上 下
65 / 117
第二章 始めてのクエスト

32話 芸術品

しおりを挟む
「ギギャーギルゥ チチ ナイ。
 ノゾミ ギギャーギルゥ オトコ オモウ ワカル…………クフッ……」

 ノゾミちゃんをフォローしているリンはまだ少し笑いの余韻が残っているようだ。

「ギギャーギルゥ ゴブリン イチバン ニバン ビジョ ユウメイ。
 ハジメテ チチ ナイ オトコ マチガウ…………クフフ……」

 なるほど、ギギャーギルゥさんゴブリン族ではかなりの美人なのか。

 たしかに人間とはまったく違うけど、クリっとした目をしてて可愛らしい感じではある。

 しかし、ゴブリン族って男女で体型差はないのかと思ったら……そういうことだったのか。

 考えてみれば、逃した他の女ゴブリンたちはみんな胸があったような……?

 当時はそんなこと全く気にしてなかったから、おぼろげにしか覚えていないけど。

 あまりにもおかしかったのか、リンはギギャーギルゥさんにゴブリン語で伝えてすらいる。

 いや、ノゾミちゃんとギギャーギルゥさんの仲が険悪になっても困るんだけど……。

 そう心配している僕をよそに、ギギャーギルゥさんがシレッとなにかリンに言い返すと、それを聞いたリンは大声でなにかをわめきだした。

 リンはだいぶムキになっているようだけど、ギギャーギルゥさんはどこ吹く風で聞き流している。

「えっと、ギギャーギルゥさんはなんだって?」

「シルナイっ!!
 アタシ、チチ オオキイ ジャマ ナイっ!
 チチ イッパイ デルっ!
 ……タブン」

 ……なるほど、「リンのおっぱいは大きくて邪魔」的なことを言われたようだ。

 リンはまだプリプリ怒っているけど、この話題には触れないでおこうと決めた。



 図らずもノゾミちゃんの発言で場の緊張がほぐれ初対面の挨拶は無事に終わった。

 リンは最後までプリプリしてたけど、通訳はちゃんとやってくれたし今もギギャーギルゥさんの隣りにいるし、本気でケンカしているわけではないようだ。

 とりあえずしばらく一緒に暮らしてお互い様子を見てみようと言うことで、体験同居が決まり、みんなで孤児院に帰る途中。

 ノゾミちゃんが俯きがちのままずっとなにかをブツブツ言っている。

 その深刻そうな様子に今まで気づかなかったことに焦る。

「ノ、ノゾミちゃん、どうしたの?」

「……先生……」

 慌てて声をかける僕をノゾミちゃんが涙目で見上げる。

「ギギャギ……ギギョ……ギョギギ……ギギャーギャ…………」

「……ギギャーギルゥさんっていいづらい?」

 ノゾミちゃんは涙目のままコクンとうなずく。

 び、びっくりしたぁ……。

 そんなことで良かったとは思うけど、ノゾミちゃんにとっては大問題だ。

「えっと、リン、ギギャーギルゥさんをギギャーさんとかって呼んだら失礼?」

「ンー、エトエト……ダイジョブ デス、ダイジョブ ナイデス。
 ギギャー、ギギャーグギャオ オナジデス。
 ギルゥ ヨイ デス」

 なるほど、ギギャーだとお父さんのギギャーグギャオさんと同じだからギルゥさんの方がいいということか。

 ギギャーの部分は人間で言う姓みたいなものなんだろうか?

「ノゾミちゃん、ギギャーギルゥさんのことはギルゥさんって呼んでもいいって」

 リンもギギャーギルゥさんに話をしてくれたようで、ギギャーギルゥさんがノゾミちゃんの方を向く。

「ギルゥ」

 そして、自分を指さしてそれだけいうとニッコリと笑った。

「ギルゥちゃんよろしくねっ!」

 泣き笑いのノゾミちゃんが差し出した手を、ギルゥさんは笑いながら優しく握った。

 僕に出来なかったことをあっさりやるノゾミちゃんを見て、軽く『三週目』に行きたくなった。



 みんなで孤児院に入ってすぐにギルゥさんをお風呂に入れた。

 なぜかリンが僕に一緒に入るように言って聞かなかったので、仕方ないので一緒に入ったんだけど……。

 今、ギルゥさんは僕にしがみつきながら湯船に浸かっている。

 体を洗うまではリンが説明してくれて、恐る恐るだけど二人だけで出来ていたんだけど、湯船はリンだけじゃ無理だった。

 リンはしがみついていたギルゥさんを引き剥がして、僕に押し付けると。

「アタシ、ギルゥ タスケル ムリ デス」

 と真顔で言われた。

 一応湯船に浸かれるようにはなったけど、まだ怖いものは怖いらしい。

 ということで、ギルゥさんは僕に必死でしがみついてプルプル震えながら湯船に浸かっている。

 体さえ洗えば湯船に浸からなくてもいいとリンには言ったんだけど、それだとみんなと一緒にお風呂に入れないから嫌らしい。

 とりあえず、ギルゥさんには強要しないようにとは言っておいた。

 お風呂なら流されることはないと分かったら怖いなりに僕から離れられたリンと違って、ギルゥさんはいつまで経ってもしがみついて震えたままだ。

 リンよりも水が怖いみたいだし、しがみつくのも申し訳無さそうにしっぱなしなので無理はしないでほしい。



 お風呂から出たあとすぐにギルゥさんへの首輪装着の儀が行われた。

 いや、そんな大げさな話じゃないんだけど、若干一名、僕がギルゥさんに首輪をつけるのを羨ましそうにしている勇者はいるし、首輪をつけ終わったところでなぜかリンが拍手を始めるし。

