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第三章

20話 押し

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 その後しばらくオウスケと下世話な話に花を咲かせた。

 ……いや、あの……僕も下世話な話嫌いではないんです。

 少し前なら話をするだけで色々思い出して気持ち悪くなってたけど、色々慣れてきた今となっては……。

 い、いやっ、男子なら大体の人が嫌いじゃないと思うよっ!?

 要するにこれ恋バナだしっ!

 …………だいぶ下品な話交じるけど。

 むぅ……。

 どんなに言い訳して誤魔化そうとしても無駄か。

 子供たちと出来ない下世話な話、とても楽しいです。

「それで?それで」

「い、今のところはそんな感じ……」

 オウスケからオウスケ自身の色々な話を聞いていたらいつの間にか僕が惚気話をしてた。

 というかさせられてた?

 オウスケ、上手いこと話を振ってくるし、「あ、ここら辺は大っぴらにしたくないな」ってところは敏感に察して深く聞かずに話し切り上げるし……。

 そもそも惚気話……彼女とのことの自慢話が嫌なわけないので、ついつい色々と話させられてしまった。

「えー?なんでヤッちゃわないんだよー」

「い、いや、そう言われても……。
 ほ、ほら、相手の気持とかもあるし……」

「えー?
 そんなん俺が見なくてもはっきり相手のオッケー出てるじゃん」

 オウスケは少し呆れた様子でそういう。

 いや……まあ……うん……。

「や、やっぱりそう思う?」

 いや、まあね、僕もね、それは、あの、なんとなく分かっていたというか……。

「ハルトが話し盛ってなければ、だけどな。
 見え見えすぎて手を出してやらないのが可哀想なくらいだぜ」

「そ、そう言われても……本当に相手がそう思ってるか分かんないし……」

「だからハルトからアプローチするんだろうが。
 アプローチしてきちんとお前の気持ち伝えてやるのも大事だぞ」

 …………はい、全面的にそのとおりだと思います。

 でもさぁ……。

「……ほれ、とりあえず今思ってること口に出してみ」

「え、い、いや、別に大したこと考えてたわけじゃないから。
 全面的にオウスケの言うとおりだと思う」

「心配すんなって。
 友だちから聞いた話を全部心の中にしまっとくくらいの甲斐性はあるつもりだから。
 隠さずにお兄さんに話してみ」

 1歳か2歳しか違わないのにすごい年上ヅラされた……。

 でも、実際経験値はオウスケのほうが圧倒的だからなぁ。

 ここは胸を借りるつもりで……。

「…………うで怖い……」

「……なんだって?」

「……変にアプローチすると、本当は嫌なことでも受け入れられちゃいそうで怖い……」

 うちの子たちそういう雰囲気があるからさぁ。

 僕が望めば何でも受け入れちゃいそうで怖い。

「…………あー、ハルトの場合は色々あったらしいからなぁ」

 すぐ話は変えてくれたけど、僕の『初体験』の話もオウスケの口車に乗せられて話してしまっていた。

 でも、そっか、そこ結びつけて考えたことなかったけど、僕が嫌なことでも受け入れざるを得なかったからそれがトラウマになってるのもあるのか。

 ……大体の部分は僕が臆病なせいだと思うけど。

「でも、今のハルトとその子達との関係なら、本当に嫌がってるかどうかくらい分かるだろ?」

「うー…………分かるとは思うけどぉ……」

 それが本当にあっているか自信が持てない。

「それが本当にあっているか自信がねーってところか」

 むぅ、相変わらずオウスケの察し力がすごい。

「そもそもさ、ハルトはあれ?
 そういうのは結婚するまでしないほうが良いとかそういうタイプ?」

「え?い、いや、そんなことはないけど……」

「ほれ、他に聞いてる人はいないんだから正直に言っとけ?な?」

 むぅ、言いたい気もするけど言うのは恥ずかしいって時はしっかり押してくるから困る。

 ……話しやすくて困る。

「ほ、ほら、僕がこういう生まれしているせいかもしれないけど、なんとなくそういう事イコール結婚……というか子作りってイメージがあるから……」

「……あー、金持ちの場合お世継ぎ問題があるからなぁ」

 そうそれっ!

 貴族階級だとお世継ぎ問題は特に敏感なところなんだ。

 場合によっては人死が出ることもあるし、兄上も父上もそこら辺はだいぶ慎重にしてた……と思う。

 『前』は家族で過ごしたのは本当にただの子供でしかなかった頃だけだから、はっきりとは言えないけど隠し子問題になることについては慎重にしていたように思う。

 兄上なんか若い使用人なんかには近づきすらしなかった記憶がある。

「でも、そういう意味じゃ、今ハルトはやりたい放題じゃん?」

 へ?

