あなたがそれを望むなら! ~私はストーカーをしてしまう人に全力の愛を贈ります~

極限環境微生物

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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)

写真データを全削除していた

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 五本目 ○●○●xチーム《北村》 ●○●○xチーム《ビギニング オブ ザ ワールド》


「まさか同じスコアひきわけとはねー」北原が普段の調子で言った。

 村井は椅子に座って山田のスマホの写真データを全削除していた。彼らは横一列に並び彼女達の言葉を待った。その前にひとしきり謝ったが、許す。という言葉は一度もなかった。

「よくもまぁあんなことを考えた。なぁ山田?」作業が終わったようで、村井が喋りだす。「私だけを狙い撃ちか。そうだよな、普通好きな人にはあんなこと出来ないもんな。写真の中に特定の人物の写真が大量にあった気がしたんだけど」

「本当に申し訳ありません。それだけはお許しください」

「まぁいいけど」村井は続ける。「でも、やっと理解したみたいだしな」

 彼女は珍しく口の端を持ち上げて笑う。

「遊びってのは、本気でやらなきゃ面白くないんだよ! そうだろ!」

「「「うおぉぉおおおお!!」」

 聞き耳を立てていたギャラリーも「(プ)レイヤーさんあっちぃぜ!!」と言って盛り上がっている。
 山田は、ガイアやクロウではない、村井は僕の事を言っているんだと実感した。そう思うと、声を出さずにはいられなかった。

「それじゃあ六本目いってみよー!」

「お題は勝手ながら私から決めさせてもらう。アレだ」

 北原が元気にコールをして、村井が指を差す。次のゲームジャンルが決まった。


 ――六本目【クレーンゲーム】

「勝敗はシンプルに金額にする。五百円以内で景品を獲得後、ネットで調べていくらで売られているかを基準にする」

 山田は村井の提案に対して、予算が少なすぎると思った。
 ゲームセンターの景品は、業界団体によって高くても原価は八百円までと自己規制をしている(守らない店も多いが警察とのグレーゾーンなやり取り)。

 そもそもクレーンゲームには『確率機』と『ペイアウトサポート』という吐き気を催すような邪悪がある。
 ……もちろん全てのクレーンにこのシステムが搭載されているとは言えないし、これは消費者側の勝手な言い分だ。

 しかし本来ゲームセンターが営業を続けるのに必要な利益を得るための、隠された設定というものが存在する。

 『確率機』とは、~円が投入されてから景品が落とされるまでアームの力を上げる等の設定が出来る筐体のこと。
 『ペイアウトサポート』は、確率機の機能 + ~回連続でコインを投入するとアームの力が上がる、更にそれが同一人物かまでを特定できる機能のこと。
 
 原価、それとサービスを提供する側の利益。その二つを考えれば五百円という予算ではプライズ一つ取ることでさえ相当な実力が無ければ無理だと、山田は何となくだけど知っていた。
 むしろ知らなければ、「詐欺じゃないか」と憤る人さえいるシステムだということも。

 クレーンゲームの筐体を買うのに数十万を支払う運営側に利益が無ければ、それを置く意味もない。負けないためには情報を持って無くてはならない。

「私達はこれを獲るぞ。お前らはどうする」

 村井は美少女フィギュアが閉じ込められているガラスをノックするように叩いた。
 クレーンゲームから可愛い女の声で、お金を入れて下さい♪ と言われる。

「俺達はそれが獲れなかった時の事を考えて、軽くて小さいキーホルダーでも獲るとしようかな」

「ククッ……その場合、私達が勝つ確率……99.8%」

 二人はにたっと笑いながら彼女達を煽る。ガイアは最後まで卑劣を貫いた。クロウに至ってはもうわけがわからない。

 村井は、言ってろ。と言葉を吐き捨てて筐体と向かい合う。山田は不思議だった。彼女の自信はいったいどこから来るのだろう。

 クレーンゲームコーナーと隣接するバトルエリア――カードゲームの大会が行われる場所――には、十一時三十分を回るというのに、大会を終えた後のカードゲーマー達がまだまだ残っていた。
 大会が終われば知り合い同士での雑談をしたり、もう一度やろうぜと言うものだ。山田達のように目的がなければすぐ立ち去るような事はない。

 そのテーブルと隣接する美少女フィギュアのプライズになぜ最後の勝敗を賭けるんだ……――っ!! 山田はハっとした。

 今朝ここで、村井に「くそがき」と言われた時、たしかに聞こえた。「あの子もしかして最近出たっていう美少女フィギュアをカツアゲする犯人じゃね?」という言葉。もしや。

「間違いないね。志帆はあの獲物フィギュア。簡単に獲れると思っているよ」

 北原はいつの間にか山田達がいるギャラリー側に並んでつぶやいた。まるで山田の思考を盗み見たかのように会話を続けるから、周りの人達には電波少女と思われただろう。

「やっぱり、そうだったんだ……」

 簡単に“盗れる”と思っているよ。
 山田は北原の言葉を反芻した後に納得した。村井は人が苦労して獲得した美少女フィギュアを奪い盗っている。と信じた。

 村井が五百円玉を投入すると、チャレンジ回数のパネルに「6」という数字が浮かぶ。

 ――それじゃあ、いっくよー!

 彼らと、彼女達の、最後の闘いが始まった……っ。



続く
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