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第二章 始めてのクエスト
32話 芸術品
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「ギギャーギルゥ チチ ナイ。
ノゾミ ギギャーギルゥ オトコ オモウ ワカル…………クフッ……」
ノゾミちゃんをフォローしているリンはまだ少し笑いの余韻が残っているようだ。
「ギギャーギルゥ ゴブリン イチバン ニバン ビジョ ユウメイ。
ハジメテ チチ ナイ オトコ マチガウ…………クフフ……」
なるほど、ギギャーギルゥさんゴブリン族ではかなりの美人なのか。
たしかに人間とはまったく違うけど、クリっとした目をしてて可愛らしい感じではある。
しかし、ゴブリン族って男女で体型差はないのかと思ったら……そういうことだったのか。
考えてみれば、逃した他の女ゴブリンたちはみんな胸があったような……?
当時はそんなこと全く気にしてなかったから、おぼろげにしか覚えていないけど。
あまりにもおかしかったのか、リンはギギャーギルゥさんにゴブリン語で伝えてすらいる。
いや、ノゾミちゃんとギギャーギルゥさんの仲が険悪になっても困るんだけど……。
そう心配している僕をよそに、ギギャーギルゥさんがシレッとなにかリンに言い返すと、それを聞いたリンは大声でなにかをわめきだした。
リンはだいぶムキになっているようだけど、ギギャーギルゥさんはどこ吹く風で聞き流している。
「えっと、ギギャーギルゥさんはなんだって?」
「シルナイっ!!
アタシ、チチ オオキイ ジャマ ナイっ!
チチ イッパイ デルっ!
……タブン」
……なるほど、「リンのおっぱいは大きくて邪魔」的なことを言われたようだ。
リンはまだプリプリ怒っているけど、この話題には触れないでおこうと決めた。
図らずもノゾミちゃんの発言で場の緊張がほぐれ初対面の挨拶は無事に終わった。
リンは最後までプリプリしてたけど、通訳はちゃんとやってくれたし今もギギャーギルゥさんの隣りにいるし、本気でケンカしているわけではないようだ。
とりあえずしばらく一緒に暮らしてお互い様子を見てみようと言うことで、体験同居が決まり、みんなで孤児院に帰る途中。
ノゾミちゃんが俯きがちのままずっとなにかをブツブツ言っている。
その深刻そうな様子に今まで気づかなかったことに焦る。
「ノ、ノゾミちゃん、どうしたの?」
「……先生……」
慌てて声をかける僕をノゾミちゃんが涙目で見上げる。
「ギギャギ……ギギョ……ギョギギ……ギギャーギャ…………」
「……ギギャーギルゥさんっていいづらい?」
ノゾミちゃんは涙目のままコクンとうなずく。
び、びっくりしたぁ……。
そんなことで良かったとは思うけど、ノゾミちゃんにとっては大問題だ。
「えっと、リン、ギギャーギルゥさんをギギャーさんとかって呼んだら失礼?」
「ンー、エトエト……ダイジョブ デス、ダイジョブ ナイデス。
ギギャー、ギギャーグギャオ オナジデス。
ギルゥ ヨイ デス」
なるほど、ギギャーだとお父さんのギギャーグギャオさんと同じだからギルゥさんの方がいいということか。
ギギャーの部分は人間で言う姓みたいなものなんだろうか?
