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sorarion914

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#38

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 裸のまま2人はベッドに入ると、並んで寝そべり天井を見上げた。
 事を終えたわけでも、これから始めるわけでもない。
 一体何しに来たんだ?と思われそうだが、今はただこうして一緒に寝ているだけで、なんだか不思議と幸せな気分だった。
「俺ね……」
 ほの暗い天井を見上げたまま、綾瀬が言った。
「初めて男とした時、タチじゃなくてネコの方だったんだ」
「猫?」
「受け身の方。抱かれる側ね」
 あぁ……と倉見は頷いた。
「今思うと、あれはもう殆どレイプ。気持ちいいもクソもない。痛くて怖くて……最悪の初体験だったよ」
「……」
「見た目だけでネコ扱いされることが多かったから……でも自分はネコじゃないなって思って。そういう相手は避けるようにした。それからは基本タチ専」
 布団の中で、綾瀬が身じろぎした。裸の肩が触れる。
 少し寒いくらいにエアコンが効いている室内は、互いの体温が心地よいと感じる程だった。
「でもね。絶対に無理強いはしないって決めてる。特に、倉見さんみたいなノンケの場合……受け入れる気持ちはあっても、いざとなると――ね?」
「――」
 そう言われて倉見は申し訳なさそうに目を伏せた。綾瀬は横を向くと、まだ少し濡れている倉見の髪に触れて笑った。
「お互いが気持ちよくなれる方法でセックスしよう。倉見さんにとって、俺が初めての相手になるなら、怖い思いや痛い思いはさせたくない」
「……」
 倉見も体を動かすと、隣にいる綾瀬の方を向いた。
「ここまでならいいよって言われれば、そこまでいって、それ以上はいかない。傷つけたいわけじゃないから……一緒に気持ちよくなりたいんだ」
「綾瀬さん……」
「だから、今日みたいな事はもうやめよう。倉見さんの気持ちが固まるまで、俺待つからさ」
 綾瀬はそう言うと、優しく倉見の頬を撫でた。
「倉見さんのこと、大好きだよ」
 自分をじっと見つめる綾瀬の無邪気な目に、倉見は優しく微笑んだ。
「俺も好きだよ」
 裸のまま、布団の中で抱き合いキスを交わす。

 でもそれ以上はしない。
 今は、まだ――それ以上は。

「今日はもうおなかいっぱいだよ」
 そう言って、綾瀬はニヤニヤ笑った。
「倉見さんの裸見たし、泣き顔も見たし」
 倉見は眉間を寄せて苦い顔をした。
「思った通り、締まったいいケツしてた」
「やめてよ、なんか恥ずかしい」
「しばらくに困らない」
 その言い方やめて……と倉見は苦笑した。
「そういう綾瀬さんだって、奇麗な体してた。あれは男でも見とれるよ」
「しっかり見てるじゃん」
 額を小突かれ、倉見は赤くなった。
「そりゃ見えるだろう。あんな風に……迫ってこられたら」
にしていいよ」
「あははは」
 倉見が笑うと、綾瀬も一緒になって笑った。
 綾瀬はベッドから身を起こすと、サイドテーブルに置いていた鞄からタバコを取り出した。一本くわえて火をつける。それを寝ながら見ていた倉見は思わず言った。
「あれ?タバコ吸うんだ?」
「あっ――」
 綾瀬は思わずそう呟いて倉見の方を振り返った。
「俺……吸わないって言いましたっけ?」
「みたいな感じだったから……てっきり吸わないのかと……」
「……」
 気まずそうな顔をしてもみ消そうとするのを、倉見は慌てて止めた。
「あ、いいよ。大丈夫――俺も吸うから」
「え!?そうなの?」
「禁煙してたけど、ついこの間解禁しちゃった」
 互いに顔を見合わせて、どちらからともなく笑う。
「なんだぁ……俺、倉見さんタバコ駄目なのかと思ってた」
「俺は綾瀬さんがタバコ吸わないのかと思ってた」
 綾瀬は吸いかけのタバコを灰皿でもみ消すと、「もう他に隠してることないかな」と呟いた。
「たぶん……ないと思うけど」
「――」
 綾瀬は小さく笑って布団に潜り込むと、優しく倉見を抱き寄せた。クーラーの冷気で冷えた綾瀬の体を温める様に、倉見も身を寄せてそっと目を閉じる。
 直接触れる肌の感触。そこから感じる互いの体温。

 脈打つ鼓動が静かに伝わてくる――

 いつもとは逆の立場だが、愛されているという実感が心の中を満たしていくのが分かった。
 倉見は言った。
「女の人ってこんな気持ちなのかな?」
「どんな気持ち?」
「すごく……安心する」
 倉見はそう言うと、綾瀬の胸に頬を当てて笑った。
「いい気持ちだ」
「よかった」
 綾瀬はそう言って倉見をギュッと抱きしめると、「よかった……」ともう一度小さく呟いて、そっと目を閉じた。
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