 やりたい放題って?

 ………………………………っ!!!???

「な、な、な、な、な………………」

 なんでその事知ってるのっ!?

「あ、これは言ってなかったか。
 俺、そういうのも分かるんよ。
 男相手はそう役立つ話じゃないけど、女の子の場合は機嫌が悪くなりそうな日とか、命中率が高い日とか分かるから便利」

 ま、また、ゲスい能力を……。

「ま、とにかく今ならなにも問題わけじゃん?
 むしろ今だけのボーナスステージと言うか」

「い、いや、正直に言っちゃうとまだだからそういう衝動があんまりないっていうのもあるから……」

「そういうもんなん?」

 ちょっと不思議そうにしているオウスケに、コクンとうなずき返す。

 流石にこういう話は少し恥ずかしいです……。



「ま、そういうことなら無理にとは言わないけどさ。
 本人たちの速度でやればいいと思うし」

 僕が恥ずかしがっているのを察したオウスケが話を切り上げてくれる。

 本当にこういう所はすごいと思う。

「ただ、俺みたいなのに横からかっさらわれないようには気をつけろよ」

 横からかぁ……考えただけで死にそう。

 でもなぁ。

「まあ、そういうのは本人たちの気持ちの問題だから……」

 そういう僕の顔をオウスケがまじまじと見ている。

「前も思ったけど、これを本気で言っているのがすごいと言うかなんというか……。
 いや、俺としてはそういうハルトだからこそなんだけどさぁ……」

 えっと……?

「ハルトに質問ですっ!」

「は、はいっ!」

 突然どうした。

「ハルト、前に彼女に手を出したら殴り飛ばすけど、バレないうちに好きにさせたら諦めるって言ってたけど、あれ今も変わらない?」
 
 あれ?そんな話したっけ……した気もする……。
 
「えっと…………うん、そうだね、みんなの方で好きになっちゃったなら仕方ないと思う」

「そんじゃ、その時のハルトの気持ちをどうぞ」

 へ?僕の気持ち?

「みんなが僕以外の人を好きになっちゃった時の気持ちってこと?」

「そうそう」

 オウスケは楽しそうにしているけど……僕は考えただけで気分が悪くなってくる。

「……考えたただけで死にそう」

 察しの良いオウスケにしては、なんでこんな話し続けるんだろう。

 正直帰りたくすらなってる。

「そんなに嫌なのに、どうして間男と別れさせないんだ?」

「え?いや、さっきもいったじゃん、みんなが好きになっちゃったんなら仕方ないって……」

 僕の答えを聞いたオウスケは……大きな声で大笑いを始めた。

 ねぇ?僕帰って良い?



「いやぁ、ごめんごめん、イジワルな質問してごめん」

 憮然とした表情になってる僕にオウスケが何度もペコペコと頭を下げている。

 一応本気で悪いと思ってはいるみたいだけど……笑顔のままなのがムカつく。

「でも、おかげでハルトのことちょっと分かったよ」

 僕のこと?

 キョトンとしている僕にオウスケが話を続ける。

「そ。
 ハルトはちょっと相手の気持ちを尊重しすぎるんだな」

 い、いや、そんな事言われても……相手の気持を尊重するのは当然では?

「いやいや、そんなレベルじゃないんだよ、ハルトのは」

 心読まれたっ!?

「……いやぁ……悪い……俺ハルトのこと本気になっちゃいそうだ」

「へ?
 え?いや?オウスケ?なに?なんで席立つの?」

 おもむろに立ち上がってオウスケが僕を見つめながら近寄ってくる。

 え?どうしたの?急にただならぬ雰囲気になったんだけど……。

「オウスケ?え?どうしたの?ち、近いよ?ちょ、ちょっと落ち着こ?」

「ハルト……良いから目を閉じて……」

 そんな事言いながらオウスケは僕の目を熱く見つめたまま顔を近づけてくる……。

 キスされるっ!

 そう思って目をぎゅっと閉じるけど…………………………あれ?覚悟してた感触が来ない。

ゴチンッ!

 代わりに軽く頭突された。

「あっはっはっはっ、本当にハルトは押しに弱いなぁ」

 僕に頭突きをかましたオウスケは、隣の椅子に座って楽しそうに笑い出した。

 …………え?なに?からかわれた?

 とりあえず一発殴っといた。
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