上 下
14 / 28
第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)

……“女”だ。

しおりを挟む
 六月中旬。高校一年生の山田友祐やまだともひろは九時三十分開店の本屋&中古リサイクルショップ&カードショップ&ゲームセンター、『原初大爆発』にいる。
 日付は土曜日、時刻は九時五十分。彼はいつもより少し遅れて入店した。

 ここには三年前から通っている。そのため店内のカードショップエリアには、目付きの悪い店員数名と、小学生から大人まで幅広い年齢の強敵(とも)達が、既に十数名ほど揃っていた。

 その中には同じクラスの友人で、黒づくめの男――通称:クロウと、全身アースカラーの男――通称:ガイアも居る。彼らはくつろぐように対戦用の『バトルフィールド』――カードで対戦するためのテーブル。彼らが勝手に名付けた――に着いて、スマートフォンとトレーディングカードを広げながら話をしていた。

「――やぁやぁ、二人共早いね。……まぁ帰りも早いだろうし、少しでも長く居たほうが思い出にはなるか」

 遅れてきた山田が、嫌味な笑顔を浮かべて言った。それを聞いたクロウは「ガタッ」と音を鳴らして椅子から立ち上がる。
 ガイアはそれを見て、太ったやつにありがちなクリームパンみたいな手で制止した。

「――落ち着けよクロウ。自信のない奴ほどよく吠えるもんだ」ガイアは声まで太い。見た目のでかさも相まって安定感がある。

「――チッ! ……俺が先週山田に負けた要因ファクター実力プレイングじゃない、ラックだ」

 クロウがやせ細った人差し指を突き出しながら、それを忘れるな。と言って山田の胸をトントンと叩いた。

 毎週土曜日のこの時間は、コテコテのドラマみたいなコントをしてから、彼らは改めておはようと挨拶をする。それは中学を卒業して高校生になった今でも変わらなかった。

 その後は和やかに、しかし時に緊張感を持って今週のアニメの感想を言い合う。
「尊い」「それ百合姫? きらら?」「観葉植物になって見守りたい」等と、最近の若者言葉を使って熱く語り合う。時には高校一年生らしく、突飛な持論を展開していた。

 このカードショップでは毎週土・日にトレーディングカードゲームTCGの大会が開かれていた。参加料は一人五百円で、優勝者と準優勝には乙な景品が用意されていた。

 三人は毎週開かれるこの大会に参加し、自分のスキルを高め月間ランキングに入り、自らの力を誇示することを目的に集まっていた。カードとは言え真剣勝負が繰り広げられる男の世界が、そこにはあった。

「あーバトりたいー。北原、バトルがしたい」

「志帆のたまに言うその欲求、私あんまり分かんないんだけど」

 〈……“女”だ。〉
 〈違う。女が“二人”、だ。〉

 世界が終わり、文明が崩壊した後を思わせるセリフを誰かが言った。その途端に、その場にいた十数名の強敵とも達の笑みは消える。
 彼らは顔の向きを変えず、目だけをぎょろりとさせてその存在を確認した。

 強敵達の挙動を冷静に見ていた山田は、ここにいる人間が草食系やシャイボーイと呼ばれ、女子達からは比較的“安全”とされる生き物には到底思えなかった。

 女性のカードゲーマーやゲームセンターに通う人物は実在するが、あまり大きくない我々の住むシティではごく僅かだった。そのため、入店してきた女子は彼らの恰好の視線の的となる。
 その事を知らない彼女達は、無防備に『バトルエリア』――バトルフィールド付近のこと。正面入り口からすぐ先にあるため、誰が来たかすぐに見える。――へと向かって歩く。目標はその向こうにあるゲームコーナーか書店だろう。そのことを山田は知っていた。

 その二人を見て、クロウとガイアは驚いていた。クラスの人気者である北原望きたはらのぞみが、綺麗だけど恐ろしい事で有名な村井志帆むらいしほと一緒に、楽しげに話しながら朝から『原初大爆発』に来るなんて信じられなかったんだろう。
 
