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第三章

39話 ダメな精霊

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 フウちゃんがキスをすると、ノゾミちゃんの髪が一瞬緑色になってからいつもの黒瑪瑙のような艷やかな黒髪に戻る。

 これで三体とも契約完了だ。

 契約が終わるとすぐに僕のもとに戻ってきたフウちゃんの頭を優しく撫でる。

 たぶんこれも対価のうちに入ると思う。

 ノゾミちゃんとフウちゃんの頭を撫でていると、ヒーくんまで頭を差し出してきた。

 ちょっと腕が一本足りない。

 仕方ないので順番に撫でることにする。

 えっと、他の人達はまた後で撫でるから。

 後でじっくり撫でるから並ばないでっ!

 …………結局、軽くだけど全員撫でることになった。



 さて、次はシャルだけど、もう色々覚悟はできたからどんな精霊でも来るが良い。

 シャルの適性は、

 【魔法適性 火:- 水:C 土:C 風:C 聖:- 邪:-】

 となっていて、ノゾミちゃんと同じく水、土、風のどの精霊が来るのか想像がつかない。

 でも、今までの経験で三体同時に来るのにも、とんでもない格上が来るのにも、変に懐いている精霊が来るのにも覚悟ができたから大丈夫だ。

 ただ火と邪の適性はないし、召喚者と相性のいい精霊が来るという前提は崩れていないので、まったく話にならない精霊が来るということもないだろう。

「どう?出来そう?」

「は、はい、だ、大丈夫、で、です」

 ただでさえ恥ずかしがり屋のシャルだけど、魔法を教える時は抱きかかえるように密着することになるのでいつも以上に真っ赤だ。

 それでも、魔法に対する勘はいいみたいで、ノゾミちゃんに次いで魔法を覚えるのが早い。

 今回もあっという間に《精霊召喚》を覚えたみたいなので、頭にお祈りのキスをしてから離れる。

「それじゃ、頑張ってね。
 なにが来ても大丈夫だから安心して」

「は、はいっ!」

 励ます僕に頷いてから、シャルが目を閉じて魔法に集中する。

「我が魔力を糧に、精霊よ、集え、《精霊召喚》」

 どうかまた良い精霊が来てくれますように……。

 祈りながら見つめる視線の先、シャルの目の前にどこからともなく水が溢れ集まりだす。

 来てくれたのは水の精霊のようだ。

 水の精霊は光の精霊ほど積極的に人間を助けてくれるわけではないけど、優しく穏やかで友好的なので初心者の契約相手としては最適だと言われている。

 …………いや、まあ、そこらへんの人間から見た感覚があてにならないことは今日一日でいやってほど思い知ったけど。

 なんか今日来た精霊さんたちだけ見ていると、気性が激しいと言われていた火の精霊が一番まともな気がする。

 いや、まともと言うか、分かりやすいと言ったほうが良いか。

 どうかクセのない良い精霊が来てくれませすように……。

 祈りの文言を増やして心を込めて祈りながら水の精霊が顕現するのを見つめ続ける。

 だんだんはっきりしてきたシルエットからして、ヒカリさんと同じくらいの20代の女性精霊みたいだ。

 今回も翼が生えているけど……二枚一対の中位精霊であることに少し安心する。

 上位精霊が来てくれるのは戦力的な意味ではありがたいんだけど、対価の問題で胃が痛くなる。

 シルエットだけだった水の精霊さんがどんどん濃くこちらに顕現してくる。

 水色の髪と肌色の体がはっきりしてきて……慌てて目をそらした。

 な、なんか見ちゃダメなの来た。

 精霊さんには服というものは無いらしく全員全裸なんだけど、そう言うものだというのは知っているので特に変なことは考えなかった。

 ブリーゼみたいなほとんど透けている子はもちろんだし、今日来た子たちみたいに見た目的にはほとんど人間と変わらない濃さの子たちも気にはならなかった。

 ヒカリさんみたいな大人の女性になると少し恥ずかしくはあったけど、まあそれだけだ。

 だけど、今きた水の精霊はダメ。

 万が一のことがあるので目を離しちゃいけないのに、恥ずかしくて見ていることが出来ない。

 かろうじて足だけは視界に入れているけど、それだけでもすごい変な気分になってくる。