 それに続いてみんなも拍手をし始めて……。

 なんか大変なことになった。

 ギルゥさんが恥ずかしそうにしているので止めてあげてほしい。

 首輪をつけ終わったあとはみんなでギルゥさんに孤児院内を案内して、ギルゥさんの部屋を決めた。

 はじめは部屋も余っているし個室にするつもりだったんだけど、リンと一緒になって同じ部屋を希望したのでそうすることにした。

 ギルゥさんの荷物も大きな背負い袋一つだけだったので二人一部屋でも問題ないだろう。
 
 考えてみれば、ゴブリンの巣は共同生活っぽい感じだったので一緒のほうが落ち着くのかもしれない。

 とりあえずギルゥさん用のベッドは運び込んだので、あとの説明は先輩のリンにやってもらおう。

「先生、ご飯できたよー♪」

 そう思ったところで、アリスちゃんが夕食を知らせに来た。

 今日はなんやかんや大騒動になってしまった。

 

 ギルゥさんを加えての初めての食事。

 リンからゴブリン族は全体的に肉が好きだと聞いていたし、ギルゥさんもそうらしいので歓迎の意味を込めて肉多めの食事にしてもらったんだけど……。

 リンの隣、テーブルの一番端に座って食事を摂っているギルゥさんの姿をつい見つめてしまった。

 リン以外の子供たちもそうみたいで、自分の食事も忘れてギルゥさんの食事風景に見入ってしまっている。

 当のギルゥさんはイスに慣れていない上に、みんなの視線を集めて戸惑った様子で食事を続けている。

 戸惑いながらもおそらく極力失礼のないようにと緊張しながら食事を続けているギルゥさんの姿から目を離せない。

 申し訳ないけど見とれてしまっていた。

 それくらいナイフと自前のとがった爪を使って食事をするギルゥさんの姿は美しかった。

 うちの子供たちは他の子供達と比べると飛び抜けているくらいお行儀が良いし、僕もテーブルマナーは叩き込まれた。

 それらと比べてもギルゥさんの食事風景は格が違って、洗練されすぎて一個の芸術品かとすら思えてくる。

 つい、ギルゥさんの隣で焼いたイノシシ肉を両手で持って口の周りをベトベトにしてかぶりついているお姫様と見比べてしまう。

 いや、僕はリンの食べっぷりも豪快で好きだと擁護しておく。

「王、ギルゥ タベル ヘンデス?」

 恥ずかしさのあまりうつむき始めてしまったギルゥさんを流石に見かねて、リンが未だに見とれてる僕に突っ込んだ。

「あ……?あっ!?ご、ごめんっ!い、いや、ギルゥさんの食べてる姿があまりにも綺麗だったから……。
 ほんとごめん、ギルゥさんにもごめんなさいって伝えといて」

 言いながらギルゥさんに頭を下げる僕と一緒にリンが謝罪を伝えてくれる。

 子供たちもみんな慌てた様子でギルゥさんに頭を下げている。

「ギルゥ、王、シツレイ アル シンパイ スル イウデス。
 チガウ ワカル アンシン スル イウデス」
 
「いや、ほんとごめん。
 綺麗すぎて見とれてたというか、目を奪われてたというか……。
 本当にごめんなさい」

 繰り返し頭を下げる僕たちに、ギルゥさんはニコリと笑いかけると小さくお辞儀した。

 おそらく「謝罪は受け入れました」という感じだと思う。

 なんかその仕草すら優雅に見える。

 また見とれかける僕にリンが不機嫌そうにしてる。

「リン、オナジ デキル」

 リンは不機嫌そうにそう言うとナイフを手に持って少し考えたあと……さらに不機嫌になって肉をつかんでかじりついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

タビと『双生の錬金術師』〜世界を変えてきた錬金術師の弟子になってダンジョン踏破します〜

ルーシャオ
ファンタジー
ある日、親に捨てられた少年タビは伝説の錬金術師『双生の錬金術師』の片割れイフィクラテスと出会い、こう誘われた。「お前には錬金術の才能がある。俺と一緒に来ないか?」。こうして、何も持たなかった少年は錬金術師の弟子になり、さまざまな人と出会って、世界を変えていく——。 それはそうと姉弟子ロッタは師匠から手伝うよう要請されて頭を抱えた。何せ、冒険者が潜るダンジョンに弟弟子タビを放り込むと聞いて、知り合いに声をかけて必死に協力を仰がなくてはならなかったからである。 冒険者、鍛治師、元官僚、巫女との出会い、そして——極北ヒュペルボレイオスの民が信仰する超巨大ダンジョン『大樹ユグドラシル』への挑戦。 これは少年タビが『杖持つ闘争者(ベルルムス・エト・カドゥケウス)』と呼ばれるまでの物語。

処理中です...