「あ、山田くんだ。ここで会うのは久しぶりだね」北原はいつもの、人当たりの良い態度で話かけてくる。

「久しぶりだね。北原さんがあんまりここに来てくれないからだよ」

 山田は立ち上がって返答をした。心臓がドキドキしていた。女の子と話慣れていない事もあるが、彼女は特別だった。

「もうここで会うのは三回目! 私達もよく来てる方だよ」

「僕達にとって土日のここは家みたいなものだからね」

 彼女はケタケタと笑った。加工感の無いざっくりとした黒のショートヘアがさらさらと揺れる。山田は言った後に、クロウとガイアが居ることをさらりと伝えた。

「ここでは初めて会うね。二人も大会に出るの?」と聞いていた。どもりながら答える二人を見て、山田は優越感を覚えた。

 この店で山田が北原と初めて会った時は、まさにTCGの真剣勝負をしている最中だった。彼は、しまったクラスの人に見られた。と思った。
 しかし彼女は嫌味な顔一つせずに、「大会もやってるくらいだから人気なんだよね。このゲームはどんなところが楽しいの?」と言った。
 山田はその時から、北原のファンになっていた。

 ……しかしそういう日に限ってクソ野郎の吉川が現れた。しかしあいつはもう来ない。

 北原とは合う度喋るのに、村井とは一言も喋ったことがなく、未だに『恐ろしい人』という噂のせいで恐怖が拭えなかった。
 曰く付きで旭川市の中学に転校してきた彼女の噂はすぐに広まった。なんでも、蹴りで肋骨を折ったり、彼女をバカにした奴が学校に来なくなったと思ったら急に転校してたとか。

 彼女が裏番長だと言うことを信じている訳ではないが、山田は喋りかける度胸も、綺麗な絵みたいな顔を見続ける勇気もなかった。

 そして北原と村井が近寄ってくれたのはいいが、彼女達にこのエリアは場違いだ。きらきらしすぎている。山田がそう思ったのは、彼の目から見ても二人はとてもオシャレだったからだ。


続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

幼馴染バンド、男女の友情は成立するのか?

おおいししおり
ミステリー
少々変わった名前と幼馴染みたちとバンドを組んでいる以外、ごく平凡な女子高生・花厳布良乃は毎晩夢を見る。――隣人、乙町律の無残な屍姿を。 しかし、それは"次に"記憶や夢として保管をされる。 「恐らく、オレは――少なく見積もっても千回程度、誰かに殺されている」 と、いつもの如く不愛想に語る。 期して、彼女らは立ち向かう。 摩訶不思議な関係を持つ男女4人の運命と真実を暴く、オムニバス形式の物語を。

✖✖✖Sケープゴート

itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。 亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。 過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。 母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

PetrichoR

鏡 みら
ミステリー
雨が降るたびに、きっとまた思い出す 君の好きなぺトリコール ▼あらすじ▼ しがない会社員の吉本弥一は彼女である花木奏美との幸せな生活を送っていたがプロポーズ当日 奏美は書き置きを置いて失踪してしまう 弥一は事態を受け入れられず探偵を雇い彼女を探すが…… 3人の視点により繰り広げられる 恋愛サスペンス群像劇

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【か】【き】【つ】【ば】【た】

ふるは ゆう
ミステリー
姉の結婚式のために帰郷したアオイは久しぶりに地元の友人たちと顔を合わせた。仲間たちのそれぞれの苦痛と現実に向き合ううちに思いがけない真実が浮かび上がってくる。恋愛ミステリー

人狼ゲーム『Selfishly -エリカの礎-』

半沢柚々
ミステリー
「誰が……誰が人狼なんだよ!?」 「用心棒の人、頼む、今晩は俺を守ってくれ」 「違う! うちは村人だよ!!」  『汝は人狼なりや?』  ――――Are You a Werewolf?  ――――ゲームスタート 「あたしはね、商品だったのよ? この顔も、髪も、体も。……でもね、心は、売らない」 「…………人狼として、処刑する」  人気上昇の人狼ゲームをモチーフにしたデスゲーム。  全会話形式で進行します。  この作品は『村人』視点で読者様も一緒に推理できるような公正になっております。同時進行で『人狼』視点の物も書いているので、完結したら『暴露モード』と言う形で公開します。プロット的にはかなり違う物語になる予定です。 ▼この作品は【自サイト】、【小説家になろう】、【ハーメルン】、【comico】にて多重投稿されております。

処理中です...