あなたがそれを望むなら! ~私はストーカーをしてしまう人に全力の愛を贈ります~

極限環境微生物

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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)

【 覚 醒 】 

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「「やっ、山田ぁああああ!??」」

 彼女達がゲームをプレイしている後ろで、ガイアとクロウの大きな声が響く。
 その声に反応して、後ろをちらりと振り向いた瞬間に北原は、腹の底から笑ってしまったようだ。プレイに集中できていない。

「――っはぁ!? バカ! おいやめ……ふざっk、うっ……わ、この! ……うっぎゃあ!!」

 村井は必死に白いパーカーワンピースの裾を手で抑える。時にお尻を、時に前を。

 しかし無慈悲な機械音は鳴りやまない。

 彼女がゲームを降りれば終わる話だが、それは敗北を意味する。だから彼女はやめられない。

「はっ、はっ。……かわいい、ほんっとにかわいいよ二人共……はぁ、はぁ……っ!」

 構えたスマホのフラッシュが眩く光る。



 山田は、――這い寄るケダモノローアングラーと化した。



 彼は四つん這いになり、地に頬をこすりつけるほど低い姿勢をとった。
 時折村井のスニーカーが顔のすぐ近くをかすめたが、それを躱(かわ)した瞬間に、彼女の無防備になった股やおしりにスマホが触れてしまうほどに近付け接写する。
 彼女はそれを止めるべく、勢い良く足を閉じ戻す。それも躱した。

 山田は彼女を羞恥させることで、次はどう動くか《視えて》いた。
 
 ◇◇◇

 ――まさしくそれ・・は人類の可能性の一つ。
 自身の行動に対し起こりうる膨大な数の事象を予測し、その一つ一つにどう対処するかを予め意識に“先行入力”しておくことで……人は時空間のそのに“居られる”。

 物理法則カラダ数理科学ウゴキ、そして人間心理ココロ
 この三つを完全に“掌握”し“支配”した者にのみ許された人類の可能性――即ち、《未来予知》。

 山田の精神は、それ・・に似た危険な領域へと突入した。

 ◇◇◇



「やめろ山田! それ以上は“戻れなく”なるッッ!!」

 ガイアの不安と怒りが混ざる熱のこもった声が聞こえる。それを聞いた山田は嬉しかった。
 ああ、やっと“仲間”になれたんだ。そう思うと、体が軽くなる。

 ……おかしいな、眼の前の事だけで僕の体はいっぱい・・・・になるくらい大変なのに、ガイアの声やクロウが地団駄を踏む音、ギャラリーのどよめきに混じってシャッター音まで聞こえる。

 それに、彼女達が足を振り上げる速度が、踏みつけにきた靴底が、やけ・・に遅く感じる。
 そしてかわす度に信じられないくらい良い匂いがした。これは……五感が異常なまでに冴えているのか。

 山田の体はたぎり熱いのに頭の中だけが、妙に冷めていた。

 

 ああ そうか これが

 ――――【 覚 醒 】 か




「きみが、君達が悪いんだよ……! 僕を本気にさせるからーーっ!」彼女達の足元でカサカサと動き回りながら叫んだ。

 山田は、山田じぶんを捨てた。それが勝利への、栄光への最良の選択だと考えたから。

 カシャシャシャシャシャシャ……。彼の持つスマホの連写音は止まらない。
 様々な角度やえげつない近さで鳴る機械音が、フロアの観客に熱を産む。

 その熱狂に乗じて山田の動きは、加速度的に成長する……!
 ローアングルから一転して高さを織り交ぜる。時折ゲーム画面を必死に見る村井のうなじや北原の横顔を接写したりもしていた。

「どきなさい山田くん! そこは私の“場所”ですよー!!」

「待て行くな! お前まで“法”に飲み込まれるぞ!」

 今にも殴り掛かりそうな表情で叫ぶクロウを、ガイアが必死に止める。

「だれか“カメラ”を“止め”ろォーーーー!!」

 村井の魂の叫びは、フロアを更に沸かせた。

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