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第二章 始めてのクエスト

40話 尻尾

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 お昼を食べ終わって午後の運動の時間。

 運動の時間と言っても身体の出来上がっていない子供たちはまだ本格的なトレーニングは出来ない。

 だから午後は午前と逆で、運動と称してみんなでひたすら遊んでいる。

 今もちょっと離れたところで、リンとユーキくんの妙に機嫌のいい二人組が組手のようなものをしてじゃれ合っている。

 アリスちゃんがちょっと羨ましそうに見ていたけど、申し訳ないけどアリスちゃん相手だとユーキくんは『遊んであげる』立場になっちゃうからなー。

 たまにはユーキくんも思う存分遊ばせてあげたい。

 ユーキくんとリンは運動能力的にも同じくらいだから二人ともすごい楽しそうにじゃれ合っている。

 …………よく考えると、人間でいうと10歳過ぎと思われるゴブリン・クイーンと互角に遊べる5歳児ってすごいな。

 流石は勇者。

 なかなか高レベルなじゃれ合いをしている二人をよそに、僕とシャル、ノゾミちゃん、アリスちゃんは特別ルールのしっぽ鬼をしていた。

 しっぽ鬼というのはお尻に尻尾を模した紐をつけてやる鬼ごっこで、この尻尾を取られたら負けというルールだ。

 他にも尻尾が地面についた子も負けという、走り回ることを強制される地味にきついルールもあるんだけど今回はそれはなしの特別ルールになっている。

 その代わり今回は僕と他のみんなでの対戦形式となっている。

 さらに僕への縛りとして『走るの禁止』『右手使うの禁止』というのが追加されている。

「うううぅ……近寄れないぃ……」

 近づいてきていたアリスちゃんが、僕に左手を向けられただけで立ち止まる。

「え、ええええいっ!」

 アリスちゃんなりに隙を見つけたのか、それともヤケになったのか、まっすぐ向かってくるアリスちゃんを伸ばした手で絡め取って抱きすくめる。

「きゃあっ!?」
 
 そのまま左手を伸ばしてアリスちゃんのお尻から垂れてる尻尾を引っ張った。

「あううぅぅ……またダメだったぁ……」

「やっぱり、あと一人になっちゃうとどうしようも無いですね……」

「せんせえー、もういっかーいっ!」

 全滅してしまった三人が悔しそうにしている。

「良いけど、休憩は入れなくて大丈夫?」

「え、えっと、相談タイムを含めてちょっと休憩させてください」

「はいよー」

 三人が丸くなって真剣な顔で相談しているのを見て、ほっこりした気分になる。

 ちょっと離れたところで、滑ったか転がされたかしたらしいユーキくんをリンがニコニコと引っ張り上げている。

 引っ張り上げられたユーキくんもニコニコと笑ってる。
 
 ああ……ここは楽園か……もう子供たち見てるだけで癒やされる……。

「ぎゃぎゃっ」

 ぼーっと子供たちを見ていたらギルゥさんがタオルを差し出してくれた。

 確かにだんだん暑くなってくる時期なのもあって、ちょっと汗をかいていた。

「ありがとうございます」

 お礼を言って受け取ると、ギルゥさんもニッコリと笑ってくれる。

 ギルゥさんはそのまま三人にもタオルを渡しに歩いていった。

 タオルを受け取った子供たちが笑顔でギルゥさんにお礼をしている。

 ギルゥさんもそれに笑顔を返している。

 …………うん、やっぱりここは楽園だ。

 自分の手が血塗られていることだけが悲しかった。



「せんせえー、始めるよーっ!」

「おねがいしまーす」

「が、頑張りますっ!」

 相談が終わったらしい三人が僕を取り囲むように散開する。

 今まではみんなひたすら走って僕に向かってきてたんだけど……。

 歩くことしか出来ない僕は囲まれているせいでほとんど動けなくなってしまった。

 これって鬼ごっこじゃないような……とは思うけど、みんなが頑張って考えた結果だ、思う存分試してもらおう。

 さて、そういうことなら、こっちはこっちで本気で対応させてもらうとしよう。

 とりあえず、シャルを真正面に捉えて顔を見つめる。

「えっ?……えっ?……あ、あぅ……そ、そんなに見ないでくださいぃ……」

 シャルの動きへの警戒というのももちろんだけど、恥ずかしがり屋のシャルはじっと見つめるだけで相当動きが鈍る。

 別に運動が苦手な訳では無いシャルだけど、この三人の中では一番おっとりしているのでこれでだいたい封殺できる。

「あうぅぅぅ……先生、それ卑怯ー」

 左に回っているアリスちゃんには手を向けて牽制する。

 半分ハッタリだけど、今までさんざんこの左手で絡め取られているので、これでアリスちゃんも警戒して動きを制限されたはずだ。

 あとはノゾミちゃんだけど……。

 実はこの三人の中では1番年下のノゾミちゃんが1番すばしっこい。

 体の小ささもあって動きがとらえづらくてヒヤヒヤさせられることがよくあった。

 ノゾミちゃん本人も動けている自覚があるのか、結構アグレッシブに攻めてくる。

 ……単に楽しくなってるだけかもしれないけど。

 まあ、なんせ、こうやってノゾミちゃんだけ少し対応を甘くしておけば……。

「せんせえ覚悟おおおぉっ!!!」

 ちょっと物騒な雄叫びを上げながらノゾミちゃんが突っ込んでくる。

 こうやって乗ってくれる。

 勢いよく突っ込んでくるノゾミちゃんの身体の下に肩を入れて……。

「…………あえええぇええぇぇっ!?」

 勢いをそのまま使ってノゾミちゃんを空高く跳ね上げた。

 落ちてくるノゾミちゃんを抱きとめて尻尾を取る。

「大丈夫?怖くなかった?」

 ノゾミちゃんがポカーンとした顔のまま固まってしまっていて、少し心配になる。

 ちょっと跳ね上げて抱きかかえるだけのつもりだったのに、ノゾミちゃんの体が軽くて想定以上に高く飛んでしまった。

 怖い思いさせちゃったかな?

「…………ノゾミ空飛んだっ!!!」

 心配してノゾミちゃんの顔を覗き込んでいたら、我に返ったノゾミちゃんが満面の笑顔で抱きついてきた。

「すごいっ!せんせえすごいっ!!ノゾミ飛んじゃったっ!!!」

 テンション上がっちゃったらしいノゾミちゃんが僕に抱かれたまま首に抱きついてくる。

「ノ、ノゾミちゃん、落ち着いて落ち着いて」

 あんまり暴れると落ちちゃうから。

「先生、尻尾とーったっ!」

 慌てている僕の耳に嬉しそうなアリスちゃんの声が入ってきた。

「あ」

 そーっと近づいてきてたアリスちゃんに尻尾取られてた。



「すごーいっ!たかーいっ♪」

 僕に天高く跳ね上げられたノゾミちゃんが最大効果で掛けた《軟落下》の効果で羽のようにゆっくりと落ちてくる。

「先生っ!次私っ!」

「はいはい、それじゃ手の上に乗ってねー」

「はーいっ♪」

 僕の合わせた両手の上にアリスちゃんが右足を乗せる。

「それじゃ、いち、にのさん……で、右足でジャンプしてねー」

「はーい、分かりましたー♪」

「それじゃいくよー、いち、にの……さんっ!」

 掛け声に合わせてジャンプするアリスちゃんの足を思いっきり跳ね上げる。

「ひゃああああああぁぁああぁぁっ♪」
 
 ポーンという音が聞こえそうなくらい高々とアリスちゃんが楽しそうな声とともに飛んでいく。

 そして、最高度まで達すると《軟落下》の効果でゆっくりと落ちてくる。

「わあああああ♪きーもちいー♪」

 結構高く上がっているのにノゾミちゃんもアリスちゃんもただただ楽しそうだ。

「あ、あの……つ、次は、わ、私も、お、お願いできますか?」

 二人を見上げて落ちてくるのを待っていたら、シャルが顔を赤くして頼んできた。
 
「えっ!?シャルもっ!?」

「だ、だめですか……?」

「い、いや、全然構わないけど……怖くないの?」

 ほんとかなりの高さまで飛ぶんだけど……。

「も、もしものときも、せ、先生が、う、受け止めてくれますから……」

 そう恥ずかしそうに言うシャル。

 まあ、それだけ信頼してくれているのは嬉しい。

「それじゃ……《軟落下》。
 はい、二人みたいに手に足をかけてね」

「は、はい……」

「それじゃ、いち、にのさんでいくよ。
 いち、にの……さんっ!!」

「きゃああああああぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!」

 シャルの絹を裂くような声が響くけど……実に楽しそうな悲鳴だ。

 本当に良く怖くないなぁ。

「先生っ!すごいですっ!あんなに遠くまで見えるっ!!」

 シャルの楽しそうな声に苦笑しながら上を見上げて……慌てて地面を向いた。

 …………シャル、スカートなの忘れてた……。

「先生ー!?見てっ!見てくださいっ!私飛んでますよっ!!」

 ごめんなさい……見れません……。
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