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5話 みんなでご飯

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 イジメっ子グループに囲まれたまま校舎を出て、学食というところに連れてこられた。

 学食はモールのフードコートみたいな感じのところで、大勢の学生がお昼を食べていた。

 いるのも高校生だけじゃなくて、小学生にしか見えない小さい子や制服を着ていない大人まで色とりどりだ。

「坂東、案内の礼に奢ってくれるんだっけ?」

 え?

 松戸くんの言葉を聞いて一瞬思考が止まる。

 そんなこと言ってない……と思ったけど、これあれだ、カツアゲみたいなやつだ。

 こういうのは初めてだけど、カツアゲ自体は小学校の時にやられたこと有るからなんとなく雰囲気で分かった。

「あ、あのっ!今日も僕が出しますからっ!」

 まごついている僕を見た本庄くんが、必死の表情で話に割り込んでくる。

 僕の身代わりになろうとしてくれた本庄くんの肩を館山くんが抱きかかえる。

 その途端に本庄くんの顔が苦痛で歪んだ。

 ……多分、僕もされた脇腹のやつをされているんだと思う。

「今日も奢ってくれようっていうお前の友情は嬉しいよ。
 ありがとうな、本庄」

 笑顔でそういった野田くんが、周りに見えないように小さく本庄くんのお腹を殴った。

「ぐっ……」

「でもな、俺たち今日は坂東に奢ってほしい気分なんだよ?
 分かるな?」

 脇腹の痛みのあまりお腹を殴られてもくぐもった声を上げることしか出来ない本庄くんに、野田くんは優しいとすら言える笑顔を向ける。

「で、でも……」

 それでもなおなにか言おうとする本庄くんに向かって、野田くんがまたこっそりと拳を固めて。

「お、おごりますっ!
 案内してくれたお礼に奢らせてくださいっ!」

 思わずそう言っていた。

 このまま黙っていれば、もしかしたら本庄くんが身代わりになってくれたかもしれないのに……。

 言ってからもそんな考えが頭に浮かんでる。

 でも、痛めつけられても必死に抵抗しようとしている本庄くんを見たら、なぜか取り消す気にはなれなかった。
 
「お、坂東は物分りがいいな。
 あんまり物分りが悪いと、お前もこうなるから気をつけろよ」

 野田くんはそう言ってニコニコと楽しそうに笑いながら……本荘くんのお腹を殴った。

 館山くんから開放されて本庄くんがお腹を押さえて膝をついてうずくまる。

「また吐くんじゃねーぞ」

 野田くんは楽しそうにそう言うと、本庄くんをその場に残して僕の肩を抱いて食券機の前に連れてくる。

「ほれ、さっさと金入れろよ」

「は、はい……」

 言われるがままに食券機の中にお金を入れる。

「ごちな」

 松戸くんが短くそれだけ言って一番高いAランチのボタンを押す。

 他の人も思い思いのものを買って、最後に佐倉さんがサラダセットのボタンを押した。

「…………情けな」

 そして最後にポツリと言い捨てるようにそう言った。

 …………そんな事は言われなくても僕が一番良く分かってる。



 結局食券だけ買ったらイジメグループは僕を置いて彼らだけで楽しそうに食べだした。

 考えようによっては昼食にまでつきあわされなくてよかった。

 食欲もなにも無くなっていたので軽いサンドイッチだけ食べると、逃げるように学食を後にした。

 教室に帰ると本庄くんがまた一人でうつむいたまま座っている。

 御飯食べられたのかな……。

 ちょっと心配になりながら席につく僕に気づいた本庄くんが、ビクリと大きく体を震わせた。

 そして、朝以来初めて僕の方を見ると、泣きそうな顔で小さく頭を下げた。

 …………なにをいいたいのかは分からなかったけど、なぜかとても悲しい気持ちになった。



 結局なにも分からないまま授業が全部終わって放課後。

 今日から僕の家になる寮とやらに向かおうと席を立ったところで、またイジメっ子グループに囲まれた。

「おう、ちょっと遊ぼうぜ」

 笑顔の松戸くんにそう言われ、館山くんに肩を組まれて、本庄くんと二人でイジメっ子グループに囲まれて朝本庄くんが殴られていた校舎裏まで連れてこられた。

 そして、今僕の前で朝と同じく館山くんに押さえつけられた本庄くんを野田くんが楽しそうに殴ってる。
 
「必殺パーンチっ!」

 野田くんがふざけた感じで叫びながら本庄くんのお腹に大ぶりのパンチを入れる。

「ぐふっ!」

 館山くんに押さえつけられて防御も出来ない本庄くんの口から空気が押し出されるような声が出る。

「どーよ、都、俺のパンチは。
 プロ顔負けだろ?」

 野田くんはドヤ顔でそう言うけど、都――佐倉さんは興味なさげにスマホをいじっている。

 むしろ、佐倉さんの隣の白井さんが楽しそうに手を叩いて笑ってる。

「和人、必殺パンチってなんだよつ!
 子供みてーっ!」

「はっ、てめえには言われたくねーよっ!
 ならこれだっ!黒閃っ!」

 またなにか技名を叫びながら本庄くんを殴った野田くんを見て、白井さんは「パクリじゃねーかっ!」と笑いながら言ってる。

 松戸くんも笑顔でそれを見ているし、一宮さんはその松戸くんに寄りかかって楽しそうに笑ってる。

 本庄くんを押さえつけている館山くんも楽しそうに笑って……。

 なんだコレ?

 なんでこの人たちはこんな状況でこんなに楽しそうにしていられるんだ?

 本庄くんが殴られている理由は……昼食のときにいなくなったから、とかそんなのだった気がする。

 いなくなったもなにも殴って動けなくしたのは野田くんなのに、その野田くんが我先にと本庄くんを楽しそうに殴ってる。

 初めてイジメというものを客観的に見たけど……。

 これは許してはいけないものだと思った。

 知らないうちに涙があふれてた。

 「正座崩したら次はお前の番だからな」と野田くんに言われてたけど、そんな事もう頭に残っていなかった。

 止まらない涙を拭って立ち上がると、思いっきり館山くんに向かって体当たりをした。

 倒せまではしなかったけど、不意打ちを食らった館山くんがよろけて本庄くんから手を離す。

「逃げてっ!」

 突然の出来事に呆然としている本庄くんに向かって叫んだ。

「っなにやってんだよっ!?」

 野田くんの叫び声の後、お腹に衝撃が走った。

 突然の激しい痛みにうずくまりそうになる僕の髪を野田くんが掴んで立ち上がらせる。

「逆らってんじゃねえよっ!チビッ!!」

 そのまま何度も連続でお腹を殴られる。

 お腹に痛みが走るたびになにやってんだろという後悔が浮かんできた。

 僕になにが出来るつもりだったんだろう。

 イジメられっ子を助けるヒーローにでもなれるつもりだったんだろうか。

「……早く……逃げて……」

 まだ呆然と立ちすくんだままの本庄くんに向かって、なんとか声を出す。

 早く逃げてくれないと謝れない。

 馬鹿なことをしてごめんなさいと謝ってしまいたかったけど、なぜか本庄くん……イジメられていた人の前でそれをするのだけは嫌だった。

「まだナマいってんのかっ!」

 野田くんの拳が僕のお腹に深く突き刺さって、口の中に苦いものが込み上げてくる。

「早くっ!」

 それを飲み込んで、必死で叫んだ。

 ようやく僕の声が届いたのか、本庄くんは一歩後ずさると、そのまま後ろを向いて全力で逃げていく。

 良かった……これでやっと謝られる……。

「本日二度目のおぉっ!黒閃っ!!」

 逃げていく本庄くんの後ろ姿を見てホッとしている僕のお腹に、また野田くんの拳が突き刺さった。

「げえええぇっ……」

 この衝撃で喉をお昼食べたものが逆流していく。

「うおっ!?吐いてんじゃねーよっ!!
 またかかっただろっ!!」

 野田くんの慌てた声を聞いて、ちょっとだけざまあみろと思った。



「ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」

 ひたすら謝罪を繰り返す僕のお腹を野田くんが殴り続けてる。

「はっ、いい加減ちゃんと反省したかっ!?」

 笑って言いながら野田くんがまた僕のお腹を殴りつける。

 喉になにかが込み上げてくる気はするけど、もうなにも出るものがない。

 あれからかなりの時間、野田くんに殴られ続けてた。

 痛くて気持ち悪くて時間の感覚がもう無い。

「くそっ、いい加減殴り疲れちまったよ。
 コーキ、どうするよ?こいつ」

 野田くんが手をぷらぷらと振りながらコーキ――松戸くんの方を振り返る。

「んー、ここまで生意気なやつは面倒だから、剥いて動画でも撮っときゃ逆らう気もなくなんだろ」

 ムク?

 松戸くんがなにを言っているのか分からない。

「うっわ、コーキ、ゲドーだぁっ!」

 でも、白井さんはそう言って笑っているし、他の人もニヤニヤとしているからイジメっ子たちの間には伝わっているみたいだ。

「よっしゃ、そんじゃ、館山、坂東押さえとけよ」

 野田くんに言われて館山くんが僕を羽交い締めにする。

 なにか酷いことをされるのは分かるんたけど、殴られ続けてもう心が折れちゃってる僕には抵抗することも頭に浮かばない。

 羽交い締めにされた僕に近寄ってきた野田くんが僕のズボンに手をかけて……ベルトを外すとパンツごと一気にずりおろした。

「…………グロ」

 場に一瞬の沈黙が満ちた後、白井さんが思わずと言ったように呟いた。

 その瞬間、イジメっ子たちが大爆笑を始める。

「黒っ!なんだそれっ!もはやキモいわっ!!
 しかも臭っ!色んな意味でビョーキじゃねーのっ!」

 僕のチンチンを指さして野田くんが笑い転げてる。

「こんなんクラスの奴らに見せたら大笑いだろうな」
 
 松戸くんも笑いをこらえながら…………スマホで動画を撮っている。

「や、やめてください……ごめんなさい……許してください……撮るのだけはやめてください……」

 4年の間に僕のチンチンは気持ち悪いことになっていて、こんなの他人に見られたら生きていけない。

 女子たちも呆気にとられた顔をしているし、殴られて出尽くしたと思っていた涙がまた溢れてきた。

「お願いです……許してください……もう逆らいませんから……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 どれだけ謝っても松戸くんは動画を撮るのをやめてくれなかった。

 それどころか……。

「うわっ、こんなキモいの送ってくんなよっ!」

 イジメっ子たちのスマホが同時に鳴って、スマホを見た白井さんが松戸くんに抗議の声を上げる。

「とりあえず俺等でお前の動画共有したから。
 俺等に逆らったらどうなるか……分かるよな?」

 ………………最悪だ。
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