二周目貴族の奮闘記 ~シナリオスタート前にハーレム展開になっているんだけどなぜだろう?~

日々熟々

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第三章

27話 厄介

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 結局家につくまで手、離せなかった。

 そのおかげかは分かんないけど、ネーニャさんの手の震えは収まったし手は繋いだままで良かったんだって思おう。

 ……と、ドアを開けるまでは思ってた。

「あの、ここがあたしの家です」

 ネーニャさんの家は村外れに建っていて、結構立派な家だけど話に聞いた通り周りにはほとんど他の家が立っていない。

 昼間でも人の姿は全く無いし、普段なら閑静ないいところと言うんだけど……。

 これはたしかに不安かもしれない。

 実際、さっきアインに会ってしまったこともあって、まだ不安なのか家についたと言うのに手を離してくれない。

 まあこの際だから部屋まで送っていこうと、ネーニャさんに手を引かれるまま家の中に入ると……。

「あ、ねーちゃんおかえり。
 お昼に帰ってこないから心配したぞ」

 ネーニャさんをそのまま少し小さくしたような、赤みがかかったくせっ毛をした可愛い女の子と目があった。

「…………ねーちゃんが男連れ込んだあああぁあぁっ!?」

 いやぁ……事情を知らない人が仲良く手を繋いでいる僕らを見たらそう思っても仕方ないよね。

 妹が家にいるとは聞いていたのに迂闊だった。

「ち、違うわよっ!
 この人は……」

「『わよ』っ!?ねーちゃんが『わよ』っ!?
 うわぁ!完全にメスになってるよぉっ!怖いよおおぉおぉっ!!!」

「う、うるさいっ!」

 泣きながら――たぶんフリ――騒ぐ妹さんを見て思う。

 楽しそうなご家庭で何より。

 こんなご家庭に影を落とそうとする冒険者崩れはやっぱり許しておけないと思う。



 結局その後ご夕飯まで頂いてしまった。

 狩人兼薬草取りをしているご両親は森に入ると早くても夜遅くまで、下手すると数日は帰ってこないらしい。

 その分休みに入るとしばらくは家にいるらしいんだけど、今日帰ってくるのは補給のためだけで明日一日家にいるだけでまた森に入ってしまうのだそうな。

 実際のところ補給は口実で、単に娘たちが心配で一度見に帰ってきているだけなのかもしれない。

 ネーニャさんは一応家に帰ってきて安心した様子ではあるけど時折不安そうにしているし、僕も少し時間を潰したかったしで誘われるままご夕飯をご一緒させていただいた。

「なー、本当にあんたとねーちゃん付き合ってるわけじゃねーの?」

 軽く自己紹介を済ませた妹さん――マイニャさんは僕と同い年の明るい性格の子だけど……。

 明るすぎると言うか、ちょっとあけっぴろげな性格みたいだ。

「うん、さっき言った通りネーニャさんは酔い潰れた僕を介抱してくれただけだよ」

 ネーニャさんとは打ち合わせもなにもしていなかったけど、そう言うことにした。

 これなら大体は僕とネーニャさんの立場を入れ替えただけだから説明もしやすいだろう。

「でもさぁ、服まで変わってるしさぁ。
 ほらほら、正直に言っちゃおうぜぇ?隠すなよぉ」

 そう言いながら僕の肩に腕を回して、ニヤニヤ笑いながら絡んでくるマイニャさん。

 ……もはやおっさん臭いとすら言える。

「なにも隠してなんていないって。
 服はさっきも言った通り、酔った僕が汚しちゃったから着替えてもらったの」

「……ちぇー、つまんねーのぉ。
 ようやくねーちゃんにも春がきたのかと思ったのに」

 ようやく一応は納得してくれたのか、言葉通りつまんなさそうな顔をしながら僕から離れてくれる。

「マイニャ、あんまりハルトさんにご迷惑おかけしないでよ」

 食後のお茶を持って来てくれたネーニャさんがしかめっ面でマイニャさんを叱る。

「別に迷惑なんてかけてねえよぉ。
 なぁ?」

 そう言ってまた肩に腕を回してくるマイニャさんに曖昧な笑顔を浮かべる。

 迷惑とまでは言わないけど、距離感が近くて少し困る。

「それをやめなさいって言ってるの。
 ごめんなさい、ハルトさん」

「あ、あはは……」

 もう笑うしかない。

 苦笑いを浮かべながらネーニャさんからコップを受け取ろうとして……。

「きゃっ!」

「おっと、すみません」

 手に触れてしまい、驚いたネーニャさんがコップを落としかける。

「ご、ごめんっ!大丈夫だ……でしたか?」

「うん、こぼれてないし大丈夫」

 慌てた様子のネーニャさんに落ち着いてくれるよう笑いかける。

 するととたんに赤くなって恥ずかしそうに俯いてしまう。

 ……うーん……。

「ほら、ねーちゃんの方は完全にメスになってるのになぁ」

「マイニャっ!」

「なあなあ、あたし空気読んで2時間位用事作ろうか?」

「マイニャっ!!いい加減にしなっ!!」

 ネーニャさんが顔を赤くしながら怒鳴るけど、マイニャさんはどこ吹く風でからかってくる。

「あ、あはは……」

 ほんと、もう笑うしかない……。

 初めてお邪魔した家だと言うのに、居心地が良すぎて困る。



 食後のお茶をいただきながら三人で楽しく話をしていると、ご両親が帰ってきたので軽くご挨拶をした。

 ご両親は家にいる僕を見て少し怪訝そうな表情をしていたけど、娘が人助けをしたという話を疑う理由もないので、一応僕の話をそのまま受け入れてくれたようだ。

「それでは、先程話した通りお暇なときで構いませんのでよろしくお願いいたします」

 家を後にする前に、そう言ってネーニャさんご一家に頭を下げる。

 ご両親が帰ってきた後、暇なときで構わないから子どもたちの面倒を見てほしいとバイトをお願いした。

 ネーニャさんに話をしていた『不安ならいつでも避難して来て良い』という話の発展形だけど、これならうちに来る理由も付けやすいだろう。

 ここら辺の話をした時にうちの子どもたちとも顔合わせをしていると説明したのもご両親が僕の話を信じてくれた理由の一つだと思う。

「なあなあ、あたしも行っていいの?」

 マイニャさんが少し不安そうにそう言ってくるけど……。

「うん、もちろん。
 人数は多いに越したことはないし、マイニャさんも来てくれたらバイト代出すよ」

 実際にはうちの子たちは誰一人としてまるで手がかからなくて寂しいくらいだけど、こう言っておけばネーニャさんもマイニャさんを誘ってきやすいだろう。

 たしかにこの家にマイニャさんを一人で残しておくのも不安だ。

「それでは、失礼します。
 今日は遅くまでご厄介になってしまい、申し訳ありませんでした」

 最後にもう一度ネーニャさんたちに頭を下げてから家を後にする。

 さて、時間もいい感じだし、次は村長さんちだ。



 ネーニャさんちから村長さんちに向かう途中。

 人気のない道で覚えのある気配を感じて道脇の木立に身を潜める。

「頭、本当にこっちでいいんすか?」

「ああ、坊っちゃんから聞いた話ではそろそろのはずだ」

「親があんまりいねぇ家らしいっすからね。
 うまくいきゃあ……へっへっへっ」

 見覚えのある三人組……冒険者崩れたちが話をしながらこちらに歩いて来ていた。

 話からするとネーニャさんの家を目指しているっぽい……。

 本当に心配したとおりになっちゃったな。

 『坊っちゃん』って言うのはレオンのことだろうし、あいつは一体何をやってるんだ。

「まあ、今日の所は様子見のつもりでいな」

「へへっ、そんなこと言って、本当に親がいなかったらヤっちまうんでしょ?」

「かなりいい女だったからなぁ。
 このままクスリ漬けにしてこの村にいる間のおもちゃにしちまいましょうぜ」

「まあ、まてまて。
 妹もいるらしいから、逃げられないように慎重にな」

「まったく、頭はロリコンなんだから」

「ちげぇよ、女は若いに限るってだけだ」

 布で急造の覆面を作ると、静かに冒険者崩れたちに駆け寄る。

「あん?」

 そして、一番うしろを歩いていた男の腹に掌底を叩き込む。

 慎重なのか習慣なだけか村の中だと言うのに革鎧を着込んでいたけど、関係ない。

 励起寸前まで持ってきていた衝撃魔法を無詠唱で励起する。

 無詠唱は普通に魔法を使うより遥かに複雑な構築式が必要になるけど、今は極力手の内を晒したくないので仕方ない。

「ぐふっ!?」

 衝撃魔法に革鎧を貫かれて男が崩れ落ちるけど、無詠唱だから鎧を無視するほどの剛力で殴られたと思われるだろう。

「なんっだぁ!?てめぇっ!?」

 慌てた様子の残った下っ端に駆け寄ってあごを跳ね上げる。

 脳を揺らされた男がストンと力が抜けたように座り込む。

 これであと一人。

 頭と呼ばれているリーダー格に目をやると、すでに少し距離を取って剣を構えていた。

 対応が素早い。

 やっぱりステータス以上に荒事に慣れている動きだ。

「なんだぁっ!てめえはっ!?
 あいつの関係者かぁっ!?」

「……あいつ?」

 僕の口から《変声》の魔法で作られた誰ともしれない男の声が出る。

 家から近いことも会ってかネーニャさんの関係者と疑われているみたいだけど、バカ正直に教えてあげる必要はない。

「……なにが目的だ?」

 もうすでに動揺を抑え込んだリーダー格が地の底から響くような低い声を出す。

「お前ら、村長からたんまり金もらってんだろ?
 死にたくなけりゃ、それ置いてけよ」

 そう言って、相手の対応を持つ素振りをして、一気に間合いを……っ!?

 間合いを詰める前にリーダー格が全力で木立の方に逃げていった。

 ええいっ!面倒なっ!!

 折角の機会なんだからここで仕留めてしまおうと僕も木立の中に入るけど…………。

 いない……。

 すぐに追ったのにリーダー格の姿がない。

 これは……なにかの魔法か?

 《隠形》や《幻影》、あるいは影を作り出す《暗闇》かなにかだろうか?

 魔法の素質はなかったはずだけど……。

 本人が魔法を使えなくても、そういう効果のある道具を持っている可能性はある。

 辺りを見回して不意打ちに警戒する。

 ………………だけど、しばらく警戒していてもなんの動きもない。

「…………あ」

 思わず声が出た。

 慌てて元いた道に戻る。

 戻った先、僕が冒険者崩れたちを襲撃したところにはすでになにも無くなっていた。

 人が倒れたような痕跡は残っているけど、昏倒させたはずの下っ端二人の姿はどこにもない。

 やられた……。

 とどめを刺す前に下っ端二人を回収されてしまった。

 あのリーダー格、思ってた以上に厄介なやつかもしれない。
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