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第二章 始めてのクエスト
1話 抱っこ
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「シャルちゃん、髪の毛はどうするの?」
「えっとね、こうやって髪の毛にしたい色の糸を頭にくっつけてチクチクチクって……」
シャルさんがノゾミちゃんが作っていた人形を受け取って、少し実演して見せている。
……なるほど、やり方は間違っていないはずだ。
ノゾミちゃんに教えているシャルさんの手元を見てから自分の手の中にある人形を見るけど……なんだろう、この不格好な物体は。
同じ材料同じ手順で作っているはずなのにシャルさんがすでに作り終えているものと、明らかにものが違う。
シャルさんの足元には可愛らしい布製の女の子が座っているのに、僕の手元には……なんだろう?これ。
何度考えてもなにが出来上がったのか分からない。
ミハイルさんたちが帰ってしまってから数日たったある日、今日は朝からみんなでお人形を作って遊んでる。
かなりの熟練者であったシャルさんはもちろん、作ったことはあるというアリスちゃんも、今日初めて教わったと言っていたユーキくんも、まだ針仕事は早いんじゃないかと思っていたノゾミちゃんまでちゃんと人形らしき形ができあがりつつあるのに……。
もう一度僕の手元にある人形を見つめる。
……なんだろう?これ。
少なくとも人に類する存在ではない。
僕は一体何を作り上げてしまったんだ……。
ちなみに、シャルさんはすでに先程も言った金髪の女の子の人形を作り上げていて、今は金髪の男の子になるんだろう人形を作りかけている。
ノゾミちゃんは茶髪の女の子の人形を作っているみたいで、ユーキくんのは……その相方かな?やっぱり茶髪の男の子の人形が出来つつある。
アリスちゃんが作っているのは黒髪黒目の男の子の人形で……まあ誰をモデルにしているかは想像に難くない。
シャルさんを加えた僕たち孤児院の五人はそんなのんびりとした日々を過ごしていた。
午前中を部屋の中での遊びや勉強で過ごして、昼食を食べたあとは、外に出て体を動かす遊びをしたり魔法の練習をしたりする。
それがここ最近の僕らの日課だった。
皿洗いを今日の当番であるユーキくんたち年少組に任せて、先にシャルさんと一緒に庭に向かう。
その途中、歩きながら減り始めてきた食材のことを考えていた。
ミハイルさんたちが村で仕入れて残して行ってくれた食材も残り少なくなってきている。
元々屋敷にあった保存食はまだまだたくさんあるけど、極力そちらには手を付けたくない。
そろそろ、子供たちを連れて村長宅に挨拶に行く事を真剣に考えないとなぁ……。
心の底から嫌なので本心から言えば考えるのも気が重い。
でも、子供たちにきちんとしたものを食べさせないとだし、そろそろ村での友達も必要だろう。
…………やだなぁ……ほんとやだ。
あー、気持ち悪くすらなってきた。
あまりにイヤすぎて、庭先に思いもよらぬ人達がいるのに気づくのが遅れた。
「よお、シャルロッテ、本当にここにいたんだな」
その常に人を小馬鹿にしているような声の方を見ると、レオンとその取り巻きたちがいた。
レオンの少し後ろにいる五人の取り巻きたちは、みんなレオンと同い年か年下の少年たちで、たしか13から15歳だったと思う。
自分より年上を連れていないあたりにレオンの小物感が漂っている。
レオンを含めたこの六人が『前』のゴブリン討伐の中心メンバーで……シャルさんを洞窟に閉じ込め続けた奴らだ。
誰も見てないし、このまま行方不明にしようかという思いが浮かぶ。
…………とは言え、『前』はともかく今はまだ罪を犯したわけではないので断罪するわけにもいかない。
絶対に好きになれない嫌な奴らではあるけど、まだもしかしたらこのまま単なる嫌なやつとして終わる人生もあるかもしれない。
そう考えて湧き上がってくる殺意を沈み込ませる。
「なんですか?ここは孤児院の敷地ですけど」
シャルさんの前に出た僕を鼻で笑うと、レオンは僕を無視することに決めたようだ。
「孤児院ってことは、シャルロッテ、お前本当にあのオヤジに捨てられたんだな?」
とりあえず殴り飛ばそう。
シャルさんを見下し嘲笑うような顔で言うレオンも、それを聞いて下卑た笑いを浮かべる取り巻きたちも僕の雰囲気が剣呑なものになったのには気づかなかったようだ。
レオンはその顔に肉欲をにじませた笑いを浮かべて言葉を続ける。
「なぁ、孤児院なんかにいねえでうちに来ればいい思いさせてやるぜ?
お前もいい暮らししたいだろぉ?なあ?」
取り巻きたちも「可愛がってやるからよぉ」とか口々に下品なことをいいながらサカリの付いたイヌのような笑い声を上げている。
よし、こいつら行方不明コースで。
そうはいかないのは分かってるので、とりあえず一発ぶん殴る。
そう決めて一歩前に出た僕を見たレオンが完全に馬鹿にしきった笑みを浮かべる。
「おいおい、おチビちゃん、そのコブシはなんのつもりだよ?
やろうってのかぁっ!?ああんっ!?」
「お前らは僕の家族を侮辱した」
一般殴られるくらいは当然の罪状だ。
「ああんっ!?なんだってぇっ!?
僕ちゃんの家族がどうしたって!?」
袖口に隠ししていたらしいナイフを取り出すと、顔を近づけてガンをつけてくるレオン。
後ろの取り巻きたちも隠し持っていたナイフや短刀をニヤニヤしながら構えだす。
…………こんな子供のケンカで刃物を出すとか何を考えてるんだろう?
腹の一つでも軽く刺させて、怖くて思わずってことで殺しちゃってもいいかな?
あまりに危機感のない彼等の行動にちょっと呆気にとられてしまった。
「ああんっ!?ビビっちゃった?ビビっちゃったか、僕ちゃあんっ!?
もう一回言ってみっ!?お前と俺のシャルロッテがどんな関係だってっ!?」
俺のってなんだ。
レオンの言葉にまた呆気に取られてしまった僕の腕をシャルさんが抱え込んだ。
そして満面の笑顔をレオンたちに向けて言葉を放つ。
「毎日一緒にお風呂に入ってる関係です」
…………。
時が止まった。
シャルさんの口から飛び出したあまりにもあまりな言葉にレオンたちはみんな凄んだ顔のまま固まってしまっている。
い、いや、たしかに一緒に入ってるけどさ……あれはノゾミちゃんがみんな一緒じゃないとイヤって駄々をこねるからで……。
はじめユーキくんの差金かと思ったんだけど、ユーキくんから説得してもらっても折れなかったから、普通にノゾミちゃんが一緒に入りたいらしい。
それからは湯船の外では布を巻くことを条件に一緒に入ってる。
一応事実ではあるのでどう訂正したものか口をパクパクさせてしまっている僕の腕に、ギュッと……お……柔らかいものを押し付けてシャルさんは追撃を解き放った。
「昨日も一緒のベッドで寝た関係です」
い、いや、それも確かに事実だけどね?
あれはシャルさんがどーしても一人で寝るのが寂しいって言ったからでね。
間にクッションを挟んで、手を繋いで寝るだけって条件だったよね?
レオン達は凄んだ顔を保てずに、ポカーンと大口を開けている。
そんな彼等にシャルさんは優しいとすら言える笑顔を向けると、僕の腕を抱え込んだまま肩に妙にしっとりとした感じで頬をのせてくる。
と、とりあえず、抱え込んだ僕の手を危険なところに持っていこうとするのはやめようか?
「お父様からは、先生に誠心誠意お仕えするように、と言われています」
たしかにそんなこと言ってたけどね?
こんな絡まり方しながら、『お風呂』『ベッド』って言葉の後に『お仕え』とかいう意味深な言葉並べたら変な想像しか出来ないからね?
「あ、やば……」
取り巻きの一人が変な声を上げたと思ったら、鼻を押さえた手の下から血がたれてきた。
うわぁ、エロい想像して本当に鼻血を流す人初めて見た。
「おいチビッ!調子乗ってんじゃねえぞっ!!」
思わぬものを見て思わず笑いが漏れちゃった僕にキレたレオンと取り巻きたちが、真っ赤な顔のまま殺意の籠もった目でそれぞれの得物を構えだす。
……いや、本当にこんな事で刃傷沙汰起こす気かよ、こいつら。
とは言え、怒りだかエロいことを考えてだか分からないけど興奮で頭に血が上っているらしい彼等に、そんな分別はつかないだろう。
面倒くさいし適当に痛い目見せればいいや。
向かってくる彼等を適当に転がすことに決めた瞬間。
「この方はゴブリン・チャンピオンを無傷で倒した勇者ですよっ!!あなた方ごときがかなうとでもお思いですかっ!!」
シャルさんから刃のように鋭い叱責が飛ぶ。
それを聞いたレオンたちは我に返ってお互い顔を見合わせ始め……。
「ちっ……あんなザコ倒したからってイキってんじゃねーぞ」
捨てゼリフを残して帰っていった。
たまにこちらを睨みつけたり、中指を立てたり、唾を吐いたりしながら遠ざかっていく彼等の姿が見えなくなったところで……シャルさんが絡まっていた腕が重くなった。
「ん?え、シャルさん大丈夫っ!?」
シャルさんは腰を抜かしちゃったみたいで、僕の腕にしがみついてなんとか立ってた。
「こ、こわかった……で、です……」
顔は体を支えるために腕に押し付けちゃってるから見えないけど、もう声は涙声だ。
「あー、もう、あれくらいなんとかなるから無理しなくていいのに」
「だ、だって……あ、あなたが……て、手を汚すことになるのは嫌だから……ぐすっ……」
…………殺意に溢れてたのバレてたっぽい。
もうちょっと冷静にならないとな。
『前』はともかく、今はまだなにも起こっていないんだ。
本当に、もうちょっと冷静になろう、みんなのためにも。
「ありがとうね、シャルさん」
僕のために頑張ってくれたシャルさんに心を込めたお礼を言って、できるだけ優しく抱き上げる。
「えっ!?あ、あの……こ、これ……」
「自分で歩けそう?」
「…………む、無理です……」
そう言って恥ずかしそうに僕の胸に顔を押し付けるシャルさんをお姫様抱っこのまま孤児院に連れて帰った。
玄関まで来たところで、ちょうど外に出ようとしていたみんなに見つかり、それからは抱っこ大会になった。
筋トレと思って、ひたすら抱っこしまくった。
「えっとね、こうやって髪の毛にしたい色の糸を頭にくっつけてチクチクチクって……」
シャルさんがノゾミちゃんが作っていた人形を受け取って、少し実演して見せている。
……なるほど、やり方は間違っていないはずだ。
ノゾミちゃんに教えているシャルさんの手元を見てから自分の手の中にある人形を見るけど……なんだろう、この不格好な物体は。
同じ材料同じ手順で作っているはずなのにシャルさんがすでに作り終えているものと、明らかにものが違う。
シャルさんの足元には可愛らしい布製の女の子が座っているのに、僕の手元には……なんだろう?これ。
何度考えてもなにが出来上がったのか分からない。
ミハイルさんたちが帰ってしまってから数日たったある日、今日は朝からみんなでお人形を作って遊んでる。
かなりの熟練者であったシャルさんはもちろん、作ったことはあるというアリスちゃんも、今日初めて教わったと言っていたユーキくんも、まだ針仕事は早いんじゃないかと思っていたノゾミちゃんまでちゃんと人形らしき形ができあがりつつあるのに……。
もう一度僕の手元にある人形を見つめる。
……なんだろう?これ。
少なくとも人に類する存在ではない。
僕は一体何を作り上げてしまったんだ……。
ちなみに、シャルさんはすでに先程も言った金髪の女の子の人形を作り上げていて、今は金髪の男の子になるんだろう人形を作りかけている。
ノゾミちゃんは茶髪の女の子の人形を作っているみたいで、ユーキくんのは……その相方かな?やっぱり茶髪の男の子の人形が出来つつある。
アリスちゃんが作っているのは黒髪黒目の男の子の人形で……まあ誰をモデルにしているかは想像に難くない。
シャルさんを加えた僕たち孤児院の五人はそんなのんびりとした日々を過ごしていた。
午前中を部屋の中での遊びや勉強で過ごして、昼食を食べたあとは、外に出て体を動かす遊びをしたり魔法の練習をしたりする。
それがここ最近の僕らの日課だった。
皿洗いを今日の当番であるユーキくんたち年少組に任せて、先にシャルさんと一緒に庭に向かう。
その途中、歩きながら減り始めてきた食材のことを考えていた。
ミハイルさんたちが村で仕入れて残して行ってくれた食材も残り少なくなってきている。
元々屋敷にあった保存食はまだまだたくさんあるけど、極力そちらには手を付けたくない。
そろそろ、子供たちを連れて村長宅に挨拶に行く事を真剣に考えないとなぁ……。
心の底から嫌なので本心から言えば考えるのも気が重い。
でも、子供たちにきちんとしたものを食べさせないとだし、そろそろ村での友達も必要だろう。
…………やだなぁ……ほんとやだ。
あー、気持ち悪くすらなってきた。
あまりにイヤすぎて、庭先に思いもよらぬ人達がいるのに気づくのが遅れた。
「よお、シャルロッテ、本当にここにいたんだな」
その常に人を小馬鹿にしているような声の方を見ると、レオンとその取り巻きたちがいた。
レオンの少し後ろにいる五人の取り巻きたちは、みんなレオンと同い年か年下の少年たちで、たしか13から15歳だったと思う。
自分より年上を連れていないあたりにレオンの小物感が漂っている。
レオンを含めたこの六人が『前』のゴブリン討伐の中心メンバーで……シャルさんを洞窟に閉じ込め続けた奴らだ。
誰も見てないし、このまま行方不明にしようかという思いが浮かぶ。
…………とは言え、『前』はともかく今はまだ罪を犯したわけではないので断罪するわけにもいかない。
絶対に好きになれない嫌な奴らではあるけど、まだもしかしたらこのまま単なる嫌なやつとして終わる人生もあるかもしれない。
そう考えて湧き上がってくる殺意を沈み込ませる。
「なんですか?ここは孤児院の敷地ですけど」
シャルさんの前に出た僕を鼻で笑うと、レオンは僕を無視することに決めたようだ。
「孤児院ってことは、シャルロッテ、お前本当にあのオヤジに捨てられたんだな?」
とりあえず殴り飛ばそう。
シャルさんを見下し嘲笑うような顔で言うレオンも、それを聞いて下卑た笑いを浮かべる取り巻きたちも僕の雰囲気が剣呑なものになったのには気づかなかったようだ。
レオンはその顔に肉欲をにじませた笑いを浮かべて言葉を続ける。
「なぁ、孤児院なんかにいねえでうちに来ればいい思いさせてやるぜ?
お前もいい暮らししたいだろぉ?なあ?」
取り巻きたちも「可愛がってやるからよぉ」とか口々に下品なことをいいながらサカリの付いたイヌのような笑い声を上げている。
よし、こいつら行方不明コースで。
そうはいかないのは分かってるので、とりあえず一発ぶん殴る。
そう決めて一歩前に出た僕を見たレオンが完全に馬鹿にしきった笑みを浮かべる。
「おいおい、おチビちゃん、そのコブシはなんのつもりだよ?
やろうってのかぁっ!?ああんっ!?」
「お前らは僕の家族を侮辱した」
一般殴られるくらいは当然の罪状だ。
「ああんっ!?なんだってぇっ!?
僕ちゃんの家族がどうしたって!?」
袖口に隠ししていたらしいナイフを取り出すと、顔を近づけてガンをつけてくるレオン。
後ろの取り巻きたちも隠し持っていたナイフや短刀をニヤニヤしながら構えだす。
…………こんな子供のケンカで刃物を出すとか何を考えてるんだろう?
腹の一つでも軽く刺させて、怖くて思わずってことで殺しちゃってもいいかな?
あまりに危機感のない彼等の行動にちょっと呆気にとられてしまった。
「ああんっ!?ビビっちゃった?ビビっちゃったか、僕ちゃあんっ!?
