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第三章
6話 勇者認定
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勇者認定。
ここで言う『勇者』はユーキくんやノゾミちゃんのような『ゲーム』的な職業としての勇者ではない。
この村はもちろん、世界中のどんな集落にでも小さな神殿は有り、最低でも一人の神官は駐在していると言われている世界最大の宗教組織『聖教会』。
ちなみに、神殿がどの村にもあるという『設定』にされているのは、『ゲーム』的に言えば『セーブポイント』の役割を負っているからだ。
その世界的権威である聖教会が与える称号としての『勇者』が、今村長さんの言った勇者のことである。
というよりもステータス上の職業は僕にしか見れないので、この世界で勇者といえば聖教会から称号を与えられた者のことを言う。
聖教会は数百年前、魔王軍の動きが活発だった頃に出来た組織で、『魔物からの救済』を教えの柱にしている。
その『救済』にはもちろん魔物という脅威の排除も含まれていて、魔物の討伐において特別な功があったと認定された者に勇者の称号が与えられる。
その『認定』をするのが先程村長が呼び寄せたという『認定官』だ。
…………というのが『設定』なんだけど……。
いまいち実感としてどんな人か知らないんだよね、僕。
いや、ユーキくんも『聖都』に迫ったオーガロード率いる魔王軍を撃退した際に勇者認定されているんだけど……。
僕、その頃『不死騎士』やってたから設定以上の細かいところわからないんだよね。
今回の村の方の勇者認定については、あった事自体知りもしなかったし。
ただ、このレオンの勇者認定イベント自体は『前』もあったことだと思う。
村長からこの話が出てきて思い出したけど、『前』のレオンの村民に対する恨みつらみの中に「勇者になれなかった俺を馬鹿にしやがって」というものがあった……気がする。
正直、レオンの恨みつらみは「バカにされた」とか「女を取られた」とか「俺に逆らった」とか、そんな事だらけでいちいち全部覚えていない。
その記憶が正しいとしたら、『前』にも勇者認定イベントが有り……そして、レオンは勇者になれなかったのだろう。
その際の申請理由もゴブリン討伐だったはずだけど、今回は『前』の有志数十人による討伐じゃなくって、六人のパーティーによる討伐だからどうなるかな?
恨みつらみの一つとなって疫病を起こす遠因になることを考えると受かってほしい気もするし、舞台の上で超ドヤ顔をして女の子に手を振っている姿を見ると落ちてほしい気もする。
…………複雑な心境だ。
まあ、こうなっては妨害するわけにもいかないし、かと言って応援する義理はないし、なるようになるのを待とう。
それより、この認定官の派遣イベントを僕の方で有効利用できないだろうか?
ちょっと話は脱線するけど、先程、村長さんの話にあった魔王軍の進軍停止について。
これは村長さんが言ったような王国軍の反攻が開始されたからなどでは、決して無い。
なぜなら、現時点で王都はもう陥落していて、すでにこの国にはまともな軍組織は残っていないからだ。
今の魔王軍の侵攻停止は王都急襲の電撃作戦が成功したことで、一旦、軍と新領土の再編成をしているものに過ぎない。
だけど、あまりにも早く完璧に王都が包囲、陥落させられたため王国首脳は正式な使者を出すことが出来ず、王国の地方領主の情報は大混乱を極めていて王都陥落を掴めていない。
あまりにも王国の状況が酷すぎるけど、メタい話をすれば『ゲーム』の『シナリオ』の都合なんだろう。
『前』、僕が王都がすでに陥落していることを知ったのは、まだここから数カ月後。
もうしばらくすると、王都との連絡が絶たれたことにより王都が少なくとも包囲されているという確信を持った地方領主が王都救援軍を結成し、長い激戦の末それが敗れる。
その時になってようやく、王都は包囲どころかすでに陥落していたと判明するのだ。
この戦いで貴族の世代交代や権威失墜が進んでユーキくんたちのイベントに絡んでくることになることを考えると、ここらへんも『シナリオ』の都合なんだと思う。
王都陥落については、一応、僕もミハイルさんを通じて地方領主へ連絡をしてあるけど……僕と、というかヴァイシュゲールと親しい派閥の貴族は魔王軍侵攻で滅んでいるからなぁ。
これについても「僕を通じて序盤から貴族の助力を得られるとまずい」という『シナリオ』の都合なんだと思う。
ミハイルさんも結局は他国の人間だし、僕の連絡はなんの役にも立っていないと思われる。
そんな感じで王都周りのイベントについては半ば諦め気味で、シナリオ通りにしかならないかと思っていたんだけど……。
認定官から聖教会を通して地方領主に働きかけられないかな?
認定官自体、教会でも高位の役職らしいし、何より人の持つ能力を見抜く力を神に与えられているらしい。
仮にこれが僕がステータスを見るのと同じようなものだとしたら、ユーキくんとノゾミちゃんを勇者と見抜いてくれないだろうか?
