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雷雪
#3
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「非番で借り出されたか」
佐倉がそう言って梶川を見た。
眠そうな目で防寒用のコートを着て、反射材のベストに交通誘導棒をぶら下げた梶川は、何度も欠伸をしながら長靴に付いた雪を手で叩き落とした。
急激な積雪で一時停電に見舞われた都内は、至る所で信号機が消え、その為交通課が総出で出動するも人員が足らず、案の定非番中の警察官は、軒並み応援に駆り出された。
早朝からずっと動き回っていた梶川は、寒さも感じないほど疲れ切っていた。
雪は既に止んでいて、午後からは晴れ間がのぞくと言われていたが――
「今のうちに除雪しておかないと、路面凍結したら明日もヤバいぜ」
「雪が降って喜ぶのは犬と子供ぐらいだな」
矢島と佐倉がそう言って笑った。
「今日、何時に帰れるかな」
梶川がそう呟くのを聞いて、佐倉が顔を向けた。
「出かける予定でもあったのか?」
「いや……別に」
梶川はそう言って濡れたコートを脱ぐとハンガーにかけた。
明け方に呼び出された梶川は、寝ている翔を残したまま家を出てしまった。
一応メモ書きと、合鍵はテーブルに置き、カップ麺など食べられそうなものは幾つか置いてきたが……
別に盗られて困る様な物は置いてないし、見られて困る様な物も置いてない。
警察官の癖に不用心な……と思われそうだが、手癖の悪い奴かそうでないかは大体分かる。
(あの子はそういうタイプじゃない)
それでも不安はあった。
家に未成年を連れ込んだ事など、当然佐倉達には言えない。
なので、梶川は平常を装いつつも、帰宅できそうなタイミングを計っていた。
夕方になり、ようやく帰れそうな目処がついたので、梶川は脇目も振らずに退庁した。
電車でアパートまで戻る。
人や車の往来が激しい道路は、だいぶ雪が除けられていたが、狭い路地になるとまだ積もっていた。
アパートの階段を上り、ドアの鍵を開けて中に入る。
室内は暗かった。
「……」
中に入ると人の気配はない。
室内は夕べのまま。何も変わった様子はなかった。
カップラーメンも、手付かずでそのまま残っている。
何かを食べていた形跡はない。
ただ、合鍵がなくなっている。
起きて、鍵を持って――そのまま帰ってしまったのかもしれない。
家を出る時、額に触ってみたが、熱はそれほどないように感じた。
(元気になってどこかに行ったのか……)
メモ書きにも、朝、自分が書いたメッセージ以外は何も書かれていない。
(クールなもんだな……)
梶川は自嘲気味に笑った。
変な期待をしてた自分に気が付いて、イラついたように荷物を投げ出す。
まだ部屋にいるかもしれない。
自分を待っていてくれるかもしれない。
そんな期待をしてた自分が無性に恥ずかしくなってきた。
梶川は捲れたままの毛布を奇麗にたたみ、飲み残したマグカップを手にして、ふと気が付いた。
青いジャンパーが見当たらない。
(あれを着て出てったのか?)
――するとその時。
カチャンと鍵が開く音がして、青いジャンパーを着た翔が姿を見せた。
「あ!エージ君、帰ってた」
コンビニの買い物袋をぶら下げて、室内にいる梶川を見ると、翔は嬉しそうに笑いながら入ってきた。
「……」
驚いている梶川に翔は近づくと、「おにぎり買ってきたんだ」と言った。
「あとね。プリンが食べたくて……ほら、エージ君の分も買ってきたよ」
「……」
「雪、スゴイね。さっきそこで小さい雪だるま作ってたんだ。階段の下に並べて――」
梶川は、翔を抱きしめた。
翔は手にしていたコンビニの袋を落とすと、驚いて目を丸くした。
――が。
両手を梶川の背中に回すと、「……エージ君」と呟いて目を閉じた。
互いに密着した体から、鼓動と熱が伝わってくる。
一度バランスを崩した理性は、砂で出来た城のように、サラサラと流れ崩れていく。
もう止められなかった。
2人は抱き合ったまま――激しいキスを交わすと、その場に崩れ落ちた。
佐倉がそう言って梶川を見た。
眠そうな目で防寒用のコートを着て、反射材のベストに交通誘導棒をぶら下げた梶川は、何度も欠伸をしながら長靴に付いた雪を手で叩き落とした。
急激な積雪で一時停電に見舞われた都内は、至る所で信号機が消え、その為交通課が総出で出動するも人員が足らず、案の定非番中の警察官は、軒並み応援に駆り出された。
早朝からずっと動き回っていた梶川は、寒さも感じないほど疲れ切っていた。
雪は既に止んでいて、午後からは晴れ間がのぞくと言われていたが――
「今のうちに除雪しておかないと、路面凍結したら明日もヤバいぜ」
「雪が降って喜ぶのは犬と子供ぐらいだな」
矢島と佐倉がそう言って笑った。
「今日、何時に帰れるかな」
梶川がそう呟くのを聞いて、佐倉が顔を向けた。
「出かける予定でもあったのか?」
「いや……別に」
梶川はそう言って濡れたコートを脱ぐとハンガーにかけた。
明け方に呼び出された梶川は、寝ている翔を残したまま家を出てしまった。
一応メモ書きと、合鍵はテーブルに置き、カップ麺など食べられそうなものは幾つか置いてきたが……
別に盗られて困る様な物は置いてないし、見られて困る様な物も置いてない。
警察官の癖に不用心な……と思われそうだが、手癖の悪い奴かそうでないかは大体分かる。
(あの子はそういうタイプじゃない)
それでも不安はあった。
家に未成年を連れ込んだ事など、当然佐倉達には言えない。
なので、梶川は平常を装いつつも、帰宅できそうなタイミングを計っていた。
夕方になり、ようやく帰れそうな目処がついたので、梶川は脇目も振らずに退庁した。
電車でアパートまで戻る。
人や車の往来が激しい道路は、だいぶ雪が除けられていたが、狭い路地になるとまだ積もっていた。
アパートの階段を上り、ドアの鍵を開けて中に入る。
室内は暗かった。
「……」
中に入ると人の気配はない。
室内は夕べのまま。何も変わった様子はなかった。
カップラーメンも、手付かずでそのまま残っている。
何かを食べていた形跡はない。
ただ、合鍵がなくなっている。
起きて、鍵を持って――そのまま帰ってしまったのかもしれない。
家を出る時、額に触ってみたが、熱はそれほどないように感じた。
(元気になってどこかに行ったのか……)
メモ書きにも、朝、自分が書いたメッセージ以外は何も書かれていない。
(クールなもんだな……)
梶川は自嘲気味に笑った。
変な期待をしてた自分に気が付いて、イラついたように荷物を投げ出す。
まだ部屋にいるかもしれない。
自分を待っていてくれるかもしれない。
そんな期待をしてた自分が無性に恥ずかしくなってきた。
梶川は捲れたままの毛布を奇麗にたたみ、飲み残したマグカップを手にして、ふと気が付いた。
青いジャンパーが見当たらない。
(あれを着て出てったのか?)
――するとその時。
カチャンと鍵が開く音がして、青いジャンパーを着た翔が姿を見せた。
「あ!エージ君、帰ってた」
コンビニの買い物袋をぶら下げて、室内にいる梶川を見ると、翔は嬉しそうに笑いながら入ってきた。
「……」
驚いている梶川に翔は近づくと、「おにぎり買ってきたんだ」と言った。
「あとね。プリンが食べたくて……ほら、エージ君の分も買ってきたよ」
「……」
「雪、スゴイね。さっきそこで小さい雪だるま作ってたんだ。階段の下に並べて――」
梶川は、翔を抱きしめた。
翔は手にしていたコンビニの袋を落とすと、驚いて目を丸くした。
――が。
両手を梶川の背中に回すと、「……エージ君」と呟いて目を閉じた。
互いに密着した体から、鼓動と熱が伝わってくる。
一度バランスを崩した理性は、砂で出来た城のように、サラサラと流れ崩れていく。
もう止められなかった。
2人は抱き合ったまま――激しいキスを交わすと、その場に崩れ落ちた。
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