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sorarion914

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#30

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 週明け。
 松原工業の社長と、新工場の工場長、そして製造部の部長と主任になった綾瀬の4人が倉見の会社へ来社した。
 会議室で、今後の保守やメンテナンスに関する話をしている間、倉見は末席から、さりげなく綾瀬の様子を見ていた。
 今日も以前と同じ。黒髪に、着慣れぬスーツで身を包み、いつになく緊張した面持ちでいる。
 いつもの作業着姿なら、堂々としていられる彼でも、こういう堅苦しい場にはあまり慣れていないのか、どこか落ち着かない感じで目を泳がせていた。
 その目が倉見と合い、不安そうに揺れる。
「――」
 倉見は小さく微笑んで見せた。
 それを見た綾瀬が、少し安心したように口元に微笑を浮かべる。スッと肩の力が抜けるのが分かった。
 すると今度は子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、何かをノートに書き始めた。
 技術部の社員が、今後の保守に関しての説明をしているのを聞きながら、倉見はちらりと綾瀬の方に目をやった。
 綾瀬が自分にだけ見えるように、そっとノートをこちらに向けている。
『うちの部長とおたくの部長。ハゲ方一緒』
 倉見は思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押えて俯いた。
 それを見て綾瀬も俯く。

 午後の長い会議が終わったのは、3時過ぎだった。


 ようやく解放されて会議室を出た倉見は、退社する4人を追いかけてエレベーターに飛び乗った。
 一階のエントランスにいた綾瀬の姿を見つけて「綾瀬さん!」と声をかける。
 4人同時に振り向いたが、綾瀬は3人の上司に頭を下げると慌てて倉見の方へ歩み寄った。
「倉見さん」
「綾瀬さん、あの――」
 倉見は一呼吸置くと、「今日はこのまま帰社される予定ですか?」と聞いた。
「えぇ……そのつもりですけど」
「よければ少し、話がしたいんですが……」
「――」
 綾瀬はじっと倉見を見た。そして、背後で待っている上司に目を向ける。
「ちょっと待っててもらえます?」
 綾瀬はそう言うと、社長の松原に駆け寄り何か言っていた。
 程なくして倉見の元に駆け寄ると、「いいですよ。俺、今日は直帰させてもらうことにしたんで」と笑って言った。
 倉見は退社する松原の方へ丁寧に頭を下げた。
 そして嬉しそうに綾瀬を見上げる。
「よかった……あ。ちょっとここで待っててください!すぐに戻りますから」
 そう言うと、今度は急いでオフィスに戻っていった。

 綾瀬がぼんやりと待っていると、「行きましょうか?」と言って倉見が近づいてきた。
「2人きりで少し話がしたいんで、営業車借りてきました。外回りの許可取ったから、ちょっと走りましょう」
 その言葉に綾瀬は驚いて目を丸くした。
「いいんですか?そんなことして」
「課長職の職権乱用かもね」と倉見は笑った。
「でもこういう時ぐらい、使えそうなものは使わないと」
「デカい契約取りましたしね」
 綾瀬も笑って言うと、「やりますね課長さん」と肩を小突いた。
 倉見は照れて笑った。
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