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1話 21世紀の精神異常者 

エンカウントする

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 寝坊してしまった日曜日の天気は曇のち雨、あまり天気は良くないようだ。家族で朝食を食べていると、テレビが教えてくれた。

 昨日から父に『原子団』にいきたいと伝えていたのに、今朝になって急に仕事が入ったらしい。むぅ……仕事ならば仕方ない。頑張ってね!
 母親はというと、今日は友人とランチと映画鑑賞だそうだ。私と姉が「聞いてないよ」と言うと、「お父さんに言ったから安心しちゃってた」とのんきに言った。

「……分かった。行こう。『原子団』に」

 姉が言った。お昼ご飯が無いのなら外食するしかない。彼女は、私達の未熟な腕で、一日に三回しかない貴重で楽しい食事の時間を潰すにはおしいと感じたのだ。
 ちなみにお風呂は一日一回しかない! なんか急に温泉旅行に行きたくなったよ。

 姉から準備するから待ってろ。と言われたが、私も休日に大型ショッピングモール『原子団』に行くなら化粧くらいはする。そして曇りの日こそ日焼けに注意だ。
 綺麗でありたい、可愛くありたいという願望は、女性なら誰しも少なからず持っているだろう。

 もう一度言うが、見られたいのではなく、りたいのだ。好きな人が出来れば別だろうが、少なくとも今は自分の美意識に従い精神衛生上やっているのは間違いない。

 今日のメイクにテーマをつけるとすれば、《学校でバレないギリギリラインを狙うすっぴん風 透明少女 ~リップを乗せて~》……つまりいつもの・・・・だ。
 肌は綺麗になりふわふわとした質感で唇はぷるっと、そして体からは良い匂いがした。……けど満足はしていない。もっと上手になりたい。でも学校にしていったらバレるしチクられるし怒られるんだよなぁ。

「はい着いた」

「運転お疲れ様」

 昼ご飯食うまでどうするよーと姉が言う。彼女は地元である東京の大学を受けたが落第、そして浪人を選んだ。
 つまり今は一応は浪人生ではあるが、バイトを始めたかと思えば家に居たりいなかったりしている人だった。

「一緒に店内見て回ろうよ。雑貨屋と本屋と楽器屋いきたい」

「おーいいねぇ」

 年は三つしか離れていないが、彼女は面倒見が良かった。しかし私は知っている。

「やっぱ駐車場もそうだったけど混んでんなぁ。あ、あのガキあぶねー」

 大勢の人の中を走り回る六歳くらいの子供がいた。父親がお腹に赤ちゃんを、背中によちよち歩きをしそうな子を背負っている。

 人とぶつかりそうになる子供にイライラしたのだろうか、父親は怒声を放って子供を乱暴に自分のそばに引き寄せる。それに驚いた子は泣いてしまい、その場から動けない。しかし父親は、また力任せに引っ張った。

 姉の目に冷えた感情が芽生えるのが分かる。
 彼女は心のどこかで人を嫌っていた。きっと彼女は思っているだろう、『面倒見きれない癖に産むな』と。

「さぁさぁ、私達は目的の場所にいこーか」

 それでも昔と比べて最近は安定したようだった。以前は、そういうのを見ると一日中不機嫌になったりもしていたから。

 prrr prrr♪

「はいよー? あかりお疲れー。いや、今は外。あー流石に情報早いね。その件は早くても夜以降だなー」

 姉が電話に出ている間、私は吉川先生とご家族に会った。礼儀が大事と学校でも教えられているため、少ないが言葉を交わす。夏服を買いに来たらしい、しかし手にはゲームセンターの景品を袋を提げていた。
 彼の水泳部顧問としての活動は週三回らしいが、市民プールに遅い時間まで大変だと言うことは知っていた。

「あんまり喋らない人なのな」と姉は言った。

「向こうは私のことをよく知らないから」

「私も近くにいたのに、中々にねちっこい視線を送ってたぞ。望、ああいうのは気をつけろ」

「えぇーそうかなぁ? いつもは優しい顔で笑ってるんだけどな」

「ほーん。まぁ人間、裏で何を考えているか分からないからな」

 私はそれに対して、否定は出来なかった。
 姉は人が嫌いだからこそ、よく“見えて”いる。時々恐ろしいくらいに鋭いから、志帆はすごく尊敬してるみたいだった。

「お姉ちゃん、次はゲームセンターに行こうよ!」

「おうよ! わたしクイズやりたいクイズ」

 ゲームセンターには見知った顔がいた。クラスメイトの山田(やまだ)くんだ。彼とはいつも別のゲームセンターでも会っていた。私が挨拶をする。

 それに対して彼は少し驚いたように返事をした。今日はよく人と会うなぁと言った。

「さっきは吉川と出くわしてさ、僕、あいつ苦手だからなぁ」

「私も会ったよ。それちょっと分かるかも。休みの日に学校でしか会わない人と会うと対応むずかしいかも」

「ってことはお前らは学校以外でも会ってるんだな」

 姉が、どーも、望の姉の歩です。にやにやしながら言った。彼は山田です。と丁寧に返す。
 さっきの姉の発言に対して私が「週末は大体会ってるよね」というと、山田くんが大きな声でリアクションをしてから説明に入った。
 彼はクラスの中でもツッコミの才能があると少なからず思っていた。そういうひな壇芸人スタイルは嫌いじゃない。

「僕は『はぐれメ○ル』みたいなものなんです」

 彼が話したのは、自分がゲームセンターによく居るからという話だった。山田はカードゲームが大好きで、参加できる大会を見つけてはよく参加している。そのため週末に市内のゲームセンターに行けば大体は出会える。

「という訳で僕は『はぐれメ○ル』なんです。普段は絶対出会えないけど、特定の場所であれば間違いなくエンカウントするというか……なので今日北原さんと会ったのも偶然なんです」彼は早口に説明した。

「ん? 私?」姉が分かっているのに意地悪な顔で聞き直す。

「の……のぞみさんです」

 山田は年上にいじられることに慣れていないのだろうか。下を向いて顔を真赤にしている。姉はそれを見て、あれあれぇー? ぼくぅー初めてお名前呼んじゃった? と山田の顔を覗き込んでさらにいじる。彼の目線はもう私達の目を見れていない。

「お姉ちゃん。それもうセクハラだよ」

 えぇー? なんでぇー? とか目の形をエロくさせて言うから、さっさとクイズゲームの方へ引っ張っていった。

「はぁー面白い。望の選ぶ友達は面白いし良いやつばっかりだ」

 姉は人を褒めているのになぜか少しだけ嬉しい気持ちになってしまった。
 ……ここでの彼女の言う“良いやつ”とはきっと、自分の欲望を満たしてくれる人のことだ。志帆は姉のこの嗜虐性を見るとドン引きするだろう。早く見せてやりたい。

「お姉ちゃん私の友達をいじるのやめてよ」

「むり。知ってるぞ。お前も志帆にセクハラしてるらしいじゃん」

「んなっ……!?」

「……。いや、まさかとは思ってたけどお前その反応……」まぁ気持ちは分かるよ? と言った。

「ち、ちがーう! どっからそんな話出てきたのって思っただけだから!」

 私はお昼に入った定食屋で、唐揚げ一個くれよと言われたがあげなかった。
 最低だ、勝手に取られた。代わりに私の皿には生姜焼きが置かれる。仕方ないから許してあげた。
 私は取られた量より多く帰ってきたお肉を見て“良い姉”だと思わされた事に気が付く。くっ……。

 帰り道にゲームセンターをちらりと覗くと、もう山田はいなかった。



 続く

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