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第三章
5話 三人目の勇者
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普段は見ない盛装で舞台に上がった村長さんはゆったりと見回すようにして群衆が静まるのを待っている。
流石に長年村長をやっているだけあって、ここらへんの呼吸には慣れたもののようだ。
やがて舞台の上でもったいつけるように立つ村長さんの姿に群衆も注目し始めて、ざわめきも大人しくなってくる。
群衆があらかた静まり、今度は逆に「まだ話さないのか?」というざわめきが始まりかけたタイミングで村長さんが口を開く。
『皆さん、本日は四半期に一度の市の日でございます』
村長さんの言葉がまだ残るざわめきを押しつぶして広場に響く。
どうやら村長さんは拡声の魔法までかけてもらってきているようだ。
魔法によって音量を増やされた村長さんの声は市中心の広場だけじゃなく市全体にまで届きそうな勢いで、一番近くにいる人なんかはうるさいのではないかと思うほどだ。
『このようなめでたい日に、アルメン村村長として皆様に悪いお報せをしなければならないことが心苦しくなりません』
……悪い知らせ?
思いもよらぬ言葉にちょっと呆気にとられてしまった。
ゴブリン討伐の話をするんじゃなかったのか?
それなら『悪い話』などという言い方はしないはずだけど……。
広場に集まった人の中にもチラホラと不思議そうな顔をしている人がいる。
おそらく事前に村長からゴブリン討伐の話を聞いていた人たちだろう。
改めて見てみるとその中にホルツさんの姿もあった。
ホルツさん……村の幹部クラスの人でも村長の話は心当たりがないらしい。
『皆さん、落ち着いて聞いてください。
まず、早急に避難などが必要な状況でないことを明言いたします』
『避難』という物騒な言葉が村長さんの口から発せられ、群衆に動揺のざわめきが走り始める。
『先日、魔王軍の侵攻が開始された事は皆さんご存知かと思います。
その魔王軍ですが、とうとう王都に迫りつつあるとの話でございます』
続けて発せられた言葉を聞いて群衆のざわめきが増す。
なるほど、今日集まった行商人さんたちからとうとう村長さんも魔王軍侵攻について詳しい話を聞いたのか。
『皆さん、落ち着いてください。
王都に迫ってはおりましたが、魔王軍は現在、侵攻を停止しております。
おそらくは王国軍が反攻戦を始めているのかと思われます』
確かにこの時期魔王軍の侵攻は一旦停止していた。
ただし、それは王国軍が反攻を始めたからなどでは決して無い。
けどまあ、村長さんの話はまだ続きがあるみたいだし、それはとりあえず置いておこう。
『しかし、侵攻が止まったとはいえ、魔王軍の勢いは凄まじく、我が村に別荘があるという縁があったヴァイシュゲール領も敢え無く陥落してしまったそうでございます。
なんでも私も懇意にしていただいていた、ご当主様とお世継ぎ様は街を守るための犠牲になられたとか』
ふむ、ヴァイシュゲール陥落は伝わっているのか。
なお、父上と村長さんは挨拶くらいはしたことはあるけど決して懇意にはしていない。
『貴族の義務を守り領民のために散った誇り高きヴァイシュゲール家の方たちに哀悼の意を捧げさせていただきます』
……これ、僕への当てつけだと感じるのは僕の心が狭すぎるせいだろうか?
『さらに、侵攻そのものはなくとも魔王軍による危機は我が村にも迫っておりました。
すでにご存じの方も多いでしょうが、少し前より我が村の周辺でもゴブリンの目撃情報が入っております』
静まりかけていた群衆がまたざわめき出す。
『しかも、村周辺に現れたゴブリンたちの首領は、魔王軍随一の軍勢を誇るゴブリン・キングの側近と言われるゴブリン・チャンピオンの率いるものでした』
……いや、まあ、確かに数で言えばゴブリン族は魔王軍の一大勢力だけどさ。
チャンピオンもジェネラルのいない規模の巣だとキングの側近やってるけどさ……。
話を盛っていると言っていいのかどうか、難しいところだな。
とは言え、数百年に渡って魔王軍との接触がなく、魔物なんておとぎ話の世界の住民に近くなっていた村民たちにはそんな事分かるはずもない。
村長さんの話を聞いて群衆のざわめきがさらに激しくなる。
『しかしっ!』
群衆に軽いパニックが起こりかけたところで、村長さんの力強い一言が響き渡った。
『皆さん、ご安心くださいっ!
私は今、『率いるものでした』といいました。
そう過去形です。
恐るべき魔王軍の大幹部、魔王軍において一、二を争う猛者と言われるゴブリン・チャンピオンはこの通りすでに倒されております』
そう言うと村長さんは場を譲るように舞台の端による。
空いた場所に群衆の注目が集まり、そこに妙にきらびやかな格好をしたレオンが見覚えのある汚らしい袋を持って上がってきた。
レオンの後ろには、取り巻き達がなぜか僕が治したはずの怪我に包帯を巻き直して並んでいる。
そして、群衆の注目が十分に集まるのを待つように間を開けたあと、レオンが一瞬ちょっと嫌そうな顔をして袋の中から塩漬けにされたゴブリン・チャンピオンの首を取り出した。
『皆さんっ!これが我が村を脅かしていたゴブリン共の首領っ!
ゴブリン・チャンピオンの首ですっ!!』
レオンが掲げる首を見た群衆から悲鳴と……それ以上に圧倒的な歓声が上がった。
ミハイルさんから村長さんがチャンピオンの首を高値で買い取ったって話は聞いていたけど……こういう使い方をするとは。
こんな感じでレオンが首を掲げていると、レオンが討伐したように見えてくる。
『首領を失ったゴブリン共の巣も我が息子のレオンとその友人たちがすでに掃討を済ませておりますっ!!』
村長の言葉に、またも歓声が上がる。
どこからともなく『レオン』コールまで始まりだした。
たしかにこの前の村長さんとの話でゴブリンの巣討伐についてはレオンの手柄ってことになったけど……。
あの時からここまで計画していたんだろうか?
『それでは重い怪我を負いながらも村のためにゴブリンの巣討伐という偉業を成し遂げた勇者たちを紹介しましょうっ!!』
村長さんの言葉にまた群衆が沸き立つ。
『まずは、もはや我が息子と呼ぶのもはばかられる、ゴブリン・チャンピオンを首領とする巣の討伐という大偉業を成し遂げた英雄っ!!
ゴブリン討伐パーティーのリーダー、レオン・ジーグルズっ!!』
村長さんの紹介に合わせてレオンが手をふると男たちの歓声と、女たちの黄色い悲鳴が響き渡る。
むぅ……ジーナさんの子供だけあってレオンも顔はいいからこういう場面になると映えるな。
レオン続いて取り巻きたちを紹介する村長さんの声を半ば呆然と聞きながら思った。
完璧にしてやられたや。
いやはや、完全にゴブリン討伐の手柄を持っていかれてしまった。
もうこうなったら僕がなにをどう言っても、逆に僕がレオンの手柄を横取りしようとしているって思われるのが落ちだろう。
ちょっと離れたところにいるホルツさんも呆然とした顔をしている。
ゴブリンを討伐した者として大きな顔をする……とかってつもりはなかったけど、この手柄を元に村民との関係改善を進められたら……とは目論んでいたのに完全に潰れた。
まあ、ホルツさんたちとは親しくなれたし、これ以上高望みする必要もないか……。
……そう考えようとしても、流石にここまで僕達の存在を消されると悔しいな。
村長さんは事実を正確に語っていないだけで、嘘をついているわけではないのがたちが悪い。
僕が12歳の子供でしかないのも問題だ。
今更、「僕がチャンピオンと巣の討伐をしました」と名乗り出たところで、レオンと僕どっちが討伐を成し遂げられそうかと言われたら考えるまでもないだろう。
…………………………いや、結構悔しいな、これ。
えー、なんで、負けて戻ってきたレオンがでかい顔してんのー?
いや、そりゃ、レオンたちもかなり頑張ってたけどさ、負けは負けじゃん?
僕とアルバさん達がいなけりゃゴブリン討伐は出来なかったわけじゃん?
うっわーっ!
…………いやぁ、完敗だわ、これ。
舞台の上で超ドヤ顔をかましているレオンの顔をぶん殴りに行きたい。
まあ、今更そんなわけにはいかないので、負けは負けと認めよう。
ケンカが強いだけではどうにもならないのが世界なんだ……うん。
気持ちを改めよう。
なんとか復活しようとしている僕の耳に村長さんの言葉が入ってくる。
『この度の功績を元に私はレオンとその仲間たちに対して、勇者認定の申請、をすることといたしました。
申請自体はすでに受理されておりまして、近いうちに認定官様がこの村にやってくることになっております。
その際には歓迎の宴を催しますので、皆様もどうか奮ってご参加くださいっ!!』
村長さんの言葉に続いて、また大きな歓声が上がった。
流石に長年村長をやっているだけあって、ここらへんの呼吸には慣れたもののようだ。
やがて舞台の上でもったいつけるように立つ村長さんの姿に群衆も注目し始めて、ざわめきも大人しくなってくる。
群衆があらかた静まり、今度は逆に「まだ話さないのか?」というざわめきが始まりかけたタイミングで村長さんが口を開く。
『皆さん、本日は四半期に一度の市の日でございます』
村長さんの言葉がまだ残るざわめきを押しつぶして広場に響く。
どうやら村長さんは拡声の魔法までかけてもらってきているようだ。
魔法によって音量を増やされた村長さんの声は市中心の広場だけじゃなく市全体にまで届きそうな勢いで、一番近くにいる人なんかはうるさいのではないかと思うほどだ。
『このようなめでたい日に、アルメン村村長として皆様に悪いお報せをしなければならないことが心苦しくなりません』
……悪い知らせ?
思いもよらぬ言葉にちょっと呆気にとられてしまった。
ゴブリン討伐の話をするんじゃなかったのか?
それなら『悪い話』などという言い方はしないはずだけど……。
広場に集まった人の中にもチラホラと不思議そうな顔をしている人がいる。
おそらく事前に村長からゴブリン討伐の話を聞いていた人たちだろう。
改めて見てみるとその中にホルツさんの姿もあった。
ホルツさん……村の幹部クラスの人でも村長の話は心当たりがないらしい。
『皆さん、落ち着いて聞いてください。
まず、早急に避難などが必要な状況でないことを明言いたします』
『避難』という物騒な言葉が村長さんの口から発せられ、群衆に動揺のざわめきが走り始める。
『先日、魔王軍の侵攻が開始された事は皆さんご存知かと思います。
その魔王軍ですが、とうとう王都に迫りつつあるとの話でございます』
続けて発せられた言葉を聞いて群衆のざわめきが増す。
なるほど、今日集まった行商人さんたちからとうとう村長さんも魔王軍侵攻について詳しい話を聞いたのか。
『皆さん、落ち着いてください。
王都に迫ってはおりましたが、魔王軍は現在、侵攻を停止しております。
おそらくは王国軍が反攻戦を始めているのかと思われます』
確かにこの時期魔王軍の侵攻は一旦停止していた。
ただし、それは王国軍が反攻を始めたからなどでは決して無い。
けどまあ、村長さんの話はまだ続きがあるみたいだし、それはとりあえず置いておこう。
『しかし、侵攻が止まったとはいえ、魔王軍の勢いは凄まじく、我が村に別荘があるという縁があったヴァイシュゲール領も敢え無く陥落してしまったそうでございます。
なんでも私も懇意にしていただいていた、ご当主様とお世継ぎ様は街を守るための犠牲になられたとか』
ふむ、ヴァイシュゲール陥落は伝わっているのか。
なお、父上と村長さんは挨拶くらいはしたことはあるけど決して懇意にはしていない。
『貴族の義務を守り領民のために散った誇り高きヴァイシュゲール家の方たちに哀悼の意を捧げさせていただきます』
……これ、僕への当てつけだと感じるのは僕の心が狭すぎるせいだろうか?
『さらに、侵攻そのものはなくとも魔王軍による危機は我が村にも迫っておりました。
すでにご存じの方も多いでしょうが、少し前より我が村の周辺でもゴブリンの目撃情報が入っております』
静まりかけていた群衆がまたざわめき出す。
『しかも、村周辺に現れたゴブリンたちの首領は、魔王軍随一の軍勢を誇るゴブリン・キングの側近と言われるゴブリン・チャンピオンの率いるものでした』
……いや、まあ、確かに数で言えばゴブリン族は魔王軍の一大勢力だけどさ。
チャンピオンもジェネラルのいない規模の巣だとキングの側近やってるけどさ……。
話を盛っていると言っていいのかどうか、難しいところだな。
とは言え、数百年に渡って魔王軍との接触がなく、魔物なんておとぎ話の世界の住民に近くなっていた村民たちにはそんな事分かるはずもない。
村長さんの話を聞いて群衆のざわめきがさらに激しくなる。
『しかしっ!』
群衆に軽いパニックが起こりかけたところで、村長さんの力強い一言が響き渡った。
『皆さん、ご安心くださいっ!
私は今、『率いるものでした』といいました。
そう過去形です。
恐るべき魔王軍の大幹部、魔王軍において一、二を争う猛者と言われるゴブリン・チャンピオンはこの通りすでに倒されております』
そう言うと村長さんは場を譲るように舞台の端による。
空いた場所に群衆の注目が集まり、そこに妙にきらびやかな格好をしたレオンが見覚えのある汚らしい袋を持って上がってきた。
レオンの後ろには、取り巻き達がなぜか僕が治したはずの怪我に包帯を巻き直して並んでいる。
そして、群衆の注目が十分に集まるのを待つように間を開けたあと、レオンが一瞬ちょっと嫌そうな顔をして袋の中から塩漬けにされたゴブリン・チャンピオンの首を取り出した。
『皆さんっ!これが我が村を脅かしていたゴブリン共の首領っ!
ゴブリン・チャンピオンの首ですっ!!』
レオンが掲げる首を見た群衆から悲鳴と……それ以上に圧倒的な歓声が上がった。
ミハイルさんから村長さんがチャンピオンの首を高値で買い取ったって話は聞いていたけど……こういう使い方をするとは。
こんな感じでレオンが首を掲げていると、レオンが討伐したように見えてくる。
『首領を失ったゴブリン共の巣も我が息子のレオンとその友人たちがすでに掃討を済ませておりますっ!!』
村長の言葉に、またも歓声が上がる。
どこからともなく『レオン』コールまで始まりだした。
たしかにこの前の村長さんとの話でゴブリンの巣討伐についてはレオンの手柄ってことになったけど……。
あの時からここまで計画していたんだろうか?
『それでは重い怪我を負いながらも村のためにゴブリンの巣討伐という偉業を成し遂げた勇者たちを紹介しましょうっ!!』
村長さんの言葉にまた群衆が沸き立つ。
『まずは、もはや我が息子と呼ぶのもはばかられる、ゴブリン・チャンピオンを首領とする巣の討伐という大偉業を成し遂げた英雄っ!!
ゴブリン討伐パーティーのリーダー、レオン・ジーグルズっ!!』
村長さんの紹介に合わせてレオンが手をふると男たちの歓声と、女たちの黄色い悲鳴が響き渡る。
むぅ……ジーナさんの子供だけあってレオンも顔はいいからこういう場面になると映えるな。
レオン続いて取り巻きたちを紹介する村長さんの声を半ば呆然と聞きながら思った。
完璧にしてやられたや。
いやはや、完全にゴブリン討伐の手柄を持っていかれてしまった。
もうこうなったら僕がなにをどう言っても、逆に僕がレオンの手柄を横取りしようとしているって思われるのが落ちだろう。
ちょっと離れたところにいるホルツさんも呆然とした顔をしている。
ゴブリンを討伐した者として大きな顔をする……とかってつもりはなかったけど、この手柄を元に村民との関係改善を進められたら……とは目論んでいたのに完全に潰れた。
まあ、ホルツさんたちとは親しくなれたし、これ以上高望みする必要もないか……。
……そう考えようとしても、流石にここまで僕達の存在を消されると悔しいな。
村長さんは事実を正確に語っていないだけで、嘘をついているわけではないのがたちが悪い。
僕が12歳の子供でしかないのも問題だ。
今更、「僕がチャンピオンと巣の討伐をしました」と名乗り出たところで、レオンと僕どっちが討伐を成し遂げられそうかと言われたら考えるまでもないだろう。
…………………………いや、結構悔しいな、これ。
えー、なんで、負けて戻ってきたレオンがでかい顔してんのー?
いや、そりゃ、レオンたちもかなり頑張ってたけどさ、負けは負けじゃん?
僕とアルバさん達がいなけりゃゴブリン討伐は出来なかったわけじゃん?
うっわーっ!
…………いやぁ、完敗だわ、これ。
舞台の上で超ドヤ顔をかましているレオンの顔をぶん殴りに行きたい。
まあ、今更そんなわけにはいかないので、負けは負けと認めよう。
ケンカが強いだけではどうにもならないのが世界なんだ……うん。
気持ちを改めよう。
なんとか復活しようとしている僕の耳に村長さんの言葉が入ってくる。
『この度の功績を元に私はレオンとその仲間たちに対して、勇者認定の申請、をすることといたしました。
申請自体はすでに受理されておりまして、近いうちに認定官様がこの村にやってくることになっております。
その際には歓迎の宴を催しますので、皆様もどうか奮ってご参加くださいっ!!』
村長さんの言葉に続いて、また大きな歓声が上がった。
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