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Side.A・八木輝之の告白
#6
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「ごめ~ん。20代はこの子だけなの」
そう言って詫びる友人に、八木は「おい!」と軽く突っ込んだ。
全員看護師と言う職業に偽りはないが――
平居千秋という25歳の女性以外、友人含め残り3人は30代。
まぁ、自分たちの歳を考えれば妥当な線だとは思うが……
「嘘つくなよなぁ」
「全員20代とは言ってません!」
という屁理屈を返されて苦笑する。
それでも、気取りのない女性たちは場の空気を盛り上げ、飲みの席は終始賑やかだった。
八木はさりげなく隣の倉見を見た。
倉見は向かい合わせに座っていた千秋と仲良くしゃべっている。時折楽しそうに笑顔も浮かべていた。
千秋は他の男に声を掛けられると、その都度愛想よく対応はするものの、話が終わるとすぐに視線を倉見に戻す。
その様子を見て、八木はニヤリと笑った。
「倉見さんって、こういう所に来なくても、彼女いそうなんですけど?」
そう尋ねる千秋の声を聞いて、八木はすかさず言った。
「彼、婚約者に逃げられたばっかりなんだ。慰めてあげてよ」
それを聞いた他の女性たちが口々に言う。
「嘘でしょう?私なら絶対逃がさないけどな」
「死んでも捕まえておくわよね」
「そんな勿体ないことする女いるんだ?」
等々――信じられない、ありえない、と興奮しては盛り上がる。
倉見が自分を恨めしそうに睨んできたが、八木は「まぁまぁ」と肩を叩いた。
こういうことは、いっそ明るく笑い飛ばしてもらう方がいい。変に慰められる方が余計落ち込むし、自信も無くす。
(ほらな。お前はまだまだイケるって。自信持てよ)
(それに――千秋ちゃんは、さっきからずっとお前の事見てるぞ)
「……」
途中、トイレで中座する倉見を見て、八木もゆっくりと席を立った。
トイレに入ると、倉見は既に用を足した後で手を洗っていた。その背後で八木は用を足しながら言った。
「千秋ちゃん、お前に気があるな」
「そうかな?」
「見てりゃ分かるよ」
そう言われて、倉見が鏡越しに八木を見る。
「席が近いからそう感じるだけだよ」
八木は苦笑すると、手を洗いながら言った。
「気づいてるくせに。察してあげなよ」
「……」
ハンカチで手を拭きながら、倉見は黙って俯く。
「連絡先交換した?」
「いいや」
トイレを出て席に戻る前に、八木は倉見に身を寄せると「ちゃんと連絡先交換しろよ」と素早く囁いた。
分かっているのかいないのか、倉見は何となく心ここにあらずな感じで、ぼんやりとしていた。
酔いが回るほど飲んではいないはずなのに――
千秋に声を掛けられても、聞き返したり、的外れな答えを返したりと集中力を欠いている。
(どうした?)
さっきまでは、そんなことなかったのに……
トイレでの会話を思い返してみても、特に気になることはないように思えたが――
店を出て、とりあえず近くのカラオケへ……という流れになった時、倉見はそれを辞退してきた。
「えぇ?なんでだよ」
「悪い。俺、今日はここで帰るわ」
何かあったのか?と聞こうとしたが、「また週明けな」と言って立ち去ってしまう。
取り付く島もなく――というのはまさにこのことで、千秋も呆気に取られていた。
そう言って詫びる友人に、八木は「おい!」と軽く突っ込んだ。
全員看護師と言う職業に偽りはないが――
平居千秋という25歳の女性以外、友人含め残り3人は30代。
まぁ、自分たちの歳を考えれば妥当な線だとは思うが……
「嘘つくなよなぁ」
「全員20代とは言ってません!」
という屁理屈を返されて苦笑する。
それでも、気取りのない女性たちは場の空気を盛り上げ、飲みの席は終始賑やかだった。
八木はさりげなく隣の倉見を見た。
倉見は向かい合わせに座っていた千秋と仲良くしゃべっている。時折楽しそうに笑顔も浮かべていた。
千秋は他の男に声を掛けられると、その都度愛想よく対応はするものの、話が終わるとすぐに視線を倉見に戻す。
その様子を見て、八木はニヤリと笑った。
「倉見さんって、こういう所に来なくても、彼女いそうなんですけど?」
そう尋ねる千秋の声を聞いて、八木はすかさず言った。
「彼、婚約者に逃げられたばっかりなんだ。慰めてあげてよ」
それを聞いた他の女性たちが口々に言う。
「嘘でしょう?私なら絶対逃がさないけどな」
「死んでも捕まえておくわよね」
「そんな勿体ないことする女いるんだ?」
等々――信じられない、ありえない、と興奮しては盛り上がる。
倉見が自分を恨めしそうに睨んできたが、八木は「まぁまぁ」と肩を叩いた。
こういうことは、いっそ明るく笑い飛ばしてもらう方がいい。変に慰められる方が余計落ち込むし、自信も無くす。
(ほらな。お前はまだまだイケるって。自信持てよ)
(それに――千秋ちゃんは、さっきからずっとお前の事見てるぞ)
「……」
途中、トイレで中座する倉見を見て、八木もゆっくりと席を立った。
トイレに入ると、倉見は既に用を足した後で手を洗っていた。その背後で八木は用を足しながら言った。
「千秋ちゃん、お前に気があるな」
「そうかな?」
「見てりゃ分かるよ」
そう言われて、倉見が鏡越しに八木を見る。
「席が近いからそう感じるだけだよ」
八木は苦笑すると、手を洗いながら言った。
「気づいてるくせに。察してあげなよ」
「……」
ハンカチで手を拭きながら、倉見は黙って俯く。
「連絡先交換した?」
「いいや」
トイレを出て席に戻る前に、八木は倉見に身を寄せると「ちゃんと連絡先交換しろよ」と素早く囁いた。
分かっているのかいないのか、倉見は何となく心ここにあらずな感じで、ぼんやりとしていた。
酔いが回るほど飲んではいないはずなのに――
千秋に声を掛けられても、聞き返したり、的外れな答えを返したりと集中力を欠いている。
(どうした?)
さっきまでは、そんなことなかったのに……
トイレでの会話を思い返してみても、特に気になることはないように思えたが――
店を出て、とりあえず近くのカラオケへ……という流れになった時、倉見はそれを辞退してきた。
「えぇ?なんでだよ」
「悪い。俺、今日はここで帰るわ」
何かあったのか?と聞こうとしたが、「また週明けな」と言って立ち去ってしまう。
取り付く島もなく――というのはまさにこのことで、千秋も呆気に取られていた。
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