そうなれば没落貴族の僕からの話とするより、勇者からの話として教会への話も通しやすいはずだ。
あー、でも、そうなるとこの年から二人に勇者としての重荷を背負わせることになるか……。
でも、逆に考えれば勇者としてしっかりとした待遇で育ててもらったほうが後々のために……。
悩みどころだ。
「先生、話し終わったみたいですよ」
考え事をしていたら、件のユーキくんに袖を引っ張られた。
本当だ、いつの間にか舞台の上ではレオンによる握手会が開かれている。
まあ、僕にとっては超ドヤりながら女の子と握手してるレオンを見せられるだけのなんの喜びもないイベントだな。
それより有意義なことに頭を使おう。
「ユーキくん、もっといいところに引越したい?」
とりあえず悩んでいる時は本人の意見も聞いてみよう。
「え?みんなと一緒ですか?」
「うーん、ノゾミちゃんは一緒だけどその他とは離れちゃうかなぁ?」
縁者として一緒に聖都にはいけるだろうけど、勇者二人とその他の生活はほとんど別になるだろう。
「それじゃ、イヤです。
ご主人さまのいないところはどんなところであれ、いいところではありません」
「そ、それは言いすぎじゃないかなぁ?」
とはいえ、ユーキくんがみんなと別れたくないと言うなら、ユーキくんをツテとするのは考えないでおこう。
「どこかに引っ越すんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
引っ越しかぁ……。
考えたことなかったけど、疫病を防いだ以上この村にいる理由が薄くなったのも確かなんだよなぁ。
クライブくんたちとは共に歩めなくなるけど、戦いなんかと関わらずに行きていく道があるならそれに越したことはないだろう。
「…………そっか……引っ越しかぁ……」
「その時には絶対ついていきますからね」
何気なく呟いたらユーキくんが即反応してきた。
「え?引っ越すの?どこ行くのー?」
「今度はどんなところだろうねー?」
ノゾミちゃんもアリスちゃんも一緒に行くことを微塵も疑っていない。
「海の見える小さい家でハルト様と……。
…………ああ……でも小さい家じゃ絶対部屋足りなくなる……」
シャル……?
「いや、本当に引っ越しとか考えてないから」
本当に考えてはいなかったけど、みんなと一緒なら住む所はどこでもいいやとは思った。
「さ、とりあえず家に帰ってお昼食べようか」
「「「「はーい」」」」
ゴブリン討伐の手柄持っていかれて少し気分落ちていたけど……。
子供たちの元気な返事を聞いて、元気出た。
ここで言う『勇者』はユーキくんやノゾミちゃんのような『ゲーム』的な職業としての勇者ではない。
この村はもちろん、世界中のどんな集落にでも小さな神殿は有り、最低でも一人の神官は駐在していると言われている世界最大の宗教組織『聖教会』。
ちなみに、神殿がどの村にもあるという『設定』にされているのは、『ゲーム』的に言えば『セーブポイント』の役割を負っているからだ。
その世界的権威である聖教会が与える称号としての『勇者』が、今村長さんの言った勇者のことである。
というよりもステータス上の職業は僕にしか見れないので、この世界で勇者といえば聖教会から称号を与えられた者のことを言う。
聖教会は数百年前、魔王軍の動きが活発だった頃に出来た組織で、『魔物からの救済』を教えの柱にしている。
その『救済』にはもちろん魔物という脅威の排除も含まれていて、魔物の討伐において特別な功があったと認定された者に勇者の称号が与えられる。
その『認定』をするのが先程村長が呼び寄せたという『認定官』だ。
…………というのが『設定』なんだけど……。
いまいち実感としてどんな人か知らないんだよね、僕。
いや、ユーキくんも『聖都』に迫ったオーガロード率いる魔王軍を撃退した際に勇者認定されているんだけど……。
僕、その頃『不死騎士』やってたから設定以上の細かいところわからないんだよね。
今回の村の方の勇者認定については、あった事自体知りもしなかったし。
ただ、このレオンの勇者認定イベント自体は『前』もあったことだと思う。
村長からこの話が出てきて思い出したけど、『前』のレオンの村民に対する恨みつらみの中に「勇者になれなかった俺を馬鹿にしやがって」というものがあった……気がする。
正直、レオンの恨みつらみは「バカにされた」とか「女を取られた」とか「俺に逆らった」とか、そんな事だらけでいちいち全部覚えていない。
その記憶が正しいとしたら、『前』にも勇者認定イベントが有り……そして、レオンは勇者になれなかったのだろう。
その際の申請理由もゴブリン討伐だったはずだけど、今回は『前』の有志数十人による討伐じゃなくって、六人のパーティーによる討伐だからどうなるかな?
恨みつらみの一つとなって疫病を起こす遠因になることを考えると受かってほしい気もするし、舞台の上で超ドヤ顔をして女の子に手を振っている姿を見ると落ちてほしい気もする。
…………複雑な心境だ。
まあ、こうなっては妨害するわけにもいかないし、かと言って応援する義理はないし、なるようになるのを待とう。
それより、この認定官の派遣イベントを僕の方で有効利用できないだろうか?
ちょっと話は脱線するけど、先程、村長さんの話にあった魔王軍の進軍停止について。
これは村長さんが言ったような王国軍の反攻が開始されたからなどでは、決して無い。
なぜなら、現時点で王都はもう陥落していて、すでにこの国にはまともな軍組織は残っていないからだ。
今の魔王軍の侵攻停止は王都急襲の電撃作戦が成功したことで、一旦、軍と新領土の再編成をしているものに過ぎない。
だけど、あまりにも早く完璧に王都が包囲、陥落させられたため王国首脳は正式な使者を出すことが出来ず、王国の地方領主の情報は大混乱を極めていて王都陥落を掴めていない。
あまりにも王国の状況が酷すぎるけど、メタい話をすれば『ゲーム』の『シナリオ』の都合なんだろう。
『前』、僕が王都がすでに陥落していることを知ったのは、まだここから数カ月後。
もうしばらくすると、王都との連絡が絶たれたことにより王都が少なくとも包囲されているという確信を持った地方領主が王都救援軍を結成し、長い激戦の末それが敗れる。
その時になってようやく、王都は包囲どころかすでに陥落していたと判明するのだ。
この戦いで貴族の世代交代や権威失墜が進んでユーキくんたちのイベントに絡んでくることになることを考えると、ここらへんも『シナリオ』の都合なんだと思う。
王都陥落については、一応、僕もミハイルさんを通じて地方領主へ連絡をしてあるけど……僕と、というかヴァイシュゲールと親しい派閥の貴族は魔王軍侵攻で滅んでいるからなぁ。
これについても「僕を通じて序盤から貴族の助力を得られるとまずい」という『シナリオ』の都合なんだと思う。
ミハイルさんも結局は他国の人間だし、僕の連絡はなんの役にも立っていないと思われる。
そんな感じで王都周りのイベントについては半ば諦め気味で、シナリオ通りにしかならないかと思っていたんだけど……。
認定官から聖教会を通して地方領主に働きかけられないかな?
認定官自体、教会でも高位の役職らしいし、何より人の持つ能力を見抜く力を神に与えられているらしい。
仮にこれが僕がステータスを見るのと同じようなものだとしたら、ユーキくんとノゾミちゃんを勇者と見抜いてくれないだろうか?
そうなれば没落貴族の僕からの話とするより、勇者からの話として教会への話も通しやすいはずだ。
あー、でも、そうなるとこの年から二人に勇者としての重荷を背負わせることになるか……。
でも、逆に考えれば勇者としてしっかりとした待遇で育ててもらったほうが後々のために……。
悩みどころだ。
「先生、話し終わったみたいですよ」
考え事をしていたら、件のユーキくんに袖を引っ張られた。
本当だ、いつの間にか舞台の上ではレオンによる握手会が開かれている。
まあ、僕にとっては超ドヤりながら女の子と握手してるレオンを見せられるだけのなんの喜びもないイベントだな。
それより有意義なことに頭を使おう。
「ユーキくん、もっといいところに引越したい?」
とりあえず悩んでいる時は本人の意見も聞いてみよう。
「え?みんなと一緒ですか?」
「うーん、ノゾミちゃんは一緒だけどその他とは離れちゃうかなぁ?」
縁者として一緒に聖都にはいけるだろうけど、勇者二人とその他の生活はほとんど別になるだろう。
「それじゃ、イヤです。
ご主人さまのいないところはどんなところであれ、いいところではありません」
「そ、それは言いすぎじゃないかなぁ?」
とはいえ、ユーキくんがみんなと別れたくないと言うなら、ユーキくんをツテとするのは考えないでおこう。
「どこかに引っ越すんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
引っ越しかぁ……。
考えたことなかったけど、疫病を防いだ以上この村にいる理由が薄くなったのも確かなんだよなぁ。
クライブくんたちとは共に歩めなくなるけど、戦いなんかと関わらずに行きていく道があるならそれに越したことはないだろう。
「…………そっか……引っ越しかぁ……」
「その時には絶対ついていきますからね」
何気なく呟いたらユーキくんが即反応してきた。
「え?引っ越すの?どこ行くのー?」
「今度はどんなところだろうねー?」
ノゾミちゃんもアリスちゃんも一緒に行くことを微塵も疑っていない。
「海の見える小さい家でハルト様と……。
…………ああ……でも小さい家じゃ絶対部屋足りなくなる……」
シャル……?
「いや、本当に引っ越しとか考えてないから」
本当に考えてはいなかったけど、みんなと一緒なら住む所はどこでもいいやとは思った。
「さ、とりあえず家に帰ってお昼食べようか」
「「「「はーい」」」」
ゴブリン討伐の手柄持っていかれて少し気分落ちていたけど……。
子供たちの元気な返事を聞いて、元気出た。
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