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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)
……“女”だ。
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六月中旬。高校一年生の山田友祐は九時三十分開店の本屋&中古リサイクルショップ&カードショップ&ゲームセンター、『原初大爆発』にいる。
日付は土曜日、時刻は九時五十分。彼はいつもより少し遅れて入店した。
ここには三年前から通っている。そのため店内のカードショップエリアには、目付きの悪い店員数名と、小学生から大人まで幅広い年齢の強敵(とも)達が、既に十数名ほど揃っていた。
その中には同じクラスの友人で、黒づくめの男――通称:クロウと、全身アースカラーの男――通称:ガイアも居る。彼らはくつろぐように対戦用の『バトルフィールド』――カードで対戦するためのテーブル。彼らが勝手に名付けた――に着いて、スマートフォンとトレーディングカードを広げながら話をしていた。
「――やぁやぁ、二人共早いね。……まぁ帰りも早いだろうし、少しでも長く居たほうが思い出にはなるか」
遅れてきた山田が、嫌味な笑顔を浮かべて言った。それを聞いたクロウは「ガタッ」と音を鳴らして椅子から立ち上がる。
ガイアはそれを見て、太ったやつにありがちなクリームパンみたいな手で制止した。
「――落ち着けよクロウ。自信のない奴ほどよく吠えるもんだ」ガイアは声まで太い。見た目のでかさも相まって安定感がある。
「――チッ! ……俺が先週山田に負けた要因は実力じゃない、運だ」
クロウがやせ細った人差し指を突き出しながら、それを忘れるな。と言って山田の胸をトントンと叩いた。
毎週土曜日のこの時間は、コテコテのドラマみたいなコントをしてから、彼らは改めておはようと挨拶をする。それは中学を卒業して高校生になった今でも変わらなかった。
その後は和やかに、しかし時に緊張感を持って今週のアニメの感想を言い合う。
「尊い」「それ百合姫? きらら?」「観葉植物になって見守りたい」等と、最近の若者言葉を使って熱く語り合う。時には高校一年生らしく、突飛な持論を展開していた。
このカードショップでは毎週土・日にトレーディングカードゲームの大会が開かれていた。参加料は一人五百円で、優勝者と準優勝には乙な景品が用意されていた。
三人は毎週開かれるこの大会に参加し、自分のスキルを高め月間ランキングに入り、自らの力を誇示することを目的に集まっていた。カードとは言え真剣勝負が繰り広げられる男の世界が、そこにはあった。
「あー闘りたいー。北原、バトルがしたい」
「志帆のたまに言うその欲求、私あんまり分かんないんだけど」
〈……“女”だ。〉
〈違う。女が“二人”、だ。〉
世界が終わり、文明が崩壊した後を思わせるセリフを誰かが言った。その途端に、その場にいた十数名の強敵達の笑みは消える。
彼らは顔の向きを変えず、目だけをぎょろりとさせてその存在を確認した。
強敵達の挙動を冷静に見ていた山田は、ここにいる人間が草食系やシャイボーイと呼ばれ、女子達からは比較的“安全”とされる生き物には到底思えなかった。
女性のカードゲーマーやゲームセンターに通う人物は実在するが、あまり大きくない我々の住む市ではごく僅かだった。そのため、入店してきた女子は彼らの恰好の視線の的となる。
その事を知らない彼女達は、無防備に『バトルエリア』――バトルフィールド付近のこと。正面入り口からすぐ先にあるため、誰が来たかすぐに見える。――へと向かって歩く。目標はその向こうにあるゲームコーナーか書店だろう。そのことを山田は知っていた。
その二人を見て、クロウとガイアは驚いていた。クラスの人気者である北原望が、綺麗だけど恐ろしい事で有名な村井志帆と一緒に、楽しげに話しながら朝から『原初大爆発』に来るなんて信じられなかったんだろう。
「あ、山田くんだ。ここで会うのは久しぶりだね」北原はいつもの、人当たりの良い態度で話かけてくる。
「久しぶりだね。北原さんがあんまりここに来てくれないからだよ」
山田は立ち上がって返答をした。心臓がドキドキしていた。女の子と話慣れていない事もあるが、彼女は特別だった。
「もうここで会うのは三回目! 私達もよく来てる方だよ」
「僕達にとって土日のここは家みたいなものだからね」
彼女はケタケタと笑った。加工感の無いざっくりとした黒のショートヘアがさらさらと揺れる。山田は言った後に、クロウとガイアが居ることをさらりと伝えた。
「ここでは初めて会うね。二人も大会に出るの?」と聞いていた。どもりながら答える二人を見て、山田は優越感を覚えた。
この店で山田が北原と初めて会った時は、まさにTCGの真剣勝負をしている最中だった。彼は、しまったクラスの人に見られた。と思った。
しかし彼女は嫌味な顔一つせずに、「大会もやってるくらいだから人気なんだよね。このゲームはどんなところが楽しいの?」と言った。
山田はその時から、北原のファンになっていた。
……しかしそういう日に限ってクソ野郎の吉川が現れた。しかしあいつはもう来ない。
北原とは合う度喋るのに、村井とは一言も喋ったことがなく、未だに『恐ろしい人』という噂のせいで恐怖が拭えなかった。
曰く付きで旭川市の中学に転校してきた彼女の噂はすぐに広まった。なんでも、蹴りで肋骨を折ったり、彼女をバカにした奴が学校に来なくなったと思ったら急に転校してたとか。
彼女が裏番長だと言うことを信じている訳ではないが、山田は喋りかける度胸も、綺麗な絵みたいな顔を見続ける勇気もなかった。
