上 下
110 / 117
第三章

36話 精霊来たけど……

しおりを挟む
 とりあえずラファちゃんにもアリスちゃんに目の中に帰ってもらったけど……。

「大丈夫?なにか違和感とか無い?」

「んー…………はい、なにも変わらないと思います」

 あたりを見回していたアリスちゃんがそう言ってうなずく。

 ラファちゃん、自分で言った通り大人しくしているようだ。

「でも、油断はできないからもし少しでも変なことになったら言ってね」

「はい、分かりました、先生」

 素直にうなずいてくれたアリスちゃんの頭を撫でる。

「とにかく、お疲れさまでした。アリスちゃん」

 そのまま嬉しそうにしばらく撫でられた後、アリスちゃんはみんなのところに戻っていった。

 さて、そうなると次は…………。

「ノゾミやりたいですっ!」

 どうしようか迷っていると、ノゾミちゃんが満面の笑顔で高々と元気よく手を上げた。

 ノゾミちゃんか。

 残りの三人で一番心配がないのはシャルなんだけど……。

 ノゾミちゃんの適性は、

 【魔法適性 火:B 水:- 土:- 風:B 聖:B 邪:-】

 となっていて、正直、火、風、光のどの精霊が来るのか分からない。

 それについてはシャルも同じ話なんだけど、軒並みC適性のシャルと違ってノゾミちゃんの適性はBと高い。

 今まで同じB適性のユーキくんとアリスちゃんの場合、中位以上の精霊という厄介なものが来てしまったのでちょっと心配だ。

 …………でも、考えようによっては心配な方から先に済ませてしまうのも手か。

 ちなみに、リンは真剣に初手で《精霊送還》の使用が視野に入るので一番最後だ。

 もう一度ノゾミちゃんの顔を見てみるけど、やる気に溢れた目がランランと輝いている。

 ユーキくんとアリスちゃんに友達?が増えたのを見て楽しくなってきちゃったのだろう。

 ……うん、ここは思い切ってやる気のある子からやってみよう。

「それじゃ、ノゾミちゃんやってみよっか」

「はいっ!」

 元気よく、嬉しそうに返事をするノゾミちゃんを見て思う。

 今度こそ変な精霊来ませんように……。

 三度目の正直を信じよう。



 前の二人と同じく、ノゾミちゃんを後ろから抱えるようにして《精霊召喚》の魔法を教える。

「…………どう?わかった?」

「はいっ!分かりましたっ!」

 いっさいの迷いの無い即答だった。

 相変わらずノゾミちゃんは魔法を覚えるのが異様なほど早い。

 相当魔力との相性がいいんだと思う。

「それじゃ、やってみよっか?
 呪文はゆっくりで大丈夫だからね」

 安心させるように微笑みかけてから、また『いい精霊が来ますように』と祈りを込めてノゾミちゃんの頭にキスをする。

 …………ま、前の二人もいい精霊はいい精霊だし、祈りは通じているはずだ。

「えっと……わが魔力をかてに……せーれーよ、つどえっ!《精霊召喚》っ!」

 魔法の構築も早いノゾミちゃんの《精霊召喚》があっという間に完成する。

 そして、ノゾミちゃんの呪文に合わせて《精霊召喚》が励起される。
 
 …………。

 ……される……はずなんだけど。

 あれ?精霊来ない。

 精霊にとって『こっちの世界』での距離は関係ないみたいなので、《精霊召喚》が届く距離に精霊がいなかったとかそういう事はないはずなんだけど……。

「えっと、もしかして、ノゾミちゃん魔法失敗した?」

 ノゾミちゃんは新しく教えた魔法も一瞬で完璧に習得してしまうのでまったく考えていなかったんだけど、初めて使う魔法だしそりゃ失敗もあり得る。

「んーん、成功したと思うよー?」

 でも、ノゾミちゃん自身は魔法が成功した手応えを感じているらしい。

 んー?なんだろ?もう一回やっちゃっていいのかな?

 一日に二度以上精霊を呼ぶのは精霊の機嫌を損ねるからやめたほうがいいと言われているんだけど……。

 来なかったケースっていうのは初めてだからどうしていいのか分からない。

「あ、来たよ」

 初めての事態に困惑しているとノゾミちゃんのちょっとホッとしたような可愛い声が聞こえた。

 見てみればノゾミちゃんの前に光が集まり始めている。

 良かった、単なるタイムラグかなんかだったみたいだ。

 しかも、来てくれたのは光の精霊みたいだ。

 二重の意味で安心している僕の頬を風が撫でた。

 ブリーゼ?

 ブリーゼがなにか教えようとしているようで、ノゾミちゃんの方を指さしている。

 …………ノゾミちゃんの左後ろに風が集まり始めている。

 気づけば右後ろには火が集まり始めていた。

 三体同時召喚とかあるのっ!?

