二周目貴族の奮闘記 ~シナリオスタート前にハーレム展開になっているんだけどなぜだろう?~

日々熟々

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第二章 始めてのクエスト

13話 シャル

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 思わぬ情報を与えてくれたジーナさんに感謝を伝え、ひとまずみんなで孤児院に帰ってきた。

 みんなには心配するなと伝えてひとまず先にお風呂に入らせてもらうことにした。

 お湯に浸かってゆっくりと対策を考えよう。

 僕の頭の中の悪魔が言う。

――殺っちまおうぜ――

 それに対して天使が言う。

――まずは人目につかないところにおびき出す方法を考えましょう――

「明日、出かけたふりをして孤児院を見張ってればいいか」

 三人?力を合わせれば出来ないことはない。

「手を汚すのはやめてくださいね」

 いつの間にか、僕の中にいるような堕天使じゃなくって本当の天使が横にいた。

「シャルさんいつの間にっ!?」

「最近分かってきましたけど、先生、考え事に集中してると結構周りのことに気づきませんよね」

 多分、みんなが相手だと警戒心が死んでるんだと思う。

 家の中にいると気が抜けやすいのもいけないのかもしれない、気をつけよう。

「もう一度はっきり言いますけど、私のために手を汚すのはやめてください」

 いつも恥ずかしがり屋のシャルさんにまっすぐ目を見つめて言われてしまった。

「でもね、現実的にこれが一番ね……」

「やめてください」

 ちょっと怒ったような声で言ったシャルさんが、僕の顔を抱きかかえて柔らかいものを押し付けてくる。

 力いっぱいふにょんって押し付けてくる。

 …………これはずるいと思う。

「……わふぁりまふぃた」

 従うしかないじゃないか。



「でも、本当に他に確実な対策がなくてね?」

 仮に日程を変えたとしてもいつかしらゴブリン討伐にいかなきゃいけない以上、向こうも日程を変えてくるだけだ。

 どこかに預けるとしても当てがないし。

 あえて言えばジーナさんのところだけど、村長宅なんて敵地のど真ん中のようなもんだ。

 ジーナさんか誰か他の人に頼み込んで僕がいない間孤児院に来てもらったとしても、レオンがなにか策を弄したり、最悪力ずくで来られたら守りきれるか分からない。

 どう考えてみても、殺ってしまうのが一番確実なのだ。

「殺るのがダメなら、しばらく動けないように痛めつけるとか……」

 声が出せる程度にだけ緩められていた腕がまたきつく締め付けてくる。

「ダメです。
 そんなことをして恨みを重ねられたらもっと酷いことになるかもしれないです」

 だからこそ後腐れなく殺ってしまったほうが……。

 頭に浮かぶその考えはシャルさんのおっぱいを通して消えていってしまう。

「ふぁい……」

 これ、ほんとずるい。

「ここにいるのが危ないなら、明日一緒に連れて行ってくれればいいじゃないですか」

 …………結局それしかないんだよなぁ。

「怖い思いをすることになるよ?」

「あなたが一緒にいてくれるなら大丈夫です」

「……見たくないものを見ることになるよ?」

「あなたも見てるんだから一緒に見ます」

「………………僕の僕が見せたくない姿を見ることになるよ?」

「私はどんな姿のあなたでも全部見たいです」
 
 ………………ちょっと泣きそ。

「それじゃ、絶対に守るので一緒に来てください」

「はいっ!」



「問題はユーキくん達をどうするかなんだけど…………その前に、大丈夫?シャルさん」

「……だ、だいじょうぶ……で、です……」

 あのあと、シャルさんと一緒に行く方向で細かい話をしようと思ったんだけど……そのシャルさんは僕から少しはなれた湯船の中で膝を抱えて丸まってしまっている。

 どうやら我に返って恥ずかしくなっちゃったみたい。

「えっと、とりあえずユーキくんたちとも話したいし上がろうか?」

「は、はい……」

 そうと決まればさっさと上がろう。

 体もなにも洗ってないけど、どうせ後でみんなで入り直すことになるし。

 そう思って湯船から出るけど、シャルさんがついてこない。

「どうしたのシャルさん?」

「あ、あの……」

 シャルさん真っ赤だけど、本当に恥ずかしいだけ?大丈夫?のぼせてない?

「………………シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ……」

「シャ?」

「…………………………シャルが……い、良いです」

 へ?

 シャルが良いって言われてもシャルさんはシャルさんだしなんの話…………。

 ………………あ、ああ。

「…………は、早く出よう………………シャル」

「………………はい」

 や、やばい……恥ずかしい……。

 ちょっとしばらくシャルさんの顔見れない。



 シャルさ……シャルとお風呂から出ると、広間で話をしていたみんなに合流した。

 二人で広間に入る僕たちを見たユーキくんが、慌てた顔をして駆け寄ってきて部屋の隅にシャルを連れて行く。

 い、いったいなにごと?

