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第三章

25話 排除

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「それじゃ、鬼ごっこ再開ですよー」

「「はーい♪」」
 
 ひとしきりみんなに『お詫び』を済ませると、シャルがみんなを引き連れて遊びに戻っていく。

 ギルゥさんも黙って頭を下げるとみんなについていったので、僕もひと遊びするとしよう。

 そう思ってみんなの背中を追おうとしたところで隣りにいたユーキくんに服を引っ張られた。

「ん?もうちょっと抱っこする?」

「えっ!?……は、はい」

 ユーキくんは一瞬驚いた顔をしたあと恥ずかしそうに頷く。

 ユーキくんも我慢しちゃう子だからなー、ちょっと足りなかったんだろう。

 そう思って抱っこしようと近寄ったんだけど……ユーキくんは抱っこされるのを待たずに抱きついてきた。

 そしてそのまま身体を押し付けるように強く抱きしめてくる。

 これでは抱っこというより……。

 ちょっと戸惑うけど『まあ良いや』と思って僕もユーキくんを抱きしめ返す。

 感極まったように僕の体をまさぐってくるユーキくんがとても可愛い。

 ここが庭先なのだけがちょっと恥ずかしいけど……。

 しばらくそうしていると、満足した様子のユーキくんがゆっくりと離れていく。

「あの……抱っこしてほしいんじゃなくってですね?」

 えっ!?今のはなんだったのっ!?

 戸惑う僕を恥ずかしそうに見ながらユーキくんが話を続ける。

「あの、みんなには僕がうまいこと言っておきますから、部屋の方にいっていいですよ?」

 へ?

 一瞬なにを言ってるのか不思議に思ったけど……。

「え?もしかして、僕帰ってきてたの気づいてた?」

 ちょっとびっくりしている僕の前でユーキくんがコクリと頷く。

 マジかー、僕結構本気で隠れて帰ってきたんだけどな。

 気づかれているとは微塵も疑わなかった。

「よ、よく気づいたね」

「ご主人さまセンサーが反応したので、もしかしてと思ったら女の人を抱えて窓から入る先生が……」

 なにそのセンサー。

 え?『前』のユーキくんそんな機能ついてたっけ?