もう一回言ってみっ!?お前と俺のシャルロッテがどんな関係だってっ!?」
俺のってなんだ。
レオンの言葉にまた呆気に取られてしまった僕の腕をシャルさんが抱え込んだ。
そして満面の笑顔をレオンたちに向けて言葉を放つ。
「毎日一緒にお風呂に入ってる関係です」
…………。
時が止まった。
シャルさんの口から飛び出したあまりにもあまりな言葉にレオンたちはみんな凄んだ顔のまま固まってしまっている。
い、いや、たしかに一緒に入ってるけどさ……あれはノゾミちゃんがみんな一緒じゃないとイヤって駄々をこねるからで……。
はじめユーキくんの差金かと思ったんだけど、ユーキくんから説得してもらっても折れなかったから、普通にノゾミちゃんが一緒に入りたいらしい。
それからは湯船の外では布を巻くことを条件に一緒に入ってる。
一応事実ではあるのでどう訂正したものか口をパクパクさせてしまっている僕の腕に、ギュッと……お……柔らかいものを押し付けてシャルさんは追撃を解き放った。
「昨日も一緒のベッドで寝た関係です」
い、いや、それも確かに事実だけどね?
あれはシャルさんがどーしても一人で寝るのが寂しいって言ったからでね。
間にクッションを挟んで、手を繋いで寝るだけって条件だったよね?
レオン達は凄んだ顔を保てずに、ポカーンと大口を開けている。
そんな彼等にシャルさんは優しいとすら言える笑顔を向けると、僕の腕を抱え込んだまま肩に妙にしっとりとした感じで頬をのせてくる。
と、とりあえず、抱え込んだ僕の手を危険なところに持っていこうとするのはやめようか?
「お父様からは、先生に誠心誠意お仕えするように、と言われています」
たしかにそんなこと言ってたけどね?
こんな絡まり方しながら、『お風呂』『ベッド』って言葉の後に『お仕え』とかいう意味深な言葉並べたら変な想像しか出来ないからね?
「あ、やば……」
取り巻きの一人が変な声を上げたと思ったら、鼻を押さえた手の下から血がたれてきた。
うわぁ、エロい想像して本当に鼻血を流す人初めて見た。
「おいチビッ!調子乗ってんじゃねえぞっ!!」
思わぬものを見て思わず笑いが漏れちゃった僕にキレたレオンと取り巻きたちが、真っ赤な顔のまま殺意の籠もった目でそれぞれの得物を構えだす。
……いや、本当にこんな事で刃傷沙汰起こす気かよ、こいつら。
とは言え、怒りだかエロいことを考えてだか分からないけど興奮で頭に血が上っているらしい彼等に、そんな分別はつかないだろう。
面倒くさいし適当に痛い目見せればいいや。
向かってくる彼等を適当に転がすことに決めた瞬間。
「この方はゴブリン・チャンピオンを無傷で倒した勇者ですよっ!!あなた方ごときがかなうとでもお思いですかっ!!」
シャルさんから刃のように鋭い叱責が飛ぶ。
それを聞いたレオンたちは我に返ってお互い顔を見合わせ始め……。
「ちっ……あんなザコ倒したからってイキってんじゃねーぞ」
捨てゼリフを残して帰っていった。
たまにこちらを睨みつけたり、中指を立てたり、唾を吐いたりしながら遠ざかっていく彼等の姿が見えなくなったところで……シャルさんが絡まっていた腕が重くなった。
「ん?え、シャルさん大丈夫っ!?」
シャルさんは腰を抜かしちゃったみたいで、僕の腕にしがみついてなんとか立ってた。
「こ、こわかった……で、です……」
顔は体を支えるために腕に押し付けちゃってるから見えないけど、もう声は涙声だ。
「あー、もう、あれくらいなんとかなるから無理しなくていいのに」
「だ、だって……あ、あなたが……て、手を汚すことになるのは嫌だから……ぐすっ……」
…………殺意に溢れてたのバレてたっぽい。
もうちょっと冷静にならないとな。
『前』はともかく、今はまだなにも起こっていないんだ。
本当に、もうちょっと冷静になろう、みんなのためにも。
「ありがとうね、シャルさん」
僕のために頑張ってくれたシャルさんに心を込めたお礼を言って、できるだけ優しく抱き上げる。
「えっ!?あ、あの……こ、これ……」
「自分で歩けそう?」
「…………む、無理です……」
そう言って恥ずかしそうに僕の胸に顔を押し付けるシャルさんをお姫様抱っこのまま孤児院に連れて帰った。
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