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第一章 ゲームの世界

26話 剣

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 子供たちが《小治癒》の練習を終えて、残った深い傷も僕が癒やしたあと。

 僕は庭で剣を持ってアルバさんと向かい合っていた。

 その周りには観客のように子供たちやミハイルさん、起きてきたシャルロッテさん、そして護衛の人たちが座っている。

「本当にやるんですかい?ぼっちゃ……いや、閣下」

 あのあと協力を申し出てくれたミハイルさんに頼んで、アルバさんと立ち合いをさせてもらうことになった。

 理由の前にアルバさんのスタータスなんだけど、

 【職業:戦士
  筋力:11 魔力: 1 体力:11 精神: 9 技術:13 敏捷:12 幸運:12】

 となっている。

 これはゴブリン・チャンピオンと互角以上にやり合える数値だ。

 剣だけで言えばうちの騎士と同等かそれより強いかもしれない。

 軍隊や冒険者ギルド以外でこのレベルの人間と出会えることは滅多にない。

 この村だけで考えれば、十世代に一人現れるか現れないかのレベルだ。

 一応僕も剣も魔法も使えばチャンピオンクラスは楽勝、剣だけでも問題なく勝てはする。

 だけど、後々のことを考えればこれを剣だけでチャンピオン数匹を圧倒できる所までは『最低限』持っていきたい。

 その為にもゴブリンチャンピオンを倒せるレベルの人と立ち会えるチャンスはできるだけ逃したくなかった。

「はいっ!ぜひともお願いしますっ!」

「まあ、魔法使いも剣を使えるに越したことはありませんがね。
 生兵法はかえって怪我の元ですぜ?」

 あれ?僕魔法使いだと思われてたのか。

 ……そう言えば、助太刀したときは魔法メインで戦ってたっけ。

 剣を使ったのはアルバさんが見ていないシャーマンを相手にしたときと、チャンピオンに奇襲したときだけだ。

「偉そうなことを言うようですが、まずは基礎訓練からすることをオススメしますがね。
 そちらならいくらでも見ますぜ」

 たしかに魔法使いが剣を学ぼうと言うならそれが道理だ。

 でも。

「大丈夫です。
 基礎はきっちりフランツに仕込まれました」

 そう言って剣を抜いて体に染み込んだ型に沿って構える。

 これだけでアルバさんほどの実力者なら素人ではないことは分かってもらえるはずだ。

「……なるほど、たしかに基礎は問題なさそうですかね。
 では、どうぞ、来てくだせえ」

 構えもせずにそういうアルバさん。

 歴戦の戦士が戦場ならともかく訓練――遊びで僕みたいな甘ったれた貴族の子供相手に本気になれないのは仕方ないことだと思う。

 ……だから、とりあえずは本気になってもらおう。

「行きます」

 一言そう声をかけて、一拍置いて。

 一気に間合いを詰め、アルバさんの首に剣先を突きつける。

 アルバさんは何が起こったかわからないといったような呆気にとられた顔をしている。
 
「…………おおおおぉぉおおぉぉぉぉぉっ!!」

 数瞬の沈黙の後、観客から歓声が上がった。

「すごいっ!せんせえすごいっ!」

「ぜんっぜん見えなかった……」

「え?え?……なにがあったの?え?」
 
 ノゾミちゃんは喜んでくれてるけど、あとの二人とミハイルさんにシャルロッテさんはぽかんと呆けた顔をしている。

「いやぁ……これは参った、降参でさ」

 護衛さんたちの怒号のような歓声を聞いて我に返ったアルバさんがゆっくりと両手を上げる。

 それを見て剣を引くと、元の位置に戻って構え直す。

「もう一度、お願いしてもいいですか?」

「いや、こっちこそお願いしやす。
 恥ずかしい話ですが閣下を甘く見すぎてましたわ。
 気を引き締め直しますから後生ですから何卒もう一度お願いしまさあ」

 今度はアルバさんも剣を構えてくれる。

「アルバー負けんじゃねえぞーっ!!」

「平民の意地を見せてやれよーっ!!」

「さあっ!張った張ったっ!アルバの負けるところを見たいやつは伯爵様に全力で張りなっ!!」

「先生ーっ!頑張ってくださーいっ!!!」

「よ、よし、閣下には私が張ろう。
 その代わり皆も閣下を応援するんだぞ」

「おおっ!旦那太っ腹あっ!!」

 一気に盛り上がった観客に囲まれて僕とアルバさんの立ち合いが始まった。



 立ち合いが始まってすでに数十分。

 あれだけ盛り上がっていた観客たちは水を打ったように静まり返っている。

「せんせえー、すごいすごーい♪」

 楽しそうに声を上げているのはノゾミちゃんだけだ。

「くそっ!閣下っ!もう一本お願いしますっ!!」

「はい、ぜひともっ!!」

 斬りかかってくるアルバさんと数合打ち合ったあと、少し甘く入った剣を流すようにいなし、勢いのまま流れるオルバさんの横に回り込んで脇腹に向かって掌底を放つ。

「ぐっ!?こ、今度は手が出て来ますかい。
 もう一本っ!!」

 そのまま打ち下ろされる剣を受け止めると、足払いをかける。

「ほんっと足癖わりいっ!!」

 前に一度見せていたせいか、跳んでかわされてしまったので、浮いた身体に肩からぶつかり弾き飛ばす。

「か、完全にケンカ殺法じゃねえかっ!?
 本当に貴族様ですかいっ!?」

 弾き飛ばされはしたけど、なんとか体制は崩さずに持ちこたえたアルバさんが感嘆なのか悪態なのか判別のつかない声を上げる。

 僕の剣術その他は元々はフランツから教わった正統流派だけど、ユーキくん達との冒険の間に見切られ返されねじ伏せられするうちにかなり荒い実戦剣術になっていた。

「こんなに手癖も足癖も悪い相手は魔物ぐらいですぜ」

 そうかも知れない。

 魔物を相手に戦いつづけるうちに魔物の戦いに近づいて行っていたのだろう。

 出来ないのは噛みつき……いや、そういや『前』一度使ったことあったな。

 まあ、とても褒められたものじゃないみっともない戦いだけど、勝てればいいのだ。

「くっそ……こんな子供相手に手も足も出ねえとは情けなくて泣けてきまさぁ……」

 手も足も出ないと言うけど、なんやかんやこっちもギリギリだ。

 さっきの掌底なんてちょっとタイミングが遅ければ返す刀で切られてた。

 やっぱり、アルバさんクラスと立ち合うとすごいいい訓練になる。

 と言うか、楽しい。

「さあっ!アルバさんっ!もっとやりましょうっ!!さあっ!!」

 自分でもテンションが上っちゃってるのが分かるけど、楽しくてやめられない。

「こんなアグレッシブな面のある御方だったとは思いませんでしたよ。
 ……手も足も出ないんでちょっと卑怯なことをして良いですかい?」

 え?なんだろう?

 魔物相手を考えれば『卑怯なこと』であってもねじ伏せられるようにならないといけないし……それに対応する練習も必要だ。

 『訓練』という言い訳もできれば迷う必要はなかった。

「是非お願いしますっ!!」

 アルバさんは一体何をやって見せてくれるんだろう。

「……可愛い顔してバトルジャンキーですかい。
 まあ、いいと言われたからには容赦しませんぜ」

 アルバさんはニヤリと笑うと、後ろを……観客の方を振り返る。

「お許しが出たぞっ!
 おらっお前らっ!加勢しろっ!!」

 …………。

「おおっ!」

「一つ貸しだからなっ!」

「アルバに全額かけてんだっ!負けてたまるかっ!!」

「死ねやおりゃあああぁぁっ!!」
 
 一瞬の沈黙の後、護衛の人たちが剣を抜いて一斉に斬りかかってきた。

 ちょっ!?流石にそれは反則じゃないっ!?

「お、おいっ!待たんかお前らっ!」

 ミハイルさんの静止も聞かず、一気に押し寄せてきた護衛さんたちは次々斬りかかってきたり、あるいは何人か同時に斬りかかってきたり、それに紛れて本命のアルバさんが鋭い打ち込みをしてきたり。

 多彩で巧みな連携で僕を押しつぶそうとしてくる。

 こ、これは……もう耐えられそうにない……。

 ………………。

 たああああのしいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!
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