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61話 記憶喪失

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「え、そんな事になってるとか全然知らなかった……」

 お互い昔のことは嫌な思い出が多すぎるから触れないようにしてたから、ゆーたくんにここ4年間の記憶がないとか全然知らなかった……。

「本庄くんは、優太くんの様子が変だなとか思わなかったの?」

「なんていうか……頭が子供っぽい人なのかなと思ってたから……」

 もう僕にとっては、それ含めてゆーたくんが好きで仕方なかったから、ゆーたくんはそう言うものとしか考えてなかった……。

「私もお医者さんじゃないしどこまで本当かは分からないけど、様子を見ている限り多分本当のことだと思うわよ」

 そこまで言って、佐倉さんはじっと僕を見つめてくる。

「それを知った上で、まだ本庄くんは優太くんのことが好き?」

「露ほども変わりなく」

 ゆーたくんが記憶喪失だろうが、実はクローンで生後3歳だろうが好きなことはなにも変わらない。

 ボクの返事を聞いた佐倉さんは、「はあああぁぁぁぁ」と大きくため息をついた。

「なんでも私の言うこと聞くって言ったわよね?」

「うん、言葉通り、本当になんでも聞く覚悟はあるよ」

「それじゃ、優太くんと会わないで」

「…………それじゃ別れるのと変わんないから、流石に聞けないよ」

 何でも聞くって言っても、『ゆーたくんと別れたくない』と言う前提を崩されることを言われても困る。

「それじゃ、学校にいるときは話もしないで」

「分かった」

 それは今も変わらないから大丈夫。

「LINEをするのもダメ」

「……分かった」

「学校の外でも基本的に私優先で、私からの連絡があったら本庄くんとなにをしてても優太くんを開放して」

「うん、分かった」

「休日も私優先ね」

「うん、我慢する」

「…………エッチなことも禁止」

「……そ、それは……こちらからは求めないって誓う。
 それじゃダメ?」

「ダメ」

「…………それだとゆーたくんに嫌われちゃうかもしれないから聞けない」

 それでもゆーたくんは嫌いにならないでくれる気もするけど……流石にそこまで自信が持てない。

「……それじゃ、優太くんとしたことは逐一報告して」

「それなら分かった」

「…………キスはダメ」

「…………分かった」

「手をつなぐのもダメ。
 というか、エッチの時以外優太くんに触れるのはダメ」

「……気をつける」

 その後も細々と禁止行為をあげていた佐倉さんが、ネタ切れと言った感じで黙り込んでしまう。

 流石に全部を覚えきれてはいないから、後でまとめて送ってもらおう。

 ほとんどゆーたくんと何も出来なくなっちゃったけど、それでも一応付き合うことは認めてもらえた。

 そう思ってホッとしていたら、ずっと黙り込んでいた佐倉さんがなぜか軽く涙目で口を開いた。

「なんで、何でも素直にうなずくのよ」



 ――――――――



 自分でも従わせておいて理不尽なことを言っていると思う。

 でも、言わずにはいられなかった。

「なんで私から優太くんを取ろうとしないのよ?
 好きなんでしょ?別れたくないんでしょ?」

 なんで本庄くんは優太くんを独り占めしようとしないんだろう。

 それが不思議でならない。

「だって、ゆーたくんは佐倉さんのことも僕のことも好きだから」

 本庄くんは苦笑いを浮かべてそんなことを言うけど。

「そんな事は分かってるわよ。
 それでも独り占めしたくなるのが好きってものでしょっ!?」

 好きな人を、優太くんを他の人とシェアしようなんて私には考えられない。

 本当に本庄くんは優太くんのことが好きなのか疑問に思えて、色々無理難題を出してみたけど全部受け入れられてしまった。

 性的なことや、金銭的な要求までしたのに全部受け入れられてしまった。

「好きならなんで優太くんのこと諦められるのよ?
 私を蹴落として独り占めしようとしないのよっ!?」

 これじゃ、私だけ汚い女みたいだ。

 でも、好きな人のためだからって自分の気持ちを捨ててしまえる人に負けているなんて思いたくない。

 優太くんがこんな人と私を同じくらい好きだなんて思いたくない。

「…………諦めてるつもりはないんだけどね」

 声を荒らげてしまった私に、本庄くんが悲しそうな微笑みを向けてくる。

「ボクじゃ、佐倉さんには絶対に勝てないから」

「なんでよっ!?」

 諦めるつもりはないって言ってるのに、今の言葉は完全に諦めてる人のそれじゃない。

「ほら、ボク、自分で言うのもなんだけど可愛いでしょ?」

「は?と、突然なにを」

 本庄くんは確かに言う通り、女の私でも羨ましくなっちゃうくらい可愛いけど……。

 それが今までの話になんの関係が?

「だけど、ボク……あと何年可愛いままでいられるのかな?」

「は?」

 何年ってそんなの……そのうち大人になれば、可愛いじゃなくて美人に……と考えて思考が止まった。

 本庄くんは、『彼』は大人になったらどうなるんだろう?