そして北原と村井が近寄ってくれたのはいいが、彼女達にこのエリアは場違いだ。きらきらしすぎている。山田がそう思ったのは、彼の目から見ても二人はとてもオシャレだったからだ。
続く
日付は土曜日、時刻は九時五十分。彼はいつもより少し遅れて入店した。
ここには三年前から通っている。そのため店内のカードショップエリアには、目付きの悪い店員数名と、小学生から大人まで幅広い年齢の強敵(とも)達が、既に十数名ほど揃っていた。
その中には同じクラスの友人で、黒づくめの男――通称:クロウと、全身アースカラーの男――通称:ガイアも居る。彼らはくつろぐように対戦用の『バトルフィールド』――カードで対戦するためのテーブル。彼らが勝手に名付けた――に着いて、スマートフォンとトレーディングカードを広げながら話をしていた。
「――やぁやぁ、二人共早いね。……まぁ帰りも早いだろうし、少しでも長く居たほうが思い出にはなるか」
遅れてきた山田が、嫌味な笑顔を浮かべて言った。それを聞いたクロウは「ガタッ」と音を鳴らして椅子から立ち上がる。
ガイアはそれを見て、太ったやつにありがちなクリームパンみたいな手で制止した。
「――落ち着けよクロウ。自信のない奴ほどよく吠えるもんだ」ガイアは声まで太い。見た目のでかさも相まって安定感がある。
「――チッ! ……俺が先週山田に負けた要因は実力じゃない、運だ」
クロウがやせ細った人差し指を突き出しながら、それを忘れるな。と言って山田の胸をトントンと叩いた。
毎週土曜日のこの時間は、コテコテのドラマみたいなコントをしてから、彼らは改めておはようと挨拶をする。それは中学を卒業して高校生になった今でも変わらなかった。
その後は和やかに、しかし時に緊張感を持って今週のアニメの感想を言い合う。
「尊い」「それ百合姫? きらら?」「観葉植物になって見守りたい」等と、最近の若者言葉を使って熱く語り合う。時には高校一年生らしく、突飛な持論を展開していた。
このカードショップでは毎週土・日にトレーディングカードゲームの大会が開かれていた。参加料は一人五百円で、優勝者と準優勝には乙な景品が用意されていた。
三人は毎週開かれるこの大会に参加し、自分のスキルを高め月間ランキングに入り、自らの力を誇示することを目的に集まっていた。カードとは言え真剣勝負が繰り広げられる男の世界が、そこにはあった。
「あー闘りたいー。北原、バトルがしたい」
「志帆のたまに言うその欲求、私あんまり分かんないんだけど」
〈……“女”だ。〉
〈違う。女が“二人”、だ。〉
世界が終わり、文明が崩壊した後を思わせるセリフを誰かが言った。その途端に、その場にいた十数名の強敵達の笑みは消える。
彼らは顔の向きを変えず、目だけをぎょろりとさせてその存在を確認した。
強敵達の挙動を冷静に見ていた山田は、ここにいる人間が草食系やシャイボーイと呼ばれ、女子達からは比較的“安全”とされる生き物には到底思えなかった。
女性のカードゲーマーやゲームセンターに通う人物は実在するが、あまり大きくない我々の住む市ではごく僅かだった。そのため、入店してきた女子は彼らの恰好の視線の的となる。
その事を知らない彼女達は、無防備に『バトルエリア』――バトルフィールド付近のこと。正面入り口からすぐ先にあるため、誰が来たかすぐに見える。――へと向かって歩く。目標はその向こうにあるゲームコーナーか書店だろう。そのことを山田は知っていた。
その二人を見て、クロウとガイアは驚いていた。クラスの人気者である北原望が、綺麗だけど恐ろしい事で有名な村井志帆と一緒に、楽しげに話しながら朝から『原初大爆発』に来るなんて信じられなかったんだろう。
「あ、山田くんだ。ここで会うのは久しぶりだね」北原はいつもの、人当たりの良い態度で話かけてくる。
「久しぶりだね。北原さんがあんまりここに来てくれないからだよ」
山田は立ち上がって返答をした。心臓がドキドキしていた。女の子と話慣れていない事もあるが、彼女は特別だった。
「もうここで会うのは三回目! 私達もよく来てる方だよ」
「僕達にとって土日のここは家みたいなものだからね」
彼女はケタケタと笑った。加工感の無いざっくりとした黒のショートヘアがさらさらと揺れる。山田は言った後に、クロウとガイアが居ることをさらりと伝えた。
「ここでは初めて会うね。二人も大会に出るの?」と聞いていた。どもりながら答える二人を見て、山田は優越感を覚えた。
この店で山田が北原と初めて会った時は、まさにTCGの真剣勝負をしている最中だった。彼は、しまったクラスの人に見られた。と思った。
しかし彼女は嫌味な顔一つせずに、「大会もやってるくらいだから人気なんだよね。このゲームはどんなところが楽しいの?」と言った。
山田はその時から、北原のファンになっていた。
……しかしそういう日に限ってクソ野郎の吉川が現れた。しかしあいつはもう来ない。
北原とは合う度喋るのに、村井とは一言も喋ったことがなく、未だに『恐ろしい人』という噂のせいで恐怖が拭えなかった。
曰く付きで旭川市の中学に転校してきた彼女の噂はすぐに広まった。なんでも、蹴りで肋骨を折ったり、彼女をバカにした奴が学校に来なくなったと思ったら急に転校してたとか。
彼女が裏番長だと言うことを信じている訳ではないが、山田は喋りかける度胸も、綺麗な絵みたいな顔を見続ける勇気もなかった。
そして北原と村井が近寄ってくれたのはいいが、彼女達にこのエリアは場違いだ。きらきらしすぎている。山田がそう思ったのは、彼の目から見ても二人はとてもオシャレだったからだ。
続く
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