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Side.A・八木輝之の告白
#10
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「何となく分かってたんですけどね」
千秋はそう言って笑った。
缶コーヒーを手に、公園のベンチに座ってそう話す千秋に、八木は頷いた。
「メールもなかなか来なかったし、話してても上の空っていうか――」と俯く。
「脈ないって分かってたけど、でもどうしても諦めきれなくて」
「で、告白した」
「ええ。あっさりフラれましたけど」
そう言ってあっけらかんと笑う千秋に、八木も思わず笑った。
「他に気になる人がいるって言われました。でもまさか男だとは思わなくて――それで今日、偶然駅で会って話したら、実はこの人ととって――打ち明けてくれました」
「え!?倉見と綾瀬さんに会ったの?」
「はい。誰かと会う約束してたみたいだけど……それって八木さんだったの?」
まさか自分と合う前に、千秋と会ってカミングアウトしていたとは――
「やだぁ。同じ日に衝撃の告白聞くなんて」
そう言うと千秋は楽しそうに笑った。
「八木さん、気づいてましたか?倉見さんに男の恋人がいるって」
「まさか!俺だってビックリだよ」
そうは言ったものの――少し前におかしな質問をされたことを思い出して黙り込む。
倉見がそういう男じゃないことはよく知っている。
何があったのかは知らないが、奴の事だ。
誰にも相談できず、1人悩んで悩んで悩んで悩んで……悩み抜いて出した答えが、綾瀬だったのだろう。
その過程を想像すると、胸が痛くなる。
でも同時に、今日見たあの2人の姿には胸が熱くなった。
(あんなに楽しそうに、幸せそうに、笑っている倉見を見たのは初めてかもしれない……)
何も言わずに黙っている八木を見て、千秋は言った。
「もしかして八木さん……倉見さんの事好きだった?」
「え?」
驚いて千秋を見る。
「だって――泣いてますよ?」
「!?」
慌てて眼鏡を外して目をこする。それを見た千秋が、ハンカチをそっと差し出した。
「すみません……」
八木は照れて頭を下げた。ハンカチを受け取りそっと目頭を押さえる。
「好きだったんですね……」
「違います。俺はただ――」
綾瀬と手を繋ぎ、嬉しそうに笑う倉見の姿。
あんな笑顔。自分には見せたことなかった。
どうしてその男なんだ?
同じ男なら、俺じゃダメだったのか―――?
「やっぱ見た目かな……?」
そう呟く八木を、じっと見ていた千秋が言った。
「八木さんって、眼鏡外すとカッコいいですね」
「……は?」
急に何を?という顔をする八木に、千秋は笑った。
「なんか、八木さんって可愛いかも」
「――」
「ねぇ!飲みに行きません?行きましょうよ!」
千秋は八木の腕を掴んでベンチから立ち上がらせた。
「え?でも――」
そう言ってから、ふと気づいたように八木は千秋を見た。
「あれ?お酒飲めないって言ってなかった?」
「あぁ、あれ?あれは嘘です」
「え?」
「あの時、倉見さん見て『この人は真面目な女が好きそうだな』って思ったから、そう言っただけ」
「……」
「合コン初めても嘘。私、25ですよ?そんなわけないじゃん!」
そう言って肩を叩かれ、八木は震えあがった。
「うあわぁぁ……女怖ぇぇぇ……」
「今日はもう帰しませんからね!とことん付き合ってもらいますよ!」
そう言って千秋に腕を掴まれた八木は、「お手柔らかにお願いします……」と呟いた。
「あははは」
千秋が笑って強引に手を引っ張る。
八木も笑いながら――
ふと夜空を見上げた。
散らばるのは、無数の星のよりも明るい街の光。
そこに微笑むような薄い月が浮かんでいた。
その月を見て、八木も小さく微笑む。
(今度こそ――)
胸の内で八木は呟いた。
幸せになれよ、倉見……
「早く歩いて!ほら、オジサン!」
「オジサン言うな!」
千秋に手を引かれながら、八木はポケットにそっと眼鏡をしまった。
END
千秋はそう言って笑った。
缶コーヒーを手に、公園のベンチに座ってそう話す千秋に、八木は頷いた。
「メールもなかなか来なかったし、話してても上の空っていうか――」と俯く。
「脈ないって分かってたけど、でもどうしても諦めきれなくて」
「で、告白した」
「ええ。あっさりフラれましたけど」
そう言ってあっけらかんと笑う千秋に、八木も思わず笑った。
「他に気になる人がいるって言われました。でもまさか男だとは思わなくて――それで今日、偶然駅で会って話したら、実はこの人ととって――打ち明けてくれました」
「え!?倉見と綾瀬さんに会ったの?」
「はい。誰かと会う約束してたみたいだけど……それって八木さんだったの?」
まさか自分と合う前に、千秋と会ってカミングアウトしていたとは――
「やだぁ。同じ日に衝撃の告白聞くなんて」
そう言うと千秋は楽しそうに笑った。
「八木さん、気づいてましたか?倉見さんに男の恋人がいるって」
「まさか!俺だってビックリだよ」
そうは言ったものの――少し前におかしな質問をされたことを思い出して黙り込む。
倉見がそういう男じゃないことはよく知っている。
何があったのかは知らないが、奴の事だ。
誰にも相談できず、1人悩んで悩んで悩んで悩んで……悩み抜いて出した答えが、綾瀬だったのだろう。
その過程を想像すると、胸が痛くなる。
でも同時に、今日見たあの2人の姿には胸が熱くなった。
(あんなに楽しそうに、幸せそうに、笑っている倉見を見たのは初めてかもしれない……)
何も言わずに黙っている八木を見て、千秋は言った。
「もしかして八木さん……倉見さんの事好きだった?」
「え?」
驚いて千秋を見る。
「だって――泣いてますよ?」
「!?」
慌てて眼鏡を外して目をこする。それを見た千秋が、ハンカチをそっと差し出した。
「すみません……」
八木は照れて頭を下げた。ハンカチを受け取りそっと目頭を押さえる。
「好きだったんですね……」
「違います。俺はただ――」
綾瀬と手を繋ぎ、嬉しそうに笑う倉見の姿。
あんな笑顔。自分には見せたことなかった。
どうしてその男なんだ?
同じ男なら、俺じゃダメだったのか―――?
「やっぱ見た目かな……?」
そう呟く八木を、じっと見ていた千秋が言った。
「八木さんって、眼鏡外すとカッコいいですね」
「……は?」
急に何を?という顔をする八木に、千秋は笑った。
「なんか、八木さんって可愛いかも」
「――」
「ねぇ!飲みに行きません?行きましょうよ!」
千秋は八木の腕を掴んでベンチから立ち上がらせた。
「え?でも――」
そう言ってから、ふと気づいたように八木は千秋を見た。
「あれ?お酒飲めないって言ってなかった?」
「あぁ、あれ?あれは嘘です」
「え?」
「あの時、倉見さん見て『この人は真面目な女が好きそうだな』って思ったから、そう言っただけ」
「……」
「合コン初めても嘘。私、25ですよ?そんなわけないじゃん!」
そう言って肩を叩かれ、八木は震えあがった。
「うあわぁぁ……女怖ぇぇぇ……」
「今日はもう帰しませんからね!とことん付き合ってもらいますよ!」
そう言って千秋に腕を掴まれた八木は、「お手柔らかにお願いします……」と呟いた。
「あははは」
千秋が笑って強引に手を引っ張る。
八木も笑いながら――
ふと夜空を見上げた。
散らばるのは、無数の星のよりも明るい街の光。
そこに微笑むような薄い月が浮かんでいた。
その月を見て、八木も小さく微笑む。
(今度こそ――)
胸の内で八木は呟いた。
幸せになれよ、倉見……
「早く歩いて!ほら、オジサン!」
「オジサン言うな!」
千秋に手を引かれながら、八木はポケットにそっと眼鏡をしまった。
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