 い、いや、それよりも女の子と一緒に入ったのを見られていたほうが問題だ。

「あ、あのね、あの子はね……」

 どう説明していいか分からないけど、彼女がされたことに触れずに保護した経緯を説明するしか無い。

「あ、そこらへんは大丈夫です」

 言葉に詰まってしまった僕に、ユーキくんはあっさりとそう言う。

 流石はユーキくん、あの状況から僕が女の子を保護したことをある程度察してくれたみたいだ。

「大丈夫、みんなにはちゃんとこの時間は先生と一緒に遊んでいたって口裏合わせさせますから。
 安心してください」

 そう言ってニコッと純真そのものの笑顔を浮かべる。

 ぜんっぜん分かってなかった。

 それどころか犯罪方向に突っ走ろうとしてた。

「違うからっ!あの子は色々あって保護した子だからっ!!」

「そうなんですか?
 ボクはてっきり先生がちょっと無理やりなナンパをしてくるくらい回復してくれたのかと……」

 ユーキくんがなにを言っているかわからない……。

 とりあえずユーキくんの想定しているものは『ちょっと無理やりなナンパ』で済ませて良いほど可愛いものじゃないと思う……。



 どちらにせよユーキくんがみんなを誤魔化してくれると言うので、お言葉に甘えてとりあえず女の子を起こすことにした。

 もう少し寝かせておいてあげたい気もするけど、女の子の事情がわからない以上早く起こすに越したことはないだろう。

 その上でまだもう少し休んでいたいということになったらその時考えればいいだけだ。

 軽く準備をしてから部屋に戻る。

 部屋の中では予想に反して女の子がベッドの上に体を起こしていた。

 《誘眠》の魔法は精神状態が安定していない人には効きが悪いから、もう目を覚ましてしまったんだろう。

 部屋に入ってきた僕に気づいた女の子がビクっと大きく体を震わせて身体を隠すようにシーツを引き寄せる。

「お、お願いです……帰らせてください……ここでのことは誰にもいいませんから……お願いです……」

 そして泣きながら懇願してきた。

 か、勘違いされてる。

「とりあえず落ち着いて。
 僕は道端で倒れてた君を保護してただけだから。
 大丈夫、ここは安全なところだよ」

 女の子は僕より少し年上だと思うけど、安心してもらえるように出来るだけ頼りがいがあるように見えるように話しかける。

「あ、あいつらの仲間じゃないんですか?」

「うん、違うよ。
 なんとなく事情は察するけど、僕はただ通りがかっただけの通行人だよ」

 実際には仲間どころか敵だけど、そんなことを言っても混乱させちゃうだけだろうから黙っておく。

「そ、それじゃ、お願いです、帰らせてください……」

 怯えたままそう言う女の子にニッコリと笑いかける。

「うん、もちろん。
 とりあえず、服を用意したからこれを着ていくと良い」

 そう言って、ベッドの端にサイズの合いそうな服を置く。

「…………あ、あの、色々ありがとうございます。
 助けてもらったのにお礼が遅くなってすみません……」

「ううん、色々大変だっただろうし気にしないで。
 お風呂も湧いているからもしよければ入っていくといいよ」

 そのままできるだけ優しく笑いかけて言葉を続ける。

「一つ……いや、二つだけ話を聞いてもいい?
 もちろん、言いたくなければ話さなくていいから」

「え、あ、あの……」

 戸惑う女の子の目を見つめながら安心させるように微笑む。

「嫌なことならなにも言わなくていいから。
 大変な時に申し訳ないけど、お願い」

「は、はい……」

 オズオズとだけど頷いてくれたので、聞いておかないといけないことを聞く。

「まずは、君を見つけた辺りにあと二人女の子がいたみたいなんだけど、心当たりある?」

「え?そうなんですか?」

 僕の言葉を聞いた女の子はキョトンとした顔をしている。

 この様子からすると、あとの二人はこの子のあとに連れ込まれたみたいだ。

 うまくすればこの子から二人の素性も聞けるかと思ったけど、そうはいかなかったか。

 あっちの子たちも無事だと良いんだけど……。

「ごめん、知らないんじゃ気のせいかも」

「い、いえ、こちらこそすみません……」

「あと一つ、嫌なら本当に答えなくて良いんだけど……。
 起きてたのにここから逃げなかったってことは、相手になんか言われた?」

 ここをレオンたちのたまり場かなにかだと勘違いしていた彼女が、一人でいる隙に逃げないのは明らかにおかしい。

 たまたま起きたばかりだったというような様子もなかったし、こうなるとなにか脅されているとしか思えない。

 僕の言葉を聞いた女の子はしばらく黙っていたけど、やがてポロポロと涙を流しはじめた。

「…………逃げたり逆らったりしたらもっと酷い目にあわすって……。
 あたしの家は分かってるから逃げても無駄だって……」

 そして小さな涙声でそう言う。

「……本当に家の事知ってそうだった?」

「レオ……あたしの事知ってる人がいるから多分知ってると思う……」

 本当にレオンが脅迫にまで絡んでいるかは分からないけど、状況的にレオンが共犯にしか思えない彼女がそう思っても仕方ない。

「家にご両親は?」

「二人共森の仕事に行っててあんまり家にいない……。
 それに家には妹もいるから……」

 むぅ、それはたしかに色々心配だ。

「そうか……。
 村の中であまり物騒なことはしないだろうけど、一応警戒はしておいたほうが良いね。
 昼はご両親の仕事について行ったりは?」

「森の仕事だからついていくのは無理だと思う……。
 それにあたしんち村の外れであんまり家ないから……」

 ……人目が少ない場所だとどうなるか怪しいところだな。

 冒険者崩れもあまり派手なことはしないだろうと思いたいところだけど、奴らはたまり場で話していた通りあまり長い間この村にいるつもりはないような気がする。

 彼女に対してこんな雑な脅しをかけていることからもそれが分かる。

 短期間のうちにやりたい放題やって去っていくつもりだとしたら、騒ぎになることは簡単にはしないだろうという目論見は立たなくなる。

 騒ぎになったら逃げてしまえばいいのだから。

「…………そうなってくると、出来るだけ友達とかと一緒にいるほうがいいかな。
 場合によっては、うちに遊びに来るといいよ。
 もし不安なら僕が迎えに行ってもいいし」

「…………でも……」

 不安そうにしている彼女にもう一度優しく笑いかける。

「うちにも小さい子がいっぱいいるから、遊び相手になってあげてくれると嬉しいな」

「…………は、はい……」

 迷っていた様子の彼女だったけど、最後にはためらいながらだけど頷いてくれた。

 彼女がどうするかは分からないけど、もし望むなら本当に毎日迎えに行ってもいい。

 どうせあいつらが好き放題出来るのはもうそれほど長い時間じゃない。

「……あの……どうしてそんなことまでしてくれるんですか?」

 まあそりゃ、見ず知らずの人がここまでおせっかいを焼いてきたら不安にもなるか。

「いや、僕の家族にも君くらいの年の女の子がいるからね。
 それに、お世話になっている村の治安が良くないのは……なんというか気分が良くない」

 彼女のことは申し訳ないけど顔も知らなかったけど、この村には『前』僕の孤児院にいた子どもたちがたくさんいる。

 その子達が彼女のような目にあっていたかと思うと……。

 冒険者崩れは一刻も早く排除しよう。
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