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60話 (土)全面対決

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 お兄ちゃんに会うのを明日に控えた土曜日。

 本当なら遥くんとお出かけの予定だったんだけど、遥くんと都さんが話し合いをするということで中止になった。

 初めはなんで二人が話をするのかいまいちピンときていなかったけど、アキラと野田くんへの嫉妬を自覚してからは分かった気がする。

 二人共、僕が他の人とエッチなことをするのが嫌なんだと思う。

 アキラは野田くんのことは好きでもなんでもないと言っていたけど、それでも僕は体調が悪くなるくらいアキラが僕以外の人とエッチなことをするのが嫌だった。

 それなのに、僕は都さんに『遥くんが好きでエッチなことをしている』と言ってしまっている。

 当時はなにも考えていなかったし、そうでなくても事実は事実なので隠すわけにはいかなかったんだけど、言われた都さんとしてはたまったもんじゃなかっただろうと今では分かる。

 遥くんにしたって、『それでも良い』と言ってくれているけど、これだって色々我慢してくれているだけに違いない。

「遥くん、ごめんね。
 僕がクズなばかりにこんな事になっちゃって……」

 僕は都さんと遥くんの気持ちがわかった今でも、二人のどっちとこれからエッチなことをするか決められないでいる。

 いくら僕でも知ってる。

 こう言う僕みたいなのを浮気男とかクズ男とか言うんだ。

 いまだに二人のどっちのほうが好きなのか決められない上に、さらにアキラまで好きになってしまっている……。

 正真正銘のクズだ、僕は……。

「いやいや、とりあえず今日はそこらへんをきちんと佐倉さんと話つけてくるからさ。
 ゆーたくんはあんまり変なこと考えずにのんびりしててよ」

 遥くんは昨日からそう言ってくれているけど、これは僕が起こした問題だ。

 僕がきちんと結論を出さないといけない。

「ううん、そんなわけにはいかないよ。
 昨日一日じゃ間に合わなかったけど、できるだけ早くどっちの方が好きなのか結論出すから……」

 昨日、この事に気づいてからずっと悩み続けていたけど、都さんと遥くん……そしてアキラの誰が一番好きなのかいまだに結論が出ない。

 もう僕は根っこの先までクズなんだと思う。

 でも、なんとか少しでも早く結論出すから。

「だから、それやめて。
 変なこと考えないで」

「え……でも……」

 昨日からこの話をすると遥くんに止められるんだけど、先送りにしちゃいけない問題だと思うんだ。

「そこら辺自覚してくれないのも面倒だけど、自覚されても面倒だなぁ……」

「え?なんの事?」

「ううん、ゆーたくんのことが好きだよって言ったの」

 そう言ってチュッと軽くキスをしてくれる。

 思わず頬が緩んで考えていたことが頭から飛んじゃうけど、それじゃいけない。

 遥くんは僕を甘やかし過ぎだと思う。

「とにかく、そこらへんも含めて話をしてくるから変なことは考えないで。
 そうだ、それよりゴールデンウィーク僕と佐倉さんと、あと白井さんもかな?
 まあ僕たちとなにして遊ぶか、それをしっかり考えといて」

 今日からゴールデンウィークが始まっていて、月曜日は今日の振替休日だし、火曜日はそのうちあるらしい学校行事の振替休日ということで、今日から9日間も連休だ。

 確かにその間みんなとなにして遊ぶのか考えるのは楽しいけど……。

「でも、まずは誰が一番か……」

「それだけは絶対に考えないで。
 間違っても変に結論出そうとしないで。
 絶対の絶対だよ?」

「え……は、遥くんがそこまで言うなら……」

 僕なんかより遥くんのほうがずっと頭いいんだから、その遥くんがここまで言うってことは考えないほうがいいことなんだろう。

 僕には出来るだけ早いうちに結論を出さなきゃいけない大事なことだと思うんだけど、遥くんがこう言うなら従おう。

「それじゃ、僕は連休の予定考えとくね」

 本当はアキラにも遊ばないか誘われてたんだけど、遥くんと都さんが真面目な話をしているときに僕だけ遊んでいる気分にもなれなくて、明日お兄ちゃんが来るのの準備を理由に断ってしまった。

「うん、そうして。
 本当に、くれぐれも変なことは考えないように」

「う、うん……」

 変なことじゃないと思うんだけどなぁ。



 ――――――――



 しっかりとゆーたくんに釘を差してから。寮をあとにする。

 二股……ううん、今は三股か。

 三股をかけている女?泣かせとしてデーンと大きく構えててくれたら良いのに、ゆーたくんは変に真面目だから困る。

 まあそこも可愛いんだけど。

 もうこうなるとほれた弱みだ。

 ゆーたくんなら何でも好きなんだから我ながら困ったものだ。

 ゆーたくんのことを考えてたら、昨日の可愛いゆーたくんの事も思い出して元気が出てきた。

 今日はこれからいくつもある正念場のまず一つ目だ。

 この先のゆーたくんとの明るい未来のために頑張ろう。



 学園の近くで会うというのはお互いにあまり気乗りがしなかったので、この間ゆーたくんと佐倉さんがデートしたという大きな駅での待ち合わせになった。

 待ち合わせの改札前のモニュメントに向かうけど……決めた時間の一時間前だというのに佐倉さんはもう待っていた。

 しかも、可愛らしいワンピースを中心に『可愛い』で完全武装した、女の子の戦闘形態だ。

 もしかすると、あのワンピースもゆーたくんから話に聞いた、この前のデートでゆーたくんに選んでもらったものかもしれない。

 彼女はここで僕を叩き潰しに来ている。

 それ自体は覚悟してきているけど、ボクもただ叩き潰されている訳にはいかない。

 一度大きく深呼吸をしてから、覚悟を決めて佐倉さんに声をかけた。



 佐倉さんと合流したあと、まだお昼には早いけどさっそく近場のファミレスに入る。

 仲良くお昼まで時間を潰すなんて言う雰囲気じゃないので当然だ。

 自分で言うのもなんだけど、類まれなレベルの美少女が二人連れ立って入ってきたことでファミレス中の男からの注目を集めるけど、そんなことにかまっている余裕もない。

「佐倉さん、なにか注文する?」

「それじゃ、私はこのいちごのパフェで」

 一見可愛らしい注文だけど、実態はそうじゃない。

 これからの戦いのために、頭に糖分を入れるつもりだ。

「それじゃ、ボクはミックスグリルにするかな」

 ボクはボクでガッツリとしたもので体力をつけて挑む。

 注文を終わらせて、同時に届いたものにお互いにまず一口手をつける。

 ここまで一言の会話もない。

 正直、今食べているハンバーグの味も分からない。

「…………まずボクから言いたいことは、別れるつもりは一切ないってこと。
 他のことは全部佐倉さんの言う通りにするから、どうかそれだけ認めてください」

 お互い無言のままあらかた食べ終わったところで、そう言って、佐倉さんに向かって頭を下げる。

 初手からの全面降伏。

 ボクとしては佐倉さんに喋ってもらって、それに合わせて少しずつ譲歩していくつもりだったのに全くなにも言ってくれないんだから仕方ない。

 ボクのほうが根負けした形だ。

「まず聞きたいんだけど、本庄くん、優太くんの事好きなの?」

 全面降伏させられた上に、それを無視された。

 すべてが佐倉さんのペースだけど、最初っからボクのほうが立場が弱いんだから仕方ない。

「うん、好き。
 一生添い遂げる覚悟があるくらい好き」

 もう変に隠し立てとかしている余裕はないので、真正面からはっきり言ったら、佐倉さんは少し戸惑うように黙り込んでしまった。

 この程度のことで怯むような人には見えなかったけどな?

 佐倉さんの態度をちょっと不思議に思っていると、おずおずと言いづらそうに佐倉さんが口を開いた。

「本庄くんは…………優太くんの記憶喪失のこと知ってるの?」

 ……はい?
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