「ノゾミちゃん、ギギャーギルゥさんのことはギルゥさんって呼んでもいいって」
リンもギギャーギルゥさんに話をしてくれたようで、ギギャーギルゥさんがノゾミちゃんの方を向く。
「ギルゥ」
そして、自分を指さしてそれだけいうとニッコリと笑った。
「ギルゥちゃんよろしくねっ!」
泣き笑いのノゾミちゃんが差し出した手を、ギルゥさんは笑いながら優しく握った。
僕に出来なかったことをあっさりやるノゾミちゃんを見て、軽く『三週目』に行きたくなった。
みんなで孤児院に入ってすぐにギルゥさんをお風呂に入れた。
なぜかリンが僕に一緒に入るように言って聞かなかったので、仕方ないので一緒に入ったんだけど……。
今、ギルゥさんは僕にしがみつきながら湯船に浸かっている。
体を洗うまではリンが説明してくれて、恐る恐るだけど二人だけで出来ていたんだけど、湯船はリンだけじゃ無理だった。
リンはしがみついていたギルゥさんを引き剥がして、僕に押し付けると。
「アタシ、ギルゥ タスケル ムリ デス」
と真顔で言われた。
一応湯船に浸かれるようにはなったけど、まだ怖いものは怖いらしい。
ということで、ギルゥさんは僕に必死でしがみついてプルプル震えながら湯船に浸かっている。
体さえ洗えば湯船に浸からなくてもいいとリンには言ったんだけど、それだとみんなと一緒にお風呂に入れないから嫌らしい。
とりあえず、ギルゥさんには強要しないようにとは言っておいた。
お風呂なら流されることはないと分かったら怖いなりに僕から離れられたリンと違って、ギルゥさんはいつまで経ってもしがみついて震えたままだ。
リンよりも水が怖いみたいだし、しがみつくのも申し訳無さそうにしっぱなしなので無理はしないでほしい。
お風呂から出たあとすぐにギルゥさんへの首輪装着の儀が行われた。
いや、そんな大げさな話じゃないんだけど、若干一名、僕がギルゥさんに首輪をつけるのを羨ましそうにしている勇者はいるし、首輪をつけ終わったところでなぜかリンが拍手を始めるし。
それに続いてみんなも拍手をし始めて……。
なんか大変なことになった。
ギルゥさんが恥ずかしそうにしているので止めてあげてほしい。
首輪をつけ終わったあとはみんなでギルゥさんに孤児院内を案内して、ギルゥさんの部屋を決めた。
はじめは部屋も余っているし個室にするつもりだったんだけど、リンと一緒になって同じ部屋を希望したのでそうすることにした。
ギルゥさんの荷物も大きな背負い袋一つだけだったので二人一部屋でも問題ないだろう。
考えてみれば、ゴブリンの巣は共同生活っぽい感じだったので一緒のほうが落ち着くのかもしれない。
とりあえずギルゥさん用のベッドは運び込んだので、あとの説明は先輩のリンにやってもらおう。
「先生、ご飯できたよー♪」
そう思ったところで、アリスちゃんが夕食を知らせに来た。
今日はなんやかんや大騒動になってしまった。
ギルゥさんを加えての初めての食事。
リンからゴブリン族は全体的に肉が好きだと聞いていたし、ギルゥさんもそうらしいので歓迎の意味を込めて肉多めの食事にしてもらったんだけど……。
リンの隣、テーブルの一番端に座って食事を摂っているギルゥさんの姿をつい見つめてしまった。
リン以外の子供たちもそうみたいで、自分の食事も忘れてギルゥさんの食事風景に見入ってしまっている。
当のギルゥさんはイスに慣れていない上に、みんなの視線を集めて戸惑った様子で食事を続けている。
戸惑いながらもおそらく極力失礼のないようにと緊張しながら食事を続けているギルゥさんの姿から目を離せない。
申し訳ないけど見とれてしまっていた。
それくらいナイフと自前のとがった爪を使って食事をするギルゥさんの姿は美しかった。
うちの子供たちは他の子供達と比べると飛び抜けているくらいお行儀が良いし、僕もテーブルマナーは叩き込まれた。
それらと比べてもギルゥさんの食事風景は格が違って、洗練されすぎて一個の芸術品かとすら思えてくる。
つい、ギルゥさんの隣で焼いたイノシシ肉を両手で持って口の周りをベトベトにしてかぶりついているお姫様と見比べてしまう。
いや、僕はリンの食べっぷりも豪快で好きだと擁護しておく。
「王、ギルゥ タベル ヘンデス?」
恥ずかしさのあまりうつむき始めてしまったギルゥさんを流石に見かねて、リンが未だに見とれてる僕に突っ込んだ。
「あ……?あっ!?ご、ごめんっ!い、いや、ギルゥさんの食べてる姿があまりにも綺麗だったから……。
ほんとごめん、ギルゥさんにもごめんなさいって伝えといて」
言いながらギルゥさんに頭を下げる僕と一緒にリンが謝罪を伝えてくれる。
子供たちもみんな慌てた様子でギルゥさんに頭を下げている。
「ギルゥ、王、シツレイ アル シンパイ スル イウデス。
チガウ ワカル アンシン スル イウデス」
「いや、ほんとごめん。
綺麗すぎて見とれてたというか、目を奪われてたというか……。
本当にごめんなさい」
繰り返し頭を下げる僕たちに、ギルゥさんはニコリと笑いかけると小さくお辞儀した。
おそらく「謝罪は受け入れました」という感じだと思う。
なんかその仕草すら優雅に見える。
また見とれかける僕にリンが不機嫌そうにしてる。
「リン、オナジ デキル」
リンは不機嫌そうにそう言うとナイフを手に持って少し考えたあと……さらに不機嫌になって肉をつかんでかじりついた。
ノゾミ ギギャーギルゥ オトコ オモウ ワカル…………クフッ……」
ノゾミちゃんをフォローしているリンはまだ少し笑いの余韻が残っているようだ。
「ギギャーギルゥ ゴブリン イチバン ニバン ビジョ ユウメイ。
ハジメテ チチ ナイ オトコ マチガウ…………クフフ……」
なるほど、ギギャーギルゥさんゴブリン族ではかなりの美人なのか。
たしかに人間とはまったく違うけど、クリっとした目をしてて可愛らしい感じではある。
しかし、ゴブリン族って男女で体型差はないのかと思ったら……そういうことだったのか。
考えてみれば、逃した他の女ゴブリンたちはみんな胸があったような……?
当時はそんなこと全く気にしてなかったから、おぼろげにしか覚えていないけど。
あまりにもおかしかったのか、リンはギギャーギルゥさんにゴブリン語で伝えてすらいる。
いや、ノゾミちゃんとギギャーギルゥさんの仲が険悪になっても困るんだけど……。
そう心配している僕をよそに、ギギャーギルゥさんがシレッとなにかリンに言い返すと、それを聞いたリンは大声でなにかをわめきだした。
リンはだいぶムキになっているようだけど、ギギャーギルゥさんはどこ吹く風で聞き流している。
「えっと、ギギャーギルゥさんはなんだって?」
「シルナイっ!!
アタシ、チチ オオキイ ジャマ ナイっ!
チチ イッパイ デルっ!
……タブン」
……なるほど、「リンのおっぱいは大きくて邪魔」的なことを言われたようだ。
リンはまだプリプリ怒っているけど、この話題には触れないでおこうと決めた。
図らずもノゾミちゃんの発言で場の緊張がほぐれ初対面の挨拶は無事に終わった。
リンは最後までプリプリしてたけど、通訳はちゃんとやってくれたし今もギギャーギルゥさんの隣りにいるし、本気でケンカしているわけではないようだ。
とりあえずしばらく一緒に暮らしてお互い様子を見てみようと言うことで、体験同居が決まり、みんなで孤児院に帰る途中。
ノゾミちゃんが俯きがちのままずっとなにかをブツブツ言っている。
その深刻そうな様子に今まで気づかなかったことに焦る。
「ノ、ノゾミちゃん、どうしたの?」
「……先生……」
慌てて声をかける僕をノゾミちゃんが涙目で見上げる。
「ギギャギ……ギギョ……ギョギギ……ギギャーギャ…………」
「……ギギャーギルゥさんっていいづらい?」
ノゾミちゃんは涙目のままコクンとうなずく。
び、びっくりしたぁ……。
そんなことで良かったとは思うけど、ノゾミちゃんにとっては大問題だ。
「えっと、リン、ギギャーギルゥさんをギギャーさんとかって呼んだら失礼?」
「ンー、エトエト……ダイジョブ デス、ダイジョブ ナイデス。
ギギャー、ギギャーグギャオ オナジデス。
ギルゥ ヨイ デス」
なるほど、ギギャーだとお父さんのギギャーグギャオさんと同じだからギルゥさんの方がいいということか。
ギギャーの部分は人間で言う姓みたいなものなんだろうか?
