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「疲れたでしょう?なんか……ごめんなさい」
そう言って頭を下げる綾瀬に、倉見は首を振った。
エージの店を出て、夜の繁華街を2人並んで歩く。土曜の夜は人も多く、日が暮れても気温は高い。街は妖しい熱気と歓喜に溢れていた。
倉見は隣を歩く綾瀬を見上げると言った。
「驚いたけど、でも楽しかったよ。新しい世界の扉を開いたみたいで、なんか凄いドキドキした」
そう言って笑う倉見に、綾瀬も笑った。
「みんな想像してたよりも、ずっと良い人達で……綾瀬さんのことが好きなんだなって思った」
「そうかな?」
そうだよ、と言って倉見は優しく笑いかけた。その笑顔に綾瀬は照れると、嬉しそうに倉見の正面に回り込み、顔を覗き込んだ。
「今日の倉見さんはスーツじゃないけど、私服の倉見さんも悪くないね。なんかいつもより幼く見える」
「そ、そぉ?」
今夜はチノパンにTシャツという至ってシンプルな服装だった。髪も自然に下ろしているだけ。倉見にとっては気の抜けた休日スタイルだ。
そういう綾瀬も、似たり寄ったりな服装をしている。ただし、見た目の印象はだいぶ違うが……
「休みの日なんてこんなもんでしょう?家ではもっと適当だし」
「パンイチとか?」
それはさすがに……と、倉見は苦笑した。
「え~倉見さんのパンイチ見た~い」
「おい、デカい声出すなよ……」
すれ違う通行人にもお構いなしに、大声で「倉見さんのパンツ見た~い」と繰り返す綾瀬に、倉見は苦笑いしながら腕を掴んで人込みを離れた。
「ちょっと……酔っぱらってる?」
「今日はそんな飲んでないよ」
「……」
倉見はじっと綾瀬の目を見た。綾瀬はおどけた様に首を傾げている。その肩越しに、ホテル街の明かりが見えた。
「――」
その明かりを見て倉見は真顔に戻ると、しばらく黙っていたが――不意に俯いて言った。
「やっぱり……我慢してます?」
「え?」
綾瀬は俯く倉見を見下ろしていたが、「あ!」と思い出したように言った。
「あの妖怪たちが言ったことは気にしないでよ」
「妖怪?」
「あいつら、年がら年中発情してるんだ」
「ははは」
綾瀬の言葉に思わず笑ってしまったが、倉見はすぐに真顔に戻ると、「でもやっぱり、我慢させてるんだよね?」と聞く。
「俺も男だから分かるよ。付き合ってる彼女にお預け食らってたらツラい……でしょ?」
「――」
綾瀬は俯いて小さく笑った。そして呟くように言う。
「無理強いはしたくないんだ。倉見さんの事……大切にしたいから」
「……」
「男女だったら簡単に超えられる壁でも、男同士はさ――ね?」
綾瀬はそう言って、優しく倉見を抱き寄せた。
「だから、焦らなくていいです。俺なら大丈夫」
「綾瀬さん……」
綾瀬は抱き寄せた倉見の耳元に口を寄せると、「おかずにして楽しんでるから」と小声で囁く。
「!?」
「あははは」
綾瀬は目を丸くする倉見を見て声を出して笑うと、「俺の想像の中で、スッゴイことされてるからね。倉見さん」と言って楽しそうに走り出す。
「えぇ?」
倉見は赤くなると、「ちょっと待ってよ」と後を追いかけた。
「それ逆にスゴイ恥ずかしいんだけど……俺、何されてるの?!」
「内緒ぉ~」
ふざけて駆け出す綾瀬に、倉見は本気を出して走った。
綾瀬はあっという間に手を掴まれ、ビックリしたように振り返る。倉見は手を掴んだまま、綾瀬をホテル街の通りの方へと引っ張ていった。
「……」
綾瀬が驚いて足を止める。
倉見は振り返ると、手を掴んだまま肩で大きく息をついて――言った。
「行こうよ……ホテル」
そう言って頭を下げる綾瀬に、倉見は首を振った。
エージの店を出て、夜の繁華街を2人並んで歩く。土曜の夜は人も多く、日が暮れても気温は高い。街は妖しい熱気と歓喜に溢れていた。
倉見は隣を歩く綾瀬を見上げると言った。
「驚いたけど、でも楽しかったよ。新しい世界の扉を開いたみたいで、なんか凄いドキドキした」
そう言って笑う倉見に、綾瀬も笑った。
「みんな想像してたよりも、ずっと良い人達で……綾瀬さんのことが好きなんだなって思った」
「そうかな?」
そうだよ、と言って倉見は優しく笑いかけた。その笑顔に綾瀬は照れると、嬉しそうに倉見の正面に回り込み、顔を覗き込んだ。
「今日の倉見さんはスーツじゃないけど、私服の倉見さんも悪くないね。なんかいつもより幼く見える」
「そ、そぉ?」
今夜はチノパンにTシャツという至ってシンプルな服装だった。髪も自然に下ろしているだけ。倉見にとっては気の抜けた休日スタイルだ。
そういう綾瀬も、似たり寄ったりな服装をしている。ただし、見た目の印象はだいぶ違うが……
「休みの日なんてこんなもんでしょう?家ではもっと適当だし」
「パンイチとか?」
それはさすがに……と、倉見は苦笑した。
「え~倉見さんのパンイチ見た~い」
「おい、デカい声出すなよ……」
すれ違う通行人にもお構いなしに、大声で「倉見さんのパンツ見た~い」と繰り返す綾瀬に、倉見は苦笑いしながら腕を掴んで人込みを離れた。
「ちょっと……酔っぱらってる?」
「今日はそんな飲んでないよ」
「……」
倉見はじっと綾瀬の目を見た。綾瀬はおどけた様に首を傾げている。その肩越しに、ホテル街の明かりが見えた。
「――」
その明かりを見て倉見は真顔に戻ると、しばらく黙っていたが――不意に俯いて言った。
「やっぱり……我慢してます?」
「え?」
綾瀬は俯く倉見を見下ろしていたが、「あ!」と思い出したように言った。
「あの妖怪たちが言ったことは気にしないでよ」
「妖怪?」
「あいつら、年がら年中発情してるんだ」
「ははは」
綾瀬の言葉に思わず笑ってしまったが、倉見はすぐに真顔に戻ると、「でもやっぱり、我慢させてるんだよね?」と聞く。
「俺も男だから分かるよ。付き合ってる彼女にお預け食らってたらツラい……でしょ?」
「――」
綾瀬は俯いて小さく笑った。そして呟くように言う。
「無理強いはしたくないんだ。倉見さんの事……大切にしたいから」
「……」
「男女だったら簡単に超えられる壁でも、男同士はさ――ね?」
綾瀬はそう言って、優しく倉見を抱き寄せた。
「だから、焦らなくていいです。俺なら大丈夫」
「綾瀬さん……」
綾瀬は抱き寄せた倉見の耳元に口を寄せると、「おかずにして楽しんでるから」と小声で囁く。
「!?」
「あははは」
綾瀬は目を丸くする倉見を見て声を出して笑うと、「俺の想像の中で、スッゴイことされてるからね。倉見さん」と言って楽しそうに走り出す。
「えぇ?」
倉見は赤くなると、「ちょっと待ってよ」と後を追いかけた。
「それ逆にスゴイ恥ずかしいんだけど……俺、何されてるの?!」
「内緒ぉ~」
ふざけて駆け出す綾瀬に、倉見は本気を出して走った。
綾瀬はあっという間に手を掴まれ、ビックリしたように振り返る。倉見は手を掴んだまま、綾瀬をホテル街の通りの方へと引っ張ていった。
「……」
綾瀬が驚いて足を止める。
倉見は振り返ると、手を掴んだまま肩で大きく息をついて――言った。
「行こうよ……ホテル」
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