哀歌ーelegy－

追想

インターバル【現在】

「エージさんが警察だったこと、姐さん前から知ってたの？」
　スーちゃんの問いに、「まぁね……」とサチ姐は頷くと、空になったグラスにブランデーを注いだ。

「もう10年以上前のことよ。アタシが働いてた店に手入れに来たの。まだ配属したての新人刑事だったわ」
　ブランデーのストレートを一気に流し込んで、サチ姐は笑った。
「可愛かったわよぉ……初々しくて。でも他の刑事とはどこか違って見えたわ」
　そう言って、ウットリとした目で虚空を見つめるとタバコをくわえて火をつけた。
「新米なのに落ち着いててさ。妙に冷めてて――けど、色気があって見つめられるとゾクゾクするの。分かる？」
　サチ姐はそう言うと、綾瀬を見て笑った。
「男にしか分からない匂いよ」
「……」
　綾瀬は小さく微笑んだ。

「あぁ……この男は何かを隠してる――そう感じたわ。冷静を装ってるけど、中身はヤバいくらい熱い。キケンな男だって」
「テツさんは知ってるのかな？エージさんが元刑事だってこと」
「そりゃ知ってるでしょう。もう何年も一緒に暮らしてるんだもの」
　頷く綾瀬を見てサチ姐は続けた。
「アイツの店に、時々来る客がいるのよ。元同僚の刑事デカで佐倉っていったかしら……まだ現役らしいから、他の客や従業員と顔を合わさないように、いつも閉店間際に来るらしいわ。アタシの店には滅多に来ないくせにさ」
「でも、なんで辞めちゃったの？」
　指先のネイルを見つめたまま、スーちゃんが聞く。
　タバコを灰皿でもみ消して、「さぁ……」とサチ姐は呟いた。

「居づらくなった事情があるんでしょう。エージは問題児だったらしいから」