あなたがそれを望むなら! ~私はストーカーをしてしまう人に全力の愛を贈ります~

極限環境微生物

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1話 21世紀の精神異常者 

※リョナ要素あり   すごい反応。やっぱり好きなんじゃん

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 ◇◇◇


 目が覚めて、すぐに感じた頭痛に口が歪む。
 いや、その前に一体何があった。

 ここは暗い部屋……? 違う、目隠しをされているのか。キツく締め上げられた目隠しのせいで頭がじんと痛む。
 うぐぐ……。思考が明瞭ではない。多分、絞め落とされたせいだ。

「よかった、起きたみたいだね。じゃあまずは息を整えてよ」声が聞こえたと同時に体が反応してしまった。自分は恐怖しているんだ。「昨日は酷い態度をとってごめんね」

 しかしまずは現状を把握しなければ。

「……何してんの? こんなことしてただで済むと思ってんの?」

 今の体勢は……硬い椅子に座らされて、背中側で両腕を固定されている。足も椅子の脚に合わせて股を開くように固定されていた。

 そして上半身は、制服のシャツを中途半端に脱がされている。恐らく椅子に固定されてから剥かれたのだろう。……最低の気分だ。

「まずは暴れないように拘束させて貰ったよ。もちろんただで済むとは思ってない。でもまぁ、この話し合いはお互い後悔しないためにも必要な事だから」昨日までの態度から一変してスラスラと喋りだす。「だから我慢してよ」

 目隠しの向こうで、自分は何も悪いと思っていないような、妙に軽い言い回しに苛立ちと不安を覚える。そして、近くで何かが焼ける臭いがする。

「ああ、何かあっても無理に転ばない方がいいよ。その体勢だと、どこに転んでも骨が折れてしまうかもしれないから」

 きっと本当のことだろう。座らされている椅子の背もたれの長さと、座面以外が全て金属製の硬い感触だったことから、重いピアノ椅子で拘束されていると推測できた。
 そこにがっちりと固定されているため、倒れた時の自重おもさは全て一箇所に加わる。奴の言う通り、転べばただでは済まないということだった。

 ああ。本当に意味が分からない。なんでこんな事になっちゃったんだろう。とにかく今は誰かに知らせなきゃ。助けを呼ぶために、必死に叫んでみる。
 椅子の形状から、先程の場所から移動はしていないみたいだ。つまり防音設備が行き届いた音楽室。意味がないとは分かっていても、いまはそれしか出来ない。

「やっとそれらしいアクションを起こしてくれた」明るい口調で話し掛けてくる。「そうでなきゃ君の事をもっと深く知られない。とても嬉しいよ」

 心の底から寒気がした。自分がこんな状況になるなんて思っていなかったからだ。
 人から与えられる恐怖は不愉快極まりなく、怒りと恐ろしさで呼吸の度に肩が震える。ああ、くっそう。

「分かった。もう分かったから縛っているのを外して。呼吸をするのも辛いんだ」

 初めて人から拘束をされたが、なぜか本当に息苦しかった。
 腰の辺りと辛うじて頭は自由だが、それ以外は動かない。無理に動かそうとすると椅子が倒れてしまうかもしれない。

「それはダメだよ。これからもっと楽しくなるのに」

 そう言われて気が付いた……焦げ臭い匂いが一層強くなった。
 ……嫌だ。何かが焼ける煙の臭い? 微かに楽しげな様相が見なくとも分かる。それが腹立たしく恐ろしい。

「初めてやるけどこれ、ちょっと可哀想だな。一生の跡にならなければ良いけど」

「いや、なにすんの、本当にやめて」

 あえて強い口調で言った。痛いのは本当に嫌だから、自分は不愉快だと、誰が聞いても分かるような声色で言った。そのはずだった。

「やめないよ。君もこれが好きだと思ったからやるんだし」

 顔中にいっぱいの力が入る。会話が通じなくて頭がおかしくなりそうだ。ほんと何言ってんの。本当に意味がわからなくて理解できない。逃げなきゃ、どうすれば逃げられる。

 思考を巡らせるが、後ろ手に縛られた手のひらに、二、三滴の液体が垂らされた。

「あ゛っぅっっ!! 熱い熱い取ってぇっ!」

 その液体は高い熱を持っていて、反射的に手を握ると、液体に触れた指先も酷く痛んだ。それが何かやっと分かった。燃える煙の臭いから推測すると、蝋燭を垂らされているんだ。

「すごい反応。やっぱり好きなんじゃん」

「ごめんなさい、ごめんなさい。もうやめてください」

 涙を流しそうになる。嫌なことをされているのに、謝ってお願いして、止めて貰おうとしている自分の恥ずかしさにだ。
 それでも、痛みへの恐怖で謝ることがやめられない。

 一度痛みを与えられると、“次”への不安で頭を支配されたようだった。考えることは全て次は何をされるか、ということだった。
 ……手のひらならまだ良い。もしも筋肉や皮下脂肪の少ない箇所、例えば脇腹や顔にろう・・を垂らされることを想像すると、全身に必要以上に力が入る。

 許してほしい。だれか助けて欲しい。全身でりきみすぎて、歯がガチガチと音をたてている。

「一回でこれかぁ。まぁいいけど、じゃあ次いくよ」

「あっ、やめて、やめてやめてやめて……あ゛い゛い゛っ!! …………うっぶぅっ!?」

 ――ボタタっ。シャツをはだけられ、露出していた右肩にろう・・を何滴も垂らされる。
 その液体に触れてはいけないと分かっていても、熱い痛みを取り払おうと力の限り首をねじ寄せる。頬で液体を拭おうとしているのだ。

 しかし熱を垂らされた直後に、重くはないが正確にみぞおちへの殴打が入った。

「うっ……う゛う゛ぅーー……うっ……ぶう゛ぅーー」

 腹を殴られ呼吸がままならない。さらにはキツく締め上げられた目隠しと力んでいたせいか、顔が今までにないくらい熱を持っていて頭痛が激しくなる。
 高熱で体調が悪くなったときのように気持ちが悪い。



 このまま逃げられないのか。これから先に起こる責め苦を想像すると、絶望感から全身の力が抜ける。――それによって多少息苦しさは緩和されたことに気が付いた。
 そうか、力を抜けばよかったのか。それだけで嬉しくって鼻水が垂れる。いや、涙が出ていたんだ。

「うわぁ、可愛い」気持ち悪い。「どうかな。気持ち良かった?」
 
「やめてって……言ったのに。もういやだ、ほんとうにごめんなさい許してください」

 情けない言葉。自分で自分が情けないと思うと、こんなにもみじめな気持ちになるものなのか。気がつくと首が自分の意思とは関係なく、ひとりでにイヤイヤと揺れていた。

 まるで動物園の檻という普通に生きていれば絶対に入ることのない、狭いガラス張りのケースで飼育され、ストレスのあまり行ったり来たりを繰り返す動物みたいに、絶えず首を左右に動かしていた。

 もう何も考えられない。次の苦しみから逃れるために謝罪を繰り返す“人形”になりかけていた。いつの間にか自分は少量の失禁までしていたようだ。

「あ、あは……あははは」

 しかし突然に気が触れたように、北原は声をあげて笑った。

「だいぶ素直になったね」目を覆うようにきつく縛られていた布がほどかれる。微かに甘い香りが鼻孔をかすめた。「――――吉川くん」

 俺の目の前には、笑顔の北原望が立っていた。


 ◇◇◇




 続く
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