上 下
88 / 117
第三章

14話 秘密

しおりを挟む
 耳飾り騒動の後、就寝の時間。

 今日の添い寝係はシャルだったんだけど……流石に遠慮させてもらった。

 最後の最後まで粘られたけど、今日だけは無理。

 あの雰囲気のまま添い寝をして無事で済む自信がない。

 なんとかシャルに納得してもらって、おやすみの挨拶をしようとしたところで……。

 おやすみのキスを待つシャルの様子がいつもと違う……と思う。

 僕と同じくらいの身長が有るシャルは、いつもはおでこへのキスを待つように少し膝をかがめてくれてるんだけど……。

 おでこが遠い。

 いつもの感覚でキスしようとすると、そこには……。

 いや、シャルがなに言いたいかよく分かるし、僕も望むところではあるんだけどね。

 そういうことはきちんと段階を踏まないとね?

 基本的にシャルにしたことに後悔はないんだけど、段階を踏むのをすっ飛ばしたのだけは不味かった。

 かと言って、ここらへんはきちんとリンとも話をしないといけないし……。

 本当に不味かった。

 背伸びをしてなんとかおでこにキスをする。

「お、おやすみなさい……」

「むー……」

 シャルは不満そうに少しむくれてるけど……。

「…………お、おやすみなさい、ハルト様」

 追加で頭を撫でていたらなんとか許してくれた。

 ………………むくれてたシャルが可愛かった。

 ……落ち着こう。



 久しぶりに一人でベッドに横になって、ふと疑問が頭に浮かぶ。

 思えばだいぶ『前』とは違う展開になっているけど、『ゲーム』として大丈夫なんだろうか?

 これ本当に10年後の『オープニング』にたどり着くんだろうか?

 このまま行くと10年後の勇者ユーキパーティーにはシャルとリンが混じってそうだし、その代わりにクライブくん他のこの村出身の仲間はいなくなりそうだ。

 彼らのうちの何人かはイベント時の重要キャラとして途中離脱するし、僕も『不死騎士』になってしまう。

 そこら辺はどういうことになるんだろう?

 普通に考えればそういうイベントは消えることになるんだけど……『ゲーム』ってそういうの許されるんだろうか?

 あまりにもシナリオが変わり過ぎたら、突然ブツンと『三週目』が始まったり、あるいは『二週目』のまま無理やり『修正』されたりするんだろうか?

 色々警戒はしておくとしても、こればっかりは僕にはどうなるか分からない。

 『シナリオ』を作っている『神』達次第だ。

「…………怖いけど、その時になってみないと分からないよなぁ」
 
「なぁにー?せんせえなんか怖いのー?」

 無意識の独り言に返事が返ってきた。

 気づけば左腕がプニっとしてスベっとして暖かくて気持ちいい。

「えっ!?ノゾミちゃん、どうしたのっ!?」

 いつの間にやらベッドの中にノゾミちゃんがいて、僕の左腕に抱きついていた。

 本当に僕は考え込んでいる時の子どもたちへの警戒心が死んでいる。
 
「シャルちゃんがね、今日代わってくれたの」

 な、なるほど、そういうことか。

「え、えっと、ユーキくんは?」

「んー?お兄ちゃんは、今日は来ないよー」

「え?そうなの?」

 ユーキくんとノゾミちゃんはセットってイメージがあったからちょっとびっくりした。

「うん。はじめは一緒に来るって言ってたんだけど、シャルちゃんとね、なんか『アカシ』?の話ししてたら急に「今日はノゾミ一人で行ってね」って言われちゃった」

「そ、そうなんだ……」

 耳飾りの『意味』については本当は黙っているつもりだったのを、シャルがうっかり漏らしちゃったらしいからユーキくんも恥ずかしくなったのかな?

 なんにしても助かった。

 今日はシャルともユーキくんともリンとも一緒に寝られる気がしない。

「せんせえ、怖い時はこうするといいんだよー」

 また考え込んでしまった僕にノゾミちゃんがそう言うと、僕の頭を全身で包み込むように抱きしめてくれる。

 むぅ……なるほど、顔中暖かくて柔らかくていい匂いですごい落ち着く。

 ノゾミちゃんの暖かさに包まれて急速に意識が暗闇に飲み……こまれ切る前に気づけた。

 これ、多分ノゾミちゃんもやって欲しいことなんだろうな。

 怖がってると思った僕にやってくれたということは、ノゾミちゃんにとって一番安心する寝方なんだろう。

 その割には今までこういう寝方はしたことなかったけど、いつもは僕の左右にユーキくんと並んで寝てるからなー。

 完全に独り占め状態専用の寝方なので、我慢しちゃう子のノゾミちゃんは言い出さなかったんだろう。

「ありがとう、ノゾミちゃん。
 それじゃ、次は僕の番ね」

「ふぇ……?」

 ノゾミちゃんも寝かけてたみたいて申し訳なかったけど、今度は逆に僕がノゾミちゃんを抱きかかえた。

 まだまだ小さなノゾミちゃんは、頭だけじゃなくって全身すっぽり僕の中に収まってしまう。

「うへへー……せんせえあったかぁい……」

 寝ぼけてるような怪しい声でそういったノゾミちゃんはひとしきり僕に体をこすりつけると、やがて安らかな寝息を立て始める。

 規則的で可愛らしい寝息といい、腕の中の暖かさといい…………これ僕もダメだ。

 急速に頭を支配する眠気に今度こそ耐えることなく、ノゾミちゃんと一緒に眠りについた。



 目が覚めると目の前にノゾミちゃんの顔があった。

 しかも、その可愛らしいまつげを一本一本数えられそうなくらい近い。

 このまま可愛い寝顔を眺め続けていたいけど……僕はいい加減起きる時間だ。

 窓から差し込み始めている朝の光を見ながら起きようとして、この寝方唯一の欠点に気づいた。

 ノゾミちゃんを抱え込んでるから僕が起きたらまず間違いなくノゾミちゃんも起きる。

 ど、どうしよう?

