17 / 117
第一章 ゲームの世界
17話 閣下
しおりを挟む
「アルメン村の村長は先代の頃からのお取引相手でございまして」
村へ向かう道すがらの座持ちの話としてミハイルさんが隊商の話をしてくれている。
「村からは薬草や動物の革などを仕入れて、我々は日用品を売る。
そんな商いを年に数回行っております」
『前』も村には似たような商人が何人か来ていて僕らもお世話になったことがあるけど、ミハイルさんたちもそういう商人の一人だったのか。
まさかこんな形で『シャルロッテ』の身の上を知ることになるとは思わなかった。
僕にとっては『生贄に捧げられた哀れな少女』というだけだったからなぁ。
その『哀れな少女』はチラチラと僕の方を見ては目が合うと隠れてしまっている。
僕と同い年くらいだと思う彼女は長くつややかな金髪をした少し垂れ目気味の碧眼を持った美少女だけど、結構な恥ずかしがり屋みたいだ。
これも『前』は知ることが出来なかったことだと思うと、少しだけ嬉しく思えてくる。
『前』に僕が発見した彼女は髪の色すら分からない状態だった。
「ところで、騎士様はアルメンには武者修行かなにかですかな?」
あからさまに探りを入れてきている感じだけど……まあ、村と取引のある商人だというのならすぐにバレることだろうし隠す必要もないか。
むしろ、商人と繋がりができたと喜んでおくことにしよう。
「いえ、あの村に当家の屋敷がありまして、そこに……いや、そこで孤児院を営んでいます」
「……ほお、孤児院を?」
あれ?思ったより真剣な顔で食いついてきたぞ?
まあ兄上は「商人の顔色は一切信用するな、面だと思え」と言っていたから真剣な表情に見えても当てにはならないんだろうけど。
まあ、これも隠すようなことではないし正直に言っておくか。
「ええ、私と一緒に逃げてきた子供がいまして、その子達を預かっています。
ああ、そうだ、子供たちの服が足りないもので、次の時にでも持ってきてもらえれば嬉しいですね」
とりあえずは村で要らない服を買い集めるつもりだけど、余った服というのは想像以上に無いものなので手に入れるツテはいくらあっても困らない。
「はいはい、そういうことでしたらすぐにでもご用意させていただきます」
分かりやすくやり手の商人感を出すように揉み手をしておどけるミハイルさん。
親子が乗ってきた荷馬車は動かせない護衛の人と亡くなった護衛の遺体を載せたことで、シャルロッテさんが乗っただけで満杯だ。
ミハイルさんは空きの無くなった荷馬車から文句一つ言うことなく降りると、肥え太った体を重そうにちょっと大げさなほど暑そうにしながら汗をかきかきどこかコミカルに歩いている。
商人相手に隙を見せちゃダメって散々言われてきたけど、嫌いになれない人だなぁ。
「ところで、アルメン村の屋敷といいますと、騎士様はヴァイシュゲール家の縁者の方でございますか?」
ま、これもバレることだから別にいいだろう。
と言うか、貴族時代は自分で名乗ることなんてほとんどなかったし、パーティー時代は極力名前を隠してたしで名乗り忘れてたや。
「はい、ラインハルト・フォン・ヴァイシュゲールと申します」
「は?」
僕の名前を聞いたミハイルさんが足を止めて立ち尽くしてしまった。
この反応も懐かしい。
今はまだ魔王軍の侵攻が始まって間もないし『御威光』がまだ通じるようだ。
「おや?坊っちゃん、ヴァイシュゲール家のご一族の方ですかい?
この度は大変なことになったようで、なんといいますか、めげねえでくださいよ」
アルバさんの口ぶりからすると、ヴァイシュゲール領の壊滅についてはもう知られているみたいだ。
「ありがとうございます」
「ば、バカもんっ!
この方はご一族どころかヴァイシュゲール本家ご次男……いや、ご一族がお隠れになった今、実質的なご当主様だっ!!
頭が高い、跪け跪け」
ミハイルさんの言葉を聞いて驚いた様子で慌てて膝を付き始めるミハイルさん一行。
荷台に乗っていたシャルロッテさんまで降りて跪いている。
「はは、御存知の通りもう滅んだ家です。
そうかしこまらずに、顔を上げてください」
「し、しかし……まさか伯爵閣下と知らぬこととはいえ、数々の無礼を……」
「気にしないでください。
おっしゃる通り知らなかったことですし、知った上であっても先程も言った通りもう滅んだ家ですから」
さらに言えばそろそろ国も滅ぶ。
とは言え、目の前の貴族がもうすでに落ちぶれていると知っていても、あまりにも最近の話しすぎてなかなか折り合いをつけられないのだろう。
ミハイルさんたちは重苦しく跪いたままだ。
「ほら、ここでこうしていても話が進みませんから、とりあえず立って歩くとしましょう」
こういうことへの対処は『前』に散々やったので、慣れたものだ。
そんなことを考え、僕を荷台に乗せようとするミハイルさんをなだめすかしながら村に向かっていくのだった。
村へ向かう道すがらの座持ちの話としてミハイルさんが隊商の話をしてくれている。
「村からは薬草や動物の革などを仕入れて、我々は日用品を売る。
そんな商いを年に数回行っております」
『前』も村には似たような商人が何人か来ていて僕らもお世話になったことがあるけど、ミハイルさんたちもそういう商人の一人だったのか。
まさかこんな形で『シャルロッテ』の身の上を知ることになるとは思わなかった。
僕にとっては『生贄に捧げられた哀れな少女』というだけだったからなぁ。
その『哀れな少女』はチラチラと僕の方を見ては目が合うと隠れてしまっている。
僕と同い年くらいだと思う彼女は長くつややかな金髪をした少し垂れ目気味の碧眼を持った美少女だけど、結構な恥ずかしがり屋みたいだ。
これも『前』は知ることが出来なかったことだと思うと、少しだけ嬉しく思えてくる。
『前』に僕が発見した彼女は髪の色すら分からない状態だった。
「ところで、騎士様はアルメンには武者修行かなにかですかな?」
あからさまに探りを入れてきている感じだけど……まあ、村と取引のある商人だというのならすぐにバレることだろうし隠す必要もないか。
むしろ、商人と繋がりができたと喜んでおくことにしよう。
「いえ、あの村に当家の屋敷がありまして、そこに……いや、そこで孤児院を営んでいます」
「……ほお、孤児院を?」
あれ?思ったより真剣な顔で食いついてきたぞ?
まあ兄上は「商人の顔色は一切信用するな、面だと思え」と言っていたから真剣な表情に見えても当てにはならないんだろうけど。
まあ、これも隠すようなことではないし正直に言っておくか。
「ええ、私と一緒に逃げてきた子供がいまして、その子達を預かっています。
ああ、そうだ、子供たちの服が足りないもので、次の時にでも持ってきてもらえれば嬉しいですね」
とりあえずは村で要らない服を買い集めるつもりだけど、余った服というのは想像以上に無いものなので手に入れるツテはいくらあっても困らない。
「はいはい、そういうことでしたらすぐにでもご用意させていただきます」
分かりやすくやり手の商人感を出すように揉み手をしておどけるミハイルさん。
親子が乗ってきた荷馬車は動かせない護衛の人と亡くなった護衛の遺体を載せたことで、シャルロッテさんが乗っただけで満杯だ。
ミハイルさんは空きの無くなった荷馬車から文句一つ言うことなく降りると、肥え太った体を重そうにちょっと大げさなほど暑そうにしながら汗をかきかきどこかコミカルに歩いている。
商人相手に隙を見せちゃダメって散々言われてきたけど、嫌いになれない人だなぁ。
「ところで、アルメン村の屋敷といいますと、騎士様はヴァイシュゲール家の縁者の方でございますか?」
ま、これもバレることだから別にいいだろう。
と言うか、貴族時代は自分で名乗ることなんてほとんどなかったし、パーティー時代は極力名前を隠してたしで名乗り忘れてたや。
「はい、ラインハルト・フォン・ヴァイシュゲールと申します」
「は?」
僕の名前を聞いたミハイルさんが足を止めて立ち尽くしてしまった。
この反応も懐かしい。
今はまだ魔王軍の侵攻が始まって間もないし『御威光』がまだ通じるようだ。
「おや?坊っちゃん、ヴァイシュゲール家のご一族の方ですかい?
この度は大変なことになったようで、なんといいますか、めげねえでくださいよ」
アルバさんの口ぶりからすると、ヴァイシュゲール領の壊滅についてはもう知られているみたいだ。
「ありがとうございます」
「ば、バカもんっ!
この方はご一族どころかヴァイシュゲール本家ご次男……いや、ご一族がお隠れになった今、実質的なご当主様だっ!!
頭が高い、跪け跪け」
ミハイルさんの言葉を聞いて驚いた様子で慌てて膝を付き始めるミハイルさん一行。
荷台に乗っていたシャルロッテさんまで降りて跪いている。
「はは、御存知の通りもう滅んだ家です。
そうかしこまらずに、顔を上げてください」
「し、しかし……まさか伯爵閣下と知らぬこととはいえ、数々の無礼を……」
「気にしないでください。
おっしゃる通り知らなかったことですし、知った上であっても先程も言った通りもう滅んだ家ですから」
さらに言えばそろそろ国も滅ぶ。
とは言え、目の前の貴族がもうすでに落ちぶれていると知っていても、あまりにも最近の話しすぎてなかなか折り合いをつけられないのだろう。
ミハイルさんたちは重苦しく跪いたままだ。
「ほら、ここでこうしていても話が進みませんから、とりあえず立って歩くとしましょう」
こういうことへの対処は『前』に散々やったので、慣れたものだ。
そんなことを考え、僕を荷台に乗せようとするミハイルさんをなだめすかしながら村に向かっていくのだった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる