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第一章 ゲームの世界

17話 閣下

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「アルメン村の村長は先代の頃からのお取引相手でございまして」

 村へ向かう道すがらの座持ちの話としてミハイルさんが隊商の話をしてくれている。

「村からは薬草や動物の革などを仕入れて、我々は日用品を売る。
 そんな商いを年に数回行っております」

 『前』も村には似たような商人が何人か来ていて僕らもお世話になったことがあるけど、ミハイルさんたちもそういう商人の一人だったのか。

 まさかこんな形で『シャルロッテ』の身の上を知ることになるとは思わなかった。

 僕にとっては『生贄に捧げられた哀れな少女』というだけだったからなぁ。

 その『哀れな少女』はチラチラと僕の方を見ては目が合うと隠れてしまっている。

 僕と同い年くらいだと思う彼女は長くつややかな金髪をした少し垂れ目気味の碧眼を持った美少女だけど、結構な恥ずかしがり屋みたいだ。

 これも『前』は知ることが出来なかったことだと思うと、少しだけ嬉しく思えてくる。

 『前』に僕が発見した彼女は髪の色すら分からない状態だった。

「ところで、騎士様はアルメンには武者修行かなにかですかな?」

 あからさまに探りを入れてきている感じだけど……まあ、村と取引のある商人だというのならすぐにバレることだろうし隠す必要もないか。

 むしろ、商人と繋がりができたと喜んでおくことにしよう。

「いえ、あの村に当家の屋敷がありまして、そこに……いや、そこで孤児院を営んでいます」

「……ほお、孤児院を?」

 あれ?思ったより真剣な顔で食いついてきたぞ?

 まあ兄上は「商人の顔色は一切信用するな、面だと思え」と言っていたから真剣な表情に見えても当てにはならないんだろうけど。

 まあ、これも隠すようなことではないし正直に言っておくか。

「ええ、私と一緒に逃げてきた子供がいまして、その子達を預かっています。
 ああ、そうだ、子供たちの服が足りないもので、次の時にでも持ってきてもらえれば嬉しいですね」

 とりあえずは村で要らない服を買い集めるつもりだけど、余った服というのは想像以上に無いものなので手に入れるツテはいくらあっても困らない。

「はいはい、そういうことでしたらすぐにでもご用意させていただきます」

 分かりやすくやり手の商人感を出すように揉み手をしておどけるミハイルさん。

 親子が乗ってきた荷馬車は動かせない護衛の人と亡くなった護衛の遺体を載せたことで、シャルロッテさんが乗っただけで満杯だ。

 ミハイルさんは空きの無くなった荷馬車から文句一つ言うことなく降りると、肥え太った体を重そうにちょっと大げさなほど暑そうにしながら汗をかきかきどこかコミカルに歩いている。

 商人相手に隙を見せちゃダメって散々言われてきたけど、嫌いになれない人だなぁ。

「ところで、アルメン村の屋敷といいますと、騎士様はヴァイシュゲール家の縁者の方でございますか?」

 ま、これもバレることだから別にいいだろう。

 と言うか、貴族時代は自分で名乗ることなんてほとんどなかったし、パーティー時代は極力名前を隠してたしで名乗り忘れてたや。

「はい、ラインハルト・フォン・ヴァイシュゲールと申します」

「は?」

 僕の名前を聞いたミハイルさんが足を止めて立ち尽くしてしまった。

 この反応も懐かしい。

 今はまだ魔王軍の侵攻が始まって間もないし『御威光』がまだ通じるようだ。

「おや?坊っちゃん、ヴァイシュゲール家のご一族の方ですかい?
 この度は大変なことになったようで、なんといいますか、めげねえでくださいよ」

 アルバさんの口ぶりからすると、ヴァイシュゲール領の壊滅についてはもう知られているみたいだ。

「ありがとうございます」

「ば、バカもんっ!
 この方はご一族どころかヴァイシュゲール本家ご次男……いや、ご一族がお隠れになった今、実質的なご当主様だっ!!
 頭が高い、跪け跪け」

 ミハイルさんの言葉を聞いて驚いた様子で慌てて膝を付き始めるミハイルさん一行。

 荷台に乗っていたシャルロッテさんまで降りて跪いている。

「はは、御存知の通りもう滅んだ家です。
 そうかしこまらずに、顔を上げてください」

「し、しかし……まさか伯爵閣下と知らぬこととはいえ、数々の無礼を……」

「気にしないでください。
 おっしゃる通り知らなかったことですし、知った上であっても先程も言った通りもう滅んだ家ですから」

 さらに言えばそろそろ国も滅ぶ。

 とは言え、目の前の貴族がもうすでに落ちぶれていると知っていても、あまりにも最近の話しすぎてなかなか折り合いをつけられないのだろう。

 ミハイルさんたちは重苦しく跪いたままだ。

「ほら、ここでこうしていても話が進みませんから、とりあえず立って歩くとしましょう」

 こういうことへの対処は『前』に散々やったので、慣れたものだ。

 そんなことを考え、僕を荷台に乗せようとするミハイルさんをなだめすかしながら村に向かっていくのだった。
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