 リンは僕が起きてくるのをもう待っているだろうし、それがなくても日課はできるだけ続けておきたい。

 かと言って、ここまで気持ちよさそうに寝ているノゾミちゃんを起こすのは非常に忍びない……。

 ノゾミちゃんは寝てると言うのに満面の笑顔で、涎まで垂らして大変幸せそうな寝顔で熟睡してる。

 いっそのこと今日はサボるか、それともノゾミちゃんを魔法で眠らせるか。

 そんなことを考えている僕の前で、ノゾミちゃんのまぶたがピクピクと震えだした。

 どうやら悩んでいる僕の身じろぎかなんかで起こしてしまったようだ。

「…………おはよーごじゃーましゅ」

「おはようノゾミちゃん。
 起こしちゃってごめんね」

 起こしちゃったんなら仕方ないと、体を起こすとノゾミちゃんも起き上がってベッドの上にペタンと座る。

 だけど、まだ完全に寝ぼけている様子で半分以上夢の中にいるみたいだ。

「僕はこれからちょっと運動してくるから、ノゾミちゃんはもうちょっと寝ててね」

「ふぁい……」

 寝言に近い声で返事をしたノゾミちゃんだけど、横にならずに座ったままなにかを探すようにキョロキョロしている。

「えっと……ユーキくんなら部屋だよ?
 部屋帰る?」

 いつも一緒に寝ているユーキくんを探しているのかと思ったんだけど……半分あたりで半分外れだったみたいだ。

「……そだぁ……せんせえとだけだったんだぁ……」

 ノゾミちゃんはまだ溶けたままの声でそうつぶやくと、ニコーって嬉しそうに笑って顔を近づけてくる。

 え?

「ちゅっ」

 どこまで近づけてくんの?と思ったときには唇と唇が触れ合っていた。

「ノ、ノゾミちゃん?」

「うへへー」

 とんでもないことをしでかしたノゾミちゃんは、呆然としている僕を放って嬉しそうに笑いながら横になって頭までシーツに包まっている。

 こ、子供のすることなんだしあまり深く考える必要はない。

 キスは初めてだったけど、まあこれもいつものスキンシップの延長線上だ。

 それは分かっているんだけど、ちょっと……いや、かなりドキドキしてる。

 落ち着こう。

 一度深呼吸だ。

 深呼吸は全てを解決してくれる。

「えっと、それじゃ、僕は外に行ってくるね?」

「はーい」

 シーツに包まったまま動かなくなっていたので寝直したのかと思っていたけど、思ったよりしっかりした返事が返ってきた。

 そして、部屋から出ていこうとドアを開けたところで……。

「みんなには内緒ね?」

 ノゾミちゃんが小さな声で恥ずかしそうにそう言った。

 …………まさか最初に誰にも言えない秘密が出来てしまうのがノゾミちゃんだったとは……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後の黄昏

松竹梅
ファンタジー
伝説人間vs新人間の9本勝負! 1章だけ公開中。2章、3章は作成中

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

導きの暗黒魔導師

根上真気
ファンタジー
【地道に3サイト計70000PV達成!】ブラック企業勤めに疲れ果て退職し、起業したはいいものの失敗。公園で一人絶望する主人公、須夜埼行路(スヤザキユキミチ)。そんな彼の前に謎の女が現れ「承諾」を求める。うっかりその言葉を口走った須夜崎は、突如謎の光に包まれ異世界に転移されてしまう。そして異世界で暗黒魔導師となった須夜埼行路。一体なぜ異世界に飛ばされたのか?元の世界には戻れるのか?暗黒魔導師とは?勇者とは?魔王とは?さらに世界を取り巻く底知れぬ陰謀......果たして彼を待つ運命や如何に!?壮大な異世界ファンタジーが今ここに幕を開ける! 本作品は、別世界を舞台にした、魔法や勇者や魔物が出てくる、長編異世界ファンタジーです。 是非とも、気長にお付き合いくだされば幸いです。 そして、読んでくださった方が少しでも楽しんでいただけたなら、作者として幸甚の極みです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

エデンワールド〜退屈を紛らわせるために戦っていたら、勝手に英雄視されていた件〜

ラリックマ
ファンタジー
「簡単なあらすじ」 死んだら本当に死ぬ仮想世界で戦闘狂の主人公がもてはやされる話です。 「ちゃんとしたあらすじ」 西暦2022年。科学力の進歩により、人々は新たなるステージである仮想現実の世界に身を移していた。食事も必要ない。怪我や病気にもかからない。めんどくさいことは全てAIがやってくれる。 そんな楽園のような世界に生きる人々は、いつしか働くことを放棄し、怠け者ばかりになってしまっていた。 本作の主人公である三木彼方は、そんな仮想世界に嫌気がさしていた。AIが管理してくれる世界で、ただ何もせず娯楽のみに興じる人類はなぜ生きているのだろうと、自らの生きる意味を考えるようになる。 退屈な世界、何か生きがいは見つからないものかと考えていたそんなある日のこと。楽園であったはずの仮想世界は、始めて感情と自我を手に入れたAIによって支配されてしまう。 まるでゲームのような世界に形を変えられ、クリアしなくては元に戻さないとまで言われた人類は、恐怖し、絶望した。 しかし彼方だけは違った。崩れる退屈に高揚感を抱き、AIに世界を壊してくれたことを感謝をすると、彼は自らの退屈を紛らわせるため攻略を開始する。 ーーー 評価や感想をもらえると大変嬉しいです!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...