上 下
72 / 117
第二章 始めてのクエスト

39話 才能

しおりを挟む
 結局、リンに『真実』を教えることはできなかった。

 僕に出来たのは軽く引きつった笑いを浮かべながら「で、出来てると良いね」と言う事だけだった。

「ハイデスっ!」

 僕の様子に気づかず嬉しそうな様子で優しくお腹を撫で続けるリンを見て、言葉選びを間違ったことに気づく。

 ほ、本心ではあるので思わず口から出てしまった……。

 リンに期待をもたせるだけになってしまって、申し訳ない。

 かと言ってきちんと説明する度胸も覚悟も僕にはなくて、曖昧に笑いながらリンを朝の訓練に誘った。



 筋トレのあとのいつものリンとの軽い組手。

 繰り出される拳をかわして、そのまま流れるような動きで放たれる蹴りを受け止める。

 その硬直を狙って放たれるもう一撃をかわして、再び顔を狙ってくる拳を払い、死角から襲いかかる一撃を剣で薙ぎ……と、見えない攻撃に対応したところで僕のみぞおちに軽い衝撃が走る。

 軽くとは言えみぞおちを叩かれて息をつまらしながら視線を下げると、リンの拳が突き刺さっていた。

「けほっ……参りました……」

 一歩下がって負けを認めて両手を上げる。

「ヤット 王、ヒトツ カチ デス」

 嬉しそうに笑うリンがすごく可愛い。

 思わず抱きしめそうになって、ギルゥさんが離れて見ていることを思い出して踏みこらえる。

 いけないいけない、ちゃんと気を引き締めないと。

 人目のあるところでリンとイチャイチャするわけにはいかない。

 そういうのは人間とゴブリンがもっと対等に付き合える関係になるまでお預けだ。

「王、ウゴキ ヘン デス。
 ダイジョブ?」

 少し心配そうに言うリンに「えっ、不届きなこと考えてるの見破られたっ!?」と少し焦るけど、これ違うな。

「あー、うん、リンの必殺技になんとか対応できないかなーって」

 攻撃の合間に有りもしない攻撃に対応してるんだからそりゃバレるか。

 昨日見せてもらって以来、暇があれば対応方法を考えていたなんて恥ずかしくて言えない。

「アー」

 リンも困った顔をしてしまっている。

「いや、ごめん、なんかやりたくなっちゃっただけで、リンを倒そうとしてるとかじゃなくてね?」

 ……いや、倒そうとはしているのか?

 でも、本当にそんな剣呑な話じゃなくって。

 アタフタしてしまっている僕に。リンが困った顔のままあっさりと口を開く。

「ヒッサツワザ、マホウ ダイジ デス。
 マホウ サキ ケス スルデス」

 …………あ、そっか。

 避け受ける事ばかり考えていたけど、体術のつなぎに放たれているのは攻撃魔法だ。

 こちらから先に潰してしまえば、もうつなぎは消えてなくなる。

 7連撃というより真正面から同時にかかってくる4人組と考えるべきなのか。

「リ、リンっ!」

「王、タタカウ タメス デスカ?」

 突破口を見出して顔を輝かせる僕に、リンがやれやれといった感じの笑顔を向ける。

 ごめん、やりたいですっ!

 勢いよくウンウンとうなずく僕にリンは仕草でまでやれやれとやったあと、少し離れて身構える。

「アタル イタイ デス」

 そう前置きしたリンが表情を引き締めて口を開く。

「ぎゃるるぅぎゃっぎゃるっぎゃっぎゃぎゃろぉうっ!」

 そして一息に魔法を励起すると、リンの周りに攻撃魔法が舞い始める。

 ……溜めなくほぼ同時に三重励起とかできるんだ……。

 今度は隠しているつもりはなかったんだろうけど、リンがシレッとやったことに度肝を抜かれた。

 リンの、クイーンの底知れなさを知って肌が粟立つ気がする。

 やばい、テンション上がってきたっ!

 いくらボコボコにされても、笑顔で向かってくる僕にリンが軽く引いてた。



 朝の運動の後、みんなと朝食を摂って、午前中の遊びの時間。

 遊びの時間と言っても、子供たちにとって僕と一緒にやっていればなんでも遊び判定らしい。

 基本的に真面目な子たちなので午前中は何をやっても半分勉強の時間みたいなものになっている。

 一番遊びらしいのが人形作りだけど、これも裁縫の練習とも言えてしまう。

 なにかもっとおもちゃとかあればまた違うのかなぁ。

 屋敷にあるのは記念に取ってあった僕のお古だけなので、大したものがないんだよなぁ。

 そう思いながら、今日はみんなに魔法を教えている。

 筋トレと違って何歳からやってもいいので、《小治癒》以外にも危なくない魔法、いわゆる生活魔法と呼ばれるようなものを少しずつ教えている。

「あの……先生、また魔法の構築式が分からなくなっちゃって……。
 もう一度教えてもらってもいいですか?」

 たらいに張った水に手を付けて《加熱》の魔法の練習をしていたユーキくんが少し申し訳無さそうに声をかけてくる。

 《加熱》の魔法はざっくり言えば触れた場所を熱する魔法で、水をお湯にするときなんかによく使われる。

 かなり簡単な部類の魔法で、魔力さえあれば火系統の素質がなくても使える程度の魔法なんだけど、どうもユーキくんは魔法の構築式の理解が苦手みたいだ。

 《加熱》に限らずどんな魔法でも構築の段階で必ず詰まる。

 一度理解出来るようになってしまえばそこから先は問題ないんだけど、たまに構築式のところから教え直すことすらあった。

 『前』はこんな事なかったどころか、なんでもスムーズに習得する天才肌だったのになぁ?

 まあ、もうちょっと成長すれば勘をつかめるようになるのかもしれない。

 ものすごく、まるでわがままで僕の手を煩わせているかのように申し訳無さそうにしているユーキくんの頭を優しく撫でる。

 そこまで申し訳無さそうにしなくてもいいよという気持ちを込めて、念入りに。

「よし、それじゃ、もう一度見本見せるからよーく見ててね。
 五歳で魔法使えてるだけですごいんだから、ゆっくり落ち着いてね」

「は、はい……」

 少し緊張した様子のユーキくんに優しく笑いかけてから、後ろから抱え込むように手を回して、一緒に触媒の小さな銀の杖を握る。

「大丈夫、何度でも教えるからそんなに固くならないで」

「は、はい……先生……」

 身体を固くしているユーキくんの緊張を解こうと耳元で優しくささやく。

 体から力が抜けて、ちょっとフニャッと僕に背中を預けてきたところで重ねた手を通して魔力を流す。

「んっ……」

 魔力を通した瞬間にユーキくんがピクリと軽く体を震わせた。

 魔力の感度は良いんだよなぁ。

 妹のノゾミちゃんもそうだけど、ここまで感度がいいと魔力の流れにも敏感なはずなんだけど……。

 それこそ本当に一瞬で魔力の構築式を理解してしまうノゾミちゃんとユーキくんの差はなんなんだろう?

「…………んっ…………っ……」

 不思議に思いながら分かりやすいようにゆっくりと魔力を流し続けていると、ユーキくんが小さく声を漏らしているのに気づいた。

 ……そう言えば、構築式の見本を見せている時はいつもこんな感じだったな。

 もしかして……。

「ユーキくん、もしかしてくすぐったい?」

 昔フランツに聞いたことがある。

 魔力の適性が高い人は魔力の流れをくすぐったく感じることもあるんだそうだ。

「えっ!?あ、は、はいっ!じ、実はそうなんですっ!」

 ちょっと慌てた様子のユーキくんが不思議だけど、なるほどこれで納得がいった。

 くすぐったくって魔法の構築式に集中しきれないのか。

「そっかぁ……それはどうしたもんかなぁ……」

「あの……す、すみません……」

 少し困った顔をしてしまった僕に、ユーキくんが必要以上に申し訳無さそうな顔をする。

 いやいや、そんな、僕の勘違いに便乗しようとしているのを申し訳なく思うような顔までしなくてもいいのに。

「こればっかりは体質というか才能というか……まあ、どうしようもない問題だからね。
 とりあえず、構築の練習より魔力の流れに慣れるところから始めてみよう」

「は、はい、ありがとうございます、先生」

「それじゃ、ゆっくり、ゆっくり流していくから、我慢できなくなったら言ってね?」

「は、はい……」

 少し緊張した様子のユーキくんの手を握り直して、言葉通りゆっくりゆっくりと、優しく魔力を流していく。

「んっ…………っ……んぅっ…………ぁっ…………んんっ……」
 
 やっぱりくすぐったいみたいで、ユーキくんはときおり声を漏らして軽くピクピク体を震わせている。

「大丈夫?ユーキくん。
 まだ頑張れそう?」

 必死でくすぐったさをこらえる様子にちょっと心配になっちゃって、後ろから耳元に優しく問いかける。

「……あぅぅ……だ、大丈夫ですぅ、ご主人さまぁ……」

「そっか、それならもう少しだけ頑張ってみようか」

「はいぃ…………ぁうぅぅ……」

 ユーキくんの剣はもちろん、魔法もパーティーの戦力の一つだったからな。

 申し訳ないけど、頑張って慣れてもらおう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

処理中です...