「ボクが可愛くなくなっても、ゆーたくんは好きでいてくれるかなぁ?」

 悲しそうに笑いながら頬に一筋だけ涙を流す本庄くんの疑問に答える言葉が見つからない。

 こればっかりは優太くんじゃない私には……そして、遥くんには答えが出せない話だ。

「まあ、そんな感じでね、真剣に佐倉さんたちと戦おうとしても、分が悪いのは……僕が選ばれる目が殆どないのは分かってるんだ」

 そう言うと、本庄くんはもう一度私に向かって深々と頭を下げた。

「だからお願いです。
 ボクがゆーたくんに嫌われるまで……気持ち悪いと思われるまででいいので、つき合っていることを認めてください」

「…………根本的な話だけど、優太くん、男同士で付き合うのがその……一般的じゃないのは分かってるの?」

「どうだろ?
 ボクとのことも友情の延長線上って思ってるフシがあるし、さっきの記憶喪失の話からしても、そもそもそう言うこと自体知らないものかもね」

 そう言って、自嘲気味な笑顔を浮かべる。

「知られたらその時点で嫌われるかもしれないから、怖くて言えないんだ」

 とりあえず、この間なにも考えずに優太くんに教えたりしなくてよかったと思った。

「……同じ部屋で一日中いちゃつけて良い身分と思ってたら、ずいぶん綱渡りしてたのね」

 私の言葉に本庄くんはただ苦笑いで返してきた。

「…………とりあえず、さっきの条件は全部取り消すわ」

「え?」

「無条件で付き合うことを認めてあげるって言ってるの」

「いいの?」

 本庄くんは呆然とした顔をしているけど、仕方ない。

 私とは表現の仕方が違うだけで、本庄くんも優太くんのことが好きで仕方ないんだって分かったら少し落ち着いた。

 同じ相手を好きになった人だ、仲良くは出来なくても意地悪をする必要はないと思う。

「でも……今のうちに諦めたほうが本庄くんのためかもよ?」

 酷な言い方になるけど、酷いフラレ方をするくらいならそちらの方がとは悪意なく思う。

 本庄くんの場合は、特に『酷いフラレ方』になりかねないんだし。

「ボクもそう思うんだけどね。
 こればっかりはどうにも」

 そう言って苦笑を浮かべる本庄くんの気持ちが少しは分かる気がする。

 私も優太くんなんかじゃなくって私だけを好きになってくれる人を見つけたほうが、嫌な思いはしなくてすむと思う。

 でも。

「まあ、そうねぇ……。
 本当に優太くんを好きになってから『惚れた弱み』って言葉をつくづく実感するわ」

 こればっかりは仕方ない。

 あんなのを好きになっちゃったのが悪い。

「……ま、私としても本庄くんたちが軟着陸できるようになにか考えてみるわよ」

「え、いや、そんな……」

 私の言葉を聞いて慌てる本庄くんだけど、私としても、色々知って本庄くんに向かって『気持ち悪い』という優太くんなんて見たくない。

 と言うか、そんな優太くん想像できない。

 そもそも……本庄くん、本当に何年かしたら男らしくなったりするのかな?

 本庄くんの顔をマジマジと見てしまっている私を小首をかしげて見ている可愛い姿を見ていると、全く想像が出来ない。



 ――――――――



 遥くんから『今から帰るね』っていうLINEが入って、結構経った。

 まだお昼前の時間だけど、こんなに早く解散になったってことは都さんとの話し合いは上手くいかなかったんだろうか……。

 結果を知りたいけど、遥くんはなにも言ってくれないし僕からも怖くて聞けないので、焦れながら遥くんの帰りを待つしか無い。

 あまりに待ちきれなくって、ドアのところで正座して待っていると鍵が回されて、ドアが開く。

「おかえりなさいっ!」

 とりあえず、気持ちを抑えることなく、帰ってきた遥くんに抱きついた。



「そっか、話し合い上手く言ったんだ……良かったぁ……」

 帰ってきた遥くんをシャワーで労いながら、今日の話を聞いた。

「うん、ボクも一緒につきあっていいって佐倉さん言ってくれたよ」

「僕クズ男だから、どれだけ考えても誰が一番か決められなかったから、本当に良かったよぉ……」

 自分で言っといてなんだけど、本当にクズの発言だなぁ……。

 みんなよく許してくれてると思う。

 嫌われないように頑張ろう。

 僕の言葉を苦笑いを浮かべて聞いていた遥くんが、急に真顔になった。

「ねぇ、ゆーたくん……」

「ん?どうしたの?」

 真面目な話し?

「あのさ…………あの……ボクが大人になったら……どうなると思う?」

「え?遥くんが大人になったら?」

 そんなの考えるまでもなく決まってる。

「かっこよくなると思うっ!」

 今でもこんなにかわいい遥くんなんだ、大人になったらすごいかっこよくなると思う。

 そう思って言ったんだけど……僕の答えを聞いた遥くんは、ポカーンとした顔になっちゃってる。

 こ、これは、違ったやつだ……。

「あ、ご、ごめん、なんの仕事してるかとかって話し?
 ごめん、僕仕事とかよく分かんないから……会社員……とか?
 ……それ仕事じゃないか……あ、でも、きっとスーツは似合うと思うよっ!」

 ……いや、そう言う話でもないか。

 なんて言って良いのか困っていたら、なぜか遥くんに抱きつかれてキスされた。

 そしてそのまま……。

 や、やけに激しかったです。
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