 まだ顕現途中で体が透けている時ですらそうだったのに、完全に顕現し終わって人間と変わらない濃さになった今となってはもうダメだ。

 足だけでエロい。

 なんなんだ、この精霊。

「あの、先生?せんせーい?」

「は、はいっ!?」

 何故か艶めかしく見える太ももから足首のラインに魅入られていた僕の意識が、シャルの声で呼び戻される。

「だ、大丈夫ですか?」

「も、もちろん大丈夫だよっ!
 どうしたのっ!?」

「え?いえ……せ、精霊さん来たので契約していいか教えてもらおうかと……」

 あ、そうだった。

 そう言う話だった。

 僕、全然大丈夫じゃない。

 こっそりと大きく深呼吸をして、異常なほどドキドキしている心臓を無理やり抑え込む。

 改めて水の精霊さんを見ると……なんだコレ。

 身体はフウちゃんと同じくほとんど実体化と言えるくらいの濃さでこちらに顕現している。

 そこまではまあ良い。

 かなり稀ではあるけど、フウちゃんを始め『こちら』と相性のいい精霊はそれなりにいる。

 濃く顕現しているほど本来の力を発揮できるので実に良いことだ。

 ただ……なに?あのコウモリみたいな翼。

 あれ?僕、精霊さんの翼って鳥みたいなのしか知らないけど?

 色はそれぞれ色んな色を見たことがあるけど、みんな一様に鳥の翼と同じ羽の集まったものだった。

 でも、今回来た水の精霊さんは薄い膜のようなものの張ったコウモリのような翼をしている。

 まるで《悪魔召喚》で現れる悪魔のようだ。

 同じ召喚系魔法でも《精霊召喚》で悪魔が来るってことは有り得ないので、間違えて悪魔が来たってことはないと思うんだけど……。

 でも、ムッチリとした肉感的な脚も、安産型の大きく柔らかそうなお尻も、キュッと締まっている腰つきも、豊満なのにツンっと上を見いているように見えるくらいハリのある胸も、そして、その美しく淫らな笑顔も。

 完全に淫魔にしか見えないんだけど、この水の精霊。

 姿形だけでなく、匂いまで甘くとろけるようでエッチな気がする。

 僕に絡みつくように抱きついてきている水の精霊から漂ってくる甘い匂いを嗅いでいるだけで、頭がボーッとしてなにも考えられなくなってくる。

 ただ立ち尽くすことしかできない僕の手を取った水の精霊が、そのまま僕の手を自分の胸に当てる。

 ……ムニュンとすごい柔らかくて温かい。

 そして、あまりにも手にしっくり来る感触すぎて思わず揉み込んでしまう。

 うわぁ……手の中がムニュンムニュンだぁ……。

 夢中でおっぱいを揉んでいる僕のことを見て、エッチな笑顔を深くした水の精霊はその手で僕の股間を撫でさすって……

「はーい、そこまでですよー」

 シャルに投げ飛ばされた。

 水の精霊は首に腕を回されて、足を引っ掛けられて、キレイにコロンと投げ転がされた。

 そして地面に転がった水の精霊を笑顔のみんなが取り囲んだ。

「先生、この子、帰ってもらいましょう」

 シャルが笑顔のままそう言うけど……うん、僕も賛成です。

 この子、危険。

 頭から霧散してしまっていた《精霊送還》の魔法を構築し直す。

 …………む、むぅ、まだ動揺していてうまく構築できない。

「ダメです。ダメ。ダメ。絶対ダメ」

 構築に時間がかかっている間にも、水の精霊はアワアワした様子でシャルと何かしら交渉をしているみたいだ。

 でも、シャルは全てにすげなく『ダメ』と答えている。

 アワアワしている水の精霊はさっきまでの印象よりだいぶ幼く見えて、20代どころかシャルよりちょっと上程度に見える。

 雰囲気もエッチな雰囲気は殆ど消えて、ただの可愛らしい女の子みたいだ。

 …………体つきはエッチなままだから完全にはエッチな気配が消えたわけではないけれど。

「ダメです。えっ?ダ、ダメ……。そんなこと言ったって……ダメですって。……でも……だって……」

 やばい、僕が魔法の構築にまごついているうちにシャルが押され気味になってきた。

 どんな状況になっているか分からないけど、早く追い返さないと。

「………………あの、先生、この子と契約することになりました」

 …………遅かった。
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