去るような事はない。
そのテーブルと隣接する美少女フィギュアのプライズになぜ最後の勝敗を賭けるんだ……――っ!! 山田はハっとした。
今朝ここで、村井に「くそがき」と言われた時、たしかに聞こえた。「あの子もしかして最近出たっていう美少女フィギュアをカツアゲする犯人じゃね?」という言葉。もしや。
「間違いないね。志帆はあの獲物。簡単に獲れると思っているよ」
北原はいつの間にか山田達がいるギャラリー側に並んでつぶやいた。まるで山田の思考を盗み見たかのように会話を続けるから、周りの人達には電波少女と思われただろう。
「やっぱり、そうだったんだ……」
簡単に“盗れる”と思っているよ。
山田は北原の言葉を反芻した後に納得した。村井は人が苦労して獲得した美少女フィギュアを奪い盗っている。と信じた。
村井が五百円玉を投入すると、チャレンジ回数のパネルに「6」という数字が浮かぶ。
――それじゃあ、いっくよー!
彼らと、彼女達の、最後の闘いが始まった……っ。
続く
「まさか同じスコアとはねー」北原が普段の調子で言った。
村井は椅子に座って山田のスマホの写真データを全削除していた。彼らは横一列に並び彼女達の言葉を待った。その前にひとしきり謝ったが、許す。という言葉は一度もなかった。
「よくもまぁあんなことを考えた。なぁ山田?」作業が終わったようで、村井が喋りだす。「私だけを狙い撃ちか。そうだよな、普通好きな人にはあんなこと出来ないもんな。写真の中に特定の人物の写真が大量にあった気がしたんだけど」
「本当に申し訳ありません。それだけはお許しください」
「まぁいいけど」村井は続ける。「でも、やっと理解したみたいだしな」
彼女は珍しく口の端を持ち上げて笑う。
「遊びってのは、本気でやらなきゃ面白くないんだよ! そうだろ!」
「「「うおぉぉおおおお!!」」
聞き耳を立てていたギャラリーも「(プ)レイヤーさんあっちぃぜ!!」と言って盛り上がっている。
山田は、ガイアやクロウではない、村井は僕の事を言っているんだと実感した。そう思うと、声を出さずにはいられなかった。
「それじゃあ六本目いってみよー!」
「お題は勝手ながら私から決めさせてもらう。アレだ」
北原が元気にコールをして、村井が指を差す。次のゲームジャンルが決まった。
――六本目【クレーンゲーム】
「勝敗はシンプルに金額にする。五百円以内で景品を獲得後、ネットで調べていくらで売られているかを基準にする」
山田は村井の提案に対して、予算が少なすぎると思った。
ゲームセンターの景品は、業界団体によって高くても原価は八百円までと自己規制をしている(守らない店も多いが警察とのグレーゾーンなやり取り)。
そもそもクレーンゲームには『確率機』と『ペイアウトサポート』という吐き気を催すような邪悪がある。
……もちろん全てのクレーンにこのシステムが搭載されているとは言えないし、これは消費者側の勝手な言い分だ。
しかし本来ゲームセンターが営業を続けるのに必要な利益を得るための、隠された設定というものが存在する。
『確率機』とは、~円が投入されてから景品が落とされるまでアームの力を上げる等の設定が出来る筐体のこと。
『ペイアウトサポート』は、確率機の機能 + ~回連続でコインを投入するとアームの力が上がる、更にそれが同一人物かまでを特定できる機能のこと。
原価、それとサービスを提供する側の利益。その二つを考えれば五百円という予算ではプライズ一つ取ることでさえ相当な実力が無ければ無理だと、山田は何となくだけど知っていた。
むしろ知らなければ、「詐欺じゃないか」と憤る人さえいるシステムだということも。
クレーンゲームの筐体を買うのに数十万を支払う運営側に利益が無ければ、それを置く意味もない。負けないためには情報を持って無くてはならない。
「私達はこれを獲るぞ。お前らはどうする」
村井は美少女フィギュアが閉じ込められているガラスをノックするように叩いた。
クレーンゲームから可愛い女の声で、お金を入れて下さい♪ と言われる。
「俺達はそれが獲れなかった時の事を考えて、軽くて小さいキーホルダーでも獲るとしようかな」
「ククッ……その場合、私達が勝つ確率……99.8%」
二人はにたっと笑いながら彼女達を煽る。ガイアは最後まで卑劣を貫いた。クロウに至ってはもうわけがわからない。
村井は、言ってろ。と言葉を吐き捨てて筐体と向かい合う。山田は不思議だった。彼女の自信はいったいどこから来るのだろう。
クレーンゲームコーナーと隣接するバトルエリア――カードゲームの大会が行われる場所――には、十一時三十分を回るというのに、大会を終えた後のカードゲーマー達がまだまだ残っていた。
大会が終われば知り合い同士での雑談をしたり、もう一度やろうぜと言うものだ。山田達のように目的がなければすぐ立ち去るような事はない。
そのテーブルと隣接する美少女フィギュアのプライズになぜ最後の勝敗を賭けるんだ……――っ!! 山田はハっとした。
今朝ここで、村井に「くそがき」と言われた時、たしかに聞こえた。「あの子もしかして最近出たっていう美少女フィギュアをカツアゲする犯人じゃね?」という言葉。もしや。
「間違いないね。志帆はあの獲物。簡単に獲れると思っているよ」
北原はいつの間にか山田達がいるギャラリー側に並んでつぶやいた。まるで山田の思考を盗み見たかのように会話を続けるから、周りの人達には電波少女と思われただろう。
「やっぱり、そうだったんだ……」
簡単に“盗れる”と思っているよ。
山田は北原の言葉を反芻した後に納得した。村井は人が苦労して獲得した美少女フィギュアを奪い盗っている。と信じた。
村井が五百円玉を投入すると、チャレンジ回数のパネルに「6」という数字が浮かぶ。
――それじゃあ、いっくよー!
彼らと、彼女達の、最後の闘いが始まった……っ。
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

王妃の鑑
ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。
これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる