哀歌ーelegy-

sorarion914

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恋情

#4

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 朝。

 庁舎の前まで来て梶川は足を止めた。
 制服姿の男子高校生が1人、手持無沙汰に歩道の片隅に佇んでいたのだ。

 見覚えのあるその姿に、梶川は一瞬(おや?)と首を傾げた。

 目が合うと、少年は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「エージ君」
 その呼び方に、「あぁ、あの時の」と梶川は頷いた。
「おはよう、エージ君」
「君は……翔君だっけ?」
「もう忘れちゃったの?」
 翔は怒ったように口を尖らせた。
 僅か数週間前の出来事だが、日々事件に忙殺されていると、関りの薄い事柄は記憶の底に沈んでいく。
 少年課に引き渡して以降、翔とは関りを持っていない。
 あの後、彼がどのようになったのか――詳しく聞くことをすっかり忘れていた。

「学校は?」
 制服姿なので、恐らくちゃんと学校へ行くように諭されたのだろう。
 家には戻されたのだろうか?
 児相に通報されるような家だが――

「これから行くよ。その前にエージ君に会いたくて」
「……」

 彼が通う都立高校は、確かこの辺りの路線にはなかったはずだ。
 ついでに寄るには方向が全く違う。
「ちゃんと行けよ。さぼるなよ」
 そう言われて翔は膨れた。
「分かってるよ」
 庁舎の中へ入っていこうとする梶川を呼び止めるように、翔は言った。
「ねぇお仕事、何時に終わるの?」
「え?」
 梶川は足を止めた。

 (まさか、帰りもここで待つつもりか?)


 一体何の目的で?と思ったが、梶川は素直に、
「明日だ」
 と答えた。
「え?そんなに長いの?」
「当直なんだよ。来なくていいから、ちゃんと家に帰れ。分かった?」
「――」
 寂しそうな顔をする翔に、ほんの一瞬胸が痛んだが――梶川は早く行け!というように手を振ると、そのまま振り返らずに庁舎に入った。


 ところが。
 翔はその後、毎日のように庁舎の前に姿を現すようになった。
 朝だけでなく昼や夕方、果ては夜になっても……いつの間にかやって来ては、人待ち顔に歩道に佇むようになった。
 季節は2月。
 寒空の中、制服姿で佇む少年に警戒中の警察官が話しかけることもあったが、翔は、ただここにいるだけだと言うだけで、理由までは答えなかった。

 しかし、梶川を待っていることは明白だった。姿を見ると嬉しそうに駆け寄る姿を職員たちが見ており、お節介な同僚が梶川にそれとなく耳打ちするようにまでなった。

「あの子、またいるぞ」
 そう言ってからかってくる同僚に、梶川は苦い顔をした。
「出待ちファンまで現れるようになったか。人気者はツレェな」
 矢島がそう言って笑った。
「勘弁してください。うっとおしくて仕方ない」
 梶川はそう言うと、「あの子。ちゃんと学校行ってるのか?」とぼやいた。
「家には戻されたようだが、母親の再婚相手と折り合いが悪いらしい。母親も放任主義のようだ。不登校になるのも時間の問題だな……また同じことしなきゃいいが」
「……」
 気にはなるが未成年の扱いは担当外の為、下手な事は出来ない。
 面倒なことに巻き込まれるのは御免だと、梶川は表で待つ翔を避けるため、別の出入り口から外に出た。

 それと入れ違う様に刑事部屋に戻った佐倉が、矢島を見て言った。
「またあの子外にいるぜ」
「あぁ。よっぽどエージの事が気に入ったんだろうな」
 そう言って笑いながら、「アイツのどこがいいんだか」と首を振る。
「頼れる兄貴感はあるけどな。あの子、どうやらがあるみたいだし……惚れちまったんじゃないか?」
 それを聞いて矢島は「マジか」と笑った。
「エージは?」
「あの子がいるの知って裏から出てったよ。待っても無駄。教えてやれよ、可哀そうに――」


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