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第三章

22話 切り捨て

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「さ、参考までに僕の周りにヤバそうな人っている?」

「ハルトの周りねぇ……」

 僕の言葉を聞いたオウスケは腕を組んで考え込んでしまう。

 考え込まなきゃ思い浮かばないほどいないということか。

 まあ、みんないい子ばかりだからな。

「ヤバいのだらけだけど、とりあえず一番はハルトかな?」

「ヤバいのだらけなのっ!?
 というか、僕が一番ヤバいってどう言うことっ!?」

「いやさぁ……とりあえずはさっきの話だろ?」

 あー、うん、それは気をつける。

「その他にも、ハルトからの矢印デカすぎなんだよ」

「矢印?」

「ああ、まあ、これも実際にそういうのが見えてるってわけじゃなくって俺の中のイメージみたいなもんなんだけどな。
 相手に対する好意が矢印みたいに見えてると思ってくれ」

「なるほど?」

 まあ、イメージとしては理解できる。

「この矢印が例の壁を破ってるかどうかでヤッてるかどうかもだいたい分かるんだけど……まあ、それは別の話だな。
 矢印は好意を表しているから当然大きさや濃さ、色合いなんかに差があるんだけど……。
 ハルトの矢印はデカすぎなんだよな」

「デカすぎ……それってヤバいことなの?」

 話を聞いたら矢印が大きいとは、つまり好意が大きいということだろうから心当たりはあるけど……そもそもそれって悪いことなんだろうか?

「うーん……。
 まあ、つまりベタ惚れってことだから悪い話ではないとも言えるけど……。
 ハルト、その子のために命捨てられるだろ?」

「うん」

「ほら、即答だよ」

 え、いや、だって考えるまでもないことだし……。

「とりあえず、俺はこういう子には怖いから手を出さない」

 怖いって言われたっ!?

「流石にちょっと重すぎると言うか……」

 重いとも言われた……。

「しかも、そんな相手が何人もいるとか……。
 ハルト、頭大丈夫か?」

 …………頭の心配までされた……。

「……え?僕ってそんなにヤバいの……?」

 自覚まったくなかったんだけど……。

「まあ、話を聞いている限り病みそうな雰囲気はないと思うけどな。
 ただ、もしもの時はそいつらのために迷わず自爆でもしそうな雰囲気はあるから、あんまり無茶はするなよ?」

 …………あい。

「そして、それと同程度の矢印をハルトに出してる奴らが周りにゴロゴロいる」

 はい?

「正直、あまりお近づきになりたくない集団だな」

 な、なかなか酷い評価をくだされてしまった……。

「オ、オウスケ……僕たち友達だよね……?」

「……最近は俺への矢印も大きくなってきているのがちょっと怖い」

 ねえ?答えてオウスケ?

 僕たち……友達だよね?



 友達だって言ってくれた。

 えへへ、満足。

「……見誤ったか……?」

「ん?オウスケ、なんか言った?」

「い、いや、何でも無い」
 
 軽く怯えた顔をしているけど、どうしたんだろう?

