哀歌ーelegy-

sorarion914

文字の大きさ
37 / 49
雷雪

#6

しおりを挟む
「彼は、その界隈でウリ専をしているそうだ。知っていたか?」
 富永がそう問いかける。
 梶川は答えなかった。
 とっくに知っていたからだ。

「君が、で彼を傍に置いていたとは思いたくない。彼の境遇を知って、助けてやりたかっただけ……そうだろう?」
 梶川は、視線を上げて、初めて正面から富永の目を見た。


 息子を見る父親の様な眼差しで、富永はじっと梶川の目を見返してくる。
 拓夢の目に――それはどこか似ていた。



 生きていれば、息子もきっと同じことをしていただろう……


 富永の、そんな声が聞こえてくるようだった。

 梶川は黙って俯いた。
 富永のいう事は、半分本当で半分は間違っている。

 特別な感情はあった。
 そう言う目的がなかったわけでもない。




 (俺はあの子を、傍に置きたかった……傍にいて欲しかった――)





「処分は訓戒だ」
「え?」
 梶川は驚いた顔をした。
 思っていたよりも軽い処分に戸惑い、眉間を寄せる。
「それと、依願退職は受け付けないから、そのつもりでいたまえ」
「待ってください」
 梶川はそう言って立ち上がったが、富永は机の上に並べられた写真を丁寧に集め、フォルダーにしまうと、梶川を見上げて言った。
「彼を少年課に引き渡して、君は自分の職務を全うしなさい」
「でも」
「彼には自立支援施設を探して、更生するよう尽力する」
「……」
「約束する」
 梶川は黙ったまま、富永を見た。

「君は彼をだ――この件は内々に処理する」

 手にしていたフォルダーを目の前に掲げて、富永は言った。
「君はこんな所で終わってしまうのか?」
「……」
「せっかく警察官になって、ここまできたのに――こんな所で終えていいのか?認めてもらいたいんだろう?自分の実力を――」

 梶川は、じっと自分の足元を見つめた。





 誰にも評価されず。
 悪戯に時間と労力を搾取される日々だった――



 生きていることが虚しく思える程、それは苦痛の連続だった。


 でもこの世界は、認められれば上に上がれる。
 力のあるものは評価される。
 弱肉強食の競争社会だが、


 ――





 梶川は刑事部長室を出ると、刑事部屋に戻った。
 その姿を見た内田が、妙な含み笑いをする。
 笑いながら部屋を出ていくので、梶川も後を追った。
 その様子に不安を感じた佐倉も、慌てて後を追う。

「チクったのはアンタか?」
 そう声を掛けられて、内田は振り返ると鼻で笑った。
「あの子の親に、妙な入れ知恵したものアンタだろう?」
「身内を通してやっただけでも感謝しろよ。そのままマスコミに売っても良かったんだぜ?」
 内田はそう言と、梶川を睨みつけた。
「未成年相手に本気になる方がどうかしてるだろう。お前――男と乳繰り合うのが好きなのか?」
「――ッ!」
 腕を振り上げ、殴りかかろうとする梶川を佐倉は背後から押さえつけた。
「エージよせ!!」
「クソッ!離せ!!」
 暴れる梶川を見て内田は笑った。
「ほっとけよ、サク。どうせここにはいられねぇんだ」
「残念だな!訓戒だぜ」
「はぁ!?」
 それを聞いた内田が信じられないという顔をした。
「てめぇ……刑事部長のケツでも舐めてやったのか!?」
「お前もタダで済むと思うな!」
「エージ、落ち着け!」
 梶川は内田に向かって指をさすと「覚悟しとけよ!」と叫んだ。

 各部屋から、何事だという様に捜査員達が顔を出す。
 梶川は佐倉に羽交い絞めにされながら廊下を引きずられていった。
「首洗って待っとけ!!」
 最後にそう叫ぶと、梶川は佐倉に担ぎ上げられて清掃用具室の中に放り込まれた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ニューハーフヘルス体験

中田智也
BL
50代のオジサンがニューハーフヘルスにハマッた実体験と心の内を元にしたおはなし

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...