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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)
バケモノになった
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――五本目【リズムゲーム】
「ほほう、音ゲーですか。厄介ですねぇ」
「しかしお互い二本取っている。……いよいよ最後の勝負だな」
音楽ゲームは基本的に覚えることが上達へと繋がる。しかしリズムゲームは多少違った。スコアに現れるのはリズム感の部分が大きかったのだ。
北原も村井も、部活動で楽器を練習していたため、自信があったようだ。北原はシャツの袖をまくる。そこで初めて彼女の白い肌が見えたことで、山田の喉がゴクリと鳴った。
「次は人や機械を触ったりするのは禁止だからね。……本気で君達と競いたいんだ」
「分かってる。逆に、私達を少しでも触ったら許さないから」
村井は手首を合わせて手錠をかけられたような仕草をしたが、山田はそれを見ておっさん臭いなと感じていた。
そして容赦なく法的手段をちらつかせる彼女は嫌なヤツだ、いいから負けろと思った。
「今回は対戦じゃなくてスコアでやらない?」
最大参加人数が二人までのゲームで、彼女達は二人だったから、一緒にやらせてあげたい。山田がそこまで伝えると彼女達は了承した。
「このゲームは僕が先にやる。僕が勝負をきめてやる」
一人で遊ぶを選択し、彼女達が指定した高難易度の曲をプレイする。この局面で山田は安心していた。実は好きでやり込んでいたゲームだったからだ。
山田がプレイを終えて出た結果も、月間ランキング一位に入った。全てが完璧とまでは行かなかったが、これなら勝てる。そう思って三人で喜んでいた。
「えぇ……?」
山田が指定した高難易度の楽曲を踊るように、ノリノリで楽しんでプレイする彼女達を見て、山田は思わず声が出た。
タイミングの評価はパーフェクト、グレート、グッド、バッド、ミスの五つある。しかし曲が中盤に差し掛かるというのに、二人共一度たりともパーフェクト以外出さなかった。
見ていたギャラリーも、こりゃ勝負は決まったなと呟いている。
何だよこれ、何だよこの化け物共がぁ!
山田は考えた。勝ちたい。どうしても勝ちたい。どうすればいい、どうすれば勝てる。
何をすれば彼女達を止められる……。
彼は残り少ない時間で思い出す。
◇◇◇
ガイアは、吐き気のするような卑劣さで勝利を掴み取った。
クロウは、クレーマーもびっくりの、揚げ足取りみたいな汚いゴネ方でルールを変更して、勝ちへの道筋を示してくれた。
……そうだった。山田はさらに考える。得意なレースゲームで一つ白星をあげた程度ではダメなんだ、わかっている。一人一勝では先取制の後攻側は勝ちまで持っていけない。
相手のミスを待つだけではいけない。『貪欲』に、敵の手番で勝利しなくては、もぎ取れはしない。
それを知ってて仲間はみな、可愛い女子から貰い受ける“これからの評価”を捨ててまで勝ちにこだわった。僕はそれに気付いていなかった。そうだったんだ。
勝負の場で『貪欲』とは――心に何も“持たない”こと。
そして何も持っていない自分は貧しく、人より劣っていると自覚し、持っている知識と技術を駆使して新たに得ようとすること。
それこそが人を強くさせる。そしてそれは、何よりも“美しかった”んだ。
本当に“汚い”のは僕だった。僕だけが傷付きたくないから、誰も傷つけないように心の中で人を批判をしたり、何かしら理由をつけて公正|《フェア》を気取った。
レースゲームの時にわざと壁にぶつかって、接戦を演じた事が本気で戦う彼女達にバレないはずがない。あの時の村井の視線は、それを諌められていたんだ。
そんな、今の今までずっと一人だけ“綺麗”なままで在ろうとした、僕こそが汚れていたんだ。
思い返せば彼女達は、最初の僕たちの勝手なルール決めの時も、ガイアが麻雀で勝った時も、クロウがルールを変えた時も。一度たりとも文句は言わなかった。
だって、――本気で勝負をしていたから。
村井さんは最初に、三連クイズという勝ち筋を見出した。ルール変更後は村井さんの実力を武器に、北原さんの笑わせに来る『口撃』や、ダイレクトアタックという『機転』で汚れながらも、常に『貪欲』に勝利を目指したじゃないか。
いまここで真剣勝負を楽しめていないのは僕だ。最初から本気じゃなかった。
心のどこかで、女子とはワイワイ馴れ合うことがゲームの楽しみ方なんだと、自分に嘘をついて勘違いをしながらステージに上がった、場違いで恥ずかしい男。
それが僕だ。
――気配が変わった。
今までの恥を受け入れた彼の、暗くぼんやりとしていた目の色が変わる。
山田は誓う。『貪欲』さを受け入れ、汚さを愛することを。
山田は祈る。美しくなりたい。僕もそのステージに立ちたい。
山田は願う。彼らと彼女達と、真に闘う強敵になりたい。
……だから僕は。彼女達と戦うに相応しい僕に成った――――
◇◇◇
「ほほう、音ゲーですか。厄介ですねぇ」
「しかしお互い二本取っている。……いよいよ最後の勝負だな」
音楽ゲームは基本的に覚えることが上達へと繋がる。しかしリズムゲームは多少違った。スコアに現れるのはリズム感の部分が大きかったのだ。
北原も村井も、部活動で楽器を練習していたため、自信があったようだ。北原はシャツの袖をまくる。そこで初めて彼女の白い肌が見えたことで、山田の喉がゴクリと鳴った。
「次は人や機械を触ったりするのは禁止だからね。……本気で君達と競いたいんだ」
「分かってる。逆に、私達を少しでも触ったら許さないから」
村井は手首を合わせて手錠をかけられたような仕草をしたが、山田はそれを見ておっさん臭いなと感じていた。
そして容赦なく法的手段をちらつかせる彼女は嫌なヤツだ、いいから負けろと思った。
「今回は対戦じゃなくてスコアでやらない?」
最大参加人数が二人までのゲームで、彼女達は二人だったから、一緒にやらせてあげたい。山田がそこまで伝えると彼女達は了承した。
「このゲームは僕が先にやる。僕が勝負をきめてやる」
一人で遊ぶを選択し、彼女達が指定した高難易度の曲をプレイする。この局面で山田は安心していた。実は好きでやり込んでいたゲームだったからだ。
山田がプレイを終えて出た結果も、月間ランキング一位に入った。全てが完璧とまでは行かなかったが、これなら勝てる。そう思って三人で喜んでいた。
「えぇ……?」
山田が指定した高難易度の楽曲を踊るように、ノリノリで楽しんでプレイする彼女達を見て、山田は思わず声が出た。
タイミングの評価はパーフェクト、グレート、グッド、バッド、ミスの五つある。しかし曲が中盤に差し掛かるというのに、二人共一度たりともパーフェクト以外出さなかった。
見ていたギャラリーも、こりゃ勝負は決まったなと呟いている。
何だよこれ、何だよこの化け物共がぁ!
山田は考えた。勝ちたい。どうしても勝ちたい。どうすればいい、どうすれば勝てる。
何をすれば彼女達を止められる……。
彼は残り少ない時間で思い出す。
◇◇◇
ガイアは、吐き気のするような卑劣さで勝利を掴み取った。
クロウは、クレーマーもびっくりの、揚げ足取りみたいな汚いゴネ方でルールを変更して、勝ちへの道筋を示してくれた。
……そうだった。山田はさらに考える。得意なレースゲームで一つ白星をあげた程度ではダメなんだ、わかっている。一人一勝では先取制の後攻側は勝ちまで持っていけない。
相手のミスを待つだけではいけない。『貪欲』に、敵の手番で勝利しなくては、もぎ取れはしない。
それを知ってて仲間はみな、可愛い女子から貰い受ける“これからの評価”を捨ててまで勝ちにこだわった。僕はそれに気付いていなかった。そうだったんだ。
勝負の場で『貪欲』とは――心に何も“持たない”こと。
そして何も持っていない自分は貧しく、人より劣っていると自覚し、持っている知識と技術を駆使して新たに得ようとすること。
それこそが人を強くさせる。そしてそれは、何よりも“美しかった”んだ。
本当に“汚い”のは僕だった。僕だけが傷付きたくないから、誰も傷つけないように心の中で人を批判をしたり、何かしら理由をつけて公正|《フェア》を気取った。
レースゲームの時にわざと壁にぶつかって、接戦を演じた事が本気で戦う彼女達にバレないはずがない。あの時の村井の視線は、それを諌められていたんだ。
そんな、今の今までずっと一人だけ“綺麗”なままで在ろうとした、僕こそが汚れていたんだ。
思い返せば彼女達は、最初の僕たちの勝手なルール決めの時も、ガイアが麻雀で勝った時も、クロウがルールを変えた時も。一度たりとも文句は言わなかった。
だって、――本気で勝負をしていたから。
村井さんは最初に、三連クイズという勝ち筋を見出した。ルール変更後は村井さんの実力を武器に、北原さんの笑わせに来る『口撃』や、ダイレクトアタックという『機転』で汚れながらも、常に『貪欲』に勝利を目指したじゃないか。
いまここで真剣勝負を楽しめていないのは僕だ。最初から本気じゃなかった。
心のどこかで、女子とはワイワイ馴れ合うことがゲームの楽しみ方なんだと、自分に嘘をついて勘違いをしながらステージに上がった、場違いで恥ずかしい男。
それが僕だ。
――気配が変わった。
今までの恥を受け入れた彼の、暗くぼんやりとしていた目の色が変わる。
山田は誓う。『貪欲』さを受け入れ、汚さを愛することを。
山田は祈る。美しくなりたい。僕もそのステージに立ちたい。
山田は願う。彼らと彼女達と、真に闘う強敵になりたい。
……だから僕は。彼女達と戦うに相応しい僕に成った――――
◇◇◇
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