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62話 (日)俺と優太の友達

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 遥くんとシャワーを浴びた後、都さんとお兄ちゃんと明日のことを打ち合わせた。

 急に友達を二人連れてきたいと言われたお兄ちゃんは驚いていたけど、快くオッケーしてくれた。

「遥くん、お兄ちゃんまた明日お昼ごろに来るからご飯一緒に食べようだってー」

 同じことを都さんにもLINEで送る。

「うん、分かった。
 突然の話ですみません、ってお兄さんに謝っておいて」

「はーい」

 都さんからもほぼおんなじLINEが届いたので、あわせてお兄ちゃんに話しておく。

 実はアキラにも誘いをかけていたんだけど、都さんが来ると言ったら『今回はやめとく』と言われてしまった。

 お兄ちゃんと遥くんと都さんとでご飯が食べられるのが嬉しくって、思わずアキラも誘っちゃったけど、考えてみれば遥くんのことは内緒なので断られて結果的に良かったかもしれない。

 その代わりアキラとは明後日、月曜日に遊ぶって約束をした。

 『楽しみにしてろ』って言ってたけど、なんのことだろう?

「ほらほら、ゆーたくんそろそろ寝るよ」

 おっと、都さんたちとLINEをしていたらいつの間にやら寝る時間だ。

 二人にお休みを言って、遥くんのベッドの中に潜り込む。

「それじゃ、遥くん、お休み」

「うん、お休み、ゆーたくん」

 最後に遥くんにお休みの挨拶をして、目を閉じた。

 明日はお兄ちゃんと会える。

 実に楽しみですっ!



 ――――――――



 駐車場に車を停めて、スマホを見る。

 まだ待ち合わせの時間まで30分以上あるな……。

 一週間ぶりに優太に会うのが楽しみだというのと合わせて、一度来て道が分かっていたので予想以上に早く着きすぎてしまった。

 連絡して良いものか微妙な時間だが、どうしよう……。

 まあ、会いたくて早く着きすぎてしまったと思われるのも――思われるもなにも事実だが――少し恥ずかしいので、もう少し車の中で時間を潰してからにするか。

 そう思ってふと外を見たら、ワンピース姿の可愛い女子生徒と目があってしまった。

 その子はなぜかキョロキョロとすごい慌てた様子を見せた後、しきりにペコペコとお辞儀をしてくるので会釈を返した。

 よく分からないが、俺と目があったせいで慌てさせてしまったようなので、会釈を返したあとはスマホを見ているふりをすることにした。

 思わぬ状況だが、この際だから優太に連絡を取ってしまうか。

 そう思ったところで、逆に優太からLINEが入った。

『お兄ちゃん、もしかしてもう着いた?』

『ああ、着いたぞ。
 勘がいいな。それとも寮から見えるのか?』

 一応、駐車場からも寮の窓が見えるのでどこかから優太も見ていたのかもしれない。

『すぐに行くね』

 答え合わせは出来なかったが、来るというので車から出て待つことにしようか。

 そう思って車から出ると、まださっきと同じ場所にいた女子がまた俺を見てワタワタと慌てだした。

 …………誰かと勘違いされてしまっているんだろうか?

 ちょっと気まずいので優太、早く来て欲しい……。


 
 俺の願いが届いた……ということもないだろうが、程なくして優太と本庄くんが寮から出てきた。

 見知った顔を目にしてホッとするが、あと一人はどこにいるんだろう?

 今日は本庄くんの他にもう一人友だちが来るという話だったが。

「お兄ちゃんっ!
 ひさしぶりっ!」

 また駆け寄って抱きついてきた優太を抱きしめ返す。

「ああ、久しぶり。
 元気そうで何よりだ」

 一週間ぶりにあった優太は、この前よりもさらに元気な様子で心の底から安心した。

 今日も連れてくる友人が増えていることだし、本当に高校生活は上手くやれているのかもしれない。

「ところで、もうひとりの友達はどうしたんだ?
 あ、いや、俺が早く来すぎたんだから急かさなくて良いんだが」

 今日初対面の友達は、おそらく俺が早く来すぎてしまったせいでまだ準備が出来ていなかったのだろう。

 悪いことをしてしまった。

 そう思いながら聞いてみたが、優太はキョトンとした顔をしている。

「え?もうみんないるよ?」

 ん?

 優太はそう言うが、ここにいるのは俺たち三人とさっきの女子だけだが……。

 ………………え?まさか?

 少し離れたところで、本庄くんと件の女子が「本当にクリーニングしたんだ?」「だって、せっかくだから一番可愛いので来たかったし……」というような話をしているのが聞こえる。

 明らかに知り合い……しかも、ここにいるのを不思議がっていない様子だ。

 こ、これは…………。

 一瞬、『男装の女子生徒の正体』という漫画の定番が思い浮かぶが、それは前回本庄くんでやった。

 そう、本庄くんだ。

 本庄くん話しながらこちらに向かってくる女子を見て納得した。

「優太、この寮には男の娘が多いんだな」

「なに言ってるの?お兄ちゃん」

 心配するな、優太。

 兄ちゃん、そっちも多少は嗜んでる。



「改めまして、はじめまして。
 佐倉都といいます」

 前に優太と本庄くんの三人で来たのと同じファミレスに落ち着いたところで、佐倉さんと改めて挨拶を交わした。

 駐車場で軽くは優太から紹介してもらっていたが、本当に優太に女子の友達が出来るとは……。

 優太が女子を連れてくるなんて全く思っていなかったから、しばらく『本当に男子じゃないのか』と失礼な確認をし続けてしまった。

「優太の兄の秀太です。
 佐倉さんと言うと、もしかして先週優太にスマホを渡したときに連絡をくれた?」

 たしかあの時、優太の口から「サクラさん」の名前が出ていたはずだ。

「は、はい…………私です……」

 やっぱり、そうだったのか。

 ということは先週の時点で優太には女子の友達がいたのか……。

 驚いてまじまじと見てしまったせいか、佐倉さんが真っ赤になって恥ずかしがっている。

 これは悪いことをしてしまった。

 正直、元引きこもりで、しかも引きこもる前から友達作りが苦手だった優太に、もう二人も友だちが出来るとは……。

 しかも、片方はファミレスに入るだけで注目を集めるレベルの女の子だ。

 いや、まあ、この注目の半分は今日もボーイッシュな美少女にしか見えない本庄くんが集めているのだが……まあそれは置いておこう。

「いやあ、今日は来てくれてありがとう。
 優太はこんな感じの子だから、色々迷惑かけるかもしれないけど……どうか、仲良くしてやってください」

 そう言って、テーブルに手をついて本庄くんと佐倉さんに頭を下げる。

 ちょっと大げさかもしれないが、優太と仲良くしてくれている二人に少しでも感謝の気持を伝えたかった。

「お、お兄さん、頭を上げてください」

「お兄ちゃん、恥ずかしいよ……」

 慌てた様子の本庄くんと優太にたしなめられて頭を上げると、佐倉さんがなにかをいいたげな表情をしていた。

 かなり真剣な表情で言うか言わまいか悩んでいるみたいだけど……。
 
 これは……アレか……?

 優太にお金を渡されて友達のふりをしていたけど、俺を騙すことに耐えられなくなったとかそう言うアレか?

 大丈夫、こっちは優太に関する悪いことは想定しきっているんだ、それくらいは昨日、本庄くん以外の友達が来るという話しを聞いたときからすでに覚悟している。

 ただ出来ることなら、ネタばらしは優太のいないところで……。

 優太には『俺にはバレなかった』という体でいさせてやってくれないだろうか……。

 そう願いながら佐倉さんを見つめるが、どうやら俺の思いは伝わらなかったようだ。

 佐倉さんが、思い切った様子で言葉を発する。

「お、お兄さんっ!
 私……優太くんとお付き合いさせていただいておりますっ!」

 え?なに?

 佐倉さん、急に日本語通じなくなったけど、どうしたの?
 
 佐倉さんの言葉の意味が理解できない。

「な、なに言ってるの都さんっ!?」

 優太は驚いているし、本庄くんは少し困った顔で笑っているし、思わず母国語が出てしまった感じだろうか?

 と言うか、優太、『都さん』って、佐倉さんのことか?

 佐倉さんは佐倉さんで、優太のことを名前で呼んでいたし。

 え?優太と佐倉さん、名前で呼び合う仲なのか?

 …………ということは、さっき佐倉さんは日本語で『優太とつきあっている』と言ったのか?

 い、いや、仲の良い友達なら男女でも普通に名前で呼び合うこともあるだろう。

 衝撃の発言をした佐倉さんは、本庄くんと「ほら本庄くんも」「ボクはまだいいから」と不思議なやり取りをしているが、ここは突っ込んで聞くしかあるまい。

「え、えっと、つきあっていると言うと、あれか男と女……失礼、彼氏と彼女的なやつのことかな?」

 ちょっと、俺の年齢基準で先走って生々しいことを考えてしまったが、付き合っていると言ってもまだ可愛らしいものだろう。

 いや、それですら俺の勘違いかもしれない。

「は、はい、優太くんと恋人の一人としてお付き合いさせていただいています」

 佐倉さんも流石に少し恥ずかしいみたいで、言葉が少しおかしい。

 わざわざ『恋人の一人』なんて強調しなくても大丈夫だぞ?

 優太の様子をうかがってみるけど、恥ずかしそうにアワアワとしているだけで否定も何もない。

 そうか……優太に彼女が出来たのか……

 しかも、こんなに可愛らしい女の子の彼女が……。

 いや、『彼女』と言っても優太のことだ、いわゆるガールフレンドということなのだろうが……立派になったなぁ。

 小学校の頃、よく近所の女の子たちに追いかけ回されて泣いていたのが遠い昔の話……か、実際。

 俺の隣で身を乗り出して佐倉さんを止めようとしている優太の慌てた顔が、なぜか大人びて見える気がしてちょっと涙が出てきた。
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