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第2章・邂逅
#2
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その変わった子を伴って、神原がロビーに姿を見せたのは約束の時間ギリギリだった。
野崎は手を挙げた。それに気づいて神原も手を振る。
さりげなく挨拶を交わしながら、野崎はその背後に立つ男を軽く一瞥した。
まず驚いたのは、やはりその風貌だった。
40を目前にした男には見えない。
涼やかな目元に細い顎のライン。風にでも煽られたのか、茶色い髪が無造作に柔らかな波を打っている。肌も白く、ハリツヤなどもまだ20代で通用しそうな程だ。
(嘘だろう……)
野崎はその端正な顔立ちに思わず見入った。
出版社のサイトでも写真を見たが、実際の方がより整っていると感じる。
だが、どこか人を寄せ付けない冷たさも感じた。
背はそこそこあるが、痩せているので小柄に見える。
身体より大きめのパーカーにタイトなジーンズ。スニーカー。リュック。
身なりはどこから見ても立派な大学生じゃないか。
(幼く見えるのは服装のせいか?)
野崎の視線を受け、宇佐美は黙ってじっとロビーの方を見ていた。
相手に観察されているのが分かる。宇佐美にとっては最も耐え難い瞬間だった。
「紹介しよう。彼が宇佐美君だ」
神原に名を呼ばれ、宇佐美は一瞬だけ視線を向けて頭を下げた。
「で、こっちが野崎君だ」
「初めまして。野崎です」
野崎は会釈と共に軽く微笑んで見せた。
「どうも……」
宇佐美は視線を合わせず、俯いたままそう呟く。
「……」
そんな2人の様子を見て、神原は小さく咳払いすると、「ラウンジのテーブルに予約を入れてある」と言って2人を促すと、「それと、すまないが……」と断りを入れた。
「実は急用ができて、私は同席できない。ここからは2人で頼むよ」
「え⁉」
「――」
飛び上がるように驚く宇佐美とは対照的に、野崎は冷静だった。
「待ってよ神原さん……そんなこと一言も言ってなかったじゃ――」
「すまないね宇佐美君。なに、そんなに緊張することないよ」
「でも」
「野崎は初対面の相手でも気兼ねなく話ができる男だ。だろう?」
野崎は答える代わりに肩を竦めた。
「大丈夫だよ、彼を信じて」
神原はそう言って宇佐美の肩を2度、優しく撫でてから軽く叩いた。
「野崎……よろしく頼むよ」
「――」
野崎はそっと右手をあげた。
宇佐美は去っていく神原を呆然と見送っている。その姿は、まるで置いて行かれた子供のようだ。
大丈夫かな……?と、野崎は心配になった。
放っといたらコイツ、泣き出すんじゃないか?と思い、「よかったら」と声をかける。
「座りませんか?こんな所で立ち話もなんだし」
「……」
宇佐美がゆっくりと振り返る。
取り乱しているかと思ったが、意外にも落ち着いた顔をしていた。腹を決めたのか、それとも開き直ったのか……
野崎は少し驚いたが、冷静になれる大人でよかったと安堵した。
野崎は手を挙げた。それに気づいて神原も手を振る。
さりげなく挨拶を交わしながら、野崎はその背後に立つ男を軽く一瞥した。
まず驚いたのは、やはりその風貌だった。
40を目前にした男には見えない。
涼やかな目元に細い顎のライン。風にでも煽られたのか、茶色い髪が無造作に柔らかな波を打っている。肌も白く、ハリツヤなどもまだ20代で通用しそうな程だ。
(嘘だろう……)
野崎はその端正な顔立ちに思わず見入った。
出版社のサイトでも写真を見たが、実際の方がより整っていると感じる。
だが、どこか人を寄せ付けない冷たさも感じた。
背はそこそこあるが、痩せているので小柄に見える。
身体より大きめのパーカーにタイトなジーンズ。スニーカー。リュック。
身なりはどこから見ても立派な大学生じゃないか。
(幼く見えるのは服装のせいか?)
野崎の視線を受け、宇佐美は黙ってじっとロビーの方を見ていた。
相手に観察されているのが分かる。宇佐美にとっては最も耐え難い瞬間だった。
「紹介しよう。彼が宇佐美君だ」
神原に名を呼ばれ、宇佐美は一瞬だけ視線を向けて頭を下げた。
「で、こっちが野崎君だ」
「初めまして。野崎です」
野崎は会釈と共に軽く微笑んで見せた。
「どうも……」
宇佐美は視線を合わせず、俯いたままそう呟く。
「……」
そんな2人の様子を見て、神原は小さく咳払いすると、「ラウンジのテーブルに予約を入れてある」と言って2人を促すと、「それと、すまないが……」と断りを入れた。
「実は急用ができて、私は同席できない。ここからは2人で頼むよ」
「え⁉」
「――」
飛び上がるように驚く宇佐美とは対照的に、野崎は冷静だった。
「待ってよ神原さん……そんなこと一言も言ってなかったじゃ――」
「すまないね宇佐美君。なに、そんなに緊張することないよ」
「でも」
「野崎は初対面の相手でも気兼ねなく話ができる男だ。だろう?」
野崎は答える代わりに肩を竦めた。
「大丈夫だよ、彼を信じて」
神原はそう言って宇佐美の肩を2度、優しく撫でてから軽く叩いた。
「野崎……よろしく頼むよ」
「――」
野崎はそっと右手をあげた。
宇佐美は去っていく神原を呆然と見送っている。その姿は、まるで置いて行かれた子供のようだ。
大丈夫かな……?と、野崎は心配になった。
放っといたらコイツ、泣き出すんじゃないか?と思い、「よかったら」と声をかける。
「座りませんか?こんな所で立ち話もなんだし」
「……」
宇佐美がゆっくりと振り返る。
取り乱しているかと思ったが、意外にも落ち着いた顔をしていた。腹を決めたのか、それとも開き直ったのか……
野崎は少し驚いたが、冷静になれる大人でよかったと安堵した。
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