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波紋
#4
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――翌、2013年。1月15日。
一闘会傘下の組が経営するボーイズバーが、裏で違法な風俗営業をしているというタレコミがあり、慎重に内部調査を進めたこの日、一斉捜索に踏み切った。
梶川は久しぶりに同じ班に編成された佐倉や矢島と共に現場に乗り込んだ。
ガサ状を手に店内へ入り、客や従業員を集めて捜索する旨を告げる。
従業員は若い男性ばかり。客はほぼ女性。
一見、お洒落なラウンジバーだが、タレコミ通りカウンターの裏に回ると、小さな部屋がいくつかあり、そこで違法な性接待が行われていた。
従業員の若い男が客の女にわいせつ行為を行っている――これは明らかな風営法違反で、しかも驚いたことに、客の中には男もいて、ここはそういう事が目的で訪れる男性客も多くいたという。
小部屋を順番覗いていた梶川は、その1つに、どう見ても未成年と思われる少年が、裸に近い姿でマットレスの上に座っているのを見て眉を寄せた。その傍には若い青年がいる。これから事を行おうとしていたようで、呆然としていた。
「警察です。申し訳ないですが出てもらえますか?」
そう言われて、青年は慌てて自分の服を羽織ると部屋を飛び出した。もちろんそのまま帰れるはずもなく、捜査員に掴まれて椅子に座らされている。
梶川はマットレスの上でじっと座っている少年に言った。
「服、あります?着てもらえますか?」
「……」
黙ったまま、何も言わない少年に、「君、歳幾つ?未成年?」と聞いた。
矢継ぎ早の質問に戸惑ってるのか、それとも突然の出来事に驚いているのか、少年は何も言わない。怯えたような目をして、じっと梶川を見ている。その体が微かに震えていた。
「大丈夫?動けます?」
傍に寄って顔を覗き込むが、少年は怯えた目をしたまま黙ってじっと梶川を見るだけだった。
近くに少年の衣類らしきものは見当たらない。
梶川は、参ったな……というように頭をかくと、「誰か、羽織るもの持ってきて!」と声を上げた。
程なくして、佐倉が毛布を1枚持って梶川に近づいてきた。
梶川は佐倉から毛布を受け取ると、それを少年の体にかけてやった。
「この子は客か?」
佐倉が心配そうに聞いた。
「分からない。従業員に確認する」
梶川はそう言うと立ち上がって部屋を出た。
佐倉は、毛布にくるまって震えている少年をじっと見つめた。まだあどけない顔をしている。でも体つきから中学生ではなさそうだ。高校生くらいだろうか?
どちらにしても、従業員として働かせていたら問題アリだ。
その後、少年は客ではなく、従業員だと確認出来てひとまず署に連行することになった。
服に着替えた少年は、警察官に促されるままパトカーに乗り込んだ。
不安そうに周囲を見回す少年と、視線が一瞬かち合い、梶川は立ち止まった。
梶川に気づいて少年が顔を向ける。
後部座席から身を乗り出すように、必死に窓の外を見ていたが……無情にもパトカーは走り出してしまった。
「……」
梶川が黙って佇んでいると、ふいに制服警官が声をかけた。
「おい、これ」
そう言われ、毛布を手渡される。
梶川は黙って受け取り、走り去ったパトカーを目で追った。
毛布にはまだ、僅かに少年の体温が残っていた。
一闘会傘下の組が経営するボーイズバーが、裏で違法な風俗営業をしているというタレコミがあり、慎重に内部調査を進めたこの日、一斉捜索に踏み切った。
梶川は久しぶりに同じ班に編成された佐倉や矢島と共に現場に乗り込んだ。
ガサ状を手に店内へ入り、客や従業員を集めて捜索する旨を告げる。
従業員は若い男性ばかり。客はほぼ女性。
一見、お洒落なラウンジバーだが、タレコミ通りカウンターの裏に回ると、小さな部屋がいくつかあり、そこで違法な性接待が行われていた。
従業員の若い男が客の女にわいせつ行為を行っている――これは明らかな風営法違反で、しかも驚いたことに、客の中には男もいて、ここはそういう事が目的で訪れる男性客も多くいたという。
小部屋を順番覗いていた梶川は、その1つに、どう見ても未成年と思われる少年が、裸に近い姿でマットレスの上に座っているのを見て眉を寄せた。その傍には若い青年がいる。これから事を行おうとしていたようで、呆然としていた。
「警察です。申し訳ないですが出てもらえますか?」
そう言われて、青年は慌てて自分の服を羽織ると部屋を飛び出した。もちろんそのまま帰れるはずもなく、捜査員に掴まれて椅子に座らされている。
梶川はマットレスの上でじっと座っている少年に言った。
「服、あります?着てもらえますか?」
「……」
黙ったまま、何も言わない少年に、「君、歳幾つ?未成年?」と聞いた。
矢継ぎ早の質問に戸惑ってるのか、それとも突然の出来事に驚いているのか、少年は何も言わない。怯えたような目をして、じっと梶川を見ている。その体が微かに震えていた。
「大丈夫?動けます?」
傍に寄って顔を覗き込むが、少年は怯えた目をしたまま黙ってじっと梶川を見るだけだった。
近くに少年の衣類らしきものは見当たらない。
梶川は、参ったな……というように頭をかくと、「誰か、羽織るもの持ってきて!」と声を上げた。
程なくして、佐倉が毛布を1枚持って梶川に近づいてきた。
梶川は佐倉から毛布を受け取ると、それを少年の体にかけてやった。
「この子は客か?」
佐倉が心配そうに聞いた。
「分からない。従業員に確認する」
梶川はそう言うと立ち上がって部屋を出た。
佐倉は、毛布にくるまって震えている少年をじっと見つめた。まだあどけない顔をしている。でも体つきから中学生ではなさそうだ。高校生くらいだろうか?
どちらにしても、従業員として働かせていたら問題アリだ。
その後、少年は客ではなく、従業員だと確認出来てひとまず署に連行することになった。
服に着替えた少年は、警察官に促されるままパトカーに乗り込んだ。
不安そうに周囲を見回す少年と、視線が一瞬かち合い、梶川は立ち止まった。
梶川に気づいて少年が顔を向ける。
後部座席から身を乗り出すように、必死に窓の外を見ていたが……無情にもパトカーは走り出してしまった。
「……」
梶川が黙って佇んでいると、ふいに制服警官が声をかけた。
「おい、これ」
そう言われ、毛布を手渡される。
梶川は黙って受け取り、走り去ったパトカーを目で追った。
毛布にはまだ、僅かに少年の体温が残っていた。
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