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Bランク試験
39話
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「ーー大丈夫?」
気づけば、ユナさんは放心していた俺に近づき、話しかけていた。
「は、はい・・・」
かろうじて俺は意志の籠もっていない返事を返す。
「特に外傷はないみたいね、良かった・・・あいつは私が倒すから、君はここで待っていて」
ユナさんはそう言うと、反対側を向き、ふっとばされた衝撃で未だ目の焦点が合っていない大鬼の方へ駆け出した。
「ユウ、一体、何がどうなっているんだ?」
ユナさんと面識がない真一と玄太は、俺よりも困惑した様子で疑問をこぼした。
しかし俺にだって何が起こったのか理解出来ていない。
ユナさんがこのBランク試験会場に居たのは知っていたけど、いきなりここに現れて、あの大鬼の巨体をふっとばして、そして今その大鬼を倒そうとしている。という現状を理解するので精一杯だ。
金色に輝く髪をたなびかせながら、ユナは鞘から細剣を抜き放ち、大鬼へと飛びかかった。
ほんの一瞬、不安が心の中をよぎる。
本当にユナさん一人であの強敵を倒すことができるのか、ユナさんの実力はどれほどのものなのか、実際に大鬼と交戦した自分だからこそ感じる不安が胸の中で渦巻いた。
しかしそれは杞憂だったようだ。
ユナは空中で大鬼の心臓部に向かって細剣を突き出し、正確無比に魔石ごと大鬼の体を貫いた。
『ッッ!?』
一瞬の内にして起きた出来事に、大鬼は何が起こったのか理解するまでもなく地に倒れる。
大鬼の体と地面がぶつかり、再度地響きとともに洞窟内が揺れた。
「ーーうそ、だろ・・・」
そのまま起き上がることなく、地面に突っ伏したままの大鬼の巨体は、今決着がついた事を物語っていた。
□
いつの間にか大鬼から刀身を抜き取っていたユナさんは、剣を軽く振って付着していた血液を振り払った。
そのまま刀身を鞘に収める。
その姿は、整った顔立ちも相まって、とても可憐だった。一人の冒険者として見惚れてしまった。
吸い込まれるようにしてその風景を眺めていると、ユナさんが俺の方へと近づいてきた。
「ユナさん、あの・・・ありがとうございます」
せめて助けてもらったのだから、たとえあの場面が自分たちでなんとかできる状況だったとしても、礼だけは言わなければならないと思いその様な言葉が出てきた。
続けざまに真一と玄太から拙い感謝の言葉が述べられる。
「お礼はいらないよ。ただ地響きが聞こえてきたから」
ユナさんは落ち着いた声で言った。でもお礼は受け取って欲しい。この試験が終わったら改めて感謝を伝えるとしよう。
しかし今になってようやく事態が飲み込めてきた気がする。
大鬼との戦闘であれ程の轟音が周りに鳴り響いたのだ。いくら岩の壁に仕切られたダンジョンの中とは言え、注意して聞けば地が揺れている音くらい聞き取ることができるだろう。
そう、特にユナさん程の”実力者”ともなれば、速い段階で大鬼との戦闘を察知することが出来たのかもしれない。
そしてあの大鬼の命を刈り取る一撃。あれは明らかに尋常な動きでは無かった。勇者達の育成係を受け持っているとは聞いていたけど、これほどまでの実力とは・・・。
俺は、もしかしたらとんでもない人と繋がりを持ってしまったのかもしれない。
今更、ユナさんの姿を目に収めながら、俺はそう思った。
気づけば、ユナさんは放心していた俺に近づき、話しかけていた。
「は、はい・・・」
かろうじて俺は意志の籠もっていない返事を返す。
「特に外傷はないみたいね、良かった・・・あいつは私が倒すから、君はここで待っていて」
ユナさんはそう言うと、反対側を向き、ふっとばされた衝撃で未だ目の焦点が合っていない大鬼の方へ駆け出した。
「ユウ、一体、何がどうなっているんだ?」
ユナさんと面識がない真一と玄太は、俺よりも困惑した様子で疑問をこぼした。
しかし俺にだって何が起こったのか理解出来ていない。
ユナさんがこのBランク試験会場に居たのは知っていたけど、いきなりここに現れて、あの大鬼の巨体をふっとばして、そして今その大鬼を倒そうとしている。という現状を理解するので精一杯だ。
金色に輝く髪をたなびかせながら、ユナは鞘から細剣を抜き放ち、大鬼へと飛びかかった。
ほんの一瞬、不安が心の中をよぎる。
本当にユナさん一人であの強敵を倒すことができるのか、ユナさんの実力はどれほどのものなのか、実際に大鬼と交戦した自分だからこそ感じる不安が胸の中で渦巻いた。
しかしそれは杞憂だったようだ。
ユナは空中で大鬼の心臓部に向かって細剣を突き出し、正確無比に魔石ごと大鬼の体を貫いた。
『ッッ!?』
一瞬の内にして起きた出来事に、大鬼は何が起こったのか理解するまでもなく地に倒れる。
大鬼の体と地面がぶつかり、再度地響きとともに洞窟内が揺れた。
「ーーうそ、だろ・・・」
そのまま起き上がることなく、地面に突っ伏したままの大鬼の巨体は、今決着がついた事を物語っていた。
□
いつの間にか大鬼から刀身を抜き取っていたユナさんは、剣を軽く振って付着していた血液を振り払った。
そのまま刀身を鞘に収める。
その姿は、整った顔立ちも相まって、とても可憐だった。一人の冒険者として見惚れてしまった。
吸い込まれるようにしてその風景を眺めていると、ユナさんが俺の方へと近づいてきた。
「ユナさん、あの・・・ありがとうございます」
せめて助けてもらったのだから、たとえあの場面が自分たちでなんとかできる状況だったとしても、礼だけは言わなければならないと思いその様な言葉が出てきた。
続けざまに真一と玄太から拙い感謝の言葉が述べられる。
「お礼はいらないよ。ただ地響きが聞こえてきたから」
ユナさんは落ち着いた声で言った。でもお礼は受け取って欲しい。この試験が終わったら改めて感謝を伝えるとしよう。
しかし今になってようやく事態が飲み込めてきた気がする。
大鬼との戦闘であれ程の轟音が周りに鳴り響いたのだ。いくら岩の壁に仕切られたダンジョンの中とは言え、注意して聞けば地が揺れている音くらい聞き取ることができるだろう。
そう、特にユナさん程の”実力者”ともなれば、速い段階で大鬼との戦闘を察知することが出来たのかもしれない。
そしてあの大鬼の命を刈り取る一撃。あれは明らかに尋常な動きでは無かった。勇者達の育成係を受け持っているとは聞いていたけど、これほどまでの実力とは・・・。
俺は、もしかしたらとんでもない人と繋がりを持ってしまったのかもしれない。
今更、ユナさんの姿を目に収めながら、俺はそう思った。
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