二周目貴族の奮闘記 ~シナリオスタート前にハーレム展開になっているんだけどなぜだろう?~

日々熟々

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第二章 始めてのクエスト

34話 困ったときのフランツ

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 香辛料は交易品として人気の品物だ。

 その理由はなんといっても、他の品目と比べ物にならないほど小さく軽く、そして高いからだ。

 そんな、小さくて軽いものだったら……か細いルートであっても細々と交易をすることは可能ではないだろうか?

 交易をすることで、お互いに利益を得られる関係ができればそれを元に友好も…………。

 まあ、こんなものは夢想なのは分かっている。

 交易以前に、人と魔物はお互いに相手を理解することなんて出来ないんだから。

 それが常識だ。

 そんなことを考えながら、楽しそうに話をしている子供たちとリンたちを見ていた。

 常識なんて案外なんとでもなるのかも知れない。



「ごめん、急で悪いんたけど、ちょっとリンと一緒に外に出てくるね。
 もしかしたら夜遅くまで帰ってこないかもしれないけど、今日中には帰ってくるから」

「はい、分かりました。
 僕たちはお留守番してるんで安心してくださいね」

 そういうユーキくんを始めとして、子供たちはみんなニコニコと笑ってくれている。

 ユーキくんの後ろの三人は「お人形作りの続きやろうねー」とか話している。

「あ、あの、理由は……」

 もちろん説明するつもりだったけど、ここまで無条件で許可が出るとは思わなかった。

 もしかして、僕の行動には逆らってはいけないとか思われてしまっているんだろうか?

「リンを連れて行くって言うことは、ゴブリンさんと話ししに行くんですよね?
 そんなご主人さまで、僕たち嬉しいです」

 僕の心配なんて飛び越えるレベルでいい子たちなだけだった。

 やばい泣きそう。

「あ、あの……帰ってきたらいっぱい遊ぼうね」

「はいっ♪」
 
 この子達はなんとしても幸せにしなければ。



 このあと、僕が出かけるからギルゥさんに鎖をつけさせてもらうってなった時、みんなにすごい怒られた。

 あのね?念のためでね?

 はい……はい……おっしゃるとおりです……。

 でもね、こればっかりはね?

 リンとギルゥさんまで説得に回ってくれて、なんとか納得してくれた。


 
 リンと一緒に森の中を進む。

 目的地は見逃したゴブリン母娘がいる辺りだ。

「王、ナニ スル イク デス?」

「んー、この前逃したゴブリンのうち二人がさ、どうやら少し離れたところに住み着いたみたいなんだよね」

 結局、母娘は一箇所にとどまったまま大きく動く気配がない。

 片方を残してもう片方が離れても、夜には帰ってくるのでそこに定住することに決めたと見て間違いないと思う。

 ただ……。

「ただ、そこはちょっと村と近すぎるからもうちょっと移動してもらえないものか話しに行こうと思ってね」

 親子がいる所はギリギリとは言え村の生活圏の中だった。

 普通の村人はそこまでいかないだろうけど、猟師や木こりの誰かがなにかの拍子で遭遇するかもしれない。

 僕の返事を聞いたリンが僕の腕にしがみついてくる。

「な、なに?」

 リンは顔を腕に押し付けるようにしているのでどんな表情をしているのか分からない。

 ちょっと顔が熱くなっている気がするけど……。

 熱があるとかって感じじゃないし、むしろ心地よさそうな雰囲気だったので好きにさせることにした。



 目的の場所に近づいたときにはもうだいぶ日が高く昇っていた。

 まだお昼には時間があるけど、念のため先に食事を済ませることにして、リンと二人倒木に腰を下ろすと持ってきていた軽食を食べ始めた。

 子供たちが作ってくれた肉が挟まれたパンは、さっそく胡椒が効かされていていつもより美味しい気がする。

 肉が大好きな上に胡椒も好きらしいリンなら大喜びでかじりついていそうなものだけど……。

 なんか僕の隣にピッタリくっついて座って、僕の肩にもたれかかりながら静かにパンを食べている。

 いつになく甘い……甘すぎる雰囲気に戸惑いが隠せない。

 いや、リンが……その……僕に……その……こ、好意を持っていてくれているらしい気がしなくもないような気がするのには気づいていたけど……なんか今日すごくない?

 どうしていいか分からず横目でリンを見ると、ちょうどこちらを見上げたリンと目があった。

「ギャーウ」

 僕と二人っきりのときにしては珍しく、リンがゴブリン語で鳴き声を…………すごい優しく甘い鳴き声をあげる。

「え、えっと……な、なんて?」

「……イミ ナイデス」

 いや、嘘だろ。

 ゴブリン語が分からない僕でもなんとなく察しがつくくらい甘ったるかったぞ。

 そうは思うんだけど、これ以上突っ込むことは出来なかった。

 …………こういう雰囲気には慣れていないんだよ……。

 どうしていいか……分からないです。

 助けて、フランツ。



 リンの様子に戸惑いながらも食事を終わらせて、気を引き締め直す。

 今はなにをおいても目の前の母娘のことが優先だ。

 彼女たちが棲家に決めたのは、少し離れたところに川が流れているちょっとした丘にある洞窟だ。

 とりあえず入り口が目に見える所まで近づいてきたんだけど……。

 さて、どうしたものかな?

 一瞬迷うけど、僕が突然顔を出すより、まずはリンに話を通してもらったほうがいいだろう。

「リン、悪いんだけど先に行って僕が話があるって伝えてきてくれない?
 もしちょっとでも危ないと思ったらすぐに逃げてきてね」

「ハイデス」

 リンは笑顔でうなずくと、ゆっくりと洞窟に向かっていった。

 ……とにかく無事に帰ってきてください。

 リンの背中にそう祈りを捧げた。



 心配は無事杞憂に終わって、入っていってからそれほど時間も経たずにリンは洞窟から出てきた。

 それどころか、ゴブリン母娘も連れてきていた。

「リン、えっと、これはどうしたの?」

 予想外の事態に驚いている僕の前で、母娘は最近見慣れてきた気がするゴブリン流の最敬礼をしている。

「王 ムカエル シツレイ。
 王 アウ イク イウデス」

「えっと、それはリンが?」

「チガウデス」

 ……だいぶ怖い思いさせたからなぁ……。

 すっかり怯えてしまっているようだ。

 まあ、ある意味目論見通りということではあるので、申し訳ないけど変に弁解せずこのまま怖がっててもらおう。

「えっと、それじゃ、リン通訳お願いね」

「ハイデス」

「それじゃ、改めて自己紹介と挨拶を。
 僕はハルトともうします。ご壮健なようで何よりです」

 リンに翻訳してもらって色々事情を聞いたところ。

 二人は母親のギャギルギャーオさんと娘のギャギルギャームさんというらしい。

 ギャーオさんとギャームさんだ。

 洞窟で見た時はまだ小さな幼体だった娘さんのギャームさんがもう成体と変わらない大きさになっていた。

 こうやって目の辺りにすると、生後半月で身体としてはほとんど成体になるというゴブリン族の成長の速さを実感させられる。

 二人は僕に元いた洞窟を追い出されたあと、南にあるキングのいる巣に向かおうか迷い、ここに住むことを決めたそうだ。

 ただでさえ楽ではない道のりをまだ幼体だったギャームさんを連れて無事たどり着くのは無理だと思ったらしい。

 この時、今も南の巣に向かっている一人とは別れたんだそうだ。

 反応が無くなってしまった一人とはもっと早く、洞窟を出てすぐに別れたらしい。

 彼女は息子がいるという魔王軍に占拠された街……つまりヴァイシュゲールの街に向かったそうだ。

 南に向かった一人と別れたあと、二人で棲家になるところを求めてさまよっているうちにこの洞窟を見つけて、住み着いた……ということらしい。

「リン、二人に今の洞窟の住心地を聞いてみて」

「ハイデス」

 これでここを気に入られてしまっていると少し厄介だ。

「ギャーオ、スム ヨイ ヨクナイ ナイ イウデス。
 スム ハジメル スグ ワカル ナイ イウデス」

 住み始めでまだ良くも悪くも状況がわからないところか……。

 とりあえず本格的に腰を落ち着けているわけじゃないのは助かった。

「それじゃ、リン、本題をお願い。
 村が近いからここから動いてほしいって話と、新しい場所は必ず僕が用意するって伝えて」

「ハイデス」

 この話を受け入れてくれるかどうか……。

 まだ住み始めとは言え、一度は腰を落ち着けてしまった場所だ、引っ越せと言われてもすんなり「はい」とはいかないだろう。

 そう思っていたのに、二人の結論はすぐに出た。

「王、ギャーオ、ヨウイ アル スコシ ジカン ヒツヨウ イウデス」

「え?本当に引っ越してくれるって?」

 いくらなんでも決断早くない?

「ハイデス。
 王、アタシ、イウ サカラウ ナイデス」

 あー……クイーンと僕に言われちゃったら逆らうなんて出来ないか。

 申し訳ないけど、都合が良かったと思わせてもらおう。

「それじゃ、用意してもらうように伝えて。
 どれくらい時間かかりそうだって?」

「ハイデス。
 …………カルイ ショクジ スル ジカン ホシイ イウデス」

 この場合は本当に食事をしたいってわけじゃなくって、それくらいの時間ってことだろうな。

 1時間位って感じだろうか?

「分かったって伝えて。
 そこまで急がないから慌てないようにとも」

「ハイデス」

 リンが二人に僕の言葉を伝えると、二人は最敬礼を解いて一度僕に深く頭を下げたあと洞窟に駆け戻っていった。

「慌てないでって言ったのに……」

「王 イル アワテル ナイ ムリデス」

 ま、それはそっか。

 

 では、こちらも準備をしておこうか。

 荷物持ち用の《土人形》を作ろうとする僕に、リンが暗い表情で声をかけてくる。

「王……」

「……なに?いい話じゃないみたいだけど……」

 問いかける僕に、リンは口をパクパクさせて言い淀んでいる。

 そんなにか……。

 ちょっと聞きたくない。

 そういうわけにはいかないのは分かってるけどさ。

 リンがここまでして言おうとしているってことは、絶対に聞かなければならないことだ。

「リン、大丈夫だから、教えて」

 大丈夫、想像も覚悟も出来てる。

「…………ギャーオ コドモ 王 コロス デス」

 ………………だよね。

 また『三週目』に逃げたくなった。
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