あなたがそれを望むなら! ~私はストーカーをしてしまう人に全力の愛を贈ります~

極限環境微生物

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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)

少なくとも村井さんは闘争を求めていた

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「よし、行こう」山田が言う。

「もう帰るのか?」クロウがつまらなさそうに他の対戦者の闘いを見ながら言った。

「違う、彼女達のとこだろう」

「ばっ…! シっ!!」

 ガイアが遠慮もなしにそう言った途端、山田は他の強敵(とも)達からの怨嗟の念が背中を刺している気がした。いや、違う。大学生くらいの店員達すらも「このエリアの平穏を壊すな」と睨んでいるのだ。
 いつもは我々以上にうるさい連中が、暗い顔をしているのも見えた。

「さーて僕ら負けちゃったし店でも回ろうか。さっ、行こう」

 山田から“提案”がされ、二人はバトルアリーナと隣接するクレーンゲームコーナーへと引っ張られていった。
 山田が話そうとする前に二人から、以前はいつ北原達と会ったんだよ。ふざけるなよキモオタ。と罵られたがその話はいまは置いて貰った。

「思い出してみてくれ。僕たちのさっきのやり取りは、きっと、なんていうか――奇跡。だったよな」

 クレーンゲームが立ち並ぶ一角で山田は、眉間にシワを寄せて目を閉じながら語りかける。

「……ああ、そうだ。間違いない。」ガイアも思い出すように続ける。「俺は女の可愛さを追い求め探るべく、ずっと二次元の中に入る方法をネットで探し続けていた。それがまさか、求めていたものは現実ここにあったなんて、夢にも思っていなかった」

 そこまで分かってるならガイア、言葉を選ばないと明日からここ・・に居場所がなくなるぞ。と山田が言った。

「そうだよな、俺たちには出来すぎた話だったんだよ。だってあのやり取りを見せられていた奴らは、どんな気持ちになったことか」

 小心者のクロウは、先程の去り際に感じた強敵とも達の気配を察したらしい。それを思い出したらしく、ひぃと声が出た。

「……そうだな、すまなかった」ガイアは酷く悲しい顔をした。

「それで、彼女達のところに行くって言っても、俺達が近付くきっかけなんて無いだろ」クロウが盛り下がったトーンで言う。「彼女達は俺たちと遊びに来たんじゃない。ゲームセンターに遊びに来たんだ」

「分かっている。しかし彼女達が初めに言っていた言葉を思い出してよ」山田は人差し指の横腹を見せるように立て、目の前に持ってきて言う。「少なくとも村井さんは闘争を求めていた」

「「……!」」

「僕たちは何だ? カードゲーマーでもあるけど、元々はゲームオタクなんだ。そして、僕たちはいつも『強者』に出会うと胸を高鳴らせた。そうだろう?」山田はにやりと笑って、掲げた人差し指を握り拳にしてガイアとクロウの胸をトンと突いた。

「村井さんの、そして彼女達の闘争心を信じよう。今度は僕たちが『強者』として立ちはだかるんだ」心からゲームを楽しんでもらうためにね。と山田は付け加えた。

「う、うおぉおおおお!」ガイアが山田の演説で盛り上がる。

「しかしだ、彼女達がその域まで達していない『初心者』だったらどうするんだ」

「クロウ、良い指摘だよ、しかし心配いらない。彼女達はゲーム初心者でも魂は、眩しいほど輝いているんだ。遠くから見ていた僕は知っている」山田の言葉に「クッサ」とクロウがつぶやく。「……具体的に言えば何ていうか、ともかく物事への姿勢と要領が良いんだよ」

「侮るなってことか。いいじゃねぇか、やってやろうぜ」

 ガイアの言葉を聞いてクロウは鼻を鳴らした。所詮は女子だろと言いたげだった。
 ……しかし山田は、本当はただ女の子と、特に北原とゲームセンターで一緒に遊びたいだけだった。
 そして彼らは女子と話すことは苦手だったが、手段がゲームで、相手を叩きのめす事が目的であればそんなことは関係なかった。

 三人は高校生特有のイキリ感を出して、クイズゲームを終えたばかりの彼女達に声をかける。


続く
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