 シャルにユーキくんがなにかを聞くと、シャルは必死で頭を横に振っているけど……。

 何度かしつこく聞き直しているらしいユーキくんにシャルは頭が取れるんじゃないかってくらいの勢いで首を振っている。

 やがて安心したような顔をしたユーキくんと、顔を真っ赤にしたシャルが戻ってきた。

「あ、あの……いったいどうしたの?」

「大丈夫です、なんでもないです、こっちの話です」

「な、なんでもないです……な、なんでも……」

 なんでもないハズなさそうな様子だけど、教えてくれる気はないみたいだ。

 まあ、ケンカしているとかって雰囲気じゃないし大丈夫かな?

 むしろこの二人、僕が想像してた以上に仲が良くなってて、よく二人でなにか話をしてる。

 アリスちゃんが嫉妬しないかがちょっと心配なくらいだ。

「えっと、それじゃ、みんなに大事な話があるんだけど……」

 そう言ってみんなの顔を見まわす。

 僕の緊張が伝わったのか、みんなも真面目な顔で僕の話を聞いてくれている。

「……さっきジーナさんから話があった通り、どうやらレオン……村長の息子がシャルを狙っているらしい」

 みんなの視線がシャルに集まる。

「色々対策は考えたんだけど、結局のところ一緒に洞窟に来てもらうしかないってことになった」

 僕の言葉に頷くユーキくん。

「分かりました。
 それじゃ、僕達は留守番していますね」

「ノゾミちゃん、一緒に遊んで待ってようね」

「うんっ!アリスちゃん、お人形作りの続きしよっ!」

 アリスちゃんもノゾミちゃんも笑顔でうなずいてくれる。

 だけど……。

「いや、今回、お願いしたいのはそうじゃないんだ」

 僕の言葉にシャル以外が訝しげな顔をする。

「出来る限り怖い思いをさせないようにするから、どうか、みんなも僕と一緒に来てほしい」

 そう言って頭を下げる僕をみて、ユーキくんたちが慌てだす。

「えっ、あ、危なくないんですか?」

「……色々考えたんだけど、多分みんなだけを残す方が危ないと思うんだ」

 正直なところレオンがどこまでやってくるのか予想がつかなかった。

 普通ならシャルがいない以上手荒なことはやってこないと思うけど……相手はくだらない理由で自分の生まれ育った村を疫病で滅ぼそうとする人間だ。

 場合によってはユーキくんたちを人質に取るということや、八つ当たりで危害を加えるということも考えられる。

『後々、頭がおかしいと思えるレベルのことをやるかもしれない人間だから』という理由でここまで警戒するのも問題あるかもしれない。

 だけど、現時点でもシャルをさらおうとかいう計画を立てるようなやつだ。

 常識が通じる相手だとは考えないほうがいいだろう。

 そういうことを考えると、下手に目の届かないところに残すより、ゴブリンの棲家とは言え僕の目の届くところにおいておくほうがよほど安心だ。

「ゴブリンの巣で危険な目に合わせないっていう目処は立っているし、自信もある。
 ただ……もしかすると怖い目に合わせちゃうかもしれない……。
 だけど、出来ればみんなにはついてきてほしい」

 そう言って、もう一度みんなに頭を下げる。

「えっと……あの、危なくないのに怖い目っていうのはどういうことでしょうか?」

「………………僕がゴブリンを倒すところ……ううん、ゴブリンを殺すところを見ることになるかもしれない」

 普通に考えて5歳児や3歳児に見せるような場面じゃない。

 当然、極力見られないようにはするけど、完璧とはいかないだろうし、声はどうしようもない。

「……僕は大丈夫ですけど、ノゾミとアリスは……」

 ユーキくんはそう言ってくれるけど、僕としてはユーキくんにも見せたくない。

「ノゾミ、大丈夫だよ?」

 押し黙ってしまった僕たちを不思議そうに見ながら、あっけらかんとした声でノゾミちゃんが言う。

「ノゾミ、せんせえが守ってくれるならなんでも大丈夫」

 そしてそう言うとニパーと信頼しきった笑顔を向けてくる。

「わ、私も……先生とユーキくんと一緒なら怖くないです」

 アリスちゃんも顔を青くしながらも、健気にそう言ってくれる。

 二人共、ほんとうの意味でのことの重大さは理解できていないと思う。

 それでも、僕を信じてそう言ってくれる。

 今はそれにつけこむことしか僕には出来ない。
 
「…………出来る限り怖い目には合わせないから、みんなついてきてください」
 
 もっと力がほしい。
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