「そ、それはそうと、結局今日はなにしにきたんだ?
 いや、バカ話しにきただけって言うならそれはそれで大歓迎なんだけどさ」

 ああ、そうだ。

 オウスケとの話が楽しかったり驚かされたりですっかりそっちに夢中になっていた。

「いや、とりあえずはレオンのパーティーに加わった冒険者やらの話を聞こうっていうのと……」

「ん?どうした?言い淀んで。
 さてはそっちが本題だな」

 相変わらず鋭い……。

 冒険者の件がなくても元々今日はこっちの用件でオウスケに会いに来るつもりだった。

「ほれほれ、遠慮せずにお兄さんに話してみ」

「…………いや、ゲスい話なんだけどね?」

「ゲスい話大好きよ。
 大丈夫、そういう話なら慣れたもんだから、遠慮すんなって」

 む、むぅ……いいづらいけど、オウスケにノセられてもう色々話しちゃってるからなぁ……。

「い、いや、うちの子たちとの話色々したじゃん?
 それで…………複数の恋人とうまく付き合う方法とかご指導いただけたらな……と……」

 本来、こういうのは複数の『妻』を持ちがちな貴族には必須の技能なんだけど、僕そういうの教わる前に家焼け出されちゃったから……。

「なるほど……。
 そういうことなら俺の得意分野だから任せときな」

 そう言ってニカっと笑うオウスケ。

 実に頼もしい。

「んじゃ、そうとなったら先に面倒な話題から潰していくか。
 レオンの件だったよな?」

「うん、後で自分でも見に行くつもりだったけどとりあえずオウスケの話聞いておこうかな?って。
 あ、ジーナさんへの伝言ありがとうね」

「ああ、伝わったか、良かった。
 後でそこらへんの話も聞かせてくれな」

 …………ジーナさんといたしていたことバレてる……。




「さて、例の冒険者達の話か」

「うん。
 そもそもどうしてそんな人を雇うことに?」

「うーん、大元の話はレオンと取り巻き連中の間に亀裂が入ったことだと思う」

「亀裂……僕の件?」

 それこそ亀裂を作るために動き回っていたから心当たりはある。

「まあ、そういうことだな。
 あれ以来レオンは取り巻きのことを全面的に信用できなくなったみたいで、ギクシャクしてきてたからな」

「この間もパーティーとしてセレモニーに出てたし、てっきり仲修復されたのかと思ってた」

「あの場で取り巻きノケモノにすると流石に色々問題出るからな。
 ハルトの件と違って、レオンパーティーがゴブリン討伐に行った件は村のみんなが知ってたし」

「あ、そうなんだ?」

 てっきりレオンたちが勝手に行って勝手にやられて帰ってきたんだと思ってた。

「村長さんが大々的に宣伝してたからな、「俺の息子がゴブリンを退治したー」ってな。
 まあそれも事実の一部ではあるからそのままにしてたんだけど……こんなことになるんならハルトの耳に入るようにしとくべきだったな。
 本当にすまん」

 そう言って、真剣な顔で頭を下げるオウスケ。

「いや、あれは村長さんがうまく立ち回ったってだけでオウスケのせいじゃないから、あんまり気にしないでよ」

「すまん。
 まあ、そんな感じだったからあのセレモニーまではパーティーの体にして、その先は徐々に切り離していく予定だったんよ」

「えっと、オウスケはなんでそれを?」

 推測にしてはやけに確信している風だけど。

「俺はこの件の相談……っていうか自慢話?聞いてたからな」

「え?それじゃ、オウスケはパーティーに残る予定だったの?」

「ああ、俺は一見お前との付き合いは断った形になってるしな。
 あとは、こっちはお前に怪我治してもらった組だけど魔法使いのセルダーが残ることになってる」

 生活で役に立つ程度の魔法を使える人はちらほらいるけど、戦闘で役に立つだけの魔法を使えるいわゆる『魔法使い』は貴重だからなぁ。

「後のアインと他の前衛二人は折を見て切捨てられる予定だったんだよ。
 特にアインなんかはそもそもが見殺し予定だったしな」

 あー、やっぱりそういうことだったんだ……。

「あれ?でも、そうなるとアインが見捨てられたのって僕との付き合いができる前ってことになるけど……」

 僕がアインを治療する前からアインの治療について村長さんは手を引いていたはずだ。

「アインはなぁ……もともとレオンからは少しウザがられてたからな。
 見ての通りの体格で腕っぷしは随一だったから取り巻きにはしていたけど……」

「え?そうなの?」

 てっきり仲良し不良グループだと思ってた。

「てっきり仲良し不良グループだとでも思ってたか?
 うちらの仲も色々あんのよ、俺が友達って言うより下っ端だとかな」

 ……あー、それはなんとなく感じてたけど、本当にそうだったんだ。

「アインは……なんていうか思い込みが激しいやつだから、結構みんなから煙たがられてたな。
 特にシャルロッテさんについてはご執心で、よくレオンと言い合いしてた」

「えっ!?そうなの?
 レオンを止めてくれてたとか?」

 たしかにアインはシャルのことがだいぶ気になっているようだし、もしそうだったのなら少しは見る目を変えないとかな。

「止めていたと言えば止めていたんだけど……『自分もシャルロッテさんを狙っているから』っていうのが見え見えだったからなぁ……」

 なるほど、そういう感じか……ならこのまま厄介な人ってことでいいな。

「それこそ思い込み激しいからなぁ。
 レオンを諦めさせれば晴れてシャルロッテさんは自分のものって思っていたフシすらある」

 うーん……。

「それにしてもシャル、大人気だね」

 可愛いからそうなるのも分かるけどさ。

「小さい頃からたまに村に顔を出すめちゃくちゃキレイな女の子って言う特別な存在だったからなー。
 取り巻き連中はみんなシャルロッテさんとどうにかなりたいっていう妄想はしてるぜ?
 もちろん俺含めて」

「そ、そうなんだ……なんといいますか……」

 横からかっさらってごめん、というのも違う気がするけど……。

 とにかくちょっといたたまれない気持ちになった。

「まあ、俺としてはハルトから色々話を聞けるだけでもめっけもんだと思ってるしな」

 そう言って少し下卑た感じの笑いを浮かべるオウスケ。

 ……だいぶ濁しながら話をしていたつもりだったけど、オウスケレベルの洞察力と想像力になると色々想像できてしまうものなのかもしれない。

「シャルロッテさんがああ見えておっぱい大きいって聞いた時は興奮したねっ!」

「えっ!?僕そんな話までしたっけっ!?」
 
 嬉しそうに言うオウスケの言葉を聞いて驚いた。

 そ、そういう直截的な話は避けていたつもりだったのに……。

「お?やっぱりそうなのか?
 いつも体の線の出ない服着てるけど、絶対そうだと思ってたんだよなぁ」

 ひ、ひっかけられた……。

「オウスケ……」

「心配すんなって絶対二人の間だけの話にするからさ。
 それにしても……俺じゃ知ることの出来なかった好きな子のそういうことを人から聞かされるとか………………すげぇ興奮する」

 言葉通り、オウスケは本当に興奮して無駄にテンションが上ってしまっているように見える。

 というか、これ人が見ちゃいけない興奮の仕方しているような……。

 オウスケの性癖だけはちょっとだけ……ほんのちょっとだけ本気で怖い。
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