「ノゾミちゃん、ギギャーギルゥさんのことはギルゥさんって呼んでもいいって」
リンもギギャーギルゥさんに話をしてくれたようで、ギギャーギルゥさんがノゾミちゃんの方を向く。
「ギルゥ」
そして、自分を指さしてそれだけいうとニッコリと笑った。
「ギルゥちゃんよろしくねっ!」
泣き笑いのノゾミちゃんが差し出した手を、ギルゥさんは笑いながら優しく握った。
僕に出来なかったことをあっさりやるノゾミちゃんを見て、軽く『三週目』に行きたくなった。
みんなで孤児院に入ってすぐにギルゥさんをお風呂に入れた。
なぜかリンが僕に一緒に入るように言って聞かなかったので、仕方ないので一緒に入ったんだけど……。
今、ギルゥさんは僕にしがみつきながら湯船に浸かっている。
体を洗うまではリンが説明してくれて、恐る恐るだけど二人だけで出来ていたんだけど、湯船はリンだけじゃ無理だった。
リンはしがみついていたギルゥさんを引き剥がして、僕に押し付けると。
「アタシ、ギルゥ タスケル ムリ デス」
と真顔で言われた。
一応湯船に浸かれるようにはなったけど、まだ怖いものは怖いらしい。
ということで、ギルゥさんは僕に必死でしがみついてプルプル震えながら湯船に浸かっている。
体さえ洗えば湯船に浸からなくてもいいとリンには言ったんだけど、それだとみんなと一緒にお風呂に入れないから嫌らしい。
とりあえず、ギルゥさんには強要しないようにとは言っておいた。
お風呂なら流されることはないと分かったら怖いなりに僕から離れられたリンと違って、ギルゥさんはいつまで経ってもしがみついて震えたままだ。
リンよりも水が怖いみたいだし、しがみつくのも申し訳無さそうにしっぱなしなので無理はしないでほしい。
お風呂から出たあとすぐにギルゥさんへの首輪装着の儀が行われた。
いや、そんな大げさな話じゃないんだけど、若干一名、僕がギルゥさんに首輪をつけるのを羨ましそうにしている勇者はいるし、首輪をつけ終わったところでなぜかリンが拍手を始めるし。
それに続いてみんなも拍手をし始めて……。
なんか大変なことになった。
ギルゥさんが恥ずかしそうにしているので止めてあげてほしい。
首輪をつけ終わったあとはみんなでギルゥさんに孤児院内を案内して、ギルゥさんの部屋を決めた。
はじめは部屋も余っているし個室にするつもりだったんだけど、リンと一緒になって同じ部屋を希望したのでそうすることにした。
ギルゥさんの荷物も大きな背負い袋一つだけだったので二人一部屋でも問題ないだろう。
考えてみれば、ゴブリンの巣は共同生活っぽい感じだったので一緒のほうが落ち着くのかもしれない。
とりあえずギルゥさん用のベッドは運び込んだので、あとの説明は先輩のリンにやってもらおう。
「先生、ご飯できたよー♪」
そう思ったところで、アリスちゃんが夕食を知らせに来た。
今日はなんやかんや大騒動になってしまった。
ギルゥさんを加えての初めての食事。
リンからゴブリン族は全体的に肉が好きだと聞いていたし、ギルゥさんもそうらしいので歓迎の意味を込めて肉多めの食事にしてもらったんだけど……。
リンの隣、テーブルの一番端に座って食事を摂っているギルゥさんの姿をつい見つめてしまった。
リン以外の子供たちもそうみたいで、自分の食事も忘れてギルゥさんの食事風景に見入ってしまっている。
当のギルゥさんはイスに慣れていない上に、みんなの視線を集めて戸惑った様子で食事を続けている。
戸惑いながらもおそらく極力失礼のないようにと緊張しながら食事を続けているギルゥさんの姿から目を離せない。
申し訳ないけど見とれてしまっていた。
それくらいナイフと自前のとがった爪を使って食事をするギルゥさんの姿は美しかった。
うちの子供たちは他の子供達と比べると飛び抜けているくらいお行儀が良いし、僕もテーブルマナーは叩き込まれた。
それらと比べてもギルゥさんの食事風景は格が違って、洗練されすぎて一個の芸術品かとすら思えてくる。
つい、ギルゥさんの隣で焼いたイノシシ肉を両手で持って口の周りをベトベトにしてかぶりついているお姫様と見比べてしまう。
いや、僕はリンの食べっぷりも豪快で好きだと擁護しておく。
「王、ギルゥ タベル ヘンデス?」
恥ずかしさのあまりうつむき始めてしまったギルゥさんを流石に見かねて、リンが未だに見とれてる僕に突っ込んだ。
「あ……?あっ!?ご、ごめんっ!い、いや、ギルゥさんの食べてる姿があまりにも綺麗だったから……。
ほんとごめん、ギルゥさんにもごめんなさいって伝えといて」
言いながらギルゥさんに頭を下げる僕と一緒にリンが謝罪を伝えてくれる。
子供たちもみんな慌てた様子でギルゥさんに頭を下げている。
「ギルゥ、王、シツレイ アル シンパイ スル イウデス。
チガウ ワカル アンシン スル イウデス」
「いや、ほんとごめん。
綺麗すぎて見とれてたというか、目を奪われてたというか……。
本当にごめんなさい」
繰り返し頭を下げる僕たちに、ギルゥさんはニコリと笑いかけると小さくお辞儀した。
おそらく「謝罪は受け入れました」という感じだと思う。
なんかその仕草すら優雅に見える。
また見とれかける僕にリンが不機嫌そうにしてる。
「リン、オナジ デキル」
リンは不機嫌そうにそう言うとナイフを手に持って少し考えたあと……さらに不機嫌になって肉をつかんでかじりついた。
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