38 / 40
Bランク試験
38話
しおりを挟む
「ん?」
「どうした、川村」
一方の勇者陣営。クラスメート達が陣形を組んで戦っているのを脇目に負傷者を回復魔法で治療していた川村は、ある異変を感じ取っていた。
川村の反応に、回復魔法を掛けてもらっていた木村が質問を溢す。
「いや、奥の方から音がした気がしてさ」
「ん?俺は聞こえなかったけど」
再度、今度は耳に神経を集中させて音に集中する。
剣とゴブリンの槍がぶつかり合う音。魔術師の詠唱。仲間同士、生存を確認するためか、連携を取るためか、もしくは励まし合うための叱咤の声。
それらの中に、微小だが、たしかに紛れ込んでいる音。
ゴゴゴゴと、岩を揺らすような地響きの音を、二人の耳は捉えた。
「確かに、地面が揺れるような、そう、地震みたいな音がする」
しかしその地揺れが大鬼の手によるものである事をこの二人は知るよしもない。
少しの間、体にかすかに伝わってくる振動の原因を考えていると、
「おいそこ!話しなんてしてないで早く治療しろ!」
クラスの一人が二人に向かって叫んだ。
ちょっとした地震程度の事を気にかけている暇はないと判断した二人は、直ぐに真面目な顔に戻って、川村は回復魔法の続きを、木村は戦線へと戻っていった。
しかしその時、今まで勇者達を見守っていただけで動こうとしてい無かったユナに、動きがあった。
「ちょっと気になる事が出来たから、後は君たちでなんとかしておいて」
ユナは魔術師のリーダーである金田に近寄るとそう言って早々にどこかへ走り去っていった。
「え、えぇっ!?」
完全にユナのペースに置いてけぼりにされた金田は、一瞬戸惑うものの、直ぐに気持ちを持ち直して魔法の詠唱を始めた。
□
「ーーふっ!!」
迫りくる大鬼の金棒をすんでのところで躱す。
そして生まれた隙を利用して一気に接近する。
しかし次の瞬間には大鬼は金棒を振り上げ、左にいる真一を巻き込みながら横に薙いだ。
「っっ!!」
「ーー落ち着けっ!!ここは俺に任せろ!!」
しかし、真一は動揺を見せた俺に、その様な言葉を放った。
不安が胸の辺りに渦巻くが、位置的に俺は真一を助けることが出来ない。ここは真一に信頼を置くしかないだろう。
俺の進む速度が早まったのを感じて、真一は叫ぶようにして唱えた。
「『猪突猛進』!!」
何やら聞き覚えのないスキル名だ。
どんな効力が発揮されるのか、ちらりと目を左にやりながら確認していると、あっという間に迫ってきた金棒が真一に直撃した。
「真一っ!!」
ーーしかし、次の瞬間、真一の体が光り輝いたと思うと、叩きつけられた金棒が跳ね返された。
大鬼は予想外の出来事に動揺を見せる。
だがそれは俺も同じだ。一体、今真一の内でどんな力が働いたのか、見たこともないスキルの発動に、一瞬足が止まりかける。
しかし。
「っっ、意外と魔力持ってかれるな・・・ユウ!!今の内だっ!!大鬼に一発叩きこめ!!」
次に発せられた真一の言葉に、再度俺の足は加速を始めた。
(詳しい話を聞くのは後だ。今はこの戦いに集中しろ・・・!!)
俺は手を突き出しながら生成しておいた魔力弾を放った。
魔力を盾にするために魔力の性質や形状を変えることはできるようになったが、どうしても一度の放出で複数の魔力弾を発射することは未だ不可能なのだ。
効率が悪くなってしまうが、その分は一発の重さと正確さを上げれば良い。
俺の持つ全技術を集約した魔力弾は、直線上にまっすぐ飛んでいき、大鬼の額のど真ん中に被弾した。
メキッと大鬼の額が凹み、衝撃で上半身が後ろに傾いた。
ヘッドショットだ。ダメージも相当なものだろう。
しかしまだ決め手には至らない。
俺は今こそ魔力の盾に次ぐ第二の必殺技を解き放つために、右手を腰の方にやりながら、跳んだ。
大鬼の生命線を断ち切るまでの道が目に映し出される。
「ーー終わりだ・・・」
右手に溜め込んだ魔力を一気に放出しようとした、その時ーー
「ユウ君っ!!」
聞き覚えのある声とともに、大鬼が吹き飛んだ。
驚愕に大きく見開いた俺の瞳が、金色に輝く長髪を目に入れる。
ーーユナさんだ。
「どうした、川村」
一方の勇者陣営。クラスメート達が陣形を組んで戦っているのを脇目に負傷者を回復魔法で治療していた川村は、ある異変を感じ取っていた。
川村の反応に、回復魔法を掛けてもらっていた木村が質問を溢す。
「いや、奥の方から音がした気がしてさ」
「ん?俺は聞こえなかったけど」
再度、今度は耳に神経を集中させて音に集中する。
剣とゴブリンの槍がぶつかり合う音。魔術師の詠唱。仲間同士、生存を確認するためか、連携を取るためか、もしくは励まし合うための叱咤の声。
それらの中に、微小だが、たしかに紛れ込んでいる音。
ゴゴゴゴと、岩を揺らすような地響きの音を、二人の耳は捉えた。
「確かに、地面が揺れるような、そう、地震みたいな音がする」
しかしその地揺れが大鬼の手によるものである事をこの二人は知るよしもない。
少しの間、体にかすかに伝わってくる振動の原因を考えていると、
「おいそこ!話しなんてしてないで早く治療しろ!」
クラスの一人が二人に向かって叫んだ。
ちょっとした地震程度の事を気にかけている暇はないと判断した二人は、直ぐに真面目な顔に戻って、川村は回復魔法の続きを、木村は戦線へと戻っていった。
しかしその時、今まで勇者達を見守っていただけで動こうとしてい無かったユナに、動きがあった。
「ちょっと気になる事が出来たから、後は君たちでなんとかしておいて」