 無作為に『誰か来てー』と呼んでいるだけだから来るのが一体だけじゃない時もあるのかもしれないけど……こんなの聞いたことがない。

 驚いている僕の前で三体の精霊がほぼ同時に顕現する。

 アリスちゃんの前にいるのは大人の……20代くらいの少しふくよかないかにも優しげな風貌をした女性の光の精霊。

 四枚二対の翼を持った上位精霊で、ほとんど体が透けていないくらいの『濃さ』で顕現している。

 そして右後ろにはノゾミちゃんと同じくらいの年に見えるやんちゃそうな風貌をした男の子の姿をした火の精霊がいる。

 こちらも四枚二対の翼を持った上位精霊で、体の色もかなり濃い。

 そして、左後ろには風の精霊が顕現していて、同時に顕現した火の精霊に睨みつけられていた。

 風の精霊もノゾミちゃんと同じくらいの年かほんの少しだけ大きいくらいの女の子の見た目をしている。

 少し気弱そうな印象に見えるのは相性の悪い火の精霊に怯えているせいだろうか?

 風の精霊は六枚三対の翼を持ったポチちゃんと同格の精霊で、しかもポチちゃんよりさらに濃く顕現していて自らの纏う風で髪が常にフワフワ揺れていなければ有翼人の子供と言われても分からない。

 ここまではっきりと顕現している精霊って初めて見た。

 小さな見た目でもたぶん三体の中で一番強い風の精霊だけど、火の精霊に対する苦手意識は変わらないのか睨みつけてくる火の精霊から怯えるように目をそらしていた。

 ……と思ったら、我慢できなくなったのか僕の方に駆け寄ってきて、後ろに隠れた。

 それを見ていた光の精霊が火の精霊の方を見る。

 光の精霊はニコニコと笑っているだけなのに、火の精霊はシュンっとうつむいてしまった。

 叱られたかなんかしたんだろうか?

「えっと、せんせえ、どーすればいいのー?」

 ほんと、どうすればいいんだろうね?

 とりあえず、また火の上位精霊は出てくるわ、同属性とは言え自分より格上の……かけ離れてるくらい格上の風の上位精霊は出てくるしで必死で自分の存在感を消そうとしているブリーゼに『帰っていいよ』と伝えた。

 いてくれてありがとう、すごい心強かったよ。

 僕の精霊がブリーゼたちで良かった。



 まず、複数の精霊と契約すること、これ自体は問題ない。

 僕自身、火・水・土・風と四体の精霊と契約をかわしている。

 それこそ本職の精霊使いだと火属性だけで何体かの精霊と契約していたり、すごい人だと何十体もの精霊と契約していたりする大ベテランもいる。

 《精霊召喚》には一体につき一日一回という縛りがあるので、数多くの精霊と契約しているのはそれだけでアドバンテージになる。

 問題点はいかにして精霊との関係性を保つかで、契約だけしてそのまま放置とかするとどんどん関係性が悪くなってくる。

 不思議なことに関係の悪い精霊がいると、他の精霊との関係も悪くなりがちなので「呼ばなくなった精霊は怒らせてしまったとしてもきちんと契約解除するように」と『前』のパーティーメンバーだった精霊使いさんに教えてもらった。

 どうやら精霊同士での何らかの情報網があるらしい。

 他にも実用面での問題もあるんだけど、一応、今回来てくれた三体の精霊と契約すること自体は問題ない。

 無いんだけど…………複数『同時』での契約なんて出来るの?

 前例をまったく聞いたことがないので全然分からない。

 なんにしてもとりあえずは『話し』を聞いてみるしか無いか……。

「ノゾミちゃん、精霊さんたちと意思疎通……話しは出来そう?」

「うん、今も光のおねーさんが火の子叱ってるの分かるからたぶんだいじょーぶ」

 そう言って嬉しそうにVサインをする。

 アリスちゃんも意思疎通できていたし、中位以上の精霊とは契約前から意思疎通可能と考えて良さそうだ。

 と言うか、やっぱり叱られてたのか……。

 自分以外に向けられた意志も感じ取ることが出来るんだな。

 僕には分からないけど、召喚者だからかノゾミちゃんが特別なのか……。

 様子を見る限り他の子達も光の精霊がなにを言っているのかは聞こえていないみたいだ。

「えっと、叱ってるって怖い感じ?」

「んーと……優しく怖くてせんせえが怒ってる時みたいな感じ」

 え?僕そんな?

 怒る時は結構厳しく叱ってたつもりだったんだけど。

 いや、そもそもノゾミちゃんはしっかりし過ぎてるくらいしっかりした子だから叱ることなんて滅多にないけどさ。

 覚えている限りでまともに叱ったのなんて、一人で包丁を触ろうとしてたときくらいだ。

 その時はたまたまみんな忙しそうにしてたから代わりにご飯作ってくれようとしたんだけど、まだ危ないから一人で刃物は触っちゃだめ。

「えっと、怖くないなら光の精霊さんから話してみる?」

 強さから考えれば僕の後ろに隠れてプルプルしている風の精霊なんだけど、強すぎて対価が怖い。

 火の精霊は気性が心配だし、ここはやっぱり光の精霊から話をするのが一番安心だと思う。

「うんっ!やってみるっ!」

 笑顔で言うノゾミちゃんの頭を優しく撫でた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...