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雷雪
#6
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「彼は、その界隈でウリ専をしているそうだ。知っていたか?」
富永がそう問いかける。
梶川は答えなかった。
とっくに知っていたからだ。
「君が、そういう目的で彼を傍に置いていたとは思いたくない。彼の境遇を知って、助けてやりたかっただけ……そうだろう?」
梶川は、視線を上げて、初めて正面から富永の目を見た。
息子を見る父親の様な眼差しで、富永はじっと梶川の目を見返してくる。
拓夢の目に――それはどこか似ていた。
生きていれば、息子もきっと同じことをしていただろう……
富永の、そんな声が聞こえてくるようだった。
梶川は黙って俯いた。
富永のいう事は、半分本当で半分は間違っている。
特別な感情はあった。
そう言う目的がなかったわけでもない。
(俺はあの子を、傍に置きたかった……傍にいて欲しかった――)
「処分は訓戒だ」
「え?」
梶川は驚いた顔をした。
思っていたよりも軽い処分に戸惑い、眉間を寄せる。
「それと、依願退職は受け付けないから、そのつもりでいたまえ」
「待ってください」
梶川はそう言って立ち上がったが、富永は机の上に並べられた写真を丁寧に集め、フォルダーにしまうと、梶川を見上げて言った。
「彼を少年課に引き渡して、君は自分の職務を全うしなさい」
「でも」
「彼には自立支援施設を探して、更生するよう尽力する」
「……」
「約束する」
梶川は黙ったまま、富永を見た。
「君は彼を保護していただけだ――この件は内々に処理する」
手にしていたフォルダーを目の前に掲げて、富永は言った。
「君はこんな所で終わってしまうのか?」
「……」
「せっかく警察官になって、ここまできたのに――こんな所で終えていいのか?認めてもらいたいんだろう?自分の実力を――」
梶川は、じっと自分の足元を見つめた。
誰にも評価されず。
悪戯に時間と労力を搾取される日々だった――
生きていることが虚しく思える程、それは苦痛の連続だった。
でもこの世界は、認められれば上に上がれる。
力のあるものは評価される。
弱肉強食の競争社会だが、
生きていると実感できる――
梶川は刑事部長室を出ると、刑事部屋に戻った。
その姿を見た内田が、妙な含み笑いをする。
笑いながら部屋を出ていくので、梶川も後を追った。
その様子に不安を感じた佐倉も、慌てて後を追う。
「チクったのはアンタか?」
そう声を掛けられて、内田は振り返ると鼻で笑った。
「あの子の親に、妙な入れ知恵したものアンタだろう?」
「身内を通してやっただけでも感謝しろよ。そのままマスコミに売っても良かったんだぜ?」
内田はそう言と、梶川を睨みつけた。
「未成年相手に本気になる方がどうかしてるだろう。お前――男と乳繰り合うのが好きなのか?」
「――ッ!」
腕を振り上げ、殴りかかろうとする梶川を佐倉は背後から押さえつけた。
「エージよせ!!」
「クソッ!離せ!!」
暴れる梶川を見て内田は笑った。
「ほっとけよ、サク。どうせここにはいられねぇんだ」
「残念だな!訓戒だぜ」
「はぁ!?」
それを聞いた内田が信じられないという顔をした。
「てめぇ……刑事部長のケツでも舐めてやったのか!?」
「お前もタダで済むと思うな!」
「エージ、落ち着け!」
梶川は内田に向かって指をさすと「覚悟しとけよ!」と叫んだ。
各部屋から、何事だという様に捜査員達が顔を出す。
梶川は佐倉に羽交い絞めにされながら廊下を引きずられていった。
「首洗って待っとけ!!」
最後にそう叫ぶと、梶川は佐倉に担ぎ上げられて清掃用具室の中に放り込まれた。
富永がそう問いかける。
梶川は答えなかった。
とっくに知っていたからだ。
「君が、そういう目的で彼を傍に置いていたとは思いたくない。彼の境遇を知って、助けてやりたかっただけ……そうだろう?」
梶川は、視線を上げて、初めて正面から富永の目を見た。
息子を見る父親の様な眼差しで、富永はじっと梶川の目を見返してくる。
拓夢の目に――それはどこか似ていた。
生きていれば、息子もきっと同じことをしていただろう……
富永の、そんな声が聞こえてくるようだった。
梶川は黙って俯いた。
富永のいう事は、半分本当で半分は間違っている。
特別な感情はあった。
そう言う目的がなかったわけでもない。
(俺はあの子を、傍に置きたかった……傍にいて欲しかった――)
「処分は訓戒だ」
「え?」
梶川は驚いた顔をした。
思っていたよりも軽い処分に戸惑い、眉間を寄せる。
「それと、依願退職は受け付けないから、そのつもりでいたまえ」
「待ってください」
梶川はそう言って立ち上がったが、富永は机の上に並べられた写真を丁寧に集め、フォルダーにしまうと、梶川を見上げて言った。
「彼を少年課に引き渡して、君は自分の職務を全うしなさい」
「でも」
「彼には自立支援施設を探して、更生するよう尽力する」
「……」
「約束する」
梶川は黙ったまま、富永を見た。
「君は彼を保護していただけだ――この件は内々に処理する」
手にしていたフォルダーを目の前に掲げて、富永は言った。
「君はこんな所で終わってしまうのか?」
「……」
「せっかく警察官になって、ここまできたのに――こんな所で終えていいのか?認めてもらいたいんだろう?自分の実力を――」
梶川は、じっと自分の足元を見つめた。
誰にも評価されず。
悪戯に時間と労力を搾取される日々だった――
生きていることが虚しく思える程、それは苦痛の連続だった。
でもこの世界は、認められれば上に上がれる。
力のあるものは評価される。
弱肉強食の競争社会だが、
生きていると実感できる――
梶川は刑事部長室を出ると、刑事部屋に戻った。
その姿を見た内田が、妙な含み笑いをする。
笑いながら部屋を出ていくので、梶川も後を追った。
その様子に不安を感じた佐倉も、慌てて後を追う。
「チクったのはアンタか?」
そう声を掛けられて、内田は振り返ると鼻で笑った。
「あの子の親に、妙な入れ知恵したものアンタだろう?」
「身内を通してやっただけでも感謝しろよ。そのままマスコミに売っても良かったんだぜ?」
内田はそう言と、梶川を睨みつけた。
「未成年相手に本気になる方がどうかしてるだろう。お前――男と乳繰り合うのが好きなのか?」
「――ッ!」
腕を振り上げ、殴りかかろうとする梶川を佐倉は背後から押さえつけた。
「エージよせ!!」
「クソッ!離せ!!」
暴れる梶川を見て内田は笑った。
「ほっとけよ、サク。どうせここにはいられねぇんだ」
「残念だな!訓戒だぜ」
「はぁ!?」
それを聞いた内田が信じられないという顔をした。
「てめぇ……刑事部長のケツでも舐めてやったのか!?」
「お前もタダで済むと思うな!」
「エージ、落ち着け!」
梶川は内田に向かって指をさすと「覚悟しとけよ!」と叫んだ。
各部屋から、何事だという様に捜査員達が顔を出す。
梶川は佐倉に羽交い絞めにされながら廊下を引きずられていった。
「首洗って待っとけ!!」
最後にそう叫ぶと、梶川は佐倉に担ぎ上げられて清掃用具室の中に放り込まれた。
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