ユナは魔術師のリーダーである金田に近寄るとそう言って早々にどこかへ走り去っていった。
「え、えぇっ!?」
完全にユナのペースに置いてけぼりにされた金田は、一瞬戸惑うものの、直ぐに気持ちを持ち直して魔法の詠唱を始めた。
□
「ーーふっ!!」
迫りくる大鬼の金棒をすんでのところで躱す。
そして生まれた隙を利用して一気に接近する。
しかし次の瞬間には大鬼は金棒を振り上げ、左にいる真一を巻き込みながら横に薙いだ。
「っっ!!」
「ーー落ち着けっ!!ここは俺に任せろ!!」
しかし、真一は動揺を見せた俺に、その様な言葉を放った。
不安が胸の辺りに渦巻くが、位置的に俺は真一を助けることが出来ない。ここは真一に信頼を置くしかないだろう。
俺の進む速度が早まったのを感じて、真一は叫ぶようにして唱えた。
「『猪突猛進』!!」
何やら聞き覚えのないスキル名だ。
どんな効力が発揮されるのか、ちらりと目を左にやりながら確認していると、あっという間に迫ってきた金棒が真一に直撃した。
「真一っ!!」
ーーしかし、次の瞬間、真一の体が光り輝いたと思うと、叩きつけられた金棒が跳ね返された。
大鬼は予想外の出来事に動揺を見せる。
だがそれは俺も同じだ。一体、今真一の内でどんな力が働いたのか、見たこともないスキルの発動に、一瞬足が止まりかける。
しかし。
「っっ、意外と魔力持ってかれるな・・・ユウ!!今の内だっ!!大鬼に一発叩きこめ!!」
次に発せられた真一の言葉に、再度俺の足は加速を始めた。
(詳しい話を聞くのは後だ。今はこの戦いに集中しろ・・・!!)
俺は手を突き出しながら生成しておいた魔力弾を放った。
魔力を盾にするために魔力の性質や形状を変えることはできるようになったが、どうしても一度の放出で複数の魔力弾を発射することは未だ不可能なのだ。
効率が悪くなってしまうが、その分は一発の重さと正確さを上げれば良い。
俺の持つ全技術を集約した魔力弾は、直線上にまっすぐ飛んでいき、大鬼の額のど真ん中に被弾した。
メキッと大鬼の額が凹み、衝撃で上半身が後ろに傾いた。
ヘッドショットだ。ダメージも相当なものだろう。
しかしまだ決め手には至らない。
俺は今こそ魔力の盾に次ぐ第二の必殺技を解き放つために、右手を腰の方にやりながら、跳んだ。
大鬼の生命線を断ち切るまでの道が目に映し出される。
「ーー終わりだ・・・」
右手に溜め込んだ魔力を一気に放出しようとした、その時ーー
「ユウ君っ!!」
聞き覚えのある声とともに、大鬼が吹き飛んだ。
驚愕に大きく見開いた俺の瞳が、金色に輝く長髪を目に入れる。
ーーユナさんだ。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼
とめきち
ファンタジー
農業法人に出向していたカズマ(名前だけはカッコいい。)は、しょぼくれた定年間際のおっさんだった。
ある日、トラクターに乗っていると、橋から落ちてしまう。
気がつけば、変な森の中。
カズマの冒険が始まる。
「なろう」で、二年に渡って書いて来ましたが、ちょっとはしょりすぎな気がしましたので、さらに加筆修正してリメイクいたしました。
あらすじではない話にしたかったです。
もっと心の動きとか、書き込みたいと思っています。
気がついたら、なろうの小説が削除されてしまいました。
ただいま、さらなるリメイクを始めました。

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!
倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。
彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。
奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。
リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。
テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。
果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか?
カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。
バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む!
――――――――――――――――――――――――――
作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。
たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。
楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。
制服エプロン。
みゆみゆ
ファンタジー
3回目の大学1年生を迎えた市ヶ谷慧太。20歳。履修登録でミスをおかし、早くも4回目への道が拓けてしまった日、異世界から転生してきたと主張するJK(女子高生)松輪野けーこに再会するのだった。
料理を作ってもらう話です。
さしすせそ、を使っていろいろ作ってもらいます